こどもとIT

ISTE2018レポート:ベールを脱いだScratch 3.0のmicro:bit接続機能

〜最新教育用フィジカルコンピューティングプラットホーム〜

ISTEカンファレンス&エキスポは、全世界(主に全米)から教師や技術コーディネーターらが集まり、実践的な学習方法やアイディアの交換を行う歴史ある国際教育技術会議だ。今年は、シカゴのマコーミックプレイスで6月23日から5日間、開催された。この中で、8月1日にリリース予定のScratch 3.0 Betaで提供されるBluetooth Low Energy(以下、BLE)によるmicro:bit接続機能について、初公開とワークショップが行われたので、その様子をレポートする。

micro:bitとは、多くのセンサーとBLEを搭載した教育用コンピューターで、すでに世界で170万個以上が出荷され、各国の教育現場で利用されている。日本でもWDLCの「MakeCode×micro:bit 100プロジェクト」がスタートするなど、2020年の小学校でのプログラミング必須化に向けて注目されているデバイスの1つだ。

ワークショップでは、まず、Scratch 3.0のリリーススケジュールの説明があった。micro:bit接続機能は、8月1日のBeta Launchから提供を開始。Windows 10、MacOS、ChromeOS、Linuxで利用可能となるとのこと。

ISTEが開催されたシカゴのマコーミックプレイス
ワークショップは学校の教室3つ分程の部屋で行われ、30名前後の参加があった。参加者にインタビューしたところ、多くがアメリカのK-12(幼稚園から高校)の教師であった
各机には、接続専用プログラムがインストール済みのmicro:bitと電池ボックスが配布され、各micro:bitにはペアリング時に必要なID(5文字のアルファベット)が貼り付けてある
テーブルにはフィジカルコンピューティングの小道具が山のように用意されていた
Scratch 3.0のリリーススケジュールについて
MITメディアラボのクレッグ・ハニング氏は、じょうろにmicro:bitを取り付け、これを傾けるとScratchで作ったお花畑に水が注がれるという作品を例に、接続機能の説明を行った

ワークショップは、各自が持参したMacOSもしくはChromeOSのノートPCで行った。WindowsについてはWindows 10のみが対象で、8月1日よりシンプルなステップでインストールできるアプリが提供される。これは、一度インストールすれば、あとはブラウザのみで利用出来るようになるとのことだった。

ワークショップ内での説明では省略されていたところがあったため、以下は筆者が補足した接続手順となることを最初にお断りしておく。

1. micro:bitの準備

ワークショップで配られたmicro:bitにはすでに接続用プログラムがインストール済みだったが、通常は、以下のURLでダウンロードしたプログラム(hexファイル)をmicro:bitにインストール(コピー)する必要がある。

https://llk.github.io/scratch-microbit-firmware/scratch-microbit-firmware-combined.hex

コピーが完了し、中心から外へ波紋が広がるようなアニメーションがスタートすれば、micro:bit側は準備完了となる

2. Scratchの起動

ブラウザはChromeを使い、以下のURLにアクセスする。

https://llk.github.io/scratch-gui/microbit/

なお、8月1日以降は、Scratch 3.0 BetaのURLで利用できるようになるようだ。

3. Scratchとmicro:bitのペアリング

アクセスすると、右上にBluetoothマークのボタンが表示される。接続中はグリーン、未接続の場合はオレンジになる。ボタンを押すと、ポップアップウインドウが開き、現在、近くにあるmicro:bitのID([]内の5文字のアルファベット)一覧が表示される。

接続したいmicro:bitのIDをクリックし、ペア設定をクリックする。micro:bit側のアニメーションが停止し、Scratch側のボタンがオレンジからグリーンに変われば接続は完了となる。

なお、ここで表示されるmicro:bitのIDだが、今回のワークショップではあらかじめmicro:bitにIDが貼ってあったのですぐに自分の物とわかったが、貼っていない状況で大勢がペアリングを行おうとすると、どれが自分の物か判らなくなってしまう。この問題について、将来的にはLEDが点灯するなどして、判別できるUIを提供するアイディアが上がっているとのことだった。

4. micro:bit用の拡張機能ブロックの追加
画面左下の拡張機能ボタンをクリックして、micro:bitをクリックする。

完了すると、以下のようなブロックが追加される。なお、使えるブロックは今後増えるとのことだ。

40人の教室で一斉に接続を行った際にBLEのチャンネル不足の問題がないか確認をしたところ、クレッグ・ハニング氏の話では、実績はあり、もっと多くても問題ないとのことだった。また、BLEを使わず有線で接続するUSB接続版のリリース計画もあるそうだが、半年以上先の話になると思う、という回答だった。

ワークショップは複数人でチームを作り、あらかじめ用意された小道具を使ってフィジカルコンピューティング作品を作るというものだ。どのチームも短時間に自由な発想で素晴らしい作品を完成させていた。

発表は、ISTEの趣旨に沿って、参加者同士がお互いのテクニックを教え合う場となった

発表の後には、micro:bit用のScratchカードが紹介された。このカードは、表側に完成イメージが描かれていて、裏にはその作り方が書いてあるというものだ。カードはhttp://microbit.org/scratch/からダウンロードが可能で、印刷してカードを自分で作れるようになっていた。

Scratchカード
Random Drawingの例

今回、Scratchの父であるミッチェル・レズニック教授は登壇しなかったが、最後は参加者全員に教授自らmicro:bitを配っていたのが印象的だった。今年は、隔年で開催されているScratch Conference が、10月20日(土)に東京で開催される。レズニック教授を始めとするスタッフも来日するそうなので、Scratch 3.0 Beta版リリース後のさらに詳しい話を聞く事ができるかもしれない。

先日、文科省の調査結果「教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取組状況等」が発表され、半数以上の自治体が2020年からのプログラミング必須化の準備について未着手という状況が明らかになった。筆者は、今回のScratch 3.0+micro:bit接続機能については小学校の授業の中で一般的にはならないと考えている(文科省プログラミング教育のD分類以降)。ただ、単体としてのScratch 3.0およびmicro:bitに関しては、文科省の指導要領に沿った授業を行うにあたり、学校のPC環境・コスト・教師への負担・将来性を総合すると、この2つを採用することは最適解の一つだと思っている。日本の将来を考え、子供達にはできる限りグローバルスタンダードな道具に触れる機会が与えられることを切に願う。

高松基広

CoderDojo守谷Champion(元:CoderDojo柏)。ハンドル名@asondemita。micro:bit財団のコンテストで入賞。イギリスの展示会BettShowで入賞作品展示。著書「micro:bitであそぼう」。株式会社Syun、株式会社ベクレルセンター代表。