こどもとIT

Maker×教育=自由! Make:ClassRoomで自分だけのMakeを体験・発表する子どもたち

――「Maker Faire Tokyo 2019」レポート①

今年も、Makerの熱いお祭りの季節がやってきた。夏真っ盛りの東京お台場の国際展示場で、8月3日・4日の2日間にわたり「Maker Faire Tokyo 2019」が盛大に開催された。展示だけでなく参加型のワークショップも数多く行われ、夏休み中ということもあり、多くの子どもたちが実に多種多様なMakeを体験していた。

筆者は2日目の8月4日に会場を訪れて、朝から多様なMakerたちの世界を覗くことができた。今回は、“Maker×教育”をテーマにした「Make:ClassRoom」という会場の一角に設けられたコーナーから、子ども向けワークショップやコンテストの表彰式を中心にレポートしたい。

Make:ClassRoomのタイムテーブル、手作り感がなんともMaker Faireらしい

子どもたちの溢れるアイデアが集結したコンテストの表彰式から

まず、朝一でMake:ClassRoom会場で行われたのは株式会社ヴィリングと株式会社オライリー・ジャパンによる「もんだいかいけつアイデアコンテスト」の表彰イベントだ。昨年に続き第2回目となる本コンテストは、小学校低学年(1~3年生)、高学年(4~6年生)部門で募集が行われ、全体では300を越えるアイデアの応募があったそうだ。

張り出された多数のアイデアレポートは圧巻

子どもたちが解決しようとした問題は、実に多彩。ニュースに登場する「プララスチックゴミ」といった環境問題への取り組みから、こどもが1人で安心して出歩けらる機械、眠るまで「とんとん」してくれる機械といった、身近な自分のお悩みを解決するほっこりするアイデアが並んでいた。

最優秀賞に輝いたのは、小学5年生のアイデア「音変換イヤホン」。聞きたくない嫌な音を自分の好きな音に変換するという機械のアイデアだ。自分自身に聴覚過敏の傾向があり、聞きたくない音まで聞こえてしまうという自分の悩み解決としてだけでなく、同じ悩みをもつ人の為になれば、という思いも審査のポイントとなった。

最優秀賞に選ばれたアイデアレポートとたくさんの商品を受け取る受賞者

このコンテストはあくまで出発点のアイデアなわけだが、後日たまたまこのコンテストの結果を知った筆者の知人が、「これいいね、作ってみたい」と言っていたので、意外と実用化は早いかもしれない(あくまで個人の希望です)。

IoTやプログラミング体験、ヘボコンのトークショーも

この表彰式のあとは、プログラミング体験、ものづくりのワークショップ、トークショーといったイベントが続いた。入れ替わり立ち替わりで運営サイドも大変そうだ。ワークショップは、あいにく子どもたちが中心だったので、筆者得意の混ざって参加はできなかったものの、拝見できた範囲でご紹介しておく。

「からくりIoT」と題して、身近にある「もの」「こと」をつないでみせるIoTプログラミングの体験ワークショップをアステリア株式会社が実施。システム連携ツールが有名な同社だが、最近ではIoT向けのサービスもはじめており、筆者の知人の飲食店でも活用されている。この最新のツールを使って、親子でIoTプログラミングを体験できるようになっていた。

アステリアは「Gravio」というセンサーを使ったIoTサービスの体験ワークショップを開催

大人も気楽に話を聞けたのが、デイリーポータルZによる「へボコンが授業になりました」と題したトークイベント。「へボコン」の話は、ネット上では見たことがあるものの、リアルに関係者から話を聞くのははじめてで、しかも小学校の授業に使われたと言うテーマもあり興味深く拝聴した。

へボコンの授業の様子、ロボットにはmicro:bitと100円ショップで買える部品が使われたとか

そもそもへボコンとは、「技術力の低い人限定ロボコン」の通称。ロボコンというと、高専ロボコンといった学生たちが高度な技術で競い合うものが思い浮かぶが、いわばその真逆の世界。例えば、「高度な技術を使うとペナルティになる」といったルールもあるそうで、ほんとうに初心者や技術がないけれど参加してみたい人でも気軽に挑戦できるようだ。既に海外でも開催されており、実際の様子を映した映像を見て、思わず爆笑してしまった。

