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コロナウイルスが猛威を奮う中、GoogleがGIGAスクール構想対応のオンライン発表会を開催

――「Google GIGA School Package」でWindows連合を追撃

コロナウイルスの猛威が日に日に増す3月17日、Googleはオンラインビデオ会議サービス「Google Hangouts Meet」を通じて、GIGAスクール構想に対応した「Google GIGA School Package」のオンライン記者発表会を開催した。

コロナウイルスが猛威を振るう中、アメリカと各拠点をつないだオンライン記者発表会が開催された

Chrome OSを搭載したノート型端末「Chromebook」とGoogleのアプリケーションスイートG Suiteの学校版「G Suite for Education」、運用管理や導入自治体支援などを実施する「Kickstart Program」をセットにして提供することを発表した。2月4日に「GIGAスクールパッケージ」を先行して発表した日本マイクロソフトを強く意識した内容だ(詳細は『「日本ではデジタル機器はゲームをする道具」、文科省がGIGAスクール構想で露わにする危機感』を参照)。

アメリカからオンラインで会見に参加したGoogle for EducationのDirectorであるJohn Vamvakitis(ジョン・ヴァンヴァキティス)氏は、「Chromebookはワールドワイドで4000万台が学校に導入され、G Suite for Educationは9000万人が利用している」とGoogleの学校向けソリューションの導入実績をアピールした。

Google for Education Director John Vamvakitis氏(写真提供:グーグル)

ゲストとして、文部科学省と経済産業省の担当者がGIGAスクール構想の狙いと未来の教室について、5年前からChromebookを導入している東京都町田市教育委員会の担当者は導入効果について、それぞれの拠点から接続して紹介。Google自身の発表に加え、GIGAスクールに関わる省庁のエンドースメントと現場のユーザーからの声をまとめて伝えるなど、GoogleがGIGAスクール構想を重視していることが伝わるオンライン会見となった。

Google GIGA School Packageを構成するのは、ハードウェアとしてはGIGAスクール構想に準拠した日本エイサー、ASUS、デル、日本HP、レノボ、NEC6社が発売する14モデルのChromebookを選択する。そこにアプリケーションスイートのG Suite for Educationは、ワープロ、スプレッドシートなど共同作業を行うためのアプリケーションと、カレンダーなどタスク管理、メールやビデオ会議によるコミュニケーション、管理ツールがセットとなっている。

ハードウェアとしてGIGAスクール構想に準拠した6社14モデルのChromebookを選択

Kickstart Programは、Chromebookを導入した自治体を支援するもので、教育委員会の運用管理のセットアップ支援、教員の業務負担を軽減するためのスキルアップ、生徒の主体的・対話的で深い学びを実現するための活用方法などを提供する。研修は実機を用いた体験方式。導入学校数に応じて、40人単位の研修を最低一回から提供していく。

Google GIGA School Packageで新たに追加されるKickstart Program

Google for Educationのヴァンヴァキティス氏は、「我々の使命は、教育に変革を起こすことだと皆様に説明している。教育システムを再考し、教師が最新のツールを使うことで最新の教育を行うことができるようになる」とコンセプトを説明。

具体的なメリットとして、次の4点をあげている。

(1)簡単:管理が容易で、調査会社のIDCが管理時間を従来に比べ59%削減というデータを出している
(2)手頃な価格:Chromebookの価格は4万5000円以下、G Suite for Educationは無償で提供しており、導入校は3年で57%のコスト削減を実現しているという結果が出ている
(3)汎用性:完全なクラウドベースで、どのデバイスからも使うことができるため、例え学年が変わっても、そのまま同じデータを利用することができる
(4)高い効果:時間、コストといった効率化だけでなく、子どもたちは興味の幅を広げ、学習の成果が上がることこそ最大のメリットとなる

日本の学校には必須といわれる縦書き対応についても、サードパーティのWebアプリケーション「Canva」と連携して対応することを紹介。日本の学校での利用に問題がないことをアピールした。

Google GIGA School Packageの全容

ヴァンヴァキティス氏は学校での導入実績を紹介し、「先行して導入されているスウェーデンではChromebookとG Suite for Educationを使用していた児童は、他国の同学年の児童に比べ、20%テスト成績が良いという成果が出ている。日本でも東京都町田市では6か月間、1日1時間の学校業務の時間削減を実現している。これは年間では200時間の時間効率化となる」と実績をもとにした効果をアピールした。

