こどもとIT

ものづくりゲーム「Minecraft」を学校の授業で!挑戦する教育者たち

~プログラミングや論理回路、教員研修などマインクラフトの教育実践を紹介~

小中学生に大人気のゲーム「Minecraft(マインクラフト)」は近年、ゲームとしての知名度だけでなく、プログラミングやアクティブ・ラーニングなど、教育利用としても有効であるとの見方が広がっている。2016年11月にはマイクロソフト社から教育機関向けの「Minecraft:Education Edition」がリリースされたほか、ちまたの子供向けプログラミングスクールでは、マインクラフトを使ってプログラミングを学ぶコースが人気だ。

一方で、小中学校などの学校教育の場ではどうか。海外では学校の授業でマインクラフトを活用する事例も多くあるが、日本の場合はまだまだ取り組みが少ない。これには、教育現場におけるコンピュータ整備や教師の多忙さ、価値観の違いなど、日本独自の事情が絡んでいる。加えて、そもそもマインクラフトを知らない教師も圧倒的に多い。

こうした現状ではあるが、日本にもマインクラフトが持つ教育的価値に可能性を感じ、子供たちに新たな学びを届けようと挑戦を始める教育者もいる。子供たちが大好きなマイクラフトを学校で扱うことはできないか。マインクラフトは子供の学びをどう変えるのか。今年夏から秋にかけて筆者が取材した教育関係者たちの取り組みを紹介しよう。

2017年9月2日、徳島県東みよし町で開催された「Minecraft:Education Edition」を活用したプログラミングのワークショップの模様

マインクラフトとプログラミングで学ぶ小学4年生の算数

徳島県東みよし町では2017年9月2日、地元の小学4~6年生の希望者を対象に、Minecraft:Education Editionを用いたプログラミングのワークショップが開催された。同ワークショップは、東みよし町の小学校と日本マイクロソフトが共同で取り組む、総務省の「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」(※)事業の一部だ。当日は、同町の小学校教師がワークショップの講師となり、小学4年算数の授業で実践できるマインクラフトのプログラミング学習が実施された。

(※)総務省 平成28年度第2次補正予算「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」に採択されたプロジェクト

スクリーンの画面右が 「Minecraft:Education Edition」、画面左がプログラミングを行う「MakeCode」の画面

同ワークショップでは、Minecraft:Education Editionに登場する“エージェント“というキャラクターを、座標で示された目的地まで動かすプログラミングに取り組む。マインクラフトの世界は、すべてが立方体のブロックで構成されているため、(たて8、よこ10)または(たて6、よこ5、高さ4)といった平面座標や空間座標を用いて位置を表すことが可能だ。

こうしたマインクラフトの特性は、小学4年生算数の「位置の表し方」で学ぶ内容と親和性が高いことから、同単元の学習に絡めてプログラミングを学ぶワールドが用意された。2020年度から小学校で実施されるプログラミング教育においても、教科の内容と絡めて教えることが求められているからだ。

子供たちはワークショップの最初、プリントで「位置の表し方」に関するチェック問題を解いた。その後すぐ、プログラミングに取り掛かると思いきや、一定の制限が設けられたマルチプレイのワールドに入り、自由に遊べる時間が与えられた。ブロックを壊したり、Education Editionの機能である「カメラ」ブロックを使ってみたりと、子供たちは夢中になって遊ぶ。もちろん、マインクラフトが初めての子供や、ゲーム経験はあるがPC版を触るのが初めてだという子供に対しては、この時間を利用して基本的な操作方法が説明された。学校も、学年も異なる地域の子供たちが集まっているが、マインクラフトが共通言語となって場が和み始めた。

Minecraft:Education Editionに設けられたカメラ機能。マインクラフト内で作った作品やキャラクターの姿などを撮影し、ポートフォリオに蓄積できる

その後は、エージェントを動かすプログラミングに挑戦だ。Minecraft:Education Editionでは、プログラミング環境の「CodeConnection」で言語が選択できるが、今回はビジュアルプログラミングツール「MakeCode」が用いられた。

