こどもとIT

就職人気企業が重視する課題解決力、Z世代はクリエイティブスキルをどう考える?

―― Adobe Education Forum Online 2020 (後編)

「クリエイティビティを育む教育」について考えるAdobe(アドビ)の教育フォーラム「Adobe Education Forum Online 2020 New Normalの社会で活躍する力を育てる大学・専門学校教育~ProductivityからCreativityへ ~」について、前編では基調講演の内容を、中編では高等教育機関が取り組むデザインスキルの育成について紹介した。

後編では、クリエイティブツールを使いこなす若手社会人らが登壇した座談会の模様を中心にレポートする。高度人材の育成が求められるなか、学生時代にクリエイティブツールを学ぶメリットは何か。それらのスキルがどのようにビジネスで活かされているのか。当事者らの声に耳を傾ける。

若手社会人による座談会のスケッチノート(グラフィックレコード:まなみ@グラフィックレコーダー @g_mnm0_0)

視覚的にわかりやすく伝える、ビジュアルコミュニケーションが当たり前の社会

学修や就職活動にパソコンが必須となった今、専門学校や短大・大学などの高等教育機関では、オフィスツールを習得できる講座を設けているところが多い。しかし、それだけに足らず、「Adobe Illustrator(以下、Illustrator)」や「Adobe Photoshop(以下、Photoshop)」などクリエイティブツールを、学ぶ学生も増えている。

社会人3年目の岩本雄也氏も、そのひとり。同氏は大学時代に所属した研究室で、論文発表の際にIllustratorで資料を作成することが決められており、それを機に使うようになった。現在は、本業とは別に、副業の会社でマーケティングを担当し、ウェブサイトの制作などに関わっている。

広告代理店に務める社会人1年目の町あゆみ氏は、大学1年生の時にフリーペーパーを作るサークルに入り、Illustratorに出会う。その後、独学でPhotoshopを学び、アルバイトやインターンを通してさまざまなデザインの制作に関わりスキルを磨いた。一方で、「学生時代はアドビ製品を使ったことがない」と話すのは、社会人10年目の原渓太氏。同氏は、社会人になってから仕事で必要に迫られてアドビ製品を学んだという。

写真左より)岩本雄也氏(社会人3年目。ITおよび製造業、芝浦工業大学卒業)、町あゆみ氏(社会人1年目広告、早稲田大学商学部卒業)、原渓太氏(社会人10年目。IT機器メーカーからアドビ、同志社大学卒業)

クリエイティブツールが使えるスキルは、仕事でどのように役立っているのだろうか。岩本氏と原氏は、“スピード感を持って対応できること”を挙げた。「自分のアイデアを自分でカタチにできる。現場では頻繁に、修正や追加依頼が入ってくるがスピード感を持って対応でき、結果として、大きな案件につながることもある」(岩本氏)。「サイトでテストしたり、バナーを作ったり、フィードバックをもらって即座に反応できる。自分で作れるので発注コストもない」(原氏)。現場での気づきやコミュニケーションに対して、すぐに反応できることが強みだというのだ。

町氏は、企画提案などの場で説得力を持って伝えられる点が役立つと話す。「自分のアイデアをビジュアルで伝えられるので、相手に対しても説得力のあるプレゼンができる。デザインをする際に必要な多面的な視点や情報分析などの考え方も、仕事では活かされている。マーケティングとデザインの両方を学んだ人材は、新卒市場では少なかったので自分の武器になった」と語ってくれた。同氏は就職活動のときも、自分のポートフォリオを提出して、自分は何が好きで、どのようなことができるのかを伝えたという。“視覚的にわかりやすく伝える”スキルが、自分の人生を切り開く力にも活かされたようだ。

続いては、「学生時代にクリエイティブツールを習得するメリットは何か」という質問について。

岩本氏は「スキルを持っていることで、学生でもさまざまな仕事や大人との接点を持つことができた。お金を稼げたことも良かった」と述べた。学生時代から自分のスキルで対価を得られた経験は自信にもつながったようだ。一方、社会人になってからアドビ製品を学んだ原氏は、「仕事をしながら新しいスキルを学ぶのは大変だった。学生のうちに学ぶ方が時間的にも余裕があり、可能性も広がる」と語る。

町氏は、将来の選択肢が広がることや、いろいろな人に声をかけてもらえること、さらに俯瞰力が身につくことをあげた。また「学生のうちは仕事とは異なり、自分のやってみたいことや好きなことを試せる。たくさんの試行錯誤もできるのでスキルが身につくのも早い」と述べた。結果を求められる仕事とは異なり、学生の間は自分主導でクリエイティブな作業に取り組めるのがメリットだというのだ。

最後に3人からは、クリエイティブを育む教育について教育関係者に伝えたいことが語られた。岩本氏は「大学時代はクリエイティブを養う時間は多くある。ただし、クリエイティブツールを学ぶだけでなく、消費者にあった商品の伝え方などを学ぶ必要もあるのではないか」という意見を述べた。スキルの習得もさることながら、ビジネス目線を鍛えるような学びも必要だという。

