こどもとIT

新しい教育の選択肢や教育イノベーターを生み出すための「Edvation × Summit 2017」セッションレポート(1日目)

~Edtechの推進者が世界中から集まる~

2017年11月5日と6日、海運クラブ国際会議場と麹町中学校で、一般社団法人教育イノベーション協議会/Edvation x Summit 2017実行委員会主催の「Edvation × Summit 2017」が開催された。

このイベントは、新しい教育の選択肢を知ってもらうことと、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すことを目的に開催されたもので、世界中から著名なEdtechの推進者が集まり、講演やパネルディスカッション、ワークショップなどが行われた。そこで、1日目の講演の中から特に興味深かった講演を紹介したい。

SXSW EDUディレクター「Edtechは世界を救える」

最初のキーノートスピーチとして、米国の教育カンファレンス「SXSW EDU」ディレクターのRon Reed氏が、「Edtechは世界を変えられるのか?」というタイトルで講演を行った。その要旨は以下の通りだ。

Ron Reed氏は、「30年間SXSWを開催してきた中で、多様性とコミュニティが重要だと考えている。私は教育テクノロジーに長年関わってきた。Edtechは世界を救えるかという問いについては、私は救えると思っている」と語った。20年前にReed氏が働いていた「Optical Data Corporation」は、初めてのマルチメディア教材「Windows on Science」を制作し、テキサス州の学校の65%で使われるなど、大きな話題となったという。

最初のキーノートスピーチを行ったSXSW EDUディレクターのRon Reed氏
Ron氏が手がけたマルチメディア教材「Windows on Science」。「見て覚える」という学習モデルに基づいたものである

SXSW EDUは年々規模が大きくなっており、今年開催された「SXSW EDU 2017」は、参加者数16,547名、セッション数は500にもなった。SXSW EDUの目的の一つとして、スタートアップのプレゼンテーションイベントがあり、そこで出資を得たスタートアップが大きく成長しているという。「教育にまつわるさまざまな問題を解決していくことが重要だが、そのためには熱意と忍耐が不可欠である」とReed氏は語った。

SXSW EDU 2017のハイライト。参加者の合計は16,547名、セッションの数は500にのぼった
SXSW EDU 2017の会場の様子

80歳でプログラミングを始めた若宮正子さんが語る「プログラミング教育」

11月5日に行われた講演の中でも、特に感銘を受けたのが、82歳のiPhoneアプリ開発者、若宮正子氏による講演である。若宮氏は、60歳でパソコンと出会い、80歳でプログラミングを始め、iPhone用ゲームアプリ「hinadan」を作成、世界最高齢のiPhoneアプリ開発者として話題となった。

若宮氏は、「未来を変えましょう ~多様性を重んじる世の中にしたい」というタイトルで講演を行った。82歳とは思えない張りのある声で、素晴らしい講演であった。

若宮氏は、定年後に母の介護を始めたという。その頃からパソコンを始め、インターネットに出会い、世界が広がった。同年代にもパソコンを広め、パソコンサロン「メロウ倶楽部」で交流を楽しんだ。そこで、シニアに適したパソコン教材がないことに気づき、Excelを使ってアートを描く“Excelアート”を考案。また、3D CADと3Dプリンターを使って、世界でひとつだけのペンダントを作るなど精力的に活動した。

60歳でパソコンと出会い、80歳でプログラミングを始めた若宮正子さん
若宮さんはパソコンのおかげで、翼を得た
Excelを活用して絵を描く、Excelアートを考案した
また、3D CADと3Dプリンターを使って、世界にたったひとつのペンダントを作った

そんな若宮氏が作ったのが、iPhoneアプリ「hinadan」だ。若宮氏は、「シニア向けのゲームアプリがなかったから作った。おひな様をモチーフにしたゲームだ。おひな様にした理由は、我々年寄りは次の世代に伝統的な文化を引き継ぐ使命があるし、シニアに有利なルールだから。プログラミングは料理のレシピのようなもので、何に重点を置くかが大切だ。プログラミングを習得するために、まず、本を買って自習をはじめ、オンラインで教えてくれる先生も見つけた」と語った。若宮氏は、hinadanが話題になったことで、AppleのWWDC 2017に招待され、AppleのCEOであるクック氏と話をする機会も得た。また、若宮氏は人生100年時代構想会議の有識者議員にも選ばれた。

iPhoneアプリのテーマをひな壇にした理由。シニアに有利だというのも理由の一つだ
WWDC 2017に招かれ、AppleのCEOクック氏と話をする機会を得た

今後は、プログラミングをより深く勉強し、身体の不自由な方も高齢者も楽しめ、日本の伝統を後世に伝えられるようなゲームアプリを作りたいと言う。

「創造することこそ、人工知能にはできない、最も人間的な活動である。だから、私は常に創造的でありたい。また、未来を変えるためには、教育が重要であるが、今の教育は多様性を認めず、画一的な人間を育てる仕組みになっている。大企業が採用していた人は、刺身でいえば短冊にあたる部分だけで、それ以外は捨てられていたが、それは間違いだと思う。今後は、子供達の多様性を活かし、様々な学びの道筋を作っていくことが重要だと考えている」(若宮氏)

Microsoftは古くから教育分野に投資をし続けてきた

Microsoft エデュケーションパートナー ワールドワイドマネージングディレクターのLarry Nelson氏は、「グローバルな視点から見たMicrosoftの教育」というタイトルで講演を行った。その要旨は以下の通りだ。

Nelson氏は前職を含めて28年以上教育テクノロジーにかかわってきた。またMicrosoftは、2003年と2008年に教育分野に大きな投資をし、さまざまな支援を行ってきた。Microsoftのエデュケーションにおけるミッションは、「明日の世界を作ること」である。

教育における4つの柱は、「優れた学習成果を得るための適切な環境の実現」、「手頃な価格で利用できるプラットフォーム」、「教室でのコラボレーションのための最新ツール」、「創造性を刺激するような経験」だ。また、クラウドの実用性や柔軟性を高めることで、自分のデバイスを学校に持ち込むBYODを活かすことができる。データの重要性はさらに高まっている。

Microsoft エデュケーションパートナー ワールドワイドマネージングディレクターのLarry Nelson氏
Microsoftの学校教育プログラムは、1,800の教育機関で19万5,000人の教育者によって使われ、260万人の学生が学んでいる

Microsoftは、MR(拡張現実)デバイス「Hololens」を、教育やトレーニングなどに活用する研究「VISIONLAB」を行っており、さまざまな企業と共同で実証実験を進めている。その中のひとつが、JALと共同開発している飛行機に関する教育プログラムで、飛行機のエンジンの構造や機内設備などをHololensによるMRで分かりやすく説明するというものだ。「こうしたVR/MRの活用はまだ発展途上であり、今後も進化していくだろう」とNelson氏は締めくくった。

Microsoftの考える教育の4つの柱
VISIONLABの一つとして、JALと共同開発している飛行機に関する教育プログラム

EdTechに関する多数のセッション

その他にも多くのセッションが行われ、多くの聴講者が聴き入っていた。

オープニングの挨拶を行った一般社団法人教育イノベーション協議会 代表理事の佐藤昌宏氏。本イベントは初開催であり、世界各国から教育に関する先進的な取り組みを行っている講演者が集まったことに感謝すると述べた
会場の提供などをした千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一氏
EdTech Week Asiaをプロデュースする、Edtech × Europe 共同創業者/IBIS Captital CEOのCharles Mclntyre氏
Charles Mclntyre氏は、「教育はこの5年間で、それまでの2000年以上の変化があった。その教育の5つのトレンドとは、デジタル化、パーソナル化、プライベート化、オートメーション化、グローバル化である」と語った
IE Business School アントレプレナーシップイノベーションセンター会長のJuan Jose Guemes氏
Juan Jose Guemes氏は、「EdTechは教育を救うのか? ヨーロッパの視点から」と題した講演を行った。iOSやAndroidの開発者、データサイエンティスト、クラウドセキュリティスペシャリストなど、今日、最も重要の多い仕事は10年前には存在していないことを指摘し、その仕事とスキルのギャップを解決するためにVRやロボットの活用が重要になると語った

石井英男

PC/IT系フリーライター。ノートPCやモバイル機器などのハードウェア系記事が得意。最近は3DプリンターやVR/AR、ドローンなどに関心を持ち、取材・執筆を行っている。小中学生の子どもを持つ父親として、子どもへのプログラミング教育やSTEM教育にも興味があり、CoderDojo守谷のメンターとして子どもたちにプログラミングを教えている。