こどもとIT

マインクラフトで自ら学ぶ子どもたち。「好き」が育む構想力・調査力・計画力・技術力

――「Minecraftカップ2020全国大会」受賞者インタビュー

教育版マインクラフトで作るワールドの作品コンテスト「Minecraftカップ2020全国大会」は、エントリー総数1770人、応募総数483作品から選ばれたファイナリスト20作品から、大賞1作品、各部門優秀賞4作品、審査員賞7作品、Microsoft賞1作品が決定した。その様子は、イベントレポートとして前編後編でお伝えした通りだ。

Minecraftカップ2020全国大会の大賞1作品、各部門優秀賞4作品

今回の大会テーマは、「未来の学校~ひとりひとりが可能性に挑戦できる場所~」。コロナ禍による休校期間や、これまでとは違う制限の多い学校生活を送る子どもたちに「自分たちの学校が、将来どんな学校になったら良いと思うか」を問いかけた。Society5.0やSDGsの視点を踏まえて未来を考え、それに対してさまざまな調査をしたか、プログラミングやレッドストーンが活用されているか、計画を立てて取り組んだかなどを評価。夏休みを含む2020年7月22日~11月23日の約4カ月間が制作期間となった。

当レポートでは、大賞と各部門優秀賞を受賞した5名にインタビューし、子どもたちが今回の大会を通して得た学びや、受賞に結びついたポイントについて探ってみたい。

大賞:浦添 昴さん~「好きだから作る」姿勢と優秀なメンターが創造性を育む

大賞を受賞した浦添 昴さん(沖縄県・小学5年生)

大賞を受賞した浦添 昴さんの作品は、「未来への5つの約束~キレイな水と渓谷の洞窟学校~」。キレイな水が流れる渓谷にある山をいくつもくりぬいて作った、ガラスが多用された美しい学校だ。学校だけでなくその周辺にある環境にも配慮した壮大な構成で、身振り手振りを交えた堂々としたプレゼンもすばらしく、思わず子役経験かYouTuberとして普段から動画を制作しているのかと思ったが、今回がはじめてだといい、そのうまさには保護者も驚いたという。

多くの生徒は学校に船で通うため「立体船着き場」を用意
「地下7階建て高層教室」は立体水槽と養殖場に隣接
すべての電力を供給する「バイオマス発電所」
渓谷いっぱいに広がる巨大な学校。十字に伸びるのは立体水槽

制作には「3カ月間ぐらいかかった」とのこと。保護者との約束で「まず宿題を終わらせてから」日々制作に取り組んでいたそうだが、ご両親が何か指示することはなく、自ら自由に取り組んでいたとのこと。「分からないところがあると、兄や父に質問していた」といい、身近に頼れるメンターも存在している恵まれた環境にいるようだ。

浦添さんが所属する「CoderDojo 石垣」にて、マイクラカップの作品制作途中

「CoderDojo 石垣」に参加しているほか、ボーイスカウトにも参加しているそうで、その活動の中で学んだことが今回のワールド作成にも役立ったという。実際にいろいろな海へ行き、漂着ゴミの調査を行い、仲間に呼びかけて海岸清掃を実施。トラック3台分のゴミを回収したという行動力は、ボーイスカウトの活動経験が生かされているようだ。

浦添さんは、普段はマインクラフトでも「サバイバルでみんなで遊ぶことが一番好き!」という、ごくごく子どもらしい発言の元気な男子だが、一方でロボコン大会「第14回WRO Japan 決勝大会」(2017年)でチーム出場し特別賞を受賞したり、「第1回 小学生ロボコン2020全国大会」に出場してチームで準優賞するなど、さまざまなコンテストの全国大会で受賞経験を持つ。今回のMinecraftカップの制作を通しても「立体水槽のような大きなものもプログラミングで作れるようになった」とプログラミングのさらなる上達を感じているようだ。「来年もMinecraftカップに参加したい」という浦添さんの次の作品を楽しみに待ちたい。

小学生低学年部門 優秀賞:りゅうきさん~タスク管理ツールで作業を管理! 課題解決の楽しさを実感

小学生低学年部門 優秀賞を受賞した、りゅうきさん(福岡県・小学2年生)