町氏は「自分ひとりで始めるよりも、まわりに友達や教えてくれる人がいた方がいい。学校でツールに触れる機会があれば、むずかしいと思っていたことも“できるかも”と思えることがある」と語った。ひとりで学ぶよりも、仲間と一緒に学ぶ方が選択肢も広がる。教育機関での学びは独学では得られない価値があり、多くの教育機関でクリエイティブツールが学べるようになってほしいと述べた。

原氏は「世界や時代も変わり、今やビジュアルコミュニケーションは普遍的な価値になっている。教育現場ではアウトプットする機会を増やして、時代の変化についていくスキルを養ってほしい」と語った。自分の考えを言葉だけで伝えるのではなく、写真や動画、図形などを用いて視覚的に情報を伝達するビジュアルコミュニケーションは、ますます重要になってきている。

本フォーラムの基調講演でもOECD(経済協力開発機構)東京センター所長の村上由美子氏が、“機械に代替される中スキルの人材を高スキルに移行するための教育が必要”と語っていたが、まさにビジュアルコミュニケーションのスキルは、その手段のひとつにもなり得るだろう。こうした時代の変化に対応できる学びを教育機関で提供してほしいというのだ。

オフィスツールに加えて、クリエイティブツールを使えるスキルが求められている

このように学生時代からクリエティブツールを学ぶメリットはあるが、企業はこうした学生のスキルをどのように捉えているのか。

アドビ教育市場部部長 小池晴子氏は、同社が国内所在企業の人事担当者500名を対象に実施した「新卒採用で企業が重視するスキル」に関する調査結果を発表した。この調査はアドビが2018年から始めたもので、今回が2回目。創造性に富んだ革新的な方法で問題や課題に取り組む「創造的問題解決能力」が企業からどのように重視されているかを調査するものだ。

アドビ教育市場部部長 小池晴子氏

調査結果によると、2018年同様、新卒採用で重視するスキルの1位は「課題解決方法の発想力/着想力」となり、デジタルリテラシー(ITを使いこなす能力)を重視する企業が増加傾向にあることが分かった。就職人気企業で、その傾向は顕著であり、就職人気企業とそれ以外の企業では13.4ポイントの開きがある。

人事部所属の会社員500名に聞いたアンケート調査の結果。そのうち、152名は就職人気企業ランキングに登場する企業の人事部に所属。デジタルリテラシーやクリエイティビティを重視する傾向は、就職人気企業が顕著である

デジタルリテラシーに関しては、動画、写真加工、アプリやwebなどクリエティブ系ツールのスキルニーズが高まっている。小池氏は、「今やデジタルリテラシーとしてオフィスツールを使えることは当たり前。それに加えてクリエイティブツールを使えるスキルが求められている」と語る。

実際に、70.6%の企業が「デザインや制作の部署以外でもクリエイティブツールを使いこなせる能力が必要」と答えている。説得力のあるプレゼンテーション、社内向けの動画制作や編集、リモート営業などで分かりやすく伝えるために工夫が必要など、クリエイティブツールが扱えるスキルが必要だという認識は広がっている。

また「自社において創造的/クリエイティブであることは重視されているか」という質問に対しても、就職人気企業で95.4%、その他の企業で82.8%の企業が「重視する」と答えており、非常に多くの企業がクリエイティブを重んじていることがわかった。小池氏は「大学は企業の予備校ではないが、学生が専門的な学修に取り組むなかで、結果として社会に通用する力を身につけることも大切。そのツールのひとつとして、クリエイティブツールを扱えることはますます重要になっていくだろう」と語った。

小池氏が登壇したスケッチノート(グラフィックレコード:りゃんよ @RYANPEKO820)

社会人になる前にクリエイティブツールが学べる環境を

では、こうしたクリエイティブなスキルを身につけるためにはどうすればいいか。アドビは高等教育機関を対象に「デジタルクリエイティビティ」に関する基礎講座を提供している。

この講座は、自分の考えやアイデアを見えるカタチにアウトプットして、人にわかりやすく伝える力、表現する力を学ぶ授業。ツールの使い方を教え込むのではなく、デザインとは何か、誰にとって必要で、何の役に立つのか、セオリーやコンセプトから学ぶ。

専攻や進路に関わりなく、デザインやクリエイティブの理論とハンズオンの演習を通して基礎スキルを習得するスタイルで、筑波大学、千葉大学、山形大学、横浜国立大学などで導入されているようだ。また、コロナ禍で大学の講義がオンライン化されるなか、同講座のオンライン版の提供も開始した。

ちなみに、現時点で同講座の対象は大学や専門学校などの高等教育機関のみ。高校については、2022年度から「情報I」の教科で使用できるAdobe XDを活用したコミュニケーションと情報デザインの授業案を提供している。

クリエイティブツールを学ぶのはデザインや制作など専門分野に進む学生、といった時代はとっくの前に終わった。今のデジタルネイティブは、大学生になる前の中高生時代から写真や動画、イラスト、ウェブ、アプリなどに親しんでおり、“ビジュアル”に対する感覚もコミュニケーションの一部として身についている。企業や社会でもクリエイティブスキルを持った人材需要が高まる中、こうしたスキルを伸ばしていくための学びの場を考えていく必要がある。

神谷加代

こどもとIT編集記者。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。