こどもとIT

小学校で夏休みにドローンプログラミング体験、情報科学専門学校生がボランティアで指導

2017年8月7日、横浜市立品濃小学校のキッズクラブ(学童保育)の生徒を対象に、ドローンを使った「夏休み! ロボットプログラミング体験教室」が開催された。学校法人岩崎学園 情報科学専門学校のプログラミング教室サークル「EXP.」が企画から運営までを行う。このプログラミング教室は、岩崎学園が品濃小学校のキッズクラブも運営している縁で実現したという。

会場には品濃小学校の体育館を使用、天井も高く風の影響も受けないためドローンを体験するには最適な環境と言える

機材面をソフトバンク コマース&サービスが全面協力。先日発売されたプログラミングできるドローン「Airblock」とプログラミング用のiPadが2名に1セット、計10セット用意された。1回20名のプログラミング教室を1日3回、2日間にわたって計120名の枠に対し、キッズクラブに在籍する約400名の生徒を対象に参加を募ったところ、夏休み直前にもかかわらず、すぐ定員に達してしまったというから注目度の高さがうかがえる。

2人が1組となり、AirblockとiPadとテキストが割り当てられる

現役情報系専門学校生によって組まれた、よく考えられたカリキュラム

現場に入ってまず目を見張ったのは、指導にあたる学生たちの動きだ。学生の代表が前方で指示を出しつつ、10人の学生メンターがそれぞれ2人の子どもたちを担当するため持ち場につき、記録係1人がカメラを回し、自由に動ける補助役2人が裏や表の準備を進めている。この日は朝10時から開始だったが、10分前くらいには準備をすっかり終えていた。さすがプログラミングで論理的思考が身についた学生の行動には無駄がない、とは言い過ぎかもしれないが、往々にしてこういう場には手持ち無沙汰な人間がウロウロするものだ。1人としてそのような様子の学生がいないのがとても印象的だった。

ここからは写真と動画を交えて、実際のプログラミング体験教室の様子を順に紹介していこう。

準備を終え、子どもらの来場を待機する学生たち
最初に子どもらは前に集められ、まずドローンを組み立てること、わからないことはメンターの学生に聞くことを説明されてから、2人ずつ各班に割り振られる
メンターの学生と自己紹介を交わし、ドローンを組み立てる。Airblock自体は磁石で6つのプロペラをくっつけるだけなので、初めて触る小学生でも簡単に組み立てられるようだ
ドローンを組み立て終わったら再度集合し、突如襲い来るインベーダーから夏休みをまもろう、というテーマが与えられる
ドローンの機能を体の各部位に例えて説明
プログラミングによって「何をするのか」も簡単に説明

最初の来場からドローンを組み立て、モチベーションのためのテーマを与え、必要最低限の知識を説明したら、各班での実習に入る。ここまで約10分、子どもたちは飽きるそぶりも見せずに説明を聞き、各班に散らばってドローンの操作に没頭し始めた。

用意されたiPadを操作し、まずドローンを飛ばしてみる

ここでiPadの画面に目が留まる。通常のAirblockのコントローラーは、ラジコンのようにホバリングから旋回、前後左右移動、着陸や回転などの曲芸をさせるといった一通りの機能が詰め込まれている。しかし、子どもらに提供されたiPadには、高度や速度などのセンサーのモニターと、モーターの回転を開始・停止するスイッチ、1秒間上昇してから着地するというプログラムがあらかじめ組み込まれたボタンが1つ用意されたオリジナルのコントローラーが提供されていた。

Airblock標準のコントローラー、ラジコンのように自由自在に動かせるが、筆者の経験では操作に慣れるまでかなり練習が必要(※画面は筆者のAndroid環境のもの)
プログラミング体験教室で用意されていたコントローラー、仕組みを理解しプログラミングを始めるために必要十分なオブジェクトが並ぶ(※画面は取材を元に筆者のAndroid環境で再現したもの)

なるほど、普通に標準のコントローラーを与えて自由自在に動かすことはできるが、それではコントローラーそのものの使い方レクチャーが必要になるし、あられもない方向に飛んで行ってドローンを大破させてしまうかもしれない。また、好奇心旺盛な子どもらのことだ、あっという間に使い方を覚えてプログラミングどころではなくなってしまうことだろう。

子どもらのドローンへの興味や楽しみを維持しつつ、1時間と言う限られた時間の中で、目的に沿った機能を実装させるために必要十分な環境を考えて用意した学生の工夫が光る。

まずは用意されたボタンを押して、ドローンを上昇させ着陸する、という一連の動作を体験する
ボタンのコードを開くと、Scratchと同じブロックプログラミングの画面が表示され、ドローンを動かす命令を定義することができる

各班に配られたテキストには、コードの編集方法から、前に進んでみよう、左右を確認してみよう、といった課題と方法が画面付きで記されており、子どもらはテキストを見ながらどんどんプログラミングを進めていくのだが、ここで「じゃあ、ドローンの前、ってどっちだろう?」という問いかけをする。そこで初めて「赤いLEDが光っている方が前」ということを実際の動作とともに理解することになる。

