こどもとIT

今こそ地域に根付くテックイベントを! ものづくりの祭典「NT加賀2020」が12/12~13に開催

コロナ禍により3密や人の移動が制限される中、大都市圏から地方へのシフトと、社会全体のデジタル化が進みつつある。そのような中で、消滅可能性都市という危機感をバネに「スマートシティ構想」を掲げた石川県加賀市で12/12~13にものづくりの祭典「NT加賀2020」が開催される。自身もMakerとして出展もする、合同会社テクノアルタエンジン代表の下口容秀氏に、昨年のイベントの様子とともに地域密着のテックイベントの魅力について寄稿いただいた。

今まさに、世の中はものづくり天国だ。さまざまな技術が身近になり、大企業でなくとも、個人はもちろん子どもでも、さまざまなテクノロジーを駆使したものづくりを楽しめる。また小中学校はプログラミング教育必修化と1人1台のGIGAスクール端末が配備され、探究学習やSTEAM教育が注目を集めはじめるなど、社会的にも環境が整いつつある。

突如として降りかかったコロナ禍により、大規模なイベントは中止や延期に追い込まれた今年。ものづくりのイベントやコミュニティも例外なくその影響を受けた。しかし、一度火がついたものづくりの情熱と盛り上がりは消えることなく続いている。大規模なイベントができなくても、地方や地域では脈々とその活動は継続かつ広がり続けている。

ものづくりの祭典「NT」もその1つだ。この週末、12月12日~13日に石川県加賀市のセミナーハウスあいりすにて「NT加賀2020」が開催される。ソーシャルディスタンスの確保はもちろん、入退場の管理と出入口の消毒、検温、マスクの着用、体調管理、COCOA(厚生労働省接触確認アプリ)の使用など、参加者各自が取りうる感染症対策を行なっての実施だ。そして、我々Makerだからこそできる対策もあるだろう。

筆者自身、このNTというイベントが大好きで、いままで何度も足を運び、出展を行なってきた。本稿では、昨年12月に開催されたNT加賀2019の出展内容を振り返りつつ、奇しくもコロナ禍によって社会のデジタル化と場所を選ばない働き方が進む中で、地域に根を張り技術を駆使して表現と発明を続けるMaker達の姿をお届けしたい。

ビジネスでもない、制限も審査もない、技術力も問わない、だれでも出展できる作品発表の場

ものづくりの祭典NT加賀2019は、2019年12月14~15日の2日間、石川県加賀市にあるアビオシティ加賀にて開催された。

NT加賀2019の会場、アビオシティ加賀1階では、展示だけでなく、トークセッションなども行なわれた

全国的に子どもたちに対するプログラミング教育が急速に普及しつつあるのは前述の通りだが、加賀市は全国に先駆けてプログラミング教育を取り入れ、力を入れてきた。NT加賀に限らないが、このような地域開催の展示会はそういった取り組みを発表する場としても、最適な場所だろう。

会場2階がメイン会場、様々な工作作品が並ぶ

このNTというイベント、もともとは、ネット上で公開されていた工作物を、実際見てもらうために始めたものがきっかけだ。加賀はもとより、金沢、京都、名古屋など、各地で開催されている。近年、鯖江や広島などでも開催されており、まさに全国的な広がりを見せ始めている。

こちらは2019年6月29日~30日に駅の地下で行なわれたNT金沢2019の様子、残念ながら今年のNT金沢2020は不特定多数との接触が多い会場での感染リスクを鑑み中止となった

この展示会は、通常の展示会とはちょっと趣が異なり、ビジネスのための展示会ではない。参加者は基本、個人やサークルなどで、いわゆる大企業などの出展は基本ない。

また、参加にあたって、制限や審査なども特にない。危険なものや、公共良俗に反しないものであれば、その技術力のレベルを問わず、だれでも出展が可能だ。展示にあたっては、賞金があったり、表彰されるわけでもない、基本は自分の作ったものを展示するだけである。

それでも人が集まる。みんな展示会開催地に、自費でやってくるのである。これはやはり、自分の作ったもの、その技術をみんなに見てもらいたい。との思いが参加者にあるのだろう。まさに、技術のお披露目会といったところである。NT加賀2019の展示の一部を振り返ってみよう。

ゴミ収集日を色でお知らせ、ゴミ出しガジェット

形もかわいいゴミ出しガジェットは、ある自治体に対応しており、光の色で出すゴミの日をお知らせしてくれるという。見た目に楽しいだけでなく、実用的なアイテムとして、すぐにでも使用できそうである。無論これは、会社として作成されたものではない。個人が開発したものである。アイデアもそうだが、個人の力でここまでの物を作り上げるとは、まったく驚きである。

全体にフルカラーLEDが取り付けられた、表情自由自在キツネのお面
装着した様子

表面にLEDが敷き詰められているキツネのお面。すべての色を発色できるLEDを使用し、LEDの制御はプログラミングによって変更できるため、さまざまな表情をソフトウエアで表現可能だという。炎が燃えるパターンなど、動きがあるものまで表示可能なお面である。モバイルバッテリーをつなげば、実際にかぶって動き回ることも可能だ。

