こどもとIT

突き抜けたアウトプットを見せる、中高生トップランナー達の生の声

――「Edu×Tech Fes 2019 U-18」レポート

「中高生のトップランナー」というと、どんな人物像を思い浮かべるだろうか?

中学⽣・⾼校⽣向けのプログラミングキャンプやスクールを運営するLife is Tech ! が、教育とテクノロジーで突き抜けたアウトプットを見せている中高生によるプレゼンテーション「Edu×Tech Fes 2019 U-18」を開催した。卒業、修了ムードが高まる2019年3月16日、渋谷のTECH PLAY SHIBUYAに6名のトップランナー達が集い、自らの「分岐点」について語った。

トップランナーと聞いて、受験勉強のような積み上げる学習や、スポーツのようなプロによる厳しいトレーニングなどを経てトップに上がっていくイメージを持つなら、この6名はそのイメージとはほど遠い。導かれるというよりも自分で前に進んできた彼らは、枠組みやルートからは自由で、かつ、自分のフィールドに対するこだわりと没頭の度合いが極めて強い。

大人から見て10代と言えば、まだ短い年月しか過ごしていないように思うかもしれないが、皆が既にいくつかの「分岐点」を経て、密度の濃い時間を現在進行形で過ごしている。彼らがそれぞれの道を切り拓く時に何がどう働き、教育やテクノロジーの力はどう作用したのだろうか。6名のプレゼンターの話を順にご紹介しよう(文中の学年は2019年3月時点)。

SASUKEさん~教育×Music

SASUKEさん

SASUKEさんは、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾による「新しい地図 join ミュージック」が、昨年12月にリリースした「#SINGING」を作詞作曲したことでも知られる中学3年生。作詞作曲、歌、ラップ、DJ、ダンス、ドラムなどを幅広くこなす。今回のイベントではオープニングアクトもつとめ、フィンガードラムのプレイやダンスのパフォーマンスで会場を盛り上げた。

自分にとっての分岐点は「生まれた時」とSASUKEさんは表現する。音楽好きの両親の元で多様な音楽が流れる環境で育ち、幼い頃からストリートダンスに熱中した。音楽は5才でGarageBandに触れて以来、クリスマスや誕生日ごとにDJ機材を増やしサンプリングに夢中になった。「違う両親の元に生まれていたら、全く違う人生だったと思う」と語る。

環境だけではなく、SASUKEさん自身のアウトプットの力がチャンスを広げてきた。小学5年生の時に初めて訪れたニューヨークでは、アポロ・シアターのアマチュアナイトで優勝するという驚きの結果を出したのだが、これは観客としてシアターを訪れた際、休憩時間に踊っていたらオーディションに誘われたという経緯がある。また、中学2年生の時に東京でフィンガードラムの路上パフォーマンスをしたところ、その様子がSNSで拡散され話題となり、今につながる数々のチャンスを手にしてきた。「好きなことを突き詰めて、発信すると自分の世界が拓けて行く」とSASUKEさんは力強いメッセージを伝えた。

また「音楽理論を学ばなくても誰でも簡単に音楽が作れる」と、Native InstrumentsのMASCHINEで曲作りのデモンストレーションをして見せた。音楽業界もテクノロジーの変化と共に機材やソフトウェアが変化してきた。伝統的なクラシック音楽とは違う入り口と手段を手にしたことも創作活動を加速させているだろう。実はイベント前日に中学校を卒業したばかり。4月からはN高等学校に進み、引き続き創作活動やパフォーマンスを続ける。

佐藤和音さん~教育×Communication

佐藤和音さん

佐藤和音さんは、英国のYear13(日本の高校3年生)で8カ国語を操るマルチリンガル。冒頭から次々に言語を切り替えて自己紹介をした。流れるように多数の言語を操る様はどこか不思議に見えるレベルだ。幼い頃から興味に没頭するタイプで文字や言語の音が好きだったというが、家で流れていたフランス語の語学教材CDを丸暗記してしまったなど、驚くエピソードに満ちている。

