こどもとIT

大学の研究室に子ども達の学び場を作る、STEM教育の実践研究発表会

――「ロボットと未来研究会 第33期最終発表会」レポート

2018年9月22日、埼玉大学STEM教育研究センターにて「ロボットと未来研究会」で学ぶ子ども達の半年間の成果を発表する「ロボットと未来研究会 第33期最終発表会」が開催された。

「ロボットと未来研究会」とは、子ども達が15回(半年間)の活動を通して、ロボットやプログラミングを学ぶという、2002年より埼玉大学STEM教育研究センターが行っているSTEM教育の実践研究活動だ。子ども達は自分のテーマにそって埼玉大学教育学部の学生や学内のモノ作り系のサークルなどのサポートを受けながら学習を進めることができるのが特徴だ。また「ロボットと未来研究会」では子ども達への教育だけではなく、STEM教材、カリキュラムの開発、指導法の研究、STEM教育、プログラミング教育の指導者やそうした教育においてリーダーシップを取れる教員の育成にも力を入れるなど、その活動は多岐に渡っている。

「ロボットと未来研究会」のカリキュラムには入門コースと研究コースがある。入門コースは初心者向けのコースで15回の活動を通して、ロボットの組み立て方やプログラミングの基本的な技術を学ぶことができる。入門コースでは、Scratchを使ったプログラミングの基礎を学ぶ「ゲームクリエーターコース」、垂直のテープを登る宇宙エレベーターを組み立てる「宇宙エレベーターコース」、STEM教育センターのオリジナルコントロールボード「STEM Du」とレゴを使ってロボットを組み立てる「レゴロボット(ロボみらセット)コース」、LEGO Mindstorms EV3を使って、ロボットの作成とプログラミングを行う「レゴロボットEV3コース」、プラダン(プラスチックダンボール)でオリジナルのロボットを作る「プラダンコース」、コマ撮りの技術を使って、映像コンテンツを作る「映像クリエイターコース」、年長(5歳)・年中(4歳)向けのもの作りコース「KIDSエクスプローラーコース」の7つが開講されている。

さらに、研究コースは子ども達が自分のテーマを持って研究に取り組むためのコースで、ほかにはない「ロボットと未来研究会」の特徴でもある。研究コースでは決められた課題が与えられるのではない。自分の身の回りから問題を見つけ、自分なりの解決方法を考え、問題の解決方法を探っていく。子ども達はじっくりと時間をかけて自分のペースで研究に取り組むことができるコースだ。入門コースで基本を覚えたら終了というわけではなく、その先への取り組みともいえる。基本を学んだ子ども達が、さらに自分の知識を広げたいと思ったときや、もっと高度なことをやりたいと思ったときでも、研究コースに進めばテーマを掘り下げた研究ができるようになっているのが嬉しい試みだといえる。

STEM教育センターで開発された制御ボード「STEM Du」。赤外線やコンパスなどのセンサーを接続可能で、モーターなどの制御もできる。ソフトウェアの開発は「Arduino IDE with ArduBlock for STEM Du」や「Scratch 1.4 for STEM Du」の利用が可能

第33期の発表会は、埼玉大学 教育学部 心理・教育実践学講座 准教授でSTEM教育センター 代表の野村泰朗氏の話でスタートした。

埼玉大学 教育学部 心理・教育実践学講座 准教授でSTEM教育センター 代表の野村泰朗氏

野村氏は、「ロボットと未来研究会は今年で17年目であるが、17年前はプログラミング教育もSTEM教育もなかった」と話しはじめた。

これからの教育は「ただ頭で考えるだけではだめで、自分で手を動かして実際にモノを作ることが大切である」と説き、それが「ロボットと未来研究会」が目指していることだと語った。2020年には小学校でプログラミング教育が必修化される。現在は、プログラミング教育を行うに際し、プログラミング言語を学ぶことや論理的思考という考え方のみが先行しすぎて、現実の世界を意識したもの作りの視点が欠けているのではないかという警鐘ともいえるものである。

野村氏は「ロボットと未来研究会」の子ども達を対象に8月に開催した、1日完結でチームを組んでテーマに沿ったものつくりに挑戦する「子どもハッカソン」にも言及した。野村氏は「ハッカソンでは、今まで学んできたことを使って新しい課題に挑戦しましょうといった瞬間に、ロボットと未来研究会で学んできた子ども達でさえも、学んできたことをうまく相手に伝えることができないケースもあった」と話し、そうした経験から「頭で考えることや、実際にモノを作る経験はもちろんのこと、社会や周囲に対して自分自身のことや自分が学んできたことを表現したり、情報を発信したりする能力も必要である」と述べた。

