内線にスマホ500台、アクセスポイント250台を導入

病院の働き方改革に活躍するスマートフォン、その最重要スペックとは?

2018/03/12 | 清水理史

スマートフォンは、今や普段の生活やビジネスシーンだけでなく、社会的な基盤を支える存在となっている。中でも、活用例が増えてきたのが医療現場だ。一般的なビジネスシーンと比べても、さらに高い通信品質が求められるうえ、過酷な使い方が想定される病院で、富士通のビジネス向けスマートフォン「ARROWS」シリーズがどう活用されているのかを沖縄県の中頭(なかがみ)病院の事例で紹介する。

なぜ業務にスマートフォンなのか?

スマートフォンをビジネスに活用する——。

このように聞くと、会社のメールや予定を管理するという使い方を思い浮かべる人が多いかもしれない。

しかし現実は、もっと広く、そして現場に密着したシーンでスマートフォンの業務利用が進んでいる。Wi-FiとVoIP1による内線システム、倉庫での在庫管理や工場での作業記録、生産管理、店舗での顧客情報管理や決済など、ビジネスの現場での日々の業務をサポートするツールとしてのスマートフォン活用事例は想像以上に多い。

このように広いシーンでスマートフォンが業務に活用される理由は、携帯性の高さなどいくつかあるが、ポイントとなるのは高い汎用性だろう。アプリの作り込みによってどのような用途にも対応できるうえ、Wi-Fiを使った汎用的な通信環境にも対応でき、既存のIPシステムとの連携もしやすい。

従来のような業務ごとに特化した高価な専用端末に依存する必要がなくなるため、コストを下げつつ、1台の端末をいくつもの用途に同時に活用することができる。実際に現場で使う利用者にとっても、何台もの機器の操作方法を覚える必要がなくなるうえ、手元からさまざまな業務が可能になることで、日々の業務を効率化することができる。いわゆる「働き方改革」にも一役買うわけだ。

スマートフォンというと、月々の通信料金などのコストを心配する人もいるかもしれないが、ビジネスシーンでの利用に際しては、必ずしもSIMを装着しなければならないわけではなく、Wi-Fi接続のみで運用されるケースも多い。Wi-Fiのみで内線電話や業務端末として利用できれば、月々の通信コストは心配する必要はない。

しかしながら、このように業務用スマートフォンの通信環境にWi-Fiを利用する場合、通信の品質には大いに注意が必要になる。広い建物や壁などの遮蔽物が多い環境では、利用者が組織の建物内のどこにいても、問題なく、通話できたり、業務アプリを使った作業ができるようにするために、Wi-Fiのアクセスポイントを適切に設置したり、端末が移動しながらでも通信が途切れないるようにするためにハンドオーバーの調整が不可欠となる。

ハンドオーバー性能に優れる富士通の法人向けスマートフォン「ARROWS」の導入事例から、実際のビジネスシーンでスマートフォンを活用するためのヒントを探っていくことにしよう。

なぜ富士通の「法人ARROWS」はビジネスシーンに適しているのか?

内線とナースコール端末として法人ARROWSを500台導入

沖縄県にある中頭病院は、地域の医療連携の中核を担う中核拠点病院だ。最新の医療機器の導入などの取り組みで知られているが、2016年の新築移転に伴って、スマートフォンを使った内線・ナースコールシステムを新たに導入した。

中頭病院

病院の内線システムとしてはPHSが知られているが、いずれなくなるPHSをリプレースするだけでなく、ナースコールなど、スマートフォンを現場の業務に積極的に活用することで働き方改革を実施することは、多くの病院に求められていることだ。このような課題に積極的に取り組んだ事例と言える。

同病院は、医師・看護師・事務メンバー含め約1000名とかなり大規模な環境となるうえ、移動しながらの利用に対応しなければならない。内線システムだけでも導入に際して通信環境への配慮が必要となるが、今回のケースでは、さらにナースコールも導入するため、人命に関わるミッションクリティカルな対応が迫られる。

また、病院内にはすでに医療機器やPCなど、2.4GHz帯の電波を利用する機器が多数存在しており、これらの電波との干渉を避けつつ、業務用のスマートフォンを導入する必要があった。

このような要件の中、同病院が最終的に選択したのが富士通の法人向けスマートフォン「ARROWS M305」だった。病院内で利用するためSIMは導入せずにWi-Fi環境にだけ対応させ、前述した2.4GHz帯の医療機器やPCとの干渉については、ARROWSのWi-Fiで5GHz帯を利用することで避けることにした。

しかしながら、5GHz帯は電波の特性上、直進性が高く、障害物に弱いという欠点がある。このため同病院では、1フロアだけでも50台前後、合計250台以上と、多くのアクセスポイントを設置することで、Wi-Fiがカバーするエリアを隅々にまで広げることとなった。

中頭病院のシステム構成

これにより、内線やナースコールシステムが院内の隅々で利用できる環境が整うが、アクセスポイントの数が多くなると、移動しながら利用したときの「ハンドオーバー(あるアクセスポイントから別のアクセスポイントに切り替えること。手渡すの意)」の回数が増えることになる。

