こどもとIT

教育者がICT活用を語り合うコミュニティが学びをアップデートする

~マイクロソフトが認定教員「MIEE」を募集し、教育ICTの活用を促進

GIGAスクールで1人1台環境が始まり、学びのICT活用を進める先生や教育関係者は多いだろう。一方で「自分の教育ICT実践を多くの先生に共有したい」という声や、「個別最適な学びのためのICT活用を議論する相手がいない」といった声も聞く。

そんな向上心を持つ教育者に紹介したいのが、マイクロソフトが運営するプログラム「マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)」だ。校種や教科、地域や立場を超えて、教育現場でICTに取り組む教員や教育関係者が参加できるプログラムで、共に刺激し合い、課題を共有しながらICT活用の普及、スキルの向上に取り組んでいる。

今回はそんなMIEEたちが、互いに交流し、切磋琢磨しながらICT活用への意識やモチベーションを高め合う、ワーキンググループの活動を紹介しよう。

「Flipgrid」のワーキンググループに参加されているMIEEの教育者ら。写真左より、北海道北見市立上仁頃小学校 野尻育代教諭、青森県つがる市立森田小学校 前多昌顕教諭、江戸川学園取手小学校 ICT教育推進部部長 吉井毅教諭、山形県中山町立長崎小学校 岩城豊教諭、名古屋経済大学市邨中学校 矢田修教諭、坂本実恵子教諭、茨城県つくば市立吾妻小学校 内田卓教諭(写真はTeamsのTogetherモードで撮影したもの)

マイクロソフトが教育ICTの実践を認めた教育者のコミュニティ

「マイクロソフト認定教育イノベーター(以下、MIEE)」を運営するマイクロソフトは、世界的にも有名なIT企業であり、グローバルで教育に力を入れている。日本においても長年、国内の教育分野に深く関わり、小学校、中学校、高校、大学や専門学校など、さまざまな教育機関を支援するほか、特別支援やIT人材育成にも取り組んできた。

そんなマイクロソフトが教育分野で最も注力しているのが、ICT活用の実践に取り組む教育者を認定し、その活動を支援するプログラム「マイクロソフト認定教育イノベーター」だ。同じ志をもった教育者をMIEEに認定することで、ひとつの教育者コミュニティを築き、教育現場におけるICT活用の普及をめざす。

MIEEに認定されると、マイクロソフトからさまざまな支援が提供される。Office 365 Educationや教育版マインクラフトの利用、認定者を対象にした研修や、認定者登壇のセミナーやイベント周知の支援、またマイクロソフトのセミナールームの貸与(コロナ禍のため現在は利用に制限あり)や、タブレットPC端末の貸与など多岐にわたる。

さらに、MIEEの中でも優れた実績を残した教育者については、実践機材の長期貸与や、実践内容のウェブページの作成なども用意されている。

一方、実際にMIEEに認定された教育者に話を聞くと、こうしたマイクロソフトの支援も魅力であるが、それ以上にMIEEのコミュニティが持っている「教育者同士のつながり」に魅力を感じる者が多い。地域や校種、教科や立場を越えて教育者同士がつながるMIEEでは、互いの実践や課題を知ることができ、”もっと学んでいこう”、”子どもたちのために、もっとICTを使えるようになろう”と自分を感化できるからだ。

またMIEEのコミュニティでは、アウトプットする機会も増えることから、自分の実践が誰かの役に立つ充実感を得られるのも大きい。それと同時に、今までICTに対して感じていた不安感も薄れ、MIEEのつながりを通じて”ICTに強くいられるようになる”ことが、一番のメリットだといえる。

ワーキンググループで実践や課題、想いを共有し合う教育者たち

MIEEの教育者たちは、ICTをキーワードにさまざまな活動をしているが、ここでは教育向け動画交流ツール「Flipgrid(フリップグリッド)」のワーキンググループを取り上げよう。MIEEでは、Flipgridのほか、教育版マインクラフト、Sharepoint、OneNote、PowerApps、遠隔授業、プログラミング教育など、さまざまなテーマのワーキンググループが設けられており、ICTのスキルに関係なく、希望者は参加できる。