先行導入自治体として登壇した、町田市教育委員会 学校教育部指導室長兼指導課長の金木圭一氏は、「2017年度からChromebook導入をスタートし、今年度になって教師1人に1台、教室に40台環境が整った。機器選択にあたっては、子どもの頃からキーボードを操作することが必須であることから、キーボードを標準搭載していることが最初の選択条件となった。ただし、低学年ではキーボードよりもタッチパネルが必要な場面が出てくることからタッチパネルであることも必須となった」と機器選択条件を説明した。

町田市教育委員会 学校教育部指導室長兼指導課長 金木圭一氏(写真提供:グーグル)

さらに、「ハードディスク内にデータを残さないシンクライアント環境が必要と考えた。デバイスが壊れたら、修理するのではなく取り替えることで、保守にかかる費用を削減する」と保守コスト削減まで視野に入れての選択だったと説明した。

町田市には教員が約1850人存在するが、1人1台にChromebookを提供し、学習と教務の両方に使うことを推奨している。これは、「日常的にChromebookを利用していくことで、どのように学習に利用できるのかというアイデアが生まれる。ただし、機器を利用することは目的ではない。文房具と同様に道具として使ってもらう」という狙いがあってのことだ。

あくまでもICT機器はツールであり、効果的に活用することで授業のねらいを達成することの重要性を訴えた

そのベースとして導入校ではGoogle協力のもと研修を行った。導入校が増加していけばGoogle側が全て研修することは難しくなることから、モデル校にはICTマスターといわれる習熟した教員を置いて、学校側がChromebookに馴染む仕組みも作っていった。

今回、全国の学校で一斉休校となったことから、Chromebookを使って自宅学習が行えるのか?という問い合わせが町田市にも寄せられたという。それに対して金木氏は、「児童1人1台環境が実現できていないことに加え、児童の家庭に通信環境が整っていないケースも多いことから、Chromebookを使って自宅学習することは実現していない」と自宅学習を阻む現実を紹介した。

ただし、「今回、臨時休校案から実際のアナウンスまでの期間が短かったことから、児童が家庭で学習するための課題プリントが間に合わないという声があがった。そこでホームページなどを使ってとアナウンスした。臨時休校がスタートした後には、教員が自宅勤務用にChromebookを利用している」という導入メリットも出ているそうで、教育現場を変える原動力となっているようだ。

突然の休校対応では自宅学習を阻む課題が浮き彫りになったが、一方でChromebookの導入メリットも出ている

こうした実績とともにGoogleが強くアピールしたのが日本のGIGAスクール構想とGoogle GIGA Packageが合致しているという点だった。

説明会の冒頭は文部科学省の初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 髙谷浩樹氏が、GIGAスクール構想について改めて説明を行った。内容は、日本マイクロソフトが開催した「マイクロソフト教育サミット」で高谷氏がプレゼンと共通するもの。「これまで自治体の皆さんのイメージでは、高スペックのハードとソフトでコストが嵩むというイメージだろう。今回、シンプルな端末とソフトはクラウドベースとすることで、4万5000円の補助金を使えば、十分に対応できる」とあらためて強調した。

文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 髙谷浩樹氏(写真提供:グーグル)

アップデート情報として、事業者が対応製品をプレゼンテーションする「GIGAスクール 自治体ピッチ」開催を行うことを明らかにした。

自治体ピッチは、4万5000円でどういう設備を提供できるのかを事業者側がプレゼン。その様子はオンラインで視聴できる。「我々もホームページで随時、(対応製品の)中身は紹介しているものの、まだ自治体に伝わっていないことも多い」と高谷氏は自治体ピッチ開催の狙いを説明した。

さらに、「学びのためにICTを使うことの意義をもっと知ってもらいたい。認知とサポートという点で、今日の発表は素晴らしいものだった」とGoogleの発表を評価した。

事業者が対応製品をプレゼンテーションする「GIGAスクール 自治体ピッチ」を開催していく

会見の後半には、経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長の浅野大介氏が登壇。「GIGAスクール構想の上位には、未来の教室をどう構築していくのか?という課題がある。現在はハードウェアをどう整備するか?が課題になっているが、突然、危機が起こった際、スマートホンやパソコンを使って情報収集を行い、どう混乱から脱却するのかを子どもの時から訓練する必要がある」と指摘した。

経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長 浅野大介氏(写真提供:グーグル)

不登校の児童など、これまでの学校教育ではフォローできない子どもたちも含め、「EdTechによって自分にあった教材で、自分のペースで学ぶことができる環境を作っていくことができる」とテクノロジーによって子どもそれぞれに合わせた学びを実現することを想定しているという。

EdTechによる子どもそれぞれに合わせた学びの実現を訴えた

Googleのヴァンヴァキティス氏は、「日本のGIGAスクール構想と、Google GIGA School Packageはみごとに合致している」とアピール。海外同様、日本の教育市場への浸透を図っていくという。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。