こどもとIT

22歳以下のトップエンジニア一同に 体験コーナー充実で新たなエンジニア育成も

――「Programmer's Day」レポート

10月20日、東京・秋葉原コンベンションホールで、無料プログラミング体験イベント「Programmer's Day」(主催:U-22プログラミング・コンテスト実行委員会、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会プログラミング教育委員会)が開催された。2020年からはじまる小学校におけるプログラミング教育必修化を視野に入れた、親子はもちろん学校の先生も参加可能なプログラミング体験イベントだ。

また、会場の別スペースでは、「U-22プログラミング・コンテスト2019最終審査会」、「第4回全国小中学生プログラミング大会最終審査」が行われていた。これは、将来のIT業界で活躍する人材の発掘・育成を目的としたU-22と、プログラミングを始めた子どもたちが参加する全国小中学生プログラミング大会を連携することで、プログラミング教育の社会的な広がりを実現すること狙ったもの。

U-22プログラミング・コンテスト2019で最高賞である経済産業大臣賞を受賞した4名

今回、2つのコンテスト最終審査と共に、Programmer's Dayを同じ会場で開催することで、全くプログラミング経験のない親子や、先生など幅広い層にプログラミングに親しんでもらうことが狙いとなっている。

教員・企業・技術者のパネラーが、プログラミング教育の本質と課題をディスカッション

パネルディスカッション「プログラミング教育における学校現場と企業連携事例とトップ層の子どもの可能性を引き出すには」は、プログラミング教育に様々な立場から関わる人がパネラーとなって行われた。

登壇したのは、モデレーターのNPO法人みんなのコード 代表理事の利根川裕太氏、パネラーとして栃木県小山市立東城南小学校 教諭の小島寛義氏、さくらインターネット株式会社 技術本部 ビジネス推進グループの朝倉恵氏、株式会社Preferred Networksの取締役 CTOの奥田遼介氏の4名。

利根川氏は「全ての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」をミッションとして活動を続け、小島氏は学校教員の立場からプログラミング教育に早くから取り組んでおり、朝倉氏は企業の立場からプログラミング教育支援を行っている。中でも、奥田氏は、小学校時代からお父さんの影響でプログラミングに取り組むようになり、その後は各プログラミング・コンテストに参加。2008年にはU-20プログラミング・コンテストに応募し、経済産業大臣賞を受賞しているという、まさに現在プログラミングに取り組んでいる子どもたちの先輩といえる存在だ。

異なる立場でプログラミング教育に取り組んでいるメンバーだけに、短い時間のパネルディスカッションではあったが、率直な意見が飛び交った。

まず、現役の教員である小島氏からは、「文部科学省は、通常授業の中にプログラミング教育を入れ込めという。入れ込むことは可能だが、それではプログラミング教育の本質にはたどり着けない」との指摘が挙がった。

栃木県小山市立 東城南小学校 教諭 小島寛義氏

このプログラミング教育の本質とは、この後に議題となったが、「決してプログラマー育成が目的ではない」というのが参加者の共通の意見。さくらインターネットの朝倉氏は、「エンジニアからは、最初からPythonを教えた方がいいんじゃないか? といった前のめりな意見も飛び出すのだが、それが小学校でプログラミング教育に取り組む狙いではない」と指摘、小学生をプログラマーにすることが狙いではないこと強調する。

小島氏は、「プログラミング教育には様々な可能性がある。例えば、授業で出会ったプログラミングをきっかけに、奥田さんのような専門家になっていくのもひとつの道筋。逆に、普段はサッカーをやっていて、全くプログラミングとは縁がない子どもが授業でプログラミングに触れ、そこからプログラミングを知るきっかけになる」とプログラミング教育の可能性を評価する。

奥田氏は自らの経験から、「代数系の計算は、人間にさせると苦痛で、コンピュータにやらせると楽。人間がいかに楽をするのかがコンピュータを利用する本質」と指摘し、「自分が作ったプログラムを色々な人に使ってもらうことが嬉しい」と語り、プログラマーとしての楽しさの本質を明らかにした。コンピュータが得意なことを任せることで、人間は人間しかできないことに集中できるようになる。

株式会社Preferred Networks 取締役 CTO 奥田遼介氏

利根川氏も、「アンケートの集計などは、人間がやるよりもコンピュータがやる方がずっと得意」と指摘。小島氏は、「学校でも、何時間もかかっていたことが瞬時にできると、コンピュータの便利さ、プログラミング教育の有効性に気がついてくれる」と体験から明らかにした。

ただし、プログラミング教育は本質に行き着くまでに様々な障壁があるという。さくらインターネットの朝倉氏は、石狩データセンターがある縁で北海道の学校とコンタクトをとった経験から、「意識の高い先生はいるものの、その先生以外にはプログラミング教育はできないという声があがる」と話す。

モデレータの利根川氏も、「企業が支援しようとしても、学校では学校でしか使われないソフトが使われている。企業もそういったソフトのことはわからず、お互いに状況がわからないために、お互いのドアが閉められ、交流が難しい状況」と指摘する。

モデレータをつとめたNPO法人みんなのコード 代表理事 利根川裕太氏

企業の支援が欲しいと考える学校もあるようだが、「当社の学校を支援する取り組みがテレビで紹介されると、問い合わせ窓口がわからず、広報部に問い合わせが来たことがある」と朝倉氏は話す。さらに、こうした声は「どんどんあげて欲しい」という。学校と企業が連携はもっと増えてもいいのかもしれない。

企業が長期的に支援すると、プログラミング教育の経験が全くない学校も変化していく。朝倉氏が行ってきた石狩での支援は3年目となり、「初年度はそもそもパソコンに触るのも初めてというところからスタートしたが、3年経つと、『これは前にもやってよね』といった声があがるようになった。石狩の歴史を学ぶ中で、IoTを使った防災システムの考案や、さくらインターネットで実施している宇宙データ活用については小学校、中学校と連続して考えていけるようになっている」と自治体、小中学校含めて発展しているという。