また、「現在の教育の姿は未来には変わるのではないか。教科書に書いてあるとおりのことを覚えるだけでは社会には通用しない。今までに出会ったことがない課題に対して、どん欲に食い下がって問題解決ができる子ども達が必要だ」と述べ、モノ作りには正解は存在せず、誰も解決したことのない問題にもチャレンジしていく必要がある。正解が存在しない中で、いかに自分なりに課題をこなせるようになるのか、大人が手助けをしなくてもできるような子ども達を育てていきたい、と締めくくった。

子どもらしい発想の研究、技術的に優れたものなど多彩な成果をプレゼンテーション

発表会の様子。子ども達それぞれにはブースが与えられ、自分の研究成果をほかの子ども達や来場の大人にプレゼンテーションをする。一生懸命にプレゼンテーションをする子ども達の姿がとても印象的だった

発表会は、午前と午後の両方で計6つのセッションで行われ、約130人の子ども達が、ほかの子ども達や来場していた大人に自分の研究成果をアピールする形式で行われた。なお、ここではすべての子ども達の成果を紹介したいところだが、特に印象的だったものや、発展性が感じられるもの、子どもらしい視点のもの、技術的に非常に優れているものを中心に紹介したい。

レゴブロックとモーターをSTEM Duで制御するバイク(入門コース)

サウンドセンサーを搭載していて、手をたたいて音を鳴らすと動き、もう一度音を鳴らすと止まるようになっている。「4輪駆動ではないため、バランスをとるのが難しかった」、「いつか曲がれるようにしてみたい」と語ってくれた。

レゴで作成されたオリジナルの宇宙エレベーター(入門コース)

モーターに小さいギア、タイヤに小さいギアを使うことで力強く登れるようにしたとのこと。ガイドをつけ、ベルトから外れないように工夫したとのこと。今後は、エレベーターが上るときは早く登り、下るときはゆっくり降りるように改良したいと話していた。

めざましロボット(入門コース)

カーテンを開け閉めするのが面倒だったのがロボット作成の動機になったそうだ。LEGO Mindstorms EV3でロボットを作り、ロボットの動作と停止をプログラムでコントロールしている。カーテンの開け閉めにはカラーセンサーを使い判断しているそうだ。カーテンを閉めるときにロボットが落ちそうになることがあるが、ガイドを工夫して解決したとのこと。LEGO Mindstorms EV3はこの研究で初めて使ったそうだ。

ライオンやお化けなどから侵略されないようにネコを守るアクションゲーム(入門コース)

画面上に表示されているネコをライオン、コウモリやお化けなどから侵略されないようにキーボードを操作してネコを守るアクションゲーム。Scratchで作られている。ゲーム内でお金をためて、ライフや剣など作りネコを守ることができるほか、ネコを強くできるのがゲームとして面白い。一番難しかったところは、変数で、変数に格納された値を調整するのが難しかったそうだ。また、敵のキャラクターを工夫して、敵を強そうに見せるのに苦労したとのことだった。

レゴを使った「海の戦車」(入門コース)

海の中を走る戦車をイメージして作った研究成果。モーターとギアを使い、タイヤとスクリューが連動して動くようになっている。左右に2つモーターがついていて、それぞれ独立して動作する。そのため、前進、後退だけではなく、左右に方向転換もできる。ロボット本体に制御ボード(STEM Du)をうまく固定するのに苦労したそうだ。ロボットはパソコンに接続してキーボードで操作する。ロボット操作のための制御にはScratchを使っていた。発表会では、タイヤとギアの組み合わせの調整が上手くいかなかったが、教育学部の学生さん達と、その場で話し合いながら改良している姿が印象的だった。次は、ちゃんと水の中でも動くものを作りたいと話していた。

プラダンで作成した箱のふたが自動で開閉するロボット(入門コース)

ふたに糸を取り付け、それをモーターで巻き上げたりゆるめたりすることで、ふたの開閉をすることができる。「ふたの開け閉めに糸を使うのはすぐに思いついたの?」と聞いてみると、いろいろな方法を試してみて今の形にしたと話してくれた。モーターをSTEM Duで制御するプログラムをArduinoで作成していて、ふたの開け閉めをするときに、ひもを巻き上げすぎないように工夫したとのことだった。「工作とプログラミングはどっちが好き?」と聞くと、笑いながら工作が好きと言い、プログラミングは難しいけど面白いと答えてくれた。次は、自動で荷物を運ぶ台車を作りたいとのことだった。

