こどもとIT

低学年から「情報科」を設け、プログラミングへの興味を伸ばす多様な取り組みを準備──奈良県・帝塚山小学校

第9回 教育ITソリューション EXPO(EDIX)レポート

2018年5月16日~18日、日本最大級の教育分野の専門展示会「第10回教育ITソリューションEXPO」(EDIX)が、東京ビッグサイトにて開催された。ここでは、「学びNEXT 専門セミナー」の中で行われた、帝塚山小学校校長の池田節氏による講演、「ゲーム作り、作曲体験、ロボット教室…『楽しい』が魅力のプログラミング教育実践方法」をレポートする。

小学校から「情報科」を設けて情報活用能力を伸ばす

帝塚山小学校 校長 池田節氏

帝塚山小学校は、奈良県奈良市に位置する私立小学校だ。全国に先駆けて、2016年度よりプログラミング教育を導入し、2017年度からは全学年で独自カリキュラムを実施している。池田氏は、「これからの時代、情報活用能力は未来を生きる子どもの基盤の1つとなる」と語り、帝塚山小学校では低学年から「情報科」を設けていることと、そのカリキュラムについて紹介した。

情報科では、大きくわけて「ICT活用能力」「情報モラル」「イノベーションへの意欲」などを伸ばす。低学年では、基本のPC操作や簡単なプログラミング、アニメーション作成などを行い、高学年では、順次処理、繰り返し、条件分岐や関数などプログラミング学習の深化を図るほか、タイピングやインターネットの利用ルールなども学んでいく。もちろん作品は互いに発表・共有しあう。

低学年の「情報科」カリキュラム
低学年での取り組み事例
高学年の「情報科」カリキュラム
高学年での取り組み事例

プログラミングツールとして、低学年では、文科省提供のプログラミングツール「プログラミン」を、高学年では「Scratch」を使用するという。

低学年でのプログラミング教育
高学年でのプログラミング教育

情報科以外にも、応用授業やロボット体験授業なども実施

また、帝塚山小学校では、前述した基本のプログラミング教育に加え、年に数回の「発展学習」も用意している。たとえば去年の実績として、サイバーエージェントの子会社であるCA Tech Kidsによる、プログラミングの最先端を学べる「Scratchの応用授業」(4年生が対象)や、子ども向けプログラミング教室プログラボによる、レゴ マインドストームEV3を使用した「ロボット体験授業」(5、6年生が対象)などがそれだ。

Scratchの応用授業では、「すぐに解決を教えず、ヒントを与えるだけ」なのがミソだ。思ったことがすぐできず、友達と自然に相談しあうなかで子どもたちは成長する。今年度は子ども向けのオンラインプログラミング学習サービス「QUREO」(キュレオ)を利用した家庭での個別学習に取り組む計画だ。

ロボット体験授業では、子どもたちに独自のプログラムを組ませて、「ライントレースで火星の岩に到達せよ」「アームを作って火星の石をGetせよ」などさまざまなミッションを与える。子どもたちにとってはかなり難しいミッションが用意されており、例えば、アームで火星の石をコップに入れさせるミッションでは、成功したのはわずか1グループのみだった。ゲーム性があり、ハードルの高いミッションを与えることで子どもたちのやる気が出るのだという。

6年生向けの「火星の石をGetせよ」のミッション

また、情報科以外の科目でもプログラミング教育を積極的に取り入れている。5~6年生の「音楽科」でヤマハの協力を得て行ったのは、子どもたちがタブレットで作曲をするボーカロイド作曲体験だ。ボーカロイドを活用することで、作った曲をすぐにみんなの前で発表できる。よくできている曲には拍手喝采が起き、「ブラボー!」の声が飛ぶ。年に1度の音楽祭では、先生たちによるバンドがサプライズで6年生の作った曲を演奏したという。

「この授業を通して子どもたちは、世界に1つしかない曲をコンピューターを使って作ることができ、それを世界に発信できるということがわかってもらえたと思う」(池田氏)。

教育課程外でもプログラミングへの興味を伸ばす多様な取り組み

プログラミング教育を授業に取り入れてそれで終わりではない。帝塚山小学校では、プログラミングに興味を持った子どもがいれば、教育課程外でもさらに興味を伸ばすさまざまな取り組みを用意している。

例えば、低学年向けの「コンピュータ遊び」クラブだ。これは1~3年生向けの、自由選択で所属できるクラブ活動で、学年の縦割りグループを作り、文部科学省が提供する子ども向けプログラミング作成サイト「プログラミン」を利用して、プログラミングで遊ぶことで子どもたちの興味を伸ばす。

また、帝塚山大学こども学科に協力を得た「ロボット学習教室」や、プログラミングを全く知らない園児に4年生がプログラミングを教える「園児にプログラミンを教えよう」などの取り組みも実施している。園児にプログラミングを教えることで4年生の側に自信がつくのだという。

また、土曜日・長期休暇中に活動する「ロボット教室」は大人気で、30人の参加枠に希望者が殺到して抽選になる。教室の目標は「WROロボット大会に出場する」ことで、5年生チームがエキスパート部門に、3~4年生チームはミドル部門に挑戦する。2016年の大会では帝塚山小学校が優勝と準優勝をさらったが、2017年には準優勝にとどまり、「今年はリベンジする」と子どもたちが燃えているという。「レゴ マインドストームEV3を買いそろえるための財源が課題。やっと10台揃えた」と池田氏は苦笑した。

