家庭でプログラミング教育にトライ

プログラミングで音楽と算数を一緒に学べる!?「Music Blocks(ミュージック・ブロックス)」にトライ!

「Music Blocks(ミュージック・ブロックス)」は、音楽と算数を一緒に学べるアメリカ生まれのビジュアル型プログラミング学習ソフトだ。Music Blocksがユニークなのは、音楽と算数を別々に学ぶのではなく、音楽を通して算数やプログラミングの考え方を学び、算数やプログラミングを通して音楽を学べるところだろう。

経済産業省の「未来の教室」実証事業として、株式会社学研プラスがMusic Blocksの日本版と小学校用のカリキュラムを開発。学校関係者を対象にカリキュラムが無償で公開されているほか、インターネット環境やパソコンへのインストールが不要なMusic Blocksオフライン版が提供される。インターネットの接続環境が十分でない学校や、アプリのインストール制限がかかっている環境でのプログラミング教育に重宝するだろう。

今回は「Music Blocks(ミュージック・ブロックス)」にトライ

今回は、この学校関係者向けMusic Blocksのカリキュラムを特別に体験する機会を得たので、算数好きの小学4年生の息子(9歳9ヶ月)とトライしてみたい。カリキュラムは学校関係者向けではあるが、ソフト自体は公式サイトに誰でも無償で利用できるMusic Blocksオンライン版が公開されている。もしお子さんが音楽や算数に興味があったら、本稿を参考にぜひご家庭でもトライしてみてほしい。

見た目の敷居は高いが、カリキュラムでぐっとわかりやすく

Music Blocksの敷居は高い。算数という教科内でのプログラミング活用なら、過去にも複数見たことがあり、想像がつきやすい。しかし音楽メインでの活用となると、あまりピンとこなかった。

アクセスしてみると、『オクターヴの高さ』や『音階』などの言葉が並び、数字はおそらく何分の何拍子ということはわかるものの、これでプログラミングとは一体……。正直、いきなりMusic Blocksの画面を見せられても、ほとんどの子は使い方が想像できないのではなかろうか。それが学校向けカリキュラムを体験する前の第一印象だった。

メイン画面は若干敷居が高そうな見た目

今回、カリキュラムをじっくり読みながら使ってみたところ、思ったよりずっとわかりやすく、使いやすいのに驚いた。“音楽を使う”という新しさにも目を引かれた。

息子は「プログラミングやりたい」と言っていただけあって、Music Blocksを見せたら飛びついていじっていた。ただ、子どもに自由にいじらせるだけでは音を鳴らしたり音を変えたりといった遊びが中心となり、学習につながりづらい。保護者や教員側がある程度リードする必要がありそうだ。

基本的な使い方は、Scratchのように用意された日本語ブロックを組み合わせてプログラミングするというものだ。画面上部の[実行]をクリックするとすべてのプログラムを実行するが、プログラミングした[スタート]または[アクション]のブロックを直接クリックしても実行できる。

授業で使う場合は、学校関係者向けに提供されているカリキュラムの活用がおすすめだ。事前準備として必要なカリキュラムをダウンロードし、画面上部の[プロジェクトを読み込む]からプログラムデータを読み込むことで、カリキュラムが画面に表示されて簡単に再現できる。教材データはそれぞれ、『教師用シナリオ』『児童用ワークシート』『教師用保存データ』『児童用保存データ』『投影用画像データ』などが用意されている。シナリオに沿って授業を進めれば、45分間の授業ができるという仕組みだ。

小学4~5年生の音楽と算数を中心に用意されたカリキュラム

子どもの図形理解の確認にぴったり

息子は算数好きなので、まず小学4年生対象の算数のカリキュラムから『平行四辺形』をやってみることにした。

カリキュラムで提供される[平行四辺形スタート]というデータを、Music Blocks画面上部の[データを読み込む]から読み込むと、この画面が表示される

「これねー、いろいろな四角形が描けるらしいよ」と言いながら、初めに[長方形]のプログラムを開く(カリキュラムのないご家庭では、本稿の画面を参考にしながらお子さんと一緒にブロックを組み立ててみてほしい)。「これクリックしてみて」と言われたとおりに息子が[アクション]をクリックすると、ネズミが動いて長方形を描いた。たったこれだけのことだが、「えっ、こんなことできるんだ」と反応もなかなかよい。ちなみに、消しゴムマークの[ネズミとペンをもどす]をクリックすると、描いた線を消すことができる。