たとえば、ナースステーションから受付などへと移動する際に、ナースステーション近くをカバーするアクセスポイントから、途中の病室近くのアクセスポイントへと接続先が切り替わり、階段を降りて別のフロアのアクセスポイントへとつなぎかわるといったように、次々に接続先のアクセスポイントが変更されることになる

ハンドオーバーがうまくいかないと、通信速度が遅くなったり、通信断が発生してしまう

こうしたハンドオーバーは、普段、私たちが利用するWebページの閲覧のような使い方であればほとんど気にならないが、前述したような内線やナースコールといった「切れたら困る」環境で利用するとなると、話は別だ。スムーズにハンドオーバーがなされない場合、通信が途中で切れてしまうため、通話が途中で聞き取りにくくなって肝心の処置の内容を聴き逃したり、下手をするとナースコールが発生してもそれを検知することができないかもしれず、それは命に関わることになってしまう。

このような場合、通常はアクセスポイント側の設定でスムーズにハンドオーバーできるように調整することになるが、中頭病院のケースのようにアクセスポイントの数が多く、切断が絶対に許されないシビアな環境では、それだけでは対応しきれない。同病院が富士通の法人向け端末ARROWSを最終的に選んだ理由は、ここにある。ARROWSの場合、どのような条件になったら接続先のアクセスポイントをつなぎ換えるかという細かなパラメーターを端末側で調整することができる。このため、アクセスポイント側と端末側の両方で調整を繰り返すことで、通常では通信断が避けられないようなケースでも、通信を維持することが可能となるわけだ。病院で新しい医療機器やアクセスポイントを導入した際にWi-Fiの再調整が必要になるときがあるが、アクセスポイントだけでなく、ARROWS側のパラメーターを再調整できるため、環境の変化にも対応しやすい。

端末側のパラメーターを調整することでハンドオーバーを適切に行える。ちなみにパラメーターを調整できる端末は、法人ARROWS以外にはほとんど市場にないという

中頭病院の例に限らず、Wi-Fiの電波環境というのは、建物の構造やアクセスポイントの設置場所、導入後の環境変化などによって、現場現場、その時その時で対応する必要がある。そう考えると、端末側で、しかも詳細にハンドオーバーのチューニングができるARROWSは、あらゆるビジネスシーンに適したスマートフォンと言えそうだ。

ARROWS導入で中頭病院はどう変わったか?

このように中頭病院では、それまで別々だった内線端末とナースコール端末が一本化されたことで看護師の負担が減っただけでなく、ナースコール専用端末からスマートフォンになったことで、画面が大きくなり、患者情報も画面上で確認できるなどのメリットも発生した。

また、病院用の端末ということで、エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどで定期的に消毒する必要があるが、同病院が導入したARROWS M305(最新のARROWS M357も同様)は耐薬品となるため、こうした消毒をしても心配はない。細かな点だが、ストラップホールがあるためにネックストラップで運用できたり、耐衝撃性も高いため万が一の落下でも壊れにくいというメリットもあった。過酷な現場での利用にも耐える品質の高さも大きなポイントだ。

病院で使うにあたっては耐薬品性能は重要

このほか、スマートフォンならではの応用として、患者の点滴交換の時間などを把握するためにタイマーやストップウォッチ機能を活用する例もあるという。

このように現場で実際に端末を使う人が、そのメリットを直に感じ、さらに現場で活用していきたいという強い意向があるというのは、とてもいい傾向だ。実際、カメラの活用などが現場レベルで行われているそうで、業務効率化のいいサイクルが回り始めていると言える。

病院での内線・ナースコールの導入を検討している場合は、ぜひARROWSの導入を検討してみるといいだろう。ハンドオーバー性能の高さによる通信性能の高さだけでなく、汎用的なスマートフォンによる現場レベルでの活用の幅が広がることで、きっと働き方改革につながるはずだ。

ARROWSで「現場を変える」

以上、中頭病院の事例を紹介したが、事例に見られるとおり、スマホの業務活用においてはWi-Fiのハンドオーバー性能が非常に重要であり、それが現場の「使いやすさ」に直結する

内線の音声が聞き取りにくいだけでも現場に大きな混乱を与えかねないが、業務に必須となるアプリのセッション断や再起動など、その動作に影響を与える可能性があり、それが現場の負担にもなりかねない。

実際に技術や機器を使う「現場」というのは、その導入効果を図るとても正確な鏡と言える。現場にとって使いやすいソリューションをきちんと提供できれば働き方改革につながるいいサイクルが生まれるが、そうでなければ無駄な投資となってしまう。今回の中頭病院の事例は、ARROWSが現場をいい方向に変えられるという実例と言えるだろう。

同様に医療現場へのスマートフォンの導入を検討している場合の有力な選択肢として検討してみるといいだろう。

法人ARROWS導入事例: 社会医療法人 敬愛会 中頭(なかがみ)病院様
http://www.fmworld.net/biz/arrows/example/example08.html

  1. VoIP・・・IPネットワーク上での音声通話技術の総称。Voice Over IPの略。 [return]