こどもとIT

小学生の太陽系シミュレーターがグランプリ! 惑星の再現に三角関数もマスター

――「第5回全国小中学生プログラミング大会 最終審査会&表彰式」レポート

もうすぐ夏休み。今年はGIGAスクールで配布された端末を、自宅に持ち帰らせる学校もあり、自由研究などでプログラミングに取り組む子も増えるだろう。時間がある長期休暇だからこそ、プログラミングを体験したり、大作に挑戦したりするのも良い機会だ。

小中学生でプログラミングに夢中な子どもたちは、どのような作品を作っているのだろうか。「第5回全国小中学生プログラミング大会 最終審査会&表彰式」(主催:全国小中学生プログラミング大会実行委員会)に進んだ11作品を紹介しよう。

「第5回全国小中学生プログラミング大会 最終審査会&表彰式」に参加した小中学生と、審査員を始めとする大会関係者ら

受賞作品の凄さは、完成度を高める“こだわり”

今年で5回目となる全国小中学生プログラミング大会には、全国から785点の作品が寄せられた。募集要項は、使用言語や作品形式を問わず、オリジナルでプログラミングしたものなら何でもOKというもの。この中から11点の作品が入賞作品として選ばれ、最終審査会に進んだ。受賞結果とともに、各作品について紹介しょう。

グランプリ・総務大臣賞:小学5年尾崎玄羽さん「太陽系シミュレーションゲーム」

東京都小平市立小平第二小5年、尾崎玄羽さんの作品「太陽系シミュレーションゲーム」。音楽も自分の声を加工して作成したという
尾崎玄羽さん

グランプリ・総務大臣賞を獲得したのは、小学校5年生の尾崎玄羽さん。宇宙エレベーターから宇宙船で太陽系を旅するシミュレーションゲームで、こだわったのは、実際の宇宙を再現すること。惑星や衛星の自転、公転速度、距離間といった数値をインターネットで調べ、太陽以外を実寸大で表現したほか、問題になっている宇宙ごみもゲームの中で再現した。

「苦労したのは、自転を再現するのに三角関数が必要になったところ。お父さんに教えてもらいました」と尾崎さん。分からない部分があっても、“自転を再現する”という課題に向けて自ら努力できた点に、作品に対する想い入れを感じる。

審査委員長の東京大学名誉教授の河口洋一郎氏は、「宇宙探査に対して真面目に取り組み、太陽系探索に一石を投じたところがとても良い。宇宙エレベーターを使って、大きな潮流となる宇宙探検につながっているところが素晴らしいと思いました」と作品を高く評価した。

準グランプリ:中学1年 宇枝礼央さん「Color Overlap」

東京都杉並区立東原中1年、宇枝礼央さん「Color Overlap」。ゲームオーバーの判定でバグが出てしまい苦労したそうだ
宇枝礼央さん

準グランプリに選ばれたのは、中学1年生、宇枝礼央さんの作品「Color Overlap」。光の三原色をテーマにしたパズルゲームで、3色を重ねて白を作り出す。以前はScratchで同様のゲームを作っていたが、今回はUnityでリメイク。ストーリー、音楽、絵など融合した作品をめざしたという。

「ゲームへの没入感を高めるためにストーリー性が必要だと考え、王様などのキャラクターを加えたり、音楽も追加したりしました」と宇野さん。審査員のスイッチサイエンス代表取締役の金本茂氏は、「なんといっても完成度が高い。実際にプレイも楽しめるうえ、音楽を自分で作られた点なども素晴らしい。光の三原色は、学校の授業で誰もが習うことだが、それをゲームにする着想も良いと思いました」と評価した。

優秀賞 小学校低学年部門:小学2年 千葉紫聞さん「Back 2 Back」

東京都渋谷区立中幡小2年 千葉紫聞さんの作品「Back 2 Back」。Unityで開発した
千葉紫聞さん

「Back 2 Back」は、バスケットボールプレイヤーをサポートする本格マルチアプリ。解説動画付きのトレーニングサポート機能や、屋外でも見やすいストップウォッチ、ルールを理解するためのクイズゲームや、シューティングゲームも盛り込まれている。「ユーザー目線に立って、練習中も見やすい画面にし、テンションがあがる格好良いデザインにもこだわりました」と千葉さんはアピールしてくれた。

審査員のロフトワーククリエイティブディレクターの石塚千晃氏は、「デザインの格好良さなど、クォリティの高さが群を抜いていました。バスケットボールチームの友だちに喜んでもらおうと、アプリを開発した経緯が素晴らしく、誰かを楽しい気持ちにさせるために開発をすることを忘れないでいてください」とエールを送った。

