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【99/10/22】
イケてない話 ~我いかにしてiBook争奪ゲームに敗れしか~


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イケてない話
~我いかにしてiBook争奪ゲームに敗れしか~

■iBookのメモリ増設に失敗! その原因とは?

 きっかけは、7月下旬。いつもどおりの原稿依頼だった。編集担当者は気軽に、
 「矢作さん、矢作さん、iBookが発売されたらすぐに、iMacのときのようにメモリを載せる記事をお願いしますね」。「あいよっ! きっと発売日は週末だから、週明けの掲載でいいよね」、わりと簡単に決まった記憶がある。

 ご存じのように、アップルコンピュータ社のiBookは、10月16日に日本での発売が開始された。その発売日の様子などは、PC Watchの記事「新iMac、秋葉原販売開始レポート」でも紹介されている。そうなれば、ワタシは担当者との約束を果たさねばならない。

 早速、メモリを乗っけてみよう‥‥。

 さすがに、これで原稿料をいただけるほど世の中は甘くない。穴の空いた誌面には穴埋め記事が必要になる。そこで、上記のような悲しい写真の掲載に至るまでの過程を紹介して、なんとか責任を果たすことにする。


■ リスクヘッジ、必ずしも有効ならず

 端的に言えば、ワタシはiBookを買い損ねたのだ。仕事で必要なものを手に入れられないのだから、ハッキリ言ってプロ失格である。もちろん自称プロとして、予約は自称“万全”のつもりだった。手元にも記録が残っている。Apple Storeから届いたメールにこう書いてある、『ご注文受付日時: 1999年09月15日 01:48 PM』。確かに、iBookの予約受付が開始された初日に、Apple Storeにオーダーをしていたのである。

 甘い。そういう指摘があちこちから聞こえてくるようだ。そう、予約は深夜の0時がスタートラインなのだ。やはりプロ失格なのか。それでも、自称プロとしての自称“深い”考えはあった。実はiBookに関する仕事は他にもあって、スタッフ全体で数台のiBookを入手する必要に迫られていた。そこで予約の開始日である9月15日の午前中、かたっぱしから開店したばかりのショップへ確認の電話を入れていたのである。例えば、予約時の内金の有無や、店独自のポイントシステムの有無、入荷時の連絡の有無、キャンセルに関する取り決めなどをひととおり確認した。そのうえで、一緒に仕事をするスタッフと調整を行ない、リスクヘッジのためにそれぞれが別の店舗へ来店するなりオンラインなりで予約を入れたのである。この時間がだいたい午後1時過ぎというわけだ。

 結果、我々は発売日には必要な台数どころか、一台も入手できないという末路に至る。


■ しかしあきらめず状況把握、そして静観

 発売日に入手できなかったとなれば、やはり納期が気になる。そこで自分の名前で予約を入れたApple Storeに確認の電話をいれてみた。繋がらない。この辺は予想どおりなので根気よくリダイヤル。10数回目で繋がり、今度はオートメッセージが流れた。続けて荘厳なクラシックが10分40秒ほど電話口から聞こえたあと、ようやく担当者が電話口に出てくれた。

 予約番号と名前を告げて、出荷状況の確認をお願いする。びっくりしたのは最初の回答が「お客様のご注文は、まだクレジットカード会社からの承認がおりておりません」という内容であったこと。承認がおりないということは、もしかしてワタシの信用情報にキズでもあるんだろうかと、一瞬青ざめた。取材等で海外に行くときはもちろん、オンラインショッピングなどでもクレジットカードは必需品。そんな問題が発生したら、仕事面でかなりの制約を受けることになる。そこで、どうして承認がおりないかを問いただした。

 ご存じのように、クレジット販売では信用情報や利用残額の確認をCATと呼ばれるオンラインシステムで行なうことができる。何らかの理由でそれが無理でも、電話による確認は可能だからだ。承認はとろうと思えば、わずか数分でとれる。ここで問題があるようなら、ワタシはカード会社へその理由を確認しなければならない。しかし、どうやらそういう意味ではなかったらしい。

 Apple Storeでは、カード会社の承認がおりた時点で注文受付の正式完了とみなすのだという。このカード会社への承認依頼は、申し込み順に行なわれるのでワタシの分は、その承認依頼がまだ行なわれていないということだった。Apple Storeにとっては、ここが正式な手続きの始まりだから『承認がおりた』という位置は、もっとも分かりやすい区分なのだろうが、聞く方にとってはかなり心臓に悪い。

 ちなみに、Apple Storeの「販売方針」に明記されているところによると、『~ カード会社へのカード代金請求は、ご注文の品物が発送された時点で行われます。~ 』(必要な部分だけを引用)となっているので、支払いが可能かどうかの確認と、実際の代金請求は、また異なる手続きになっていると想像される。