手をつなぐとついてくる、手つなぎロボットましろちゃん。笑顔がとてもかわいい

手をつないで歩くと後をついてきてくれる、「手つなぎロボットましろちゃん」は、顔認証機能もあり、こちらの顔を目で追いかける。また手もヒーターであたためてあり、ほのかに暖かい。目を小型LCDで表現しているため、瞬きもする。まさに作り手の情熱がこもったロボットである。動きも自然で、まるで少女が実際に歩いていると錯覚するほど。制作はチームで行ない、メンバーそれぞれが得意分野を生かして現在もアップデート中である。

アートと電子工作がコラボした、LEDが仕込まれたアート作品。キラキラと光る

即興でつくられたアート作品も展示されていた。ライブペイントで描かれたアート作品に、エンジニアが即興で電飾を行なったのだという。LEDは、ただ光るだけでなくアーティストの意向に合わせ、光るいパターンや色を微妙に変えている。写真でお伝えできないのが残念だが、色や、光の強さが少しづつ変化して、本当にきれいだ。アート作品とIT技術、実は相性が非常に良い。まさにアートと技術が融合した、全く新しいアート作品といえる。

子どもたちから高齢者の方へのプレゼントプロジェクトも実施

加賀市の小学校にて行なわれた、子どもたちと高齢者の方のふれあいプロジェクトも紹介しよう。これは、加賀市が取り組むSTEAM教育の一環でもある。

NT加賀2019会場に展示されていた、子どもたちと高齢者のふれあいの取り組み説明

小学生たちが老人ホームを訪問し、高齢者の方々とふれあい、話を聞くことで、高齢者の悩みや、課題を発見する。ここまでであれば、どこの学校でもよくある活動だろう。しかしこのプロジェクトでは、高齢者の課題を解決すべく、小学生たちがアイデアを考え、そのアイデアを地元エンジニアのサポートの下でセンサーやマイコンボードなどを用いて、実際にロボットなどの工作を作りこんだのである。

アイデアを考える子どもたち
現役のエンジニアが作りこみを楽しむ子どもたちをサポート
実際にプログラミングする子どもたちはとても楽しそうだ
老人ホームに伺って、プレゼンを行なう

完成後は老人ホームにて、子どもたち自身が高齢者に対しプレゼン。完成した作品はNT加賀2019に展示、イベント当日は子どもたち自身がブースに立ち、来場者への説明も行なった。ブースで説明する子どもたちも、本当に楽しそうだったのが印象的だった。今後が楽しみである。

子どもたちが作成した、じゃんけんロボ

たとえば、子どもたちが作ったじゃんけんロボ。電源を投入すると、ランダムでグー、チョキ、パーのいずれかが表示される。単純だが、高齢者の方たちも、大いに楽しんでいる様子であった。そのほか、朝になると、子どもたちの声で起こしてくれる目覚ましや、人が近づくと足元を照らしてくれるイルミネーション、ダジャレをしゃべるロボットなど、子どもたちのアイデアが詰まった、かわいらしく楽しい作品がいっぱいであった。

近年、STEAM教育への関心も高まっており、例外なく加賀市もSTEAM教育に対して力を入れている。STEAM教育において重要なのは、自主性や問題解決能力を育むことにある。

本プロジェクトでは子どもたち自身が何を作りたいかを考え、実際に作りこみ、プログラミングを行ない、そして発表するという手法をとった。また、うまく動かないなどの問題発生時、エンジニアはできる限り手を出さず、可能な限り子どもたち自身で問題を見つけ、解決させる方法をとった。最終的に、全グループともに目的の作品を作り上げることができ、作りこみにはかなりの時間をかけた結果、子どもたちは大きな達成感を味わっているようだった。

ただし、課題もある。学校現場の先生方は当然IT技術に関しては素人であり、このようなプロジェクトを実行するには、エンジニアの協力が必須である。このような事例を広めていくためには、学校現場でエンジニアがサポートする体制の構築も急務であると感じた。

ニューノーマルにシフトする今こそ、全国のMakerが地域で活躍する社会へ

本稿で紹介した作品は、NT加賀2019の展示作品のほんの一部であり、すべてをここで紹介することはとてもできない。技術もさることながら、毎回様々なアイデアに驚かされる。ものづくりは楽しいということを、この展示会に参加すると毎回思い出す。筆者自身、この展示会が好きでたまらない。技術者同士の交流もあり、本当に素晴らしい会である。

近年、micro:bitやRaspberry Piなどといった、だれでも入手可能なマイコンボードの普及により、こういった展示会に参加する人は増える一方であり、このような展示会も全国規模で増えている。筆者としても、このような展示会が増えるのは喜ばしい限りであり、いろいろな人、特に子どもたちがIT技術に触れるきっかけとなってほしい。そして、この会を通じて子どもたちがIT技術を自ら学び、将来、日本を代表するようなエンジニアになってくれることを、切に願うばかりである。

最後に、全国各地でこのような展示会を企画実行する運営各位と、参加する技術者の皆様に心よりお礼を申し上げたい。また、本稿を読んでものづくりや技術イベントに少しでも興味を持たれた方がいたら、(もちろん感染症対策を万全にした上で)ぜひ地域の技術イベントやコミュニティにも参加いただければ幸いである。

下口 容秀

加賀市在住のエンジニア。2018年、長年勤めていた会社を退職し、加賀市にて、基板設計、ファームウエア開発の合同会社テクノアルタエンジンを立ち上げた。自身もものづくりが大好きで、さまざまな展示会に出展。加賀市において、プログラミング教育の講師なども務める。