小学校の授業の実際の様子を聞いて、この「へぼくていい」という緩さが、よい具合に子どもたちの常識の壁をぶちこわし、生き生きと取り組む姿がなんとも楽しそうだった。ロボット自体は、micro:bitを使って作ることが前提だったらしいが、あるチームでは、重くてロボが動かなくなったため(それもなかなかすごい話だが)、途中で引きちぎったのだとか。ある意味、とてもMaker的な活動ではなかろうか。

重くて動かなかったので途中で引きちぎったというmicro:bit、これぞへボコン

続いて、以前筆者が小学生たちに混じって体験したタミヤロボットスクールもプログラミング体験ワークショップを開催。事前予約制で、すぐに満席になってしまう人気だったそうだ。ずらっと並んだタミヤのカムロボ君カスタムに、「おー、おまえら元気だったか」と思わず声をかけそうになった。

準備前のタミヤロボットスクール体験ワークショップに、ずらっと並ぶカムロボ君たち

楽しいユニークな発明品が並んだ「たのしいmicro:bitコンテスト2019」決勝大会

この日の最後に待っていたのは、今やすっかり定番のSTEM教材となった「micro:bit」を使った発明コンテストの決勝大会。実は、この決勝に先立って、Maker Faire初日から2日間にわたって、株式会社スイッチサイエンスの展示ブースの一角でコンテスト参加作品を実際に試すことができるようになっていた。実際に触ってもらい、訪れた人たちによる投票を行うシステムである。

ファイナリストたちの作品が並んだ展示ブースの様子

決勝大会では、ファイナリスト自身によるプレゼンテーションが行われ、この投票結果とプレゼンテーションの審査をあわせてグランプリ他の各賞が選ばれるという仕組みである。

このコンテストには、子どもたちから大人まで参加しており、ファイナリストの年齢層もいろいろ。それぞれが、実際に動く、micro:bitを搭載した発明品のプレゼンテーションをしていく。子どもたちも、ノートPCとプレゼン用のスライドまで、ちゃんと用意しており、堂々たる発表が続いていった。その姿に、会場の大人たちからは感嘆のため息ばかりが漏れる。機材の接続トラブルで、プレゼンテーションの順番変更といった、ちょっとした混乱はあったものの、それもひっくるめてのMaker Faireなのだ。

子どもたちのプレゼンテーションスライド、そのまま教材資料として使えそうな物も多かった
身体をはるデモンストレーション、動く「狙え!ゴミ箱」の様子
大人のプレゼンテーションは、高度な技術がさりげなく使われていた

居並ぶ作品の中で、会場が思わず笑顔になったのは、タイトル「チンアナゴ」という作品。チンアナゴといえば、最近は水族館の人気者の1つで、その姿に癒されるという声も聞く。作品は、micro:bitを使った一種の癒し系ロボットなのだ。作者である「マンモス屋ひかる」さんによると、妹さんがチンアナゴに興味をもち、喜ぶ顔見たさに作ってみようと思ったのがはじまりらしい。デモンストレーションでは、その妹さんもお手伝いして会場が暖かい空気に包まれていた。

最優秀となった「チンアナゴ」、この絵だけでもクスッとなる佇まいだ
プレゼンテーションをする「マンモス屋ひかる」さんと、デモのお手伝いをする妹さん

外見のかわいらしさはともかく、中身はちゃんとサーボモーターを使っていたり、チンアナゴの動きを再現するためにいろいろ工夫をしたそうだ。そして、見事に最優秀賞を獲得。社会の問題解決といったような、何かの役に立つものではないが、妹さんを喜ばせたいという気持ちや、工作を愉しんでいる様子が作品からにじみ出ていた。

その他のコンテストの力作は公式サイトで見ることができるので、是非実際に動く様子をご覧頂きたい。

人はなぜ“作る(Makeする)”のだろうか。どこからその気持ちが来るかわからないが、“やってみたい・作ってみたい”という内なる衝動に素直に取り組んで、生みだされた純粋な“何か”。へボコンやチンアナゴは、その良い例であるように感じた。

Maker Faire Tokyoは、広い会場内、先端技術からクラフト系の手作り体験まで、実に幅広いジャンルのブースが並んでおり、今回紹介したのはそのごくほんの一部である。カオスともいえる不思議な世界については、別レポートでお届けしたい。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント、サイボウズ公認kintoneエバンジェリスト。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。