ごみを掃除するロボット「くるくるごみとりくん」(入門コース)

車軸についている板状のプラダンが回転して移動しながらゴミをかき集めるロボットだ。車を転がすとゴミを掃除してくれるおもちゃを参考に作ったとのことだった。ロボットを制御するプログラムは完成したが、残念ながらロボットはうまく動作しなかったとのことだった。今後は、センサーを使って、触ると動くようにしたり、明るさを表示したりすることもできるようにしたいと言っていた。難しかったことを聞いてみると、クルマの形を決めるところから作っていったので、可動部分のメカニズムや基板をうまく内部に収めるのが大変だったと語ってくれた。

プラダンで作成した「どろぼうをたいじするロボット」(入門コース)

ロボットを起動すると、ロボットの手が前後に往復して相手を威嚇する。STEM DuのプログラムをArduinoで作成し、一定の時間(ミリ秒)ごとにモーターの回転方向を変えている。ミニオンのキャラクターをモデルに作ったとのことだった。次は、ロボットをしゃべらせることや足を作ってみたいと話してくれた。

おじいさんが魔法でロボットと戦う「こまっている人をたすけるゲーム」(入門コース)

おじいさんが持っている競馬の当選馬券を取ろうとするロボットと戦うという、なんだかとても設定が面白いゲームだ。スペースキーを押すと矢が発射され、ロボットが矢にあたると故障してしまうというゲーム内容。キャラクターの動きなどのタイミングを調整するのが難しかったとのことだ。「プログラムを作っているときに一番大変だったのはどんなところだった?」と質問するとScratchプログラムのメッセージ機能を理解するのが難しかったと話してくれた(メッセージは、スプライトやステージなど、違うプログラムの間でいろいろな情報をやりとりする仕組み)。さらには、難しいことを理解するのは楽しいし、もっとたくさんのプログラムを作りたくなる、と非常に頼もしい言葉を聞くことができたのが印象的だった。

人工筋肉の研究(研究コース)

レゴで作成した骨格に人工筋肉を取りつけ関節をなめらかに動けるようにした。今までは、ひもやゴムなどを使って二足歩行ロボットを作っていたが、動作がカクつくことが多かったため、人工筋肉について調べて実際に自分で作ってみたとのことだった。ジップロックのエアーバッグに蛇腹状の板を入れて、あらかじめ空気を入れておく。空気を抜くことで筋肉全体が収縮する仕組みになっている。MITとハーバード大学の研究を参考にしたとのことで、人工筋肉について詳細に調べたノートを見せてもらうことができた。

フルスクラッチで作ったR2-D2(研究コース)

「キュィーン」と甲高い音とともに起動する。R2-D2のような感じになるように音源の周波数を調整したそうだ。このロボットは非常に多機能で、ロボットの下にあるモーターでロボットを動かすことができる。また、頭部のレンズの後ろにはスマホが格納され、スマホの映像をレンズ越しに投影することができるというまさにR2-D2さながらの機能を持つ。レンズ越しに投影するのでスマホを逆さにして、投影する映像の焦点距離は試行錯誤して決めたとのことだ。次は植物を育てるための水やりロボットを作りたいと言っていた。

プラダンで作成した四足歩行ロボット(研究コース)

自然の多くの生き物を見ると2足歩行よりも4足歩行が多いので、4足歩行の方が簡単なのではないかと思い作ったという。ロボットを作るときに、足の長さのバランスがおかしいと動かなくなったり、ロボットの強度が弱いとつぶれたりしてしまう。失敗してもどこがおかしかったのかを考えて、もう一度やってみることが大切だと話していた。その結果、ダメなところは自分で解決ができるようになったという。ロボットの足を二重にして強度を高め、ロボットをささえるガイドを取り付け、スムーズに歩けるように工夫したとのことだ。いずれは、2足歩行のロボットも作ってみたいと言っていた。

LEGO Mindstorms EV3を使った「オムニホイールを使った探査機」(研究コース)