前に進むプログラムに左右を確認する処理を加えて実際に動かしてみる
慣れてきたら自由にプログラミングして、各班でドローンを宙返りさせる、ロールする、といったブロックを自由に使い始める
始めてわずか10分程度にも関わらず、複雑な動作を組み合わせてドローンをプログラミングしていく
2人で協力して動きを考え、トライアンドエラーを繰り返してドローンをプログラミングしていく姿が微笑ましい

ここまででおよそ30分が経過し、すべての班が一通り動かせるようになったところで、最初に示されたインベーダーのミッションをスタートする。体育館中央に敷かれた模造紙に書かれたインベーダー群をプログラミングしたドローンでうまく攻撃(着陸)できれば撃退、というルールだ。

2班に1枚のインベーダーが書かれた模造紙が用意され、インベーダーを囲った円の中に着陸させれば撃退となる
最初はまず飛ばしてみて、距離が足りなかったり、逆に行きすぎたりするプログラムを調整していく
スタート地点を調整したりプログラムを修正したりして、インベーダーの近くまで着陸できるように
ついにインベーダーを撃退!
みんなでインベーダーを撃退して、夏休みを取り戻した!

イベントが終わってみて、公称飛行時間は9分とされているAirblockのバッテリーを1時間の体験会で一度も交換していないことに気が付いた。今回のカリキュラムでは離陸から着陸までを常にプログラミングで制御することで、1回あたりの飛行時間は10秒前後となり、説明やプログラミングの時間なども含めて1時間の授業でも充分バッテリーが持つ。聞くと、学生たちが事前に準備を進めるなかで、実はモーターを回していない、いわば「待ち受け」時にはほとんどバッテリーを消費しないことを把握し、その前提でカリキュラムを組み立てていたというのだから恐れ入った。

デジタルネイティブ世代が、次のプログラミングネイティブ世代を育てる時代に突入した

今回のプログラミング体験教室を主宰したのは、EXP.のサークル代表を務める、情報科学専門学校 情報セキュリティ学科所属の近藤景太氏。現在3年生で、サークルは去年立ち上げたばかりだという。今回のカリキュラムや教材、動画などはすべてEXP.のメンバーが制作、毎日放課後から夜9時くらいまで1か月弱かけて準備してきた。

情報科学専門学校 情報セキュリティ学科所属、サークルEXP.代表の近藤景太氏

EXP.は横浜市のキッズクラブやイベントにおいて、プログラミングスクールのボランティア活動を行なっている。スクールではITを楽しむことから、課題解決力とチームワークも身につけさせる。時には3〜4日のワークショップを実施することもあるそうだ。プログラミングスクールは、教える本人も教えられる方も双方が成長できるところが良いところだと近藤氏は語る。

今回のAirblockを使ったドローンのプログラミング体験教室は、2017年5月に東京ビッグサイトで開催された教育ITソリューションEXPOにおいて、ソフトバンク コマース&サービスのブースでAirblockを見かけたのがきっかけだ。近藤氏は最初から小学校の夏休みにロボットプログラミング体験教室を計画しており、まさにドローンは子どもたちも興味があるだろうということで話が決まった。

普段のプログラミングスクールではRomoを使っているほか、最近ソニー・グローバルエデュケーションのKOOVを導入。情報科学専門学校のサークルとして年間10万の活動資金があるが、KOOVは近藤氏が学校全体のプレゼン大会で優勝し獲得した賞金60万円を購入に充てた。教材を選ぶポイントは、子どもたちが自分でできることや、継続してできること、あと拡張性なども重視しているという。

教え方は独学だが、子どもたちのやる気をひきだす際に特に注意している点は「アトラクション性」だという。ディズニーランドやUSJのように、引き込まれるイベントを用意する。たとえば今回で言えば、インベーダーが攻めてくるという設定から、一連のイベントとしてロボットを触るモチベーションを作り出した。こうすることで、仮にプログラミングに興味を持たなくてもイベントが楽しければまた来てくれる、とにかく継続することが大事だと語ってくれた。

プログラミング体験教室のスライドの最後に映し出された、彼らのメッセージが素晴らしい

既報の通り、2020年からは小学校でプログラミング的思考を取り入れた授業が始まる。2020年以降に義務教育を受ける子どもたちは、プログラミングが常識となる、いわば「プログラミングネイティブ世代」と言える。

近藤氏をはじめとする情報科学専門学校の学生は、まさにインターネットが爆発的に普及した頃に生まれ、物心ついた時からデジタル機器をペンやハサミのように使い、デバイスを通じて当たり前に日常の情報を得る、真の「デジタルネイティブ世代」だ。こうした世代が、ついに社会に出て次の「プログラミングネイティブ世代」を育成する時が来た、そんな瞬間を目の当たりにした気がした。

佐々木勇治