 つまりワタシの注文は、まだ名前とカード番号を書いて、シリアルナンバーを入れられて机に積んである順番待ちのひとつということだ。そして、担当者の回答からもうひとつ分かったことは、オーダー時に表示される出荷時期(ワタシは「30日」だった)は、正式注文が完了したとき(つまり、カード会社からの承認がおりたとき)からの日数ということである。ワタシを例にあげれば、『承認依頼手続きの順番が自分のところにくるまで + 30日以内』が納期となる。こうなると気になるのは、承認依頼の順番が自分のところにくるのが、いつかということだが、これに関しては分からないという回答だった。承認依頼をいつ行なうかはApple Storeの胸先三寸。結局、納期は不明のままとなっている。

 ちなみに、他のスタッフが予約を入れた販売店の回答も「未定」、「分かりません」、「出荷待ちです」という内容ばかりだった。ここで完全に手詰まりとなったわけである。

 そんなわけで、担当者から依頼された本来の原稿の納期も未定のままである。旬をのがせばそのままボツ企画だ。もちろん、iBookが発売開始されてから、まだ一週間しか経っていない。この時点で製品の流通状況や、需要と供給のバランスなどを論じるのは時期尚早である。現時点でワタシを含めた相当数の消費者が納品を待っているのは事実だが、今週末にはそれが一気に解消するのかも知れないし、最悪、5月から発売を開始しているPowerBook G3のように、泥沼のような状況に突入する可能性もある。こればかりは、しばらく静観するしかないだろう。

 付け加えると、19日にはワタシの居住地域に存在するふたつのiMac販売店のうち一軒で、iMac DV Special Editionの予約を行なおうとした。こちらは予約が遅かったことを自覚していることもあり、まず発売日初日の入荷を確認したところ、『絶対』を4倍角ぐらいに強調されて「絶対、23日にはお渡しできません」と言われてしまった。それほど食い下がるつもりもなかったが、「じゃぁ、いつ頃になりそうですか?」と続けたら、「こっちが聞きたいぐらいです!」と声を荒げられてしまった。まぁ、夕方だったこともあるし、朝から多数の来客に同じ質問ばかりされてイヤになっていたのかも知れないが、『いつ入荷するかも分からない商品を、全額前金で(この店は全額前金での予約が条件)支払っていく客』が、販売員にスゴまれてしまうのは何とも間抜けな話である。さすがに悪いと思ったのか、その後、ワタシの前にはすでに40~50人の予約があることを教えてくれたので、そのまま予約して来たが、レジに案内されてそばを離れるときには、せめて「ありがとうございます」ぐらいは言って欲しかったなぁ。


■ イケてないことが続いたアップル

 ネガティブな記事は、書いているほうも読んでいるほうも気分が良くないし、また後味も悪い。だから何回にもわたって書くのではなく、これっきりにして、この際まとめて書いておこうと思う。ハッキリいって、日本で新iMacの発表会を行なってから、ここ2週間ばかりのアップルコンピュータは、いろいろなところでイケていなかった。

 最初は、従来型のiMacの価格改定とスマートローンの終了について。日本における新iMacの発表会で、代表取締役である原田社長は、既存のiMacの値下げは考えていないという主旨の発言をしたという。ワタシは、米国で開催された発表会の帰路で、たぶんアリューシャン列島沖あたりを飛行機に揺られていたため、この耳で聞くことはできなかったが、実際に取材に行ったPC Watchのスタッフや友人のライターから聞いた。しかし、その翌日には事業推進本部の福田尚久本部長が、某メディアのインタビューに答える形で、16日以降の従来型iMacの価格変更と、当初は10月31日まで予定されていたスマートローンの15日での打ち切りを明らかにしている。

 営利企業である以上、販売方針の変更はいついかなるときに発生してもいたしかたないし、また企業秘密もあるのだろうが、百人を超える報道関係者を前に社長が発言した内容を、わずか一日後には本部長がインタビューのなかでひるがえすというのは、企業の信頼性を損ねこそすれ、前向きに評価されるものでは決してないと思う。

 iMac DV Special Editionと、iMacの発売日変更にしてもそうだ。7日の発表会の席で、原田社長は3ラインナップ同時の発売開始を明言している。もちろん、その時には発売の遅れなどは同社としても予期せぬことであっただろうし、発売延期の公式発表が15日の夜まで遅れてしまったのは、アップル社員が本当にギリギリまで、発表した発売日を守るべく努力をしていたのだとは想像できる。

 しかし結果として、いくつかのペーパーメディア(パソコン関連雑誌は15日発売のものが相当数ある。Mac関連誌も多い)で、ひとつならず誤った情報が報道されてしまったことは、アップルコンピュータ、報道したメディア、またそれを目にする消費者の、三者誰もが得をすることはないのである。

PowerMac G4

 もうひとつ、イケていなかったのは、PowerMac G4のコンフィギュレーション変更に関する問題である。この詳細については、まず、PC Watchの記事「アップル、Power Mac G4仕様変更、PowerPC G4 500MHz量産の遅れが影響(10/14)」および「アップル『Power Mac G4』、予約者には変更前の価格で販売すると発表(10/19)」と、アップルコンピュータ社の公式リリース「アップル、マイクロプロセッサの供給にあわせ、Power Mac G4の仕様を変更」および「アップル、Power Mac G4の予約注文を尊重」を参照して欲しい。