特に英語はイギリス英語を極め、CEFRというヨーロッパの共通基準で最高位のC2レベルで、英国留学も経験している。言語に不自由がないためオンライン公開講座のMOOCでハーバードやUCバークレーなどの様々なコースを受講してきた。

日本の学校での成績は常にトップクラスでありながらも、実はその学校生活は明るいものではなかった。佐藤さんにはディスプラクシア(協調運動障害)の特性があり、細かな作業が極端に苦手だったため、特性に理解のない先生のクラスになる度にひどく苦労し、いじめにもつながったのだ。3度の転校という「分岐点」で頼りにした言葉があるという。

1つめは、両親が海外に連れ出し「世界はこんなに広い。いじめる子の常識は果たして世界標準なんだろうか?」と問いかけてくれたこと。2つめは、孫子の兵法にある「戦況が苦しく不利な時は、撤退してでも自分の戦力を立て直し次に臨むのが良い」という考え方だ。3度目の「撤退」で通信制の高校に行くことにした時はレールから外れた不安が強かったものの、「人と同じになろうとするのではなく、いっそのこと人と違うことをやってやろう」と、自分の興味を追求することに転じた。

そのエネルギーが外国語を極めることにつながり、学校外のフィールドにも目を向けるようになる。高校1年で高等学校卒業程度認定試験に合格し、MOOCでの学習を通じ海外大学への進学も意識するようにもなった。昨年は「ZOOMOOC」というMOOC普及のコミュニティを立ち上げ代表をつとめている。「テクノロジーの進歩で、自分の学びを自分でコーディネイトできる時代が到来している」と表現した佐藤さん自身が、自らの学びを選び取って自分の道を切り拓いているところだ。

西林咲音さん~教育×Weakness

西林咲音さん

中学2年生で初めてプログラグラミングと出会った西林咲音さんは、現在高校3年生で既に3本のiOSアプリを公開し、合わせて1万5000ダウンロードという実績のあるアプリ開発者だ。高校1、2年生(2016年、2017年)連続でアプリ甲子園の全国大会に進み、ファイナリスト10名に選出されている。高校3年生の2018年には第23回国際女性ビジネス会議に最年少で登壇し、女性の高校生プログラマーとして注目されている。

西林さんは「短所を長所に変えよう」と呼びかける。短所は発想の転換で長所に変えられるものもある。そこに気付いて変える努力をしようというのだ。西林さんの場合、偏頭痛の持病がありネガティブに捉えていたのだが、プログラミングと出会いそれをプラスの原動力にした。当事者だからこそわかる視点で、持病のある人が手軽に症状を記録できるアプリ「Calm」を開発したのだ。

西林さんがもう1つ強調したのは「チャンスをつかむ」ということだ。チャンスは突然やってきて、不安だしリスクもあるから手放してしまいそうになる。でも、もし自分に見合わないと思ってもまずは「OK」と言うことが大切だと西林さんは言う。その上で努力すれば良い。「チャンスをつかむか、つかまないかを、周りに流されず自分が選ぶことで、自信と責任が生まれる」というのは、いくつもの選択をして前に進んだ、西林さんならではの説得力のある主張だ。

「案外普通の高校生」で、休みの日は友達と出かけたり、テレビを見たりして過ごしているという西林さんは、4月からは大学生。きっと新しい仲間と刺激し合い更なる飛躍を見せてくれるだろう。

山内奏人さん~教育×Entrepreneur

山内奏人さん

昨年リリースと同時に大きな反響を呼んだ個人のレシートを買い取るサービス「ONE」を創り出した、ワンファイナンシャル株式会社CEOの山内奏人さんは高校3年生。その経歴は、大人の起業家の人生を2分の1に早回しして見せられているようだ。

小学6年生で中高生国際Rubyプログラミングコンテスト2012のU-15部門で最優秀賞を受賞。中学生でエンジニアとして様々な会社の仕事に関わり、高校1年生で起業した。そこからは起業家として3年間で3つの事業を手がけ、この「ONE」が4つめの事業だ。実は3つの事業は既に閉じていて、トラブルも都度経験してきている。

