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次期学習指導要領実践のためのICT製品選択が始まる

アクティブ・アダプティブ・アシスティブの観点で見た教育ITソリューションEXPO

日本最大の教育専門展「教育ITソリューションEXPO」(以下、EDIX)が、5月17日から19日の3日間、東京ビックサイトで開催された。第8回目となる今年は、前年に比べて180社増加の800社が出展。3日間の来場者は3万人を超えた。

今年のEDIXの動向としては、2020年度から実施される次期学習指導要領の先行実施が来年度から始まることを受け、来場者の関心が具体的な製品選択の段階にきていることだ。大学入試改革、アクティブ・ラーニングの導入、小学校における英語教育やプログラミング教育の必修化など、新しい内容が多く盛り込まれた次期学習指導要領を実践していくためには、どのようなICT環境を整備すべきなのか。関係者らの動きも活発になりつつある。

一方で、教員の長時間労働や団塊世代の大量退職、地域間における教育格差など教育機関が抱える課題は、社会問題としてクローズアップされるようになり、解決に向けた対応も迫られている。その手段のひとつとしてICT活用に関心を寄せる関係者らも増えてきた。

では、どのようなICT製品が今の教育現場で求められているのか。EDIXのレポートとともに昨今の教育ICTの動向を整理しよう。

次期学習指導要領の要、アクティブ・ラーニングを実践するICT製品

次期学習指導要領では、思考力・判断力・表現力の育成を目指した「主体的・対話的で深い学び」いわゆるアクティブ・ラーニングを重要視している。これらの能力を育成する手段のひとつとして、タブレット導入などのICT環境整備を進める教育機関も少なくない。

なかでもアクティブ・ラーニングで需要が高いのは、手書き機能が充実した授業支援システムだ。与えられた課題に対してグループで調べたり、調べた内容を発表スライドやデジタルポスターなどにまとめるアウトプット型の学習活動は、タブレット導入校でも既にアクティブ・ラーニングの事例として数多く実施されている。こうした学習を実現するためには、タイピングスキルが未熟な学習者も考慮しなければならず、手書き機能は欠かせない。

東芝のデジタルノート共有アプリケーション「dynaSchool TruNote Classroom」は、グループのメンバーが同時に書き込み、リアルタイムで共有できる。教師は学習者が書く様子を手元のタブレットで確認しながら、必要に応じて特定のグループや学習者に指導をすることも可能だ。

dynaSchool TruNote Classroomの画面

ほかにも、レノボジャパンのブースでは2in1タブレット「YOGA BOOK with Windows」とクラウド型の協働学習支援ツール「schoolTakt」を用いたアクティブ・ラーニングを紹介した。YOGABOOKはスクリーン上で手書き入力ができるほか、プリントやノートにも付属のリアルペンで書き込めば、書いた文字がスクリーン上に表示される。学習者は紙に書く感覚で、デジタル編集の良さが活かせるため、より表現豊かなアクティブ・ラーニングへ広げることも可能だ。

YOGABOOKのスクリーン上からschoolTaktに手書き入力。
付属のリアルペンを使って、ノートに書き込みながら入力することも可能。

充実した個別学習が提供できるアダプティブ・ラーニング

タブレットが一人1台環境で使用できる教育機関を中心に関心が高まっているのが、学習者の習熟度に応じて学習内容を提供できるアダプティブ・ラーニング(適応学習)だ。例えば、タブレットが整備された公立小中学校などでは、朝学習などの隙間時間を利用して学習者の理解度に応じたデジタルドリル教材に取り組む事例も見られるようになった。また、BYODを実施する私立の中高一貫校や塾などでは、家庭学習や個別学習を充実させる手段のひとつとしてアダプティブ・ラーニングを取り入れる動きもある。いずれにしても、苦手分野の克服や学年を遡って学び直しができるなど、学習者のレベルに合った教材提供が可能であることがメリットだ。

Z会が提供するのは、アダプティブ・ラーニングを用いたオンラインアカデミー「Asteria(アステリア)」だ。同サービスで受講できる「数学新系統講座」では、米国Knewton社のアダプティブエンジンを搭載した学習システムで学ぶことができる。

アダプティブ・ラーニングを用いたZ会のAsteria
Asteriaで受講可能な数学新系統講座の画面

具体的には、動画で基礎知識を理解し、そのあとで問題演習に取り組むのだが、この一連の学習に対してアダプティブ・ラーニングが採用されている。学習者が解いた問題演習の結果をデータ分析し、理解度や学力を推定。間違った問題から関連する学習要素の復習を促し、一人ひとりに最適な問題や映像を提供してくれるという。