将来、人間が地球に住めなくなったとき、ほかの惑星への移住が可能かの調査をするための探査機を作りたいと思い、このロボットを作ったとのことだ。オムニホイールは、車輪の円周方向にローラーが付いたホイールで、前後だけではなく左右稼働可能で車軸を動かさずに全方向への移動ができるもの。このオムニホイールを探査機に利用したのがこの研究成果だ。レゴのパーツだけでオムニホイールを作るがすごく大変だったという。現実のロケットで探査機を打ち上げるには非常にコストがかかるため、もっと工夫して軽量化していきたいと話してくれた。

FLL(First LEGO League)ベースロボット(研究コース)

FLL(First LEGO League)と呼ばれる国際的なロボットコンテストに出場するための発表。FLLのロボット競技は、ベースロボットと呼ばれる自律型のロボットと、それぞれのミッションを攻略するための着脱式のアタッチメントで構成されるのが基本となっている。この研究は、ベースロボットと呼ばれるFLLのロボット競技の基本ともいえるもの。世界で戦えるベースロボットにするために、YouTubeなどを参考に500点以上のスコアを獲得したロボットを参考にしたとのことだ。より多くのアタッチメントを付けることができるようにしたほか、メインプログラムを二重化して、大会中に異常が発生してもすぐに元の復帰できるように工夫したとのことだった。

LEGO Mindstorms EV3を使った宇宙エレベーター(研究コース)

ロボット全体の強度を高めつつ、軽量化するのが大変だったという。タイヤの部分も、ギアを使ってスムーズに昇降ができるように工夫されている。実際にロボットを昇降させると、非常にスムーズにかつ力強く動作していた。

午前と午後の発表会が終了したあとに、子ども研究員達に終了証が授与された。

“教えてもらう学び”と“やってみる学び”

発表会のすべての過程が終了してから、目白大学 学長付助教で埼玉大学 STEM教育センター 客員研究員の峯村恒平氏による総評が会場の子ども達に対して行われた。

目白大学 学長付助教で埼玉大学 STEM教育センター 客員研究員の峯村恒平氏

峯村氏は、子ども達に対して「“教えてもらう学び”と“やってみる学び”はどう違うのだろうということを、あらためて考えてほしい」と問いかけ、“教えてもらう学び”と“やってみる学び”の違いを説明した。

“教えてもらう学び”は、「教えてもらったことを覚える必要がある。知りたいことだけではなく、興味がなくても授業が進んでいく、自分が好きなことだけではなく、嫌いなことや興味がないことも勉強しなければならない」と説明。

もう一方の“やってみる学び”は、「失敗もできないこともあるけれど、自分でどうしたらいいのだろうかと考えなければならない。自分が考えたことは自分の学びになる。失敗したことも成功したことも、わざわざ勉強しなくても経験として身につけることができる」と述べ、「“やってみる学び”は自分で始まって自分で終わる。やってみたことを自分でもう一度振り返ることができる」と話した。

「いわば、“やってみる学び”は“次の自分につなげる学び”であり、“やってみた”ということが自分にとってどんな経験になったのか、人にとってどのように役に立つのかを考えるのが大切。“やってみる学び”は自分の言葉で考えながら、さらに次の自分につなげていくことができる」と語った。

峯村氏は最後に、「今日の発表を観て、そういうことができる子ども達が多かった。この活動の中で、教えてもらうだけではなく、自分自身がどんなことを考えて、どんな風に生かせたかといったことを、帰ってから考えてみることが、もっと良い学びにつながっていくのではないか」と参加者に問いかけ、総評を締めくくった。

今回の発表会に出品された研究成果群を見て子ども達の話を聞くと、例外なくどの子も「完成したからここで終わり」や「失敗したからここで終了」ではなく、「次にやりたいこと」、「動かなかったから、次は動くようにしたい」と、次のステップを考えているのが非常に印象的だった。宇宙を題材にした研究も多かったが、ただ自分の夢を追うだけではなく、ロボットを軽量化するなど現実的な工夫をすることも考えているのもまた非常に素晴らしかった。

そんな子ども達の話を聞いていると、まるで飽くなき探究心に溢れる開発現場のドキュメンタリーを見ているかのような、そんな感動を覚える内容だったということを付け加えておきたい。

広野忠敏

プログラマ、テクニカルライター。デジタルガジェット、プログラミング、IT全般のテクノロジーに詳しい。主な著書は「できる パソコンで楽しむマインクラフト プログラミング入門 Microsoft MakeCode for Minecraft対応」、「できるWindows 10 パーフェクトブック 困った! &便利ワザ大全」、「できるAccess 2016 Windows 10/8.1/7対応」(インプレス刊)など多数。