優秀賞 小学校高学年部門:小学6年 越智晃瑛さん「点体望遠鏡(てんたいぼうえんきょう)」

滋賀県守山市立速野小6年 越智晃瑛さんの作品「点体望遠鏡(てんたいぼうえんきょう)」。今後は対応OSを拡大し、さらに多くの人に使ってもらうことを視野に入れている
越智晃瑛さん

「点体望遠鏡」は、“点字を身近に感じて、触れる機会を作る”をコンセプトに、ひらがなやカタカナなどで書かれた文章を点字に翻訳するソフトウェアだ。点字ディスプレイに表示したり、点訳するためのガイドを表示したり、さらには、3Dプリンターを使って点字を印刷できるファイルも作成できる。

苦労した点は「3Dプリンターで出力したものを指で読めるようにするために、何度も試行錯誤をしたところです」と越智さん。開発にあたっては、視覚障害者センターの方に協力してもらって、チェックをしてもらうなど完成度にもこだわった。

審査員のProduct Founder & Engineerの増井雄一郎氏は、「点字を作るアプリという発想が素晴らしく、さらに3Dプリンタ―メーカーに問い合わせる、実際に点字を使っている人に話を聞くといった開発姿勢も素晴らしい。対応OSもWindows、iOSだけでなく、さらに新しいプラットフォームで利用する計画を立てているところも良いと思います。今後は、点字を使う人に、どのように使ってもらうのかという視点で発展させてください」とアドバイスを送った。

優秀賞 中学校部門:中学1年 水谷俊介さん「Birds AI ぴーちゃん」

長野県・信州大教育学部附属松本中1年 水谷俊介さん「Birds AI ぴーちゃん」。夕方や逆光など日差しの影響を受けて誤反応することもあるため、さらにAIに画像を学習させているという
水谷俊介さん

中学1年生の水谷俊介さんの作品「Birds AI ぴーちゃん」は、スマートフォンによるAIの画像認識機能と、GPSの速度測定機能を使い、自転車の走行時の危険を警告してくれるシステム。水谷さん自身が自転車事故にあった経験があり、同じように事故にあう人を減らしたいという思いから開発を思い立った。2000枚以上の道路標識と危険箇所の画像をAIに学習させて作り上げたという。

「一番苦労したのはAIの認識機能を向上させることでした。最初は誤反応ばかりでしたが、自分で撮影した画像を学習させ、自転車で走ってテストするのを何度も繰り返しました。その結果、日中なら一時停止の標識は約83%、交差点はほぼ100%判断できるようになりました」と水谷さんは語ってくれた。

審査員のエンジニアで著述家の松林弘治氏は、「自転車事故に遭った経験がきっかけで実用的なシステムを作ることを思いついたという点を評価しました。タイトル名のBirdには、広い視野をもって状況を見るという意味が込められているということで、是非、今後の作品作りにも広い視野で臨んでください。画像認識、企画学習は様々な分野で活用されていく技術です」とエールを送った。

奨励賞は6作品、身近な課題解決をめざす、個性あふれるハードウェア

奨励賞には次の6作品が選ばれた。いずれもmicro:bitやRaspberry Pi、IchigoJamが使われたハードウェアで、自分のアイデアを実用的なレベルにまで仕上げている点がすばらしい。

・小学3年 池田蒼生さん「ほおずき電光表示板」

東京都市大付属小3年 池田蒼生さんの作品「ほおずき電光表示板」

小学3年生の池田蒼生さんの「ほおずき電光掲示板」は、実際のほおずきの葉脈を提灯のように箱に並べ、後ろからLEDライトをあてて作られた電光掲示板だ。Raspberry PiとPythonを使っており、「Happy」「Love」といったメッセージや気温を表示できる。

池田さんは「Pythonの二次元配列を使って門が開いたり、閉じたりするような表示が出来る点です」とアピールポイントを披露。一方で「配線が切れてつなぎ直したりするのに苦労しました」と話しており、ハード、ソフトの両面で苦労しながら作品を仕上げたようだ。

・小学6年 白川瑛士さん「階段掃除ロボ Ver2」

津市立千里ケ丘小6年 白川瑛士さん「階段掃除ロボ Ver2」

「階段掃除ロボ Ver.2」は、自動的に階段を掃除するロボット。IchigoJamとBasicを使って開発した。市販の掃除ロボットは、平らな部分しか掃除しないことから着想を得たようだ。

「最初に作ったバージョンは、モーターでネジを回して本体が上下することで階段を登らせていました。しかし、安定性がなかったので、階段を降りるからくり人形を参考に、回転する動きで登るバージョン2を作成しました」と白川さん。モーターのパワーに合わせて本体を軽くし、プログラムだけでなく、スイッチで感知して動くようにも設計。試行錯誤や工夫をしながら開発した様子を話してくれた。