Flipgridのワーキンググループでは、メンバーで協力しながらFlipgridの認定資格に挑戦したり、互いの実践を共有したりしながらスキルを高め合っていた。といっても、堅苦しい講義形式ではなく、今回はファシリテーター役を江戸川学園取手小学校 ICT教育推進部部長 吉井毅教諭が務め、Flipgridに詳しい教員がアドバイスをしたり、初心者の教員が困りごとを相談したりと、カジュアルな雰囲気で進められた。

北海道北見市立上仁頃小学校 野尻育代教諭

取材した日は、3名の教員がFlipgridを活用した実践を発表し、ディスカッションが行なわれた。一人目は、北海道北見市立上仁頃小学校 野尻育代教諭。MIEEになってまだ1年目だが、同じワーキンググループの青森県つがる市立森田小学校 前多昌顕教諭の実践を参考に活用を広げているようだ。

Flipgridを使い始めて間もない野尻教諭であるが、前多教諭の取り組みを参考に活用を広げている
コロナ禍で活動がむずかしいリコーダーの発表もFlipgridで実施した野尻教諭
山形県中山町立長崎小学校 岩城豊教諭

また英語の授業でFlipgridを活用し、他校と遠隔授業に取り組む山形県中山町立長崎小学校 岩城豊教諭は「相手校の教員にもFlipgridを積極的に使ってもらうにはどうすればいいか」という課題をメンバーに共有。すると、Flipgridに詳しい前多教諭から「一から登録してもらうのは大変なので、CoPilot(共同管理者)に追加するのがいい」といったアドバイスや、吉井毅教諭からは「自分の過去の実践を見せるといいよ」といった意見が投げかけられた。そこから話は発展し、Flipgridを知らない先生に使ってもらうにはどうすればいいか、という話題へ。メンバーらは自校での事例などを紹介し合った。

名古屋経済大学市邨中学校 矢田修教諭

続いて発表したのは、名古屋経済大学市邨中学校 矢田修教諭。ゼミの時間に取り組んだマインクラフトのレッドストーン回路について、生徒たちが自分の作品を動画にまとめ、Flipgridで共有した事例を紹介した。矢田教諭はFlipgridを知らない教員も生徒たちの作品を見れるように、「MixTape」という機能を使って再生リストを作成。普段、活躍する場面が少ない生徒たちの様子を各担任が知ることになり、とても喜ばれたと述べた。

生徒が作った作品を動画でFlipgirdにアップし、MixTapeで再生リストをつくって他の教員も見られるように

この話を聞いて、他の教員からMixTapeについて質問があがったほか、「生徒たちがより自由に作品づくりをするためにはどうすればいいか」といった質問も投げかけられた。何か問題が起きては困ると厳しい制限を設けるICT活用の課題なども語り合い、議論はそこから、GIGAスクールの話題へ。目先のICT活用だけでなく、もっと子どもたちが主体的に学べるような提案をたくさんしていきたいという話に深まっていく。

このように実践を紹介したり、情報を交換したりと、MIEEのメンバーはざっくばらんに話しながら、90分のワーキンググループはあっという間に過ぎた。地域や校種、教科や立場は違えど、同じICTに取り組む教育者同士が悩みや知見を共有し、互いに励まし合う姿を見ていると、“自分もやってみよう”“明日からがんばろう”と思えるマインドになっていくに違いない。

MIEEになるメリットは、教員の教育観が広がること

とはいえ、MIEEやワーキンググループに参加することに、ハードルを感じる先生も多いだろう。実際に今回参加した先生方はどう感じているか聞いてみたところ、こんな回答が返ってきた。

「たくさんの先生方の実践を知ることができました」

坂本実恵子教諭

MIEEになって1年目の野尻育代教諭は「他の先生の実践を知れることが、とても参考になります」と述べた。また、岩城豊教諭も「自分は小学校に在籍していて、中高の取り組みを知る機会はほとんどありませんでした。MIEEの先生方と出会って知ることができ、日々の実践に活かせています」と話す。

ほかにも坂本実恵子教諭は、「校種が異なる取り組みを知ることで工夫できることがいっぱいあることを学んでいます。地方には地方、学校には学校のやり方がありますが、MIEEを通して他の学校のできることを知り、自分のできる幅を広げるのに役立っています」と話してくれた。

「刺激をもらっています」「勇気をもらっています」

茨城県つくば市立吾妻小学校 内田卓教諭

茨城県つくば市立吾妻小学校 内田卓教諭は「自分は英語が苦手でFlipgridの操作を覚えるのも大変でしたが、他の先生に教えてもらいながら取り組めました。レベル1教育者にも認定され、学校で実践することもできて、とても良い刺激をもらっています」と話す。

