FINANCE Watch
2000年証券市場回顧~ITバブル崩壊、持合い解消で下げ続けた1年(上)

  20世紀最後の年となった2000年。東京株式市場は、ITミニ・バブル相場の形成・破裂で幕を開け、持ち合い株の解消売りの顕在化や国内政治の混乱で下げ足を速めた。今年後半は、米国経済の成長鈍化懸念を背景に1990年以降のバブル後最安値をうかがう水準まで落ち込んだ。今年、株式市場で何が起こり、また東京市場がどう動いたのか、市場で取り沙汰されたいくつかのキーワードを通じて振り返る。同時にこれらが今後の日本経済、株式市場にどう影響するかを占った。

  【ITミニ・バブルが崩壊】
  ●下落率99%、“ピカツー神話”の終焉
  1999年9月、あるベンチャー企業の株式が店頭市場から東証1部市場に指定替えした。その名は光通信(9435)。携帯電話の販売を主力業務に、Eメールの配信事業や各種ベンチャー企業に投資するベンチャー・キャピタル的な要素も兼ね備えた新興企業である。

  米国でIT企業が経済全体を牽引し、未曾有の繁栄をもたらした姿と光通信の過度の成長期待をダブらせた結果、日本市場は年初からつまずくことになった。

  東証1部上場時、光通信株式は8万円前後で取引が始まった。その後、機関投資家や個人投資家の買いを集め、今年2月15日には24万1,000円まで急騰。ほかの若いIT企業も続々株式を公開・上場し、「米国と同様、IT企業が経済をけん引し景気が本格回復する」(大手証券幹部)との期待が高まった。

  が、その一方で、同社や他の新興企業の急激な株価上場に危機感を募らせる関係者も少なくなかった。「光通信は単なる携帯電話のディストリビューター(販売業者)。ハイテクでもIT銘柄でもない」(米系資産運用会社幹部)ことはアナリストの間では周知の実だったが、「株を売ってなんぼ」の日本の証券業界が「“IT相場”をテーマ営業の柱に祭り上げ、光通信株式を売りまくった」(同)。

  この間、何人かのアナリストが、同社や他のベンチャー企業の株価高騰に警鐘を鳴らしたが、営業員が個人顧客を食い物にするブルドーザー型の日本式証券営業がこれを飲み込んでしまった。個人投資家や国内の年金資金、IT銘柄を多数組み込んだ投資信託商品は、光通信株が100分の1以下まで急落したように、ITバブル崩壊で甚大な被害を被ることになった。

  なお、暴力団との関係が取り沙汰された東証マザーズ上場1号企業リキッド・オーディオ・ジャパン(4740)の前社長が、10月に逮捕監禁容疑で逮捕され、東証が慌てて上場審査の強化策を打ち出した。が、肝心の審査基準は従来通り。東証のちぐはぐな対応に批判が集中した。

  ●深手を負った個人投資家
  信用取引で一連の新興企業株を購入した個人層は「1,000万、2,000万円単位で損失を被った顧客も少なくない」(中堅証券幹部)という。富裕個人層のほか、著名スポーツ選手や政府関係の審議委員を務める高名な学者など識者までもがITバブルに踊ったのだ。

  怪しいと誰もが分かっていても、相場を煽るだけ煽ってあとは放置する、という証券会社の営業姿勢は、個人投資家の多くが「株屋」としてもっとも嫌う姿。近年、「資産管理型営業」へ転換しつつあった証券界は、目先にぶらさがったニンジンで旧来の体質に逆戻りした。光通信株式が象徴する「平成バブル相場」は、日本の証券会社が引きずる「株屋」体質を見せつけたといえる。

  一方、良し悪しは別にして、ITバブル相場は新興企業にも株式市場を通じた資金調達が機能することを示した。あとは証券界が健全な企業の目利きに徹し、株屋からの体質転換を達成すれば、ITバブルで得た今回の教訓は、証券市場の在るべき姿の基礎となろう。

  【日経平均銘柄入れの“罪”】
  ●市場の疲弊に追い打ち
  ITバブル崩壊とともに、今年前半の東京株式市場を震撼させたのが日経平均採用銘柄の入れ替え。日本経済新聞社は4月15日、平均株価を算出する225銘柄のうち、鉄鋼などの製造業、いわゆる「オールド・エコノミー産業」中心に30銘柄を除外、IT企業を柱に30銘柄を新たに算出銘柄として採用した。「産業の構造変化を的確に反映する」(日経)ことを目的に、平均株価採用銘柄は入れ替えられた。

  だが、これが結果的にITバブルの崩壊で傷んでいた株式市場を、さらに深押しさせたのは皮肉な結果だ。平均株価は、同社が入れ替えを発表する直前の2万833円21銭(4月12日)の高値を最後に、一環して下げ基調をたどることになる。

  除外された銘柄の多くが、株価が安い「中低位銘柄」だった一方、新規採用された株式のほどんどが高株価の「値がさ銘柄」だった。投資信託会社など日経平均をベンチマーク(投資指標)としてファンドを運用する機関投資家が多かったため、「除外銘柄を売り、新規採用銘柄を否応なく買わなければならない」(国内投信)機関投資家が多く、市場の需給関係を歪めてしまった。

  値がさ株は、文字通り値段が高いこともあって、除外銘柄を売るだけでは購入代金が間に合わない。必然的にその他の銘柄を売却して新規採用銘柄を購入する動きにつながった。また入れ替えの発表から、実際に運用が始まるまでの約1週間という長期間の時間が空いてしまったため、「除外・採用銘柄それぞれに確実に下がる、上がると取り沙汰されて思惑的な売買が活発化」(同)し、需給関係を一層歪めた。

  ●米ナスダック連動の悲劇も生む
  銘柄入れ替えを経た日経平均は、「過度にハイテク銘柄の比重の高い指数に豹変、米ナスダックの値動きの影響をもろに受ける指数になってしまった」(米系証券幹部)などと不満が続出。他にも大蔵省が省内資料への採用を除外するなど、株価急落局面のきっかけを作ったとして悪役扱いされた。

  また『産業の構造変化を的確に反映させる』という本来の目的が裏目に転じ、「オールド・エコノミー企業が、ITを活用してどのように効率化していくかをフォローしてこそ構造変化の反映ではないのか」(欧州系運用会社幹部)と禍根を残してしまった。

  (上下2回連載)

■URL
・当期利益62億円に~光通信の前期単独
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/25/doc816.htm
・苦悩する東証~リキッド前社長逮捕の余波
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/10/27/doc840.htm
・大手は反攻、中堅以下は3重苦~兜町に秋の陣
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/09/26/doc513.htm

(相場英雄)
2000/12/27 13:39