山内さんは、小学生になった頃は変化が怖いと思っていたと言うが、今は変化の激しい日々を乗りこなしている。「先のことはわからないのだから今を楽しもう」と呼びかける山内さんは、楽しい場所には「非日常」の体験があり、その「非日常」を創り出す仕事をしたいと思っているそうだ。

例えば、単なる紙切れがお金に替わると思わせる「ONE」のサービスには、当初多くの人が驚きや不思議さを感じたのではないだろうか。山内さんは、魔法使いが杖を使うようにテクノロジーを使って「魔法を社会に実装したい」と語る。

次々に生まれるアイディアを面白いと感じ、やってみたいと思う人達は、年齢を問わずきっと他にもたくさんいる。ただ、それを本当にやってみてしまうのかどうかが大きな違いだ。たいていの人は、アイディアはあっても実際にやってみることはない。山内さんの、誰よりもそのアイディアを面白がり、自ら前に進んで実現する力と、失敗をしてもどんどん前に進む力は、とても力強い。

また、山内さんの場合、自らにエンジニア経験がありアイディアに技術の骨組みを見通せることが強みだ。きっと世の中にインパクトを与えるアイディアをこれからも形にして送り出していくだろう。

中島芭旺さん~教育×Philosophy

中島芭旺さん

中学1年生の中島芭旺さんは、小学3年生で学校に行かないことを選び、自宅学習をしながら書き続けた文章が書籍「見てる、知ってる、考えてる」になり、小学5年生の時に出版された。10才が紡ぎ出す言葉に注目が集まり、国内で17万部のベストセラーとなっただけでなく、世界7カ国で翻訳、出版されている。「小さなからだの哲学者」と呼ばれることもあるそうだ。

中島さんが本を書こうと思ったのは、小学生がお金を稼いでも良いと知ったことと、「自分の経験が商品になる」という言葉に出会ったのがきっかけだという。そこで中島さんは本当に動いた。これは当日語られたことではないが、編集者に自ら連絡を取ってしまったというエピソードが知られている。

中島さんは、10才で本を書いたことを驚かれることが多いが、「まず『やってみる』だけのこと」だと強調する。準備や体裁などは横に置いて、まず「やってみる」。不安だったり、面倒だったり、やらない理由はいくらでもあるものの、今はインターネットがあるので、テクノロジーの力でたいていのことはできるという主張は、それを実行した中島さんから聞くと説得力を持つ。

「やってみるだけ」というメッセージは10代には勇気となり、その難しさを実感している大人には重く響くだろう。

中馬慎之祐さん~教育×Global

中馬慎之祐さん

中馬慎之祐さんは現在シンガポールのインターナショナルスクールのG9(中学3年生)に在籍している。小学6年生でアプリ甲子園2015最年少優勝、U-22プログラミング・コンテスト2015で経済産業大臣賞を受賞、さらにアプリ甲子園2018で準優勝するなどアプリ開発の受賞歴が華々しい。自身の食物アレルギーから着想を得た「Allergy」など、既に2つのiOSアプリをリリースしている。

日本で生活してきた中馬さんの「分岐点」は、シンガポールへの留学を決めたことだ。中学2年生(2017年)で孫正義育英財団の1期生に選ばれ、留学の選択肢ができた。日本での安定した環境から離れることや、英語の不安などから、決断には戸惑いもあったが、結果的に留学を選択したのは大成功だったという。

中馬さんが通うCanadian International School Singapore Lakeside Campusは、国際バカロレアの教育プログラムを実施している。また、テクノロジーが存分に活用されていて、教科書類はデジタルデータ、各種ドキュメントはGoogle系のアプリケーションで作り、Google Driveでデータは管理、学校とはメールでやりとりするといったスタイルが学校の日常だ。