各学校現場でICT活用に取り組む教育者は、組織の中でも少数派であることが多く、孤軍奮闘しているケースもある。一方でICTに関する業務は年々増えており、担当する教員の精神的負担も大きい。「一人だったら倒れてしまうこともMIEEの先生方と話をすることで勇気をもらえる」とMIEEのつながり自体が支えになっている教員も多い。

「新しい情報をもらえるのが良いです」

ICT活用に取り組むようになると、新しい情報を収集したり、トラブルに対応したりと、ICTスキルが必要になってくる。またICT活用の先には、新しい学び方や教員の働き方改革など、学校がこれからどのように変わっていくのか、その情報に触れる必要も出てくる。矢田修教諭は「職場では、こういう話をする機会が少なく、他の学校で何が起きているのか分かりません。MIEEを通じて新しい情報をもらったり、リアルタイムで起きていることを知れるのが良いと思います」と語る。

「新しい先生と出会いがあり、つながりの輪が広がっていると感じます」

江戸川学園取手小学校 ICT教育推進部部⻑ 吉井毅教諭

吉井毅教諭は、「コロナ禍でMIEE同士も直接会う機会は持てていません。そんな状況でも、ワーキンググループを通して、新しい先生との出会いがあり、つながりの輪が広がっているのを感じます」と述べた。

また、青森県つがる市立森田小学校 前多昌顕教諭は「これまでずっと一人で取り組んできましたが、ようやく同じ話題で語り合える人が増えました。自分がいいと思っているものを同じように感じてくれる人がいて、ゆっくりではありますが広がっていく実感を持っています」と語ってくれた。

青森県つがる市立森田小学校 前多昌顕教諭

このようにMIEEの教育者たちは、ワーキンググループを通して、カジュアルにつながりながらも、共に学び、共に語り合うことで、互いのスキルを高め合っている。そして、それを各自の学校や教育機関に持ち帰り、子どもたちに還元していく。もちろん、ICTを現場で進めるのは簡単なことではなく、挫折することもあるかもしれないが、ここに帰ってくれば、挫折を勇気に変えてくれる同士がいる。こうした居場所を持つことが、これから学びの改革にチャレンジする教師には必要だろう。

全国の教育者に多くの機会の提供を目指して

マイクロソフトは今年もMIEEの募集を開始している。対象者は、⽇本国内の初等中等教育および特別⽀援教育を⾏なう学校で、ICT活⽤を実践している教育関係者。募集期間は5月6日から7月15日までで、9月から翌年8月までが活動期間になる。GIGAスクールがスタートした今、全国でICT活用を進める教育関係者をMIEEプログラムで支援し、教育現場におけるICT活⽤の加速をめざす。

マイクロソフトでは、次年度のMIEEについて以下の日程で応募説明会を開催するという。学校現場でのICT活用に一人奮闘されている先生、自身のICT実践を多くの先生や現場の役に立てたいとお考えの教育者の方々は、ぜひ参加を検討いただきたい。
・第1回目:2021年6月19日(土)14:00-15:00
 参加URL : https://aka.ms/mieej2021_0619

・第2回目:2021年6月23日(水)19:00-20:00
 参加URL : https://aka.ms/mieej2021_0623

2021-2022年度 マイクロソフト認定教育イノベーター募集概要
対象者日本国内の初等中等教育 および 特別支援教育を行なう学校にて ICT 活用の実践を行なっている教育関係者
参加費用無料
申込締切2021年7月15日(結果連絡は同8月31日予定)
※7月8日までに応募すると、設問項目の一部でスコアが足りなかった場合も、7月15日までに再提出が可能です。早めの応募をお勧めします。
支援内容認定教育イノベーターへの登録(Web掲載)と名刺の提供
Office 365 Education の利用
Minecraft:Education Edition の利用
認定者を対象にした研修の提供
認定者登壇のセミナーやイベントの周知や弊社オフィス内セミナールームの貸与
タブレットPC端末の貸与(期間や台数に規定あり)
※変更する可能性有り
応募方法 マイクロソフト認定教育イノベーター2020-2021年度プログラムの手順に則って登録
神谷加代

こどもとIT副編集長。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。