こどもとIT

身近な女性の存在がロールモデルに。女子中高生がITで社会に貢献する未来をめざして

——「Technovation2020」成果報告会&「Waffle Camp」ローンチイベントレポート

男女の違いにより生じる格差を表す「ジェンダーギャップ」という言葉。昨今はIT業界でも耳にする機会が増えてきた。IT業界もエンジニアやプログラマーは圧倒的に男性が多く、女性は少ないというジェンダーギャップが問題視されているからだ。

どうすればIT業界で活躍できる女性が増えるのか。同分野におけるジェンダーギャップの課題解決に取り組む一般社団法人Waffleが2020年7月12日にオンラインイベントを開催した。

教育IT関係の説明会やイベントもリモートにシフトした開催がすっかり当たり前になってきたこの頃。Waffle開催の同イベントも日曜日の19時からスタート。なかなかリアルでは出かけにくい時間帯だったが、リモートのおかげで遠出をすることもなく参加できた。リモート万歳である。リモートゆえ、会場の熱気を感じることはむずかしいのだが、関心をもつ多くの方が参加していたようだ。

今回のイベントは完全オンラインで実施された(写真はWaffle公式サイトの「Waffle Camp」紹介ページより引用)

Waffleが取り組むジェンダーギャップとは

Waffle代表理事 田中沙弥果氏

まず代表理事を務める田中沙弥果氏より、一般社団法人Waffleとそのミッションについて紹介が行われた。田中氏は、プログラミング教育の推進に取り組むNPO法人「みんなのコード」を経て、3年前の2017年よりWaffleの活動を開始し、2019年に法人化した。みんなのコードは、「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」をミッションに掲げており、田中氏は在籍中に、プログラミングの出前授業などを経験。小学生の頃にはプログラミングに対する関心に男女差はないが、中学生以降のイベントでは女子の参加比率が下がることを実感したという。これが、現在のWaffleの活動につながっていく。

現在のテクノロジー業界に目をむけると、GAFAに代表されるグルーバルなIT企業ですら、女性技術者の割合は20%前後。日本における工学部に進む女性の割合は15%にとどまるという。これが、テクノロジー業界の「ジェンダーギャップ」の現実なのだ。田中氏が実感したという中学生以降の実態については、具体的な調査結果がまとまっている。

グローバルIT企業における女性技術者の割合。緑のグラフが、その数を示したもの

その中でも筆者が特に注目したのは、PISAによる調査結果だ。特に日本の女子中高生たちが理系に関する関心がOECD各国に比べて極端に低いという数字である。

PISAによるOECD各国の調査(2018年)。IT分野に進みたいと話す15歳の女性比率の割合は日本が3.4%。OECD加盟国の中でワースト1位

なぜ中高生になった途端に、女子のITやそれにつながるSTEAM分野への関心が急に下がってしまうのか。女子に文系進学を勧める親や家庭の存在、ロールモデルが少ない社会、STEAM分野の女性教師が少ない学校など、さまざまな要因について語られた。対応策としては、身近なロールモデルになる女性教員の存在が重要であるようだ。ほかにも、課題解決をSTEAMアプローチで学べることがわかるような授業名に変更したり、プログラミング経験よりもリーダーシップを重視する募集要項にするなど、カリキュラム自体を変更せずとも女子が参加しやすい環境を整えることで状況が変化した海外の大学の取り組みが紹介された。

理数系女性教員の影響と カーネギーメロン大学およびハーベイマッド大学の事例、カリキュラムの変更ではなく、参加しやすい仕組みを整えることで進学状況が変化した

このような背景のなか、Waffleが進めるさまざまな活動の中から、当イベントでは主に次の2つを取り上げて進められた。1つは、Waffleが日本のパートナーを務める「Technovation Girls」について。もう1つは、新しいサービス「Waffle Camp」の紹介である。それでは、順を追って内容を紹介していこう。

現役女子中高生たちの参加報告

この「Tecnovation Girls」について、先に概略を説明しておこう。実は筆者も今回改めて調べる機会を得たのだが、女子中高生(中学生部門と高校生部門の2つがある)を対象とした世界的なコンペティションである。米国に拠点を持つSTEM教育系非営利活動団体「Technovation(テクノベーション) 」が、2010年から主催、今年2020年でちょうど10回目の開催となる。

今年開催された「Tecnovation Girls 2020」には、全世界62カ国から5400名が参加し、コロナによる厳しい状況の中で、1500以上のモバイルアプリが誕生したという。

Waffleは、日本のパートナーとして今年は2チームを支援した。その2チームが今回の報告会に登壇し、自分たちの取り組んだ内容と参加に当たっての体験を語ってくれた。参加チームは、それぞれが社会的な課題を自ら発見し、それを解決する方法をデザインし、実際に動くアプリを完成させ、プレゼンテーション(ピッチ)も行うという内容だ。今年は、チームの活動も自粛期間中はオンラインで進めるしかなく、リアルに顔をあわせての相談ができないことのストレスなどもあったようだ。しかし両チームとも、日本オラクルとTechAcademyから参加したメンターの協力もあって見事に走りきったようだ。

最初に発表したのは、チーム「Ablaze(アブレイズ)」。Waffleのイベントで出会った2人がチームを組み初参加となった。取り組んだ課題は、災害発生時の避難者を支援するアプリ。続く、チーム「//ArcH(アーチ)」は、昨年に続いて2回目の参加で2年連続のセミファイナル進出を果たした。取り組んだ課題は、なんと地域で活動する「子ども食堂」の支援につながる寄付アプリだという。