長方形のプログラムを実行

「このプログラム、どういう意味かわかる?」と聞いてみると、「長方形だから、こっちの方が辺の長さが長いから数字が大きいんでしょ」と理解している様子。「そうそう。前に進んで、90度右に向きを変えて、というのを4回繰り返すと、四角形になるよね。隣り合う辺の長さが同じじゃないから長方形になるね」と一緒に読み解くことで、長方形の特徴を確認してみせる。

すると「これ、模様とか描けるんじゃない」と違うことを始めた息子。ネズミの位置をずらしてから実行すると、長方形がずれた形で次々と描かれ、模様になった。「やった、面白い」と気に入った様子だったので、「実はプログラムで模様が描けるらしいよ、後でやってみよう」と促し、先に進むことにした。

図形が描けるとわかるやいなや、長方形で模様を描き始めてしまった息子

続いて、[平行四辺形]のプログラムを実行してみると、「あれ、違うね」と息子が声を上げた。今度は、[アクション]をクリックしても平行四辺形は完成しないのだ。「できなかったね、何か足りなかったんじゃない?」と考えを促すと、息子はプログラムを再度覗き込む。

平行四辺形プログラム、どこが足りない?

「わかった、1つ足りないんだ」と1辺分の命令が足りないことに気づいた息子は、残りのブロックを足していく。「角度が違うんだね」と言いながら、角度と辺の長さを入力し、あっさり平行四辺形が完成した。

完成した平行四辺形、またもや模様を描き始める

次に、[ひし形]のプログラムも出してみる。これも図形が完成せず、「あー、全然足りないね。わかった、繰り返すブロックがあればいいんじゃない?」と言い出して、ブロックを探し出す。「そっちへいくか……」と内心思っているうちに、プログラムは完成。ところが、[ずっとくり返す]ブロックで囲んで実行したところ、三角形ができてしまった。

[右を向く 120][前へ進む 200]というプログラムに[ずっと繰り返す]ブロックを追加してしまったため、ひし形のはずが三角形ができてしまった

「角度が良くないね。これをくり返すと1周して三角形になっちゃう」とアドバイス、「えー、これなら簡単なのに……」と息子は渋々[右を向く]と[前へ進む]ブロックを並べていった。ここで、ちょっとした問題が起きる。

「ねえ、ひし形ってどんな四角形か覚えてる?平行四辺形との違いは?」と聞くと、「平行四辺形ってひし形でしょう」と息子。慌てて、「ひし形は平行四辺形だけど、平行四辺形は必ずしもひし形じゃないよ」と訂正する私。どうもひし形の概念があやふやになっているらしい。

慌てる私などおかまいなしに、息子はどんどんプログラミングを進めていく。とりあえずやらせてみることにしたところ、すべての角度を適当に60度にしたため六角形のような形になってしまった。「あれ?角度が違うんだ。でも六角形ができるんだ」と面白がっている。

ひし形を作るはずが、六角形ができそうに……

「六角形の作り方はわかったね、面白いね。でもこれじゃあひし形はできないね。ひし形って覚えてる?平行四辺形と違うよ」と私。「ひし形の特徴は、すべての辺の長さが同じなの」「そうだっけ」「あとね、角度だよ。ひし形も平行四辺形も、2辺は平行だよね。だから、こことここの角度は同じ。つまり、隣り合う角度同士を足すと180度」と説明する。

だが解説されてしまったのが嫌だったようで、うなりだした息子。あえて角度は120度から110度に変え、もう一つの角度は70度に変えて、なんとかひし形も完成した。図形の特徴についてうろ覚えになっていたり、混乱しているところをチェックするのにはぴったりのカリキュラムだったようだ。

一通りカリキュラムも終わったので、「ねえ、模様描きたいんでしょ?最後にずらすプログラムを入れればいいんだよ」と促してみたところ、様々な数字を入れて遊び始めた。

ひし形のプログラムに90度ずらすブロックを加えると、手裏剣型が完成

ところが120度や90度などでは決まった模様しかできないので、「もう少し半端な数字も入れてみたら?」とアドバイス。1度だと赤い円ができ、数字を上げるときれいな模様ができあがった。当人も満足できたようだ。

半端な角度を入力すると面白い模様に

音符の長さで分数の大きさを比較

続いて、小学4年生対象の算数から『分数』のカリキュラムをやってみることにした。算数と音楽を融合させた内容となっており、Music Blocksらしいカリキュラムとなっている。

このカリキュラムには読み込むデータはないため、最初に画面右上の[新しいプロジェクト]をクリックしてプログラミングを始めよう。ただし、新しいプロジェクトを作成すると、これまで作ったプログラムはリセットされてしまう。保存しておきたい場合は、同じく画面右上の[プロジェクトをほぞん]をクリックすることで、ファイルとして保存ができる。