小学生低学年部門の優秀賞を受賞したりゅうきさんの作品は「レッドストーン小学校」。水害にあわないよう、最初から水の中に作られた学校で、ゾンビたちも差別なく一緒に授業が受けられるほか、さまざまな場所がレッドストーン回路で自動化された学校だ。SDGsを意識し、畑から自動で収穫した作物を給食室で調理して最後はコンポスターで再利用するなど、仕組みもすばらしい。

トロッコに入ることでゾンビたちも教室で一緒に授業が受けられる
エージェントがじゃがいもを育て、水を流して自動的に回収
畑から作物が給食室に届き、かまどで焼いて給食に

りゅうきさんがマインクラフトを始めたのは年長の時。最初からパソコンを使っており、普段は家や、参加している「CoderDojo 久留米」で制作しているという。

今回、ゾンビたちも授業を受けられるようにしようと思ったきかっけは、SDGsを学んだことで「差別があることを知ったから」だという。最初は校舎など作りたいものを絵に描いていたそうだが、MakeCodeで大枠を作ったあと「どこまでやったか分からなくなった」そうだ。そこで、タスク管理アプリ「Trello」を使って作る物を管理、終わったものを消していった。このアイデアは「お母さんから教えてもらった」そうで、なかには「作らないであきらめたものもある」そうだ。こうしたタスク管理を使った経験は、これから学習のタスクが増えたときにも活用できるだろう。

作品づくりに夢中のりゅうきさん。レッドストーンの動画を何度も見て作り直す

レッドストーンが大好きだというりゅうきさんは、「マインクラフトの世界は自動で何かできるところが楽しい」と話し、今回のワールド制作で回路にさらに詳しくなったという。普段はYouTubeのレッドストーン回路の制作動画を参考に作っているそうで、うまくいかないときは動画を巻き戻して何度も見て、間違いを直しているそうだ。

ところが、今回の制作の中では「4段ピストンエクステンダー」を動画の再現ではなく自分で構造を思いつき、「自分で作れたときがうれしかった」と話した。ほかにも意図しないデスポーンを回避する方法や、トラブル時にマップが消えないように工夫するなど、さまざまな課題を解決する楽しさを実感したようだ。

自分で構造を考えた「4段ピストンエクステンダー」

ワールドの制作で、日本語入力やコマンドがうまくなり、英語の小文字も読めるようになったというりゅうきさん。将来なりたいものは「おもちゃ屋さんか、パン屋さん」。柔軟な発想力と課題解決力を今後も生かしてほしい。

小学校高学年部門 優秀賞:しょうたさん~社会生活に直結する圧倒的な「調査力」

小学校高学年部門 優秀賞を受賞した、しょうたさん(埼玉県・小学4年生)

小学校高学年部門の優秀賞を受賞したしょうたさんの作品は、「エネルギーが学べる学校 その名はたかさご小学校」。学校ではNPCがエネルギーについて教えてくれ、発電所ではエージェントと一緒に課題をクリアしていくことで発電について学ぶこともできる。RPG形式でストーリーが進み、エージェントがクリア判定をしたり「仲良し度」が上がっていったりと、楽しみながら学べるしくみだ。

町はMakeCodeで作成。空飛ぶ車が飛び、風力発電所もある
水素とアンモニア発電のイベントではエージェントが課題のクリアを判定
発電所ではクリーンエネルギーについて学べる

しょうたさんがマインクラフトを始めたのは5歳ぐらい。最初はスマートフォンで遊んでいたが、3年生からはパソコンを使っているそうだ。普段スケジュール管理は苦手な方だそうだが、今回は締切の1週間前にはワールドを完成させ、バグをチェックする時間にあてたというすばらしい計画性を見せた。

事実に基づいた調査を重ね、「CoderDojo 浦和」で作品制作に取り組むしょうたさん

ゲーム形式にしようと思ったのは、「前からRPGを作りたいと思っていたから」だそうだが、プログラミングでRPGを制作したのは初めて。今も別のRPGを作っているそうだ。友達にワールドを遊んでもらうこともあるといい、人気YouTuberミラクルぐっちさんとミルダムの配信で友達になり、MakeCodeを教え合う仲に。今回のワールドも「ぐっちの部屋」で紹介されている。

ワールドの中では水素発電やアンモニア発電、核融合の仕組みについて非常に詳しく解説されており、クリーンエネルギーについて本当に学んでいくことができる。しょうたさんは普段から未来館や科学館などの博物館で遊ぶことが好きだそうで、今回も水素発電やアンモニア発電は科学館やトヨタのショールームを見学し、核融合炉については茨城県にある量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所からたくさんの資料を提供してもらって、構想を練ったという。