それぞれのチームとも単にアプリを開発するだけでなく、デザイン思考のワークショップを実施した上で、リサーチからはじめて法人を作って継続的な活動にするところまでのしっかりしたビジネスプランを作っていることに正直驚いた。

Ablaze(アブレイズ)の発表、アプリConnecticの概要とマネタイズの仕組みについて
//ArcH(アーチ)のアプリShearuについて、企業と連携して簡単に寄付ができる仕組み

女子中高生たちのいかにも愉しげな登壇は、堂々たる進行で(本人たちはさぞや緊張していたのではないかと思うが)、昨今のリモートセミナーや登壇の中でも、ピカイチの内容だったと思う。未成年者ということもあるので、登壇中の様子など、今回は残念ながら差し控えさせていただき、スライドの一部を抜粋して紹介しておく。よりご興味がある方は、公開されている//Archチームのピッチビデオをご覧頂くとよいだろう。

また、「Tecnovation」には、Girlsの他にもうひとつ「Family」にフォーカスした活動もあるそうで、この8月には、オンラインイベント「Tecnovation Summit」も開催されるとか。興味がある方は公式サイトを覗いてみて欲しい。

身近なWebサイトの制作に取り組む新サービス「Waffle Camp」

Waffle co-founder 斎藤明日美氏

女子中高生たちからのあふれる熱気もおさまらぬまま、新サービス「Waffle Camp (ワッフルキャンプ)」について、Waffleの斎藤明日美氏より説明が行われた。Waffle Campとは、簡単に言えば「女子中高生」に限定したオンラインのコーディングキャンプである。

Waffleのミッションからして、参加を女子中高生に限定するのはいたって当然な流れ。女子限定の環境にすることで、心理的安全性が特に中高生にとって大切なのではないかと強く感じた。また、オンラインにすることで、身近にこのような機会が少なかった地域の生徒たちも参加できることは大きいだろう。もしかしたら、これをきっかけにした新しい交流が生まれていくかもしれない。

では、「コーディング」は何を対象にしているのか。昨今のプログラミング教材の広がりは、小学校での必修化もあり、実に百花繚乱とも言える状況だ。そんな中でWaffle Campが選んだのは、「Webサイト制作」のコーディングだという。

女子中高生たちにとっても、Webサイトは、なじみのある対象のようだ。身近な例では、「自粛期間中にお母さんが教室をはじめたので、そのためのWebサイトを作ってあげたい」や「学校の行事を紹介するWebサイトをつくりたい」といった、まさに身近な課題としてとらえやすいようだ。

一方で、Webサイトの制作には、定番のWordPressや、より簡単に使えるペライチのようなサービスを利用する場合も増えてきている。その中で、あえてゼロからコーディングする体験には、どのような狙いがあるのだろうか。

中高生たちが、シンプルなWebサイトの制作を通して、仕組みの基本から経験しておくことに非常に意味があると思う。実習では、GitHubの環境を利用するそうで、今後新しい環境や高度な内容に取り組むときに、役に立つはずだ。また書いたコードから、Webサイトが見えていく「つくる」体験をすることも重要だ。デジタルな創作の楽しさを知ることにつながっていくからだ。実際、ローンチ前に行われた「体験版」に参加した中高生からも「実際にコードを書き、ホームページに反映されるのが楽しかった」という声が聞かれたそうだ。

Campの実施スケジュールも、ユニークだ。大きく分けると、事前学習の期間、半日のリモート実習、実習後のアフターフォローの期間の3つに分けられる。

斎藤氏により紹介されたWaffle Campの特徴とスケジュール感

アフターフォローは、学習を深掘りするためにもとても大切な時間だ。2週間の期間中、現役の女性エンジニアたちがメンターとして、チャットベースのサポートをしてくれる。中高生たちが、実際に取り組んでいく中で、気がつくことや新たにやってみたいことなどはどんどん膨らんでいくだろう。メンターに相談しながら、追加していくことで、さらに新たな気づきが生まれるという、良好なスパイラルが期待できそうだ。

さらに、Waffle Campの目玉となるのが、オンライン実習の中に用意された「キャリアセッション」だという。今まさにテクノロジー業界で活躍している女性陣と直接話をする機会が用意され、異なる視点からリアルな話が聞けるのはよい体験になるはずだ。Waffle Campは、日本全国どこからでもオンラインで参加できる。女子中高生をお持ちの保護者の皆さんにもぜひ関心を寄せていただければと思う。

キャリアセッションで予定されている豪華がゲストたち。広く活躍されている方ばかり

テクノロジーは、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉に表されるように、今後あらゆる分野・業界で必要とされてくる。その作り手が男性中心でよいのかという田中氏の問いかけは、説得力があった。確かに、社会の半分を占めている女性がもっと作り手となっていくことで、社会のあり方もよい方向に変わっていくのではないだろうか。米国では、「Girls Who Code」「Black Girls Code」といった女子だけのSTEM/プログラミングクラブが既に多数活動していると聞く。Waffleのような団体がひとつの苗床となって、女子中高生たちの主体的な活動が日本中に広がることに期待したい。

なお、本稿執筆時点で、8月の日程は、16日が満席、23日が数枠あるとのこと。秋以降も計画されているとのことなので、WaffleのWebサイト、SNSなど是非チェックしてほしい。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。