・中学2年 広辺洋輔さん「バランス迷路うちトレ」

埼玉県白岡市立篠津中2年 広辺洋輔さんの作品「バランス迷路うちトレ」

「バランス迷路うちトレ」は、新型コロナウイルスの影響で外出する機会が減り、運動不足が懸念される中、自宅にいながら楽しんでトレーニングできることを目指した作品。micro:bitを2枚組み合わせ、迷路とバランスボールを組み合わせたゲームとなっている。ゲームは5通りだが、何回プレイしても飽きないよう、ランダムに各ゲームが登場する仕様となっているそうだ。

広辺さんは、「一番苦労したのは、2つのmicro:bitを使っているので、それぞれをつないで動かせるようにするところが難しかったです」と話した。

・小学6年 古山芽吹さん「おじいちゃんの飲みすぎ防止システムII」

岐阜県関ケ原町立関ケ原小学校6年 古山芽吹さんの作品「おじいちゃんの飲みすぎ防止システムII」

「おじいちゃんの飲みすぎ防止システムⅡ」は、お酒を飲み過ぎてしまうおじいちゃんの飲み過ぎを防止するために開発された作品だ。おじいちゃんが飲むお酒の量を適量にするために、11種類のお酒をAIで認識し、一日30グラムと設定した量を超えてしまうと警告してくれるシステムとなっている。

古山さんによれば、「micro:bitで飲み過ぎを判断するシステム1を作りましたが、お酒の種類によってアルコールの量が違うことがわかり、11種類のお酒を判別できるAIでアルコール量を自動計算できるシステムを作りました。適量を超えたアルコールを飲もうとすると、お小言を言われ、それ以上飲もうとするとお酒が水に変わります」というお祖父ちゃん思いのシステムとなっている。

・小学3年 渡邉太智さん「健康にすごそう ぼくのコロナ対策」

千葉県君津市立松丘小3年 渡邉太智さん「健康にすごそう ぼくのコロナ対策」

「健康にすごそう ぼくのコロナ対策」は、手洗い、ソーシャルディスタンス、体温測定、マスク着用という、コロナ禍に欠かせない生活習慣を利用者が心がけるための作品だ。コロナ禍の新しい生活様式をどうすれば身につけることができるのかを考えたのが開発のきっかけだったそうだ。

渡邉さんは、「コロナ対策では手洗いをきちんとすること、体温を測ること、マスクを着用することが欠かせないので、役に立つものだと思います。体温を測るところは、正確に測るためのセンサーをきちんと動かすのが大変でした。1つのmicro:bitで4つのことを徹底するように作り上げました。実際に自分の家で使っています」と話した。

・中学2年ミシュースティン勇利さん、小学6年ミシュースティン衣利那さん「いびきバスター」

東京都・アメリカンスクールインジャパン 中学2年 ミシュースティン勇利/小学6年 ミシュースティン衣利那「いびきバスター」。チーム名「シカゴ」で参加した

「隣で寝ている人のいびきがうるさくて眠れない」という2人にとっての共通課題に対して、開発したのがAIロボット「いびきバスター」。AIの機械学習ツールを使ってあらゆるいびきに対応し、寝ている人の頭上にセットしたロボットがいびきを感知すると、ロボットアームが起きるまで寝ている人を叩き続ける仕組み。

作品のアピールポイントについてミシュースティン勇利さんは、「ひとつはAIの音声認識機能を使っていることと、いびきが止まるまでアームで叩き続けるところです。AIのTeachable MachineとScratchで作ったプログラムとレゴのロボットをつなげて作りました」と話していた。

ミシュースティン衣利那さんは一番苦労した点として、「いびきを機械学習する時に、いびき以外の音もいびきと認識してしまうところが難しかったです。ビデオも最初はクールなものとするはずだったのに、最終的にはギャグ系になってしまいました」と微笑ましいエピソードを語ってくれた。

コンピューターは、アイデアを奏でる楽器である

東京大学先端科学技術センター教授の稲見昌彦氏

全ての審査を終えた大会実行委員長で、東京大学先端科学技術センター教授の稲見昌彦氏は、「全国から集まった785作品は、レベルの高い作品ばかりとなり、コロナ禍を吹き飛ばすような勢いが始まりました」と参加者を褒め称えた。

続けて同氏は、「パソコンを作ったアラン・ケイという人が、『コンピューターは、アイデアを奏でる楽器である』と言っています。演奏するという意味のPlayは、プログラミングにもあてはまり、遊びも演奏も、内部から“やってみたい!”という気持ちが盛り上がりが大切です。作品をPlayすることを楽しめる人が増えてくれることを願っています」とメッセージを送り、大会を締めくくった。

小学校でプログラミング教育が必修化され、「うちの子もやらせた方がいいのでは」と考えている保護者は多い。しかし、プログラミングは手段であり、ものづくりである以上、肝心なのは創作意欲だ。大人は、そこを忘れずにいたい。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。