さくらインターネット株式会社 技術本部 ビジネス推進グループ 朝倉恵氏

小学校教員である小島氏も、「企業の人に来てもらうことはこちらとしても刺激的。子どもたちも喜ぶ」と企業協力を前向きに受け止めている。

また、奥田氏は自分の高専時代を振り返って、「(当時はプログラミング)大会に出るためのチケットを用意してもらうだけでもありがたいことだった」と話す。社会人にとっては当たり前のチケットを用意することすら、子ども時代には自分ではできない、大人ならではのサポートとなったという。

また、大会に出場することで、「同学年ですごいことをやっている人に出会う機会になり、刺激を受けた」と刺激を受ける機会となっているとも明らかにした。

小島氏は、「パネルディスカッションで聞いたことを子どもたちに話したい。アプリを作ったら一攫千金、大金持ちになるチャンスがあるよと話したら、子どもたちにとっては夢が生まれる」と話し、会場からは笑い声も起こった。

様々な協賛企業によるプログラミング体験やワークショップも開催

パネルディスカッション後は、プログラミング体験やワークショップが協賛企業の支援を受けて開催された。いずれも無料で体験できるため、事前申し込みで満員のものもあったが、現地に来れば参加できるものもあった。プログラミングに興味はあるが、機会がない保護者や子どもにとっては、気軽にプログラミングに触れる内容だ。

教育事業での実績がある内田洋行は、「レゴ WeDoを用いた『電気の利用』 模擬授業」と、「SONY MESH体験講座」という2つのワークショップを実施した。レゴ WeDoでは扇風機を組み立て、センサーによって人が近づくと扇風機が回転し、離れたら止まるというプログラムを実習。SONY MESH体験は、保護者と子どもがペアになって人感センサー、LED、温度センサー、明るさセンサーなど7種類のタグを使い、信号機や防犯カメラの仕組みを考えプログラミングすることを学ぶ。どちらのワークショップも子どもたちが楽しそうにプログラミングを行っている様子が印象的だった。

内田洋行によるレゴWeGoを用いて効率的な電気の使い方を学ぶ模擬授業と、SONY MESHを用いたセンサープログラミングのワークショップ

日本HPはワークショップ、「キミのアイデアとプログラミングで勝負!AIカーをやっつけろ!!」を実施した。AIが学習し、自動運転する車と参加者が開発した自動運転の車がレーシングコースで競いあうワークショップ。説明を読むと難しいものを想像してしまうが、現場では参加者はゲーム感覚で楽しそうにプログラミングを体験した。

日本HP協力で行われたScratch経験者向けのAI学習による自動運転で競い合うワークショップ

「わくわくIchigoJamプログラミング体験教室」は、さくらインターネットも協賛するKidsVentureが実施したワークショップ。IchigoJamを用いて、初心者向けのプログラミング言語であるBASICで簡単なゲーム等をプログラミングする。90分と長時間だったが、参加者は熱心にプログラミングに取り組んでいた。

KidsVentureが協力して実施した、ichigoJamを用いたBASICを使った簡単なゲームプログラミングワークショップ

「プログラミングをはじめよう!Hour of Code 体験」は、SOMPOシステムズとみんなのコードが実施したプログラミング未体験者を対象としたミニワークショップ。「コンピュータを使って何ができるのかをワクワクしながら発見する」ことを標榜し、多くの参加者が参加した。

SOMPOシステムズとみんなのコードの協力で行われた、小学生のプログラミング初心者対象のHour of Codeを用いたプログラミング体験教室

U-22 プログラミング・コンテストでは15歳以下の受賞者も

そのほか会場では、「第4回全国小中学生プログラミング大会最終審査」と「U-22 プログラミング・コンテスト最終審査会」が行われた。全国小中学生プログラミング大会についての詳細は別レポート記事を参照いただくとして、ここでは同時に行われたU-22 プログラミング・コンテストでの小中学生の活躍を紹介したい。

同じ会場で行われたU-22プログラミング・コンテストの受賞者たち

今回のU-22では、最高賞である経済産業大臣賞を受賞した4名のうち、10歳の冨田晴生さんが開発した元素と元素記号がゲーム感覚で覚えられる「Capture the Elements」と、15歳の上原直人さんが開発した独自プログラミング言語「Blawn」の小中学生2名が、並み居る作品の中から選ばれた。

特に上原さんは、最高賞である経済産業大臣賞以外にも、協賛企業であるデジタルガレージ、サイボウズの企業賞と、当日審査会を視聴していたニコニコ生放送の視聴者賞と、4つの賞を獲得。U-22プログラミング・コンテスト実行委員長でもある、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏から、「圧勝でしたね」と声がかけられるほど。上原さんは、「Blawnは、C++を使ってみたところ使いにくかったため、7月中旬に構想して構文解析を行って、プログラムを書き始めたのは8月ごろから」と超短期間に開発したことを明らかにした。

上原さんは、「C++が扱いにくかった」ことから独自プログラミング言語Blawnを開発して応募したという

今回のU-22で受賞した2名のみならず、小中学生からプログラミングやモノづくりに親しみ、高度な作品を作る子どもたちが増えていることは全国小中学生プログラミング大会を見ても明らかだ。前述のPreferred Networksの奥田氏のように、若いうちからこのようなプログラミングコンテストで賞を取り、IT業界をリードするような活躍をしてくれる子どもたちの登場を期待したい。そのためにも、パネルディスカッションで議論されたように、すべての子どもたちに等しくプログラミング教育を受ける機会を届けることが重要になるだろう。

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。