Edvation x Summit 2018レポート

FutureHack Global共同創設者が語る自己学習と“TechEd”、「We need more TechEd and less EdTech」

――EdTechの未来と取り組みの今を知る「Edvation×Summit 2018 Day2」レポート

「Edvation×Summit 2018」は、デジタルテクノロジーによる教育のイノベーションに取り組む事例を持ち寄り、展示会やワークショップ、講演やパネルディスカッションを実施する教育イノベーターの大型イベントだ。一般社団法人教育イノベーション協議会が主催し、「新しい教育の選択肢を提示し、既成概念にとらわれない教育イノベーターを生み出すこと」を目的として、紀尾井カンファレンス・千代田区立麹町中学校の2会場で2018年11月4日~5日の2日間にわたって実施された。2018年度の教育イノベーションのまとめと振り返りの意味を込めて、本イベントの講演とパネルディスカッションから特に興味深かったものをピックアップしてレポートする。

ウォールストリートで20年以上仕事をし、二つの投資会社を創業・売却。現在教育系に取り組んでいるJoseph Jeong氏の講演。新しいテクノロジーを使って従来と同じ内容を教えるEdTechではなく、新しい技術を使って新しいテクノロジーを教える“TechEd”が必要だと語った。

Joseph Jeong氏による講演「We need more TechEd and less EdTech」

幼少期に家族が中国からアメリカに移住したというJoseph Jeong氏。ニューヨークの郊外で家族が経営するレストランには成功者たちが数多く来たといい、「皆ウォールストリートで働いていると答えた」という。そこで、16歳のときその成功者の生活にあこがれて「ウォールストリートで投資会社を作る」ことを目標設定。お店に通うエキスパートたちに意見をもらいながら、毎日1時間MBCを視聴し、ウォールストリートジャーナルを読み、投資に関する本を読み、自身でチャートを書くなどカリキュラムを作っていったという。「インターネットがない時代でも、昔から自らやりたいと思えば無料で自己学習はできたということがポイント」だと語った。

FutureHack Global創業者 Joseph Jeong氏

これに関連して、「教育とはだれかからなされるものであり、学習とは自分で自分自身のためにすること」というMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏の言葉を紹介。「学習に対して熱意を持っていれば常に学ぶことができる」とし、「まずは情熱を見つけて意欲的に学ぶこと。そうすれば10倍、100倍速く学ぶことができる。人は自分が重要ではないと思ったことは覚えられないようにプログラミングされているからだ」と説いた。

そして、「“EdTech”は、教師主体の昔からあるカリキュラムに新しい技術を使っているだけ。AIや遺伝子学など、教える内容も新しくすべき」と指摘。「熱意を持った学習には、自動で何十倍も効率良く学ぶための起爆剤がある。革新的なカリキュラムを通して、起業家精神を育てるべき」と語る。

また、「日本は多くの特許を生み出しているが、ユニコーン企業が少ないのはなぜか」を問い、特許を取ってもビジネスかしなければ意味がないと説明。イノベーションを起こすことが、日本の知的財産を商業化するためにも必要だと語った。

各国の特許の数を比べると日本は非常に多い
しかしそれを生かすようなユニコーン企業が少ないと指摘

Joseph Jeong氏の定義する“TechEd(Technology Education Solutions)”を実践する提供サービスには、起業家精神を学ぶ13歳以上向けの「FutureHack」、15~35歳向けの学習のプラットフォーム「EXLskills」、25~55歳向けの専門家向けコミュニティサイト「skills matter」などがある。

Joseph Jeong氏の運営する、デジタルエイジを力づける“TechEd”関連のサービス

このうちFutureHackは、毎年MITやハーバードでプログラムを開催しており、2018年度も20カ国以上から60人の学生が集まったという。まず自分の「得意なこと」や「情熱を持っていること」が何かを理解し、「IKIGAI(生きがい)」を認識して生産的な人生を歩むことを学習。さらに、これから伸びる「AI」や「バイオナノテクノロジー」「IoT」「ブロックチェーン」など様々なテクノロジーに、それぞれ5%ぐらいに触れられるように解説するという。これは好奇心を刺激することが目的で、残りは自分で探求していく。100%を教える必要はなく、それを活用する方法を教えるのだと説明した。

FutureHackではまず自分の「IKIGAI(生きがい)」を理解するところから始める

こうして「自分の強み」と「最新技術」を知ったら、今度は起業家精神やリーダーシップなど「ライフスキル」を学んでいく。このFutureHackで出たアイデアの中には、例えばアリの巣に着想した「コンセントのないエアコン」など、独創的なアイデアが多数あったと紹介。東京でも「ヒーローメーカーズ」という名称で同様のプログラムを経産省協賛の元開催しており、学生たちはそれぞれ「日本の教育制度の改革」についての解決策を示したという。

FutureHackではメンバー構成もグローバル。「コンセントのないエアコン」など、独創的なアイデアが多数あったと紹介

この東京開催では60人の生徒と50人の教師が混ざってグループに分けされ、それぞれのグループで日本の教育制度を変えるための方法を考えたとのこと。生徒と教師が混じって一緒にワークショップを行ったのはFutureHackでも始めてのことだったという。こうしたFutureHackが作る学習者の将来像は、「自発的な学び」「先生の主導権を奪う」「疑問を元にした学び」「プロジェクトを元にした学び」「自尊心の確立」などであるとした。

FutureHackが作る学習者の将来像は、「自己学習」「疑問を元にした学び」「自尊心の確立」などであると説明

また、15~35歳向けにPythonやJavaなどプログラミング言語を中心に無料学習コンテンツを提供しているプラットフォーム「EXLskills」を紹介、今コーディングを学ぶ理由として「今後ほとんどの仕事がコーディングにかかわる必要が出てくるため」と指摘。「ほとんどの人は、数学者になるためではなく、日々の生活に生かすために数学を学んでいる。同じように今後はコーディングの知識が必要になる」と語った。

情報科学系の仕事のニーズに対して、それを学ぶ学生が圧倒的に少なすぎると指摘
金融系の職種でも、すでに半分近くがIT系の知識が必要

Joseph Jeong氏は講演の結びとして「今後も早期教育と新しい技術のカリキュラムを提供し、教育界に大きな変化を実現させていきましょう」と会場に訴えた。

赤池淳子

1973年東京都生まれ。IT系出版社を経て編集者兼フリーライターに。雑誌やWeb媒体での執筆・編集を行なっている。Watchシリーズでは以前、西村敦子のペンネームで執筆。デジタルカメラ、旅行関連、家電、コミュニティや地域作り、子どものプログラミング教育などを追いかけている。