 例えるならこうである。とある餃子が美味しいと有名なお店に入ったとしよう。そこで、人気の餃子定食を頼むわけだが、本来なら5個載っているはずの餃子が、4個しか載っていない。そこで店主が、こう言うわけだ「仕込みが足りなかったんで、餃子が閉店まで持ちそうにないんです。ウチのウリは餃子なんで、今日は4個です」。果たして、これで納得できる客がどれだけいると言うのだろう? 5分ほど前に入ったとおぼしき隣のオヤジは、今まさに5個目の餃子を口に運ぼうとしているのである。しかし、当初のアップルの言い分は、まさにこうだったわけだ。

 味だけでなく、店自体も名店であるなら店主はこう続けるべきだったろう。「その代わり、今日のお勘定は50円引きですから」。あるいは「代わりに、ザーサイのおつまみをつけときますね」。しかし、そういう発言はいっさいなかった。確かにアップルのリリースにもあるように、50MHzのクロックダウンでも、実際にはそれほど体感速度や作業に影響を与えはしない。餃子だって5個が4個になったからといって、腹が減りすぎて困るわけでもない。しかし、それでお客が納得できるかどうかは、ちょっとでも考えてみれば分かりそうなものだ。かりに米国サイドの決定がそうだったとしても、その内容に疑問を持つ日本法人のエグゼクティブはいなかったのだろうか。

 こうして、米国を中心にアップルは消費者と販売店の批判を浴びることになる。

 結局、遅ればせながらアップルは、コンフィギュレーション変更の発表前に何らかの形で予約を行なったユーザーに関しては、当初の仕様で販売を行なうことを明らかにし、日本法人もそれに準じた。言いかえれば、こうなる。「ネギ、ニラなど材料費高騰のため、本日より餃子定食は値段据え置きで4個の餃子とさせていただきます」と貼り紙をしたわけである。昨日のうちにいち早く食べていた客は、ラッキーと思うだろうし、今日食べようと思ったお客も、舌打ちしながら選択の権利が与えられるわけだ。美味しい餃子なんだから数が減っても食べたいお客は注文するだろうし、実質の値上げに見合わないと思えば、他のものを注文するなり、他の店に向かうだろう。少なくとも、お客の意図しなかった4個の餃子が届くことは避けられるわけだ。

 Power Mac G4の予約注文を尊重するというリリースのなかには、こうした一文がある。

 「アップルは、お客さまに感動をもたらそうと努力していますが、もう少しで大切なものを失うところでした。先週の発表により、お怒りや失望されているお客さまには本当に申し訳ないと思います」と、アップルコンピュータ社の暫定CEO(最高経営責任者)スティーブ・ジョブズは語っています。「本日の発表によって、お客さまとの関係があるべき姿に戻ることを期待します。古くからある格言では、『良い会社でも失敗はあるが、優れた企業は失敗を改める』と言われています」

 スティーブ・ジョブズ氏は、さまざまな講演の場で日本市場の重要性を説く。原田社長も、ことあるごとにアップルコンピュータが既存の熱心なユーザーに支えられていると話す。リップ・サービスはもう充分。アップルコンピュータにとって、ちょっとばかしイケていないことが続いた今こそ、本当のサービスが求められている。

 例えば、ワタシがユーザーとして求めるのは、いま一歩のディスクロージャー。アップルコンピュータ自身がソリューション販売のできる優秀な店舗として認定し、製品を出荷しているはずのiMacデモ展示販売店やiBookデモ展示販売店が、製品の納期に関しては「分かりません」「未定です」と繰り返すばかり。これは、今回に限ったことではない。消費者はバカではない。G4プロセッサにしても、500MHzが出荷されなければPowerMac G4の500MHz版が作れないのは理解できるし、iMacにせよiBookにせよ部品がなければ作れなかったり、市場に出なければ買えないことも知っている。

 消費者だってただやみくもに製品を求めているわけではない。消費者が欲しいのは判断材料だ。どんなに長いトンネルでも、長さをあらかじめ知ることができたなら、暗闇の中にも入っていける。実際はどんなに短くても、情報がなければ暗闇は恐怖に変わる。こうした判断材料を、もう少しだけでも公開してくれないものだろうかと、いつもながらに思う。


■ さらにイケてない奴

 最後に、イケてない奴をもう少し紹介しておこう。なんとしてもiBookを入手せねばならないわれわれは、取材を兼ねたワタシを含めて計4人で有楽町西武での抽選会にも参加していた。結果は4人で述べ7回クジを引いて、全部がハズレ。自ら書いた記事のように、どうやら3~4人にひとりぐらいが当たっていた様子から考えれば、見事ともいえるハズレっぷりであろう。ちょっとばかしイケてなかったわれわれは、入手のための戦略の甘さとともに、クジ運の悪さまで披露する結果になったのである。

 ああ、イケてないっすねぇ。


◎関連URL
■iBook製品情報
http://www.apple.co.jp/ibook/index.html

(矢作晃)
1999/10/22


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