パソコンをフル活用できるこのスタイルは、中馬さんが英語力のハンデをカバーするのにも大いに役立った。授業を受けながらリアルタイムでわからない言葉を調べたり、教科書を翻訳にかけてざっと大意をつかんだりもできる。愛用のMacを学校の99%で使っているという中馬さんは、「紙と鉛筆の時代だったら挫折していた」と語る。

教育内容も日本とは全く違う。検索すればわかることは覚える必要はないという教育方針で、むしろ情報の信憑性を判断する力が求められる。自分で調べた信用できる情報を元に、自分で仮説を立て、調査し、実験してレポートを書くという学習がほぼ全ての教科で繰り返されるそうだ。謎解きゲームをしているような気持ちになり、それまで嫌いだった教科も好きになるほどの体験をしている。

日本の学校では、1つの正解を出すために答えを覚える学習をしていたので、あまりの違いに最初は戸惑ったそうだが、今シンガポールの学校で求められている学び方は、アプリ開発でやってきたアプローチとよく似ていると気付いたという。日本で身につけてきたことがシンガポールに来ても通用しているわけで、結局は「自分の力が重要」だと実感しているそうだ。

テクノロジーに長けていること、英語ができること、海外に出ることが成功につながるのではない。それらはツールや舞台であって、大切なのは自分自身の力だ、と中馬さんは主張した。

6名に共通するポイント~千代田まどか氏

千代田まどか氏

イベントの冒頭で基調講演に立った千代田まどか(ちょまど)氏は、マイクロソフトのエンジニアで、マンガ家としても活躍する。自身の経歴も「分岐点」に満ちている千代田氏は、今回のプレゼンター6名に共通する要素でもあるとして、3つのメッセージを会場に伝えた。

『あなたの人生です』~日本は会社が人のキャリアを決めようとする傾向があります。でも、決めるのはあなただし、あなたの人生に責任を持てるのはあなただけです。

『Follow your heart.』~あなたの情熱に従ってください。

『アウトプットしよう』~自分が作ったものはどんどんアウトプットしてください。そこから自分の人生が切り開かれることがあります。

6名のトップランナー達の実績だけを見てしまうと、「とても真似できない」とか「すごすぎて参考にできない」、と思う人もいるだろう。でも、千代田氏が示したポイントや6名の主張は、実は誰もが勇気を出せば真似できる。もちろん環境に左右される側面はあるとしても、自分とは次元の違う話だとは思わないで欲しい。

教育に1つの理想の形があるわけではない

今回のイベントでは、自分で強いこだわりをもって頭を1つ上に出した若い人が、トップランナーとして見いだされチャンスをつかむという構図が示された。6名のうち4名(佐藤さん、山内さん、中島さん、中馬さん)が孫正義育英財団の財団生としての支援を受けている。

これまでのトップと言えば、力強い指導者の下でたゆまぬ努力をして、規定の枠の中で結果を出すというイメージが強いが、そうしたモデルは皆無だ。新しい構図が示された意義は大きい。

「教育」が1つのキーワードとなったイベントだが、プレゼンター6名の学校への思いは様々だ。学校に適応して楽しく有意義にプラスの力をもらって過ごした人もいれば、それとは正反対の思いで過ごした人もいる。そんな彼らが口をそろえて言ったのは「選べた方がいい」ということだ。誰にでも合う学校とか教育方針というのはないから、様々な選択肢があり、どれを選んでもいいという空気が必要だという声が上がった。学校や教育の形も1つの理想形があるわけではない、というのが彼らのリアルな実感だ。

様々な選択肢があり、どれを選んでもいい、という空気が必要だと語るトップランナー達

私たち大人は子ども達に多様な選択肢を提示できているのか? 身の回りの多様性に寛容か? 大人として子どもの「分岐点」に接した際にどう寄り添うのか? 自分自身の生き方はどうか? そんなことを様々に考えさせられる時間となった。

狩野さやか

株式会社Studio947のデザイナー・ライター。ウェブサイトやアプリのデザイン・制作、技術書籍の執筆に携わる。自社で「知りたい!プログラミングツール図鑑」「ICT toolbox」を運営し、子ども向けプログラミングやICT教育について情報発信している。