町に置ける安全でコンパクトな核融合発電。研究員から仕組みも学べる

「次もRPGで作ってみたい」というしょうたさん。将来なりたいものは「サッカー選手」とのこと。すばらしい調査力を、今後も学習でもスポーツでも生かしてほしい。

中学生部門賞 優秀賞:山口 翼さん~テーマを深く理解したコンセプトとメンターとしても活躍する高い造形力

中学生部門賞 優秀賞を受賞した、山口 翼さん(沖縄県・中学2年生)

中学生部門賞の優秀賞を受賞した山口 翼さんの作品は、「未来の学びの島!」。SDGsの17の目標について詳しく調べ、「世界がすべて学校」というコンセプトで表現された充実のワールドだ。巨大なシーサーが出迎えるエントランスでAIの案内係に話しかけると、「空の教室」や「海のスポーツ施設」などさまざまなエリアに移動できる。海に浮かぶタコやカメは水質浄化のためのAIロボットだ。「世界の文化エリア」にはピラミッドや凱旋門など世界の有名建築物が並び、未来の3Dプリンターで世界の建築物を建築できる。全体的な造形も非常に美しく、空に浮かぶ半透明のドーム型の教室や、世界遺産などどれもすばらしい。

巨大なシーサーが出迎える入口。コンセプトは「世界がすべて学校」
「空のアートエリア」では広い世界を見ながらアートや音楽が学べる
「世界の文化」エリアでは世界の文化と価値観を学び合う
学んだことをすぐに街で実践できる画期的な「Societyエリア」

制作には3カ月ほどかけ、初めの1カ月はコンセプト作りに費やし、残りの2カ月を制作期間として計画的に進行。作品の「誰でも学べる、地球全体が学校」というコンセプトは、「世界一と言われるフィンランドの教育を参考にした」とのこと。制作期間中は、週1回友達にワールドを見てもらい、「タコとカメが海を浄化したり、空で魚型のドローンが気候を見守るところは、友達からのアイデアを元に思いついた」という。意見を取り入れてアウトプットする改善能力の高さはプログラマーとして非常に重要なスキルであり、すでにその感覚を身につけているところがすばらしい。

山口さんは、「CoderDojo 宜野湾」と「CoderDojo 浦添」でジュニアメンターとしても活動中だという

マインクラフトやプログラミングは、「小4から初めた」という山口さん。「最初はパソコン版のマインクラフトを始め、MODが面白そうだと思った」ことがプログラミングを始めたきっかけだという。これまでマインクラフトを通していろいろなことを学べたそうだが、今回は「SDGsについての世界目標と、未来の社会について、Society 5.0の考え方について深く学べた」とコメント。テーマ全体についての理解は、参加者の中でも抜きんでていた。

山口さんに今後の抱負について聞くと、「マインクラフトの作品をVRで体験できるように作っていて、いつかこの作品も発表したい」と語ってくれた。「将来は、プログラミングや工作をやりながら、音楽、ドラムもやりたい」という山口さん。テーマを正しく・深く理解する力を生かして、今後もすばらしい才能を生かしていってほしい。

高校生部門賞 優秀賞:なおぴえさん~自分の意思で学んだからこそ深く理解した「SDGs」

高校生部門賞 優秀賞を受賞した、なおぴえさん(埼玉県・高校1年生)

高校生部門賞の優秀賞を受賞したなおぴえさんの作品は、「科学と社会の学校~学問とICTと自然の融合~」。クラシックで荘厳なデザインの校舎は、「陸の豊かさを守ろう」に配慮した広大な庭園に囲まれており、校舎の内部は元素について学べる「科学部門」と、たくさんの本に囲まれた「社会部門」に分かれている。さまざまなジェンダーに配慮した作りも特長だ。

時計塔が印象的なクラシックなデザインの美しい学校
教室にはパソコンが揃い、ICT化されている
図書館と食堂を兼ねた「図書食堂」は美しい吹き抜け
「科学」部門のプラネタリウムでは上映もできる

校舎のデザインは「インターネットで吹き抜けになっている廊下の写真を見て参考にした」という。応募開始から2カ月後に制作を始めたために制作は短期間だったが、最初に建築計画をしっかりと作り、プログラミングで効率化を図ったとのこと。特に「同じような壁を連続して積み上げるのに役立った」と説明した。