春休みには、2~6年生の希望者を対象に2日間開催する「プログラミングキャンプ」も実施した。これも、3年間で参加者が10倍になった人気の取り組みだ。小学生向けプログラミングワークショップ「Tech Kids CAMP 2018 Spring」の奈良県会場として帝塚山小学校を提供し、マインクラフトでオリジナルゲームを作る講座を受け、最後に作品のプレゼンなども行ったという。

また、1~3年生向けに、放課後の選択講座として、簡単なロボットを使った「アフタースクールロボット科学講座」も週1回提供している。

最先端を提供できる大学や企業に協力を求める

ここまで帝塚山小学校の充実したプログラミング教育環境を紹介してきたが、学校という場所にはリソースが無限にあるわけではない。これだけの環境を用意するにはどうすればよいのだろうか。

池田氏は、新学習指導要領の中から、「社会との連携および協働により、その実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる」という文言を取り上げ、「これだけ時代が急速に発展していくと、学校の中でなんでもかんでも先生が実施するのは難しい。それでも子どもたちには最先端の教育を受けさせてあげたい。そのためには、“学校の先生”には限界があることを先生自身が理解して、最先端を提供できる大学や企業に協力してもらうことが重要だ」と力説した。

実際に、前述したような帝塚山小学校で提供しているプログラミング教育環境は、プログラミングスクールの「CA Tech Kids」や、子ども向けロボットプログラミング教室の「プログラボ」、音楽教室の「ヤマハ」、「帝塚山大学こども学科」、放課後児童預かりの「アフタースクール」など、多くの団体の協力を得て実施している。

池田氏は、こうした団体から協力を得るための大事なポイントとして2つを挙げた。「1つは、丸投げは絶対にダメということ。学校で実施しているカリキュラムを伝え、“こういうことをやりたいんだ”ということをきちんと伝えること。2つ目は、長く続けるには、研究結果を提供するなど、WIN-WINの関係を作らなければならないということだ」。

また、いつまでも相手におんぶに抱っこで授業を進める気持ちでいてはいけない。例えば音楽科の授業では、ヤマハに来てもらったのは最初のうちだけで、後は先生が授業内容を吸収して、自分たちだけで実施できるようにしたという。

全員に種をまくことで芽が出てくる

池田氏は、「プログラミングの可能性」として、下記4点を挙げる。

①アクティブラーニング:主体的・対話的・深い学びの実現
②もっとやりたい!:より発展的な学びの場の保障
③ぼくでもやれる!:この“学び”は楽しい、自分もやればできる
④生徒・学生とのふれあい:中高ロボット部、工業高校、大学教育学部などの生徒・学生を指導者・メンターとして招く

③については、「全員にプログラミング教育の種をまくことで目が出てくる」と池田氏は述べ、「自己肯定感が低い子どもが、プログラミングのゲームづくりで褒めてもらったことをきっかけに猛勉強をはじめ、ロボット名門校に入学した」、「学習に劣等感を持っていた子が、プログラミングの魅力に取りつかれ、劣等感を克服した」、「音楽の授業が苦手でやる気のなかった子が、休憩時間にもっとボーカロイドをやりたいと言いだし、音楽への苦手意識を克服した」、「プログラミング授業を受けている時に、『僕はこれをやりたかったんだー!』と叫んだ子ども」など多くの実例を挙げた。希望者だけでなく、全員に“プログラミング教育”という種をまいたからこそ芽が出てきた実例だと言えるだろう。

また池田氏は異なる観点から、「学校はとにかく聴覚情報が多い場所だが、聴覚情報が上手く頭に入ってこない子どもは多い。そういう子どもたちは視覚情報ならば反応して食いつくことがある。プログラミングはそういう子どもたちを伸ばす可能性を持っている」とも述べた。

子どもたちが「楽しい」と思えるプログラミング教育のために

池田氏は、子どもたちが楽しいと思えるプログラミング教育の肝として下記の3点を述べた。

・「アンプラグド」教材には限界がある
「プログラミング的思考を鍛える際に、アンプラグド教材(電源を使用しない教材)を取り入れることを全部否定するつもりはないが、子どもたちは実際に目の前でPCやロボットが動くからこそワクワクするもの。子どもたちがアンプラグド教材に飽きてしまったら終わりだ。何か新しいこと、楽しいことがありそうだ、というワクワクするモチベーションを保つことが大事」。

・「トライ&エラー」を子どもが楽しいと感じること
「正答を要求し、知識を教え込むのが過去の学校教育だった。これからは違う。答えのないトライ&エラーを子どもが楽しく思えること、失敗してもいいから繰り返しやることが大事だ」。

・「学びに向かう力」こそが新学習指導要領の方向性
「海外で、『勉強は仕事に近いか、遊びに近いか』と聞くと『遊びに近い』という答えが返ってくることが多いが、日本では逆に『仕事に近い』という返事が返ってくることが多いという。いい学校に入って、いい会社に就職したら、そこで勉強は終わりではない。『学ぶことは楽しい』『もっと学びたい』という生涯学習姿勢を養うのが一番大切だ」。

最後に池田氏は、「冒頭にも申し上げたが、情報活用能力を本気で育成するなら、小学校で“情報科”をきちんと作り、段階的に育成をして、そこから各教科に応用していくべきだ」と再度強調して、講演をしめくくった。

池辺紗也子