VR Watch
Oculus Rift DK1でゼロからVRゲームを作って受賞。PC向けVRゲーム制作の実例
「VRコンテンツ開発ガイド 2017」試し読み/その3
2017年6月2日 11:25
株式会社エムディエヌコーポレーションから発売中の書籍「VRコンテンツ開発ガイド 2017」。数回にわたって、本書の中身を少しだけ紹介していきます。
今回は野生の男氏によるChapter 3「実例にもとづく最新ハードウェア向けソフトウェア開発」より、氏の初VRゲームについて解説した「Perilous Dimensionの開発」試し読みをお送りします。
野生の男
同人ゲームサークルHydrangeaを2013年に立ち上げ、同年のコミックマーケットにて日本初のフルVRゲーム「Perilous Dimension(現BLAST BUSTER)」を展示・頒布。2014年には「BLAST BUSTER」が窓の杜ゲーム大賞を受賞。2016年にBitSummit 4th、Unity VR EXPO AKIBAで第2作目「The Gunner of Dragoon」がアワードを受賞。本職は2015年までVRどころかゲームと関係のないソフトウェア開発会社に島根県で勤務していたが、2016年から上京しゲーム会社にてVRエンジニアを務める。
Twitter:http://twitter.com/yasei_no_otoko
Perilous Dimensionの開発
2013年にOculus Rift DK1向けに開発を始めたPerilous Dimensionは、筆者にとって初めてのVRゲームです。
どうして届いてもいなかったOculus Rift DK1でゲームをつくろうとしたのか、
どうやってつくったのかを解説していきます。
はじめに
この章では、実際にVRゲームをつくって人に遊んでもらい、いくつか賞を獲得した経験をもとに、ゲーム以外にも応用がきく最新ハードウェアでのソフトウェア開発についてのケーススタディを解説していきます。
1つ目に紹介するのは、筆者が最初につくったVRゲームである「Perilous Dimension(現BLAST BUSTER)」についてです。これは2013年にリリースされたOculus Rift DK1と、Leap Motionのためにゼロからつくったハンドトラッキング対応のVRゲームです。
2つ目は「The Gunner of Dragoon(ガンナーオブドラグーン)」について紹介します。こちらはBLAST BUSTERで得た経験とノウハウをいかして、今のVRハードウェアでは当たり前となった、コントローラトラッキングをメインにすえたゲームとなっています。
どちらのゲームもVR専用につくられたものとなっており、既存のゲームという枠からはかなり外れたデザインになっています。そういったゲームを開発するにあたってどのように考え、実装を進めたかということをこの章を通じてお伝えし、皆さんが新しい技術の上でソフトウェアをつくる際の力になれば幸いです。
Perilous Dimensionについて
Perilous Dimension(現BLAST BUSTER)は、サークルハイドレンジャーの初作品で筆者が初めてつくったVRゲームです。2013年、まだ日本でOculus Riftをさわっている人がとても少ないなか、日本の同人ゲームで初めてOculus Riftに対応したソフトとして開発を始め、数多くのイベントで展示し、窓の杜ゲーム大賞2014を受賞するなど、記録を残している作品でもあります。本節ではそのPerilous Dimensionの開発初期から現在までの開発記録を振り返っていきます。
VR-HMDのためのゲームコンセプトを考案する
ゲームにとってコンセプトは舵取りを決める重要なことです。新しいハードのためにどうやってコンセプトを考えたのか、経緯から追っていきましょう。
Oculus