画面右上のアイコンから[新しいプロジェクト]をクリックすると、新規でプログラミングを始められる

最初は、分母が違う分数の中から2分の1と同じ大きさのものを探すところからスタートする。息子はすでに学校で分数を習っており、あまりに簡単なことを訊かれたので、「え、4分の2と、8分の4と、10分の5だよね?」とむしろ戸惑った様子だった。

続いて息子に、[新しいプロジェクト]で用意された音色を奏でるプログラムの音符の長さを[2分の1][4分の2][8分の4][16分の8]に変えてもらう。「全部同じ大きさだよね」と確認する息子に「そうそう。実際に音を聞いてみようか」と促し、プログラムを実行して音の長さが同じことを確認させる。

音符の長さを[2分の1][4分の2][8分の4][16分の8]に変えて演奏してみた

「二分音符とか四分音符とか十六分音符とか知ってる?あれって音符の長さだったんだよ」と教えると、「ああ」と得心した顔をする息子。算数として分数は理解していたが、音楽の音符の長さと分数が一致したのが面白かったようだ。

息子は、「うわ、この音短い。音も高すぎ」などと言いながら、音符の長さを変えたり、オクターブの高さなどを変えて楽しんでいた。自分で演奏する楽器と違って、指定した数値で正確に音の長さや高さを体感できるのはいい体験だ。

続いて、[リズムメーカー]ブロックを出させてみた。[リズムメーカー]をクリックすると、プログラムした長さと数の音でできたリズムが表示される。表示された分数をクリックすると、[2分の1]が[4分の1]になるという具合にリズムが2分割され、分数同士をドラッグすると1つにまとめることができる。また、長押しすると休符となり、元に戻すにはもう一度長押しする。

数字好きの息子にはこれがツボだったようで、大喜びしながらクリックし続けては、分数を分けたり足したりして遊んでいた。

学校関係者向けに用意されたカリキュラムには、「16分の1以下のこまかいリズムは使わない」「ドラッグして隣の分数と合わせない」などのルールも記載されている。学校の授業という、限られた時間内で児童全員に対して行うにはこうしたルールも必要だが、家庭での実践では自由にやらせてみたほうが面白い。

実際、息子もこれを完全に無視して、[256分の1]にまで分けた後、警告メッセージが表示され「これ以上小さくならないって」と渋々戻していた。また、細かく分けた分数同士を合わせたため、小数点のある分数(8分の1.75など)ができてしまっていた。「そりゃそうだよ。中途半端な分数同士足して無理やり分数にしたらこうなっちゃうよ」というと、「そりゃそうか」と感心していた。

中途半端な分数ができあがってしまった

「自分で作ったリズムを聞いてみたら」と再生させてみると、ユニークなリズムが流れてきた。息子は「ドラがかっこいい」と楽器をドラに変えた後、[32分の1]が連続したリズムにして、「機関銃!」と撃つまねをして喜んでいた。言われてみると、たしかに「ドドドドドドドド」という連続した発砲音に聞こえるので、子どもの柔軟な発想力には恐れ入る。その後も、リズムを色々と変えて楽しんでおり、「これ楽しいね!」と喜んでいた。

前述のように、Music Blocksは無償で利用できるオンライン版に対して、学校関係者に対してはインターネットの接続もパソコンへインストールも不要なオフライン版も提供されている。無料で充実したカリキュラムが用意されているため、該当学年なら導入しやすいはずだ。小学校におけるプログラミング教育というと、算数と理科、総合の授業の中で行われるものがほとんどだが、Music Blocksは音楽の授業でもプログラミング教育ができる、というのもユニークなポイントだろう。

学校現場なら、まずは無償のカリキュラム通りに導入すると、プログラミングもできる上、学習効果も期待できそうだ。家庭でもネズミに模様を描かせながら図形の法則を学んだり、音楽の演奏をプログラミングすることで分数や繰り返し処理といった学習に役に立つだろう。見た目以上に楽しく取り組めるので、ぜひトライしてみてほしい。

教材名Music Blocks
値段無料
対象小学生以上
(学校関係者向けカリキュラムは小学4~6年生が対象)
環境インターネットに接続できるパソコン(WindowsもしくはMac OS)とWebブラウザー(Google ChromeもしくはFirefox)
(学校関係者向けのインターネット接続が不要なオフライン版はWindows 7および10に対応)
保護者に求められる知識とスキル端末の基本操作ができること、使い方を理解し子どもをサポートできること、簡単な算数や音楽の知識
学習効果プログラミングに興味を持つ、論理的思考力の向上、創造力・表現力の向上、算数に興味を持ち理解を深める、音楽に興味を持ち理解を深める
学習時間のめやす一つのカリキュラムにつき45分程度

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/