このような学習者の習熟度に応じた教材を提供するアダプティブ・ラーニングのサービスは近年、増加傾向にある。その背景のひとつには、授業でアクティブ・ラーニングの時間を確保するために、基礎知識の習得に費やす時間を効率化する課題が浮上したことが挙げられる。これは多くの教育機関が直面する課題でもあるため、自学自習や家庭学習で取り組みやすい基礎知識の習得にICTを活かす動きは、今後さらに活発化しそうだ。

現場の課題解決につながるアシスティブなソリューション

EDIXでは、現場の課題解決に向けたICTソリューションも数多く展示された。そのひとつが、過疎地域におけるICTを活用した遠隔授業だ。文科省では現在、1学年に1学級を維持できない学校に対して統廃合を進めているが、山間部などでは児童生徒の通学距離が長くなるため負担が大きい。また過疎地域では学校が住民のコミュニティーの場として機能しているため、学校の存続を希望する声も多く、統廃合が難しい場合もある。

このような地域においては、市街地にある学校と山間部の学校を遠隔授業システムでつなぎ、教育の質を維持する取り組みが始まっている。例えば、パイオニアVCの遠隔授業ソリューション「xSync Prime Collaboration」では、 日常的に遠隔授業ができるようボタン10個のシンプルなデザインで操作性を向上させた。また山間部の学校では、児童生徒らがいかに多様な意見に触れられるかが課題であるが、同製品では複数の教室から同時書き込みや発話を可能にし、遠隔授業でもインタラクティブ性に優れたアクティブ・ラーニングが可能な学習環境を提供しているという。

xSync Prime Collaborationによる遠隔授業のデモ

ほかにも、教員の負担軽減を謳った校務支援システムが数多く展示されていた。出席情報や健康観察、成績処理など異なる情報が一元化できれば、転記作業や集計作業を効率的に行える。

近年の傾向としては、教員が教室でタブレットを使う環境を活かして、教員の端末から校務支援システムに直接アクセスして、出席情報や成績情報を入力できるサービスが増えた。例えば、株式会社エフワンが提供する「らくらく校務支援システム」もその機能を設けており、子供の頑張りや発言をその場でタブレットに記録したり、子供の成果物や実技を映像で記録できる「よいとこみつけ」をメニューに加えている。入力したデータはもちろん、成績処理時に活かすことができるという。

らくらく校務支援システムには通常Internet Explorerからアクセスするが、iPadから出席簿などを付けられるオプションも用意している

プログラミング教育は、コンピュータの中だけで完結しない教材が人気

次期学習指導要領で必修化された小学校のプログラミング教育。これを受けて今年のEDIXもプログラミング教育やSTEM教育関連の製品を展示した未来の学びゾーン「学びNEXT」は盛況だ。なかでも今年の動向は、小学校の低学年や幼児でも楽しく学べるプログラミング教材が増えたことだ。この頃の年齢層に合わせて、コンピュータの中で完結しない、手先を使って考える教材も登場した。

株式会社ワイズインテグレーションと株式会社ナチュラルスタイルは、リアルなブロックとアプリを組み合わせたプログラミング教材「ソビーゴ こどもブロックプログラミング」を展示した。

キャラクターが目的地にたどり着くまでに、どのようなプログラムを組み立てればよいのか。最初にブロックを並べて視覚的に考えながら、そのあとにアプリ内で同じプログラムを組んで実行し確認する。リアルブロックを用いて試行錯誤できることから、低年齢の子供が仲間とコミュニケーションを取りながら進めていきやすいのがメリットだ。ほかにも同セクションでは、小学校のプログラミング必修化を受けて、授業で使えるScratchの映像教材や組み立てロボットなど数多く展示されていた。

ブロックを並べて視覚的にプログラムを組み立てる
組み立てたブロックに従ってアプリでプログラムを組んで実行し確認する

2020年の次期学習指導要領を見据えて、教育関係者らの動きは今後さらに活発していくだろう。また新規参入企業も増え、教育ICTの分野はさらに拡大していくことが予測される。しかし、本当に現場で求められるICTソリューションは、そう多くはないはずだ。どの製品が教育分野で定着するのか。その行く先も注目したい。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。