忙しい高校生は制作時間も短時間。最初に建築計画をしっかり作って取り組んだという、なおぴえさん

さらにジェンダーへの配慮を考えてトイレについて調べていたところ「オールジェンダートイレを見つけて再現した」という。いわゆる多目的トイレである“だれでもトイレ”とは違い、男女の差なくオールジェンダートイレだけが設置されている欧米の進んだ取り組みだが、SDGsについての考察から現実的な問題にまで落とし込めているところがすばらしい。授業などでもSDGsについては取り組まれているが、マインクラフトのワールド作成では「自分が環境を作る」側に立つ。「誰もが学べる」という目標を具現化するという経験が、より自分ごととして学習効果を高めただろう。

マインクラフトは小学校高学年ぐらいから始め、プレイヤー歴10年というなおぴえさん。「マインクラフトは、新しいものをどんどん思いつく。自分が思いついたものを、実際に作れるのが楽しい」という。マインクラフトをお勧めするのは「向上心がある人」だそうで、どんどん上手くなるそうだ。「次回はプログラミングにもっと取り組み、来年も参加したい」とコメント。「将来、福祉の仕事についてみんなの助けになりたい」と語るなおぴえさん。そのすばらしい計画力をぜひ未来に生かしてほしい。

Minecraftカップがもたらす子どもの成長、好きな“遊び”を“学び”につなげよう

受賞者たちのコメントで一番印象的だったのは、皆、制作を非常に楽しんでいたことだ。特に小学生の参加者たちは早く制作を始めたいから勉強を進んで終わらせたりと、Minecraftカップの制作が日常のタスクをスムーズに進めるのに一役買っていたようだ。

また、制作の構想を練るために博物館や専門施設で調査した参加者も多かったが、問題解決のための作業を苦にも感じておらず、本人にとっては「夢中になれる遊び」だったに違いない。このように、マインクラフトの最大の利点は、学習を“勉強”と捉えずに夢中になれることだ。

特に子どもたちのプログラミング力や、テーマであるSDGsやSociety 5.0についての学習の深さには非常に感銘を受けた。やはり「授業で習った」のと「自らの意思で学ぶ」のは理解できる深さが違う。仕上がりのクオリティに関係なく、どの子どもにも、本人が「人に教えてもらった」のではなく「自分でできた!」という達成感が得られる機会が、Minecraftカップにはあったであろう。

そして、どの受賞者にも共通しているのは「計画性の高さ」だ。限られた時間の中で、必要性を感じながらスケジュール管理を意識し始めていた。こうした“ものづくり”の経験を味わえることも、Minecraftカップが子どもたちの成長を促していた部分であるといえる。

保護者や教育者はどう関わる? マインクラフトを学習につなげるために

インタビューでは、受賞者の保護者にも話を聞くことができた。その姿勢は総じて「子どものやりたいことを応援する」というものだったようだ。参加を強制したわけでもなく、保護者は子どもが困っていたら助け船を出すというスタンスで関わっているケースがほとんど。プログラミングやSDGsも、マインクラフトの場合は子どもたちが自ら学んでくれる。

一方で、受賞者のコメントからは身近でアドバイスをくれる「メンター」の存在の大きさも見えた。共通の趣味を持つ兄弟や友人はもちろん、学校やCoderDojoといった身近なコミュニティなど、環境と機会を提供することが、保護者や教育者に求められる役割になるだろう。

ファイナリストはどれも驚くほどの力作揃いで、「うちの子じゃ、とても追いつかない」と思うかもしれない。しかし、Minecraftカップのように社会課題の解決をテーマにした作品を考え、自ら調べて作り上げること自体が、子どもたちの学びにつながる。Minecraftカップに参加した経験が、その子の今後の人生に有意義な経験のひとつになるに違いない。

事務局によると、来年度もMinecraftカップの開催を前向きに検討中だという。この記事を読んだ保護者や教育関係者は、ぜひ今年のファイナリストたちの作品や動画を子どもたちに見せてあげてほしい。きっと目を輝かせてやる気を見せてくれるはずだ。

【お詫びと訂正】初出時、「千葉県にある量子科学技術研究開発機構 那珂核融合研究所」としておりましたが、「茨城県」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

[制作協力:Minecraftカップ2020全国大会運営委員会]

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。