最初はエージェントに対して、チャットコマンドに“go”と入力すれば“前に1ブロック進む“という簡単なプログラムを組み立てた。同様に“turn”、“come”、“put”、などの動きをプログラムし、エージェントを動かせるようにする。

続いて、4年生算数「位置の表し方」のワールドに入り、座標で示された場所までエージェントを移動させる。課題は全部で4つ用意され、ひとつの問題を解けば、次の課題へ進む扉が開く仕組み。エージェントを移動させるだけでなく、チェストやブロックを集めたり、グループで協力して取り組む課題もあるなど、マインクラフトの世界観が活かされているのが面白い。

ワークショップの講師を務めた東みよし町立足代小学校の土井国春教諭
プログラミングが得意な中学生もメンターとして参加。「答えを言わないように気をつけながら教えた」とファシリテーターとしての心構えも見事

同ワークショップに参加した子供たちに話を聞くと、「達成感があった」「エージェントが思い通りに動いたとき、楽しかった」「みんなで一緒にクリアすることが楽しい」など好意的な感想が聞かれた。ほかにも「学校の授業でマインクラフトを使うときは、自分が教える役になりたい」といった頼もしい感想もあった。

ワークショップの講師を務めた足代小学校の土井国春教諭は、マインクラフトのプログラミングについて、「子供たちの方がマインクラフトをよく知っているので、後半は子供たちに任せるようにした」と語った。質問のある子供だけメンターに助けてもらいながら、それ以外の子供は子供同士で解決することに重きを置いた。一方で、“よくわからないけど、なんとなくできた”という形で終わらないように、前半は目的意識を持たせることに注意したという。“このブロックを使えば前に進む”と操作を教えるのではなく、“前に進むためにはどうすればいいか”、“少ないブロックで進むためにはどうすればいいか”など、自分ならどうするかという視点で考えられるように語りかけたというのだ。

マインクラフトはそもそもゲームの中でも自分で考え、判断して進める場面が多い。ワークショップの最中も子供たちの中には、“エージェントはいろんなことができそう”という発想で、どんどん画面をクリックしながら試行錯誤をくり返す姿があった。こうしたモチベーションで取り組めること自体が、マインクラフトの魅力であり、子供たちの主体性を引き出すトリガーにもなり得るだろう。

教育関係者向けマインクラフト研修会を開催

子供たちに大人気のマインクラフトであるが、教師や教育関係者の多くは実際に触ったことがない者がほとんどだ。そこで、社会人向けオンライン学習サービスを提供するシェアウィズ社は、教育関係者らを対象にしたマインクラフト研修会「マイクラナイトfor Teachers」を都内の私立学校で2日間(9/29~9/30)にわたり開催した。

ほかにも、神戸のキッズプログラミングスクール8X9(ハック)を主宰する寺園聖文氏、プログラミングスクールTENTOの代表 竹林暁氏、佐野日本大学中等教育学校・高等学校 ICT教育推進室の安藤昇室長、そしてマイクラ好きな筆者もイベント協力者として携わった。

教育関係者らを対象にしたマインクラフト研修会「マイクラナイトfor Teachers」の1日目の様子。場所は大妻女子中学高等学校

「マイクラナイトfor Teachers」の初日は、大妻女子中学高等学校(東京都千代田区)で開催された。日本マイクロソフトでMinecraft:Education Editionを担当する原田英典氏(パブリックセクター統括本部 文教本部ティーチャーエンゲージメントマネージャー)をゲスト登壇者に招き、マインクラフトで学ぶプログラミングの概要が紹介された。

その後、参加者らはMakeCodeを試していたが、ここで思わぬハプニングが発生。放課後の時間帯になった女子生徒たちが、本イベントの開催を教師から聞きつけ、コンピュータ室に続々とやってきた。聞けば、“プログラミングが面白そうだと思った”、“マインクラフトをやってみたかった”といった動機でワークショップに足を運んだというのだ。

寺園氏が開発したマインクラフトのMods「8x9Craft(ハッククラフト)」

MakeCodeによるプログラミングを体験した後は、寺園氏が開発したマインクラフトのMods「8x9Craft(ハッククラフト)」にも挑戦した。ハッククラフトは、JavaScriptを使うプログラミングでタイピングスキルも必要だが、マルチプレイでチーム対戦ができるフィールドが用意されている。女子生徒たちはチームに分かれて、制限時間内にどれだけ多く決められた図形を作ることができるか勝負し、途中は歓声が湧き上がるほど盛り上がった。

マルチプレイに挑戦!

2日目の「マイクラナイトfor Teachers」は、聖学院中学校・高等学校(東京都北区)で開催された。この日のメインはプログラミングではなく、マインクラフトのマルチプレイの面白さを体験すること。参加者たちは、Minecraft:Education Editionの中にある「Starter Town」というデフォルトのワールドを使い、与えられたお題をブロックで表現するというゲームに取り組んだ。

Minecraft:Education Editionの中にある「Starter Town」というデフォルトのワールド。それぞれに割り振られた番号の場所で作品をつくる
2日目の「マイクラナイトfor Teachers」、聖学院中学校・高等学校で開催された様子

ルールは簡単。“目玉焼き”や“ブランコ”などランダムに選ばれたお題に対して、制限時間10分以内で作品をつくる。参加者らは“焦げた目玉焼き”や“男がつくる目玉焼き”という具合に、それぞれがイメージする目玉焼きをブロックで表現した。同様の活動を自身のワークショップで実践する寺園氏は、マインクラフトが初めての人も、上級者も、表現手段としてどのようにブロックを使うか、それぞれの個性を感じる作品ができて面白いという。この日のワークショップでも、ユニークな作品が続出し会場が沸いた。

iPadのマインクラフトPEを活用した論理回路の授業

小金井市立前原小学校では2017年10月18日、4年生の総合的な学習の時間でiPadアプリのマインクラフトPE(Pocket Edition)を活用し、論理回路を学ぶ授業が実施された。同校では、プログラミング教育の可能性を広げる取り組みとして、マインクラフトの教育的利用を本年度の校内研究に位置づけており、本授業は研究授業の一環として実施された。

小金井市立前原小学校ではiPadアプリのマインクラフトPE(Pocket Edition)を活用し、論理回路を学ぶ授業を実施

レッドストーンとは、マインクラフトの中に出てくるアイテムで、電気回路のような装置を作ることができるものだ。通常、子供たちがレッドストーンを使うときは、“レバーをONにすればドアが開く”、“ボタンを押すとランプが点灯する”といったON-OFF制御の仕掛けや装置を作ることが多いが、レッドストーンはAND回路やOR回路、NOT回路といったさまざまな論理回路を再現することが可能だ。これを活用することで、コンピュータの基本原理である0と1の世界に触れることが、今回の授業のねらいとなる。

研究授業では、前時に学んだNOT回路について振り返ったあと、「レバー2つ、ランプ1つでいろいろな回路をつくろう」をテーマに作品づくりに取り組んだ。そこからOR回路とAND回路を取り上げて真理値表と照らし合わせ、それぞれの回路の性質を学んだ。同校の松田孝校長は「レッドストーンを活用することで、コンピュータの仕組みを学ぶ第一歩になるのではないかと考えている」と語る。ブラックボックス化した機械に囲まれた子供たちだからこそ、コンピュータの概念や仕組みを学んでほしい、松田孝校長の想いが感じられる取り組みだった。

レッドストーンで作った回路を真理値表で照らし合わせて確認する
前原小学校で実施されたマインクラフトの校内研修

マインクラフトを教育で活用する最大のメリットは、子供たちの思い入れが最初から高いことだ。学ぶために用意されたツールではなく、そもそも遊びが出発点のマインクラフトは、子供たち自身が自分でなんとかしたいという主体的な気持ちを持ちやすい。このモチベーションを学習に活かすことに価値があると考えを持ち、マインクラフトを授業に取り入れる教育者が海外には多い。果たして、日本はどうか。“マインクラフトはゲーム”という画一的な見方で終わることなく、子供たちの“思い入れ”を学びに取り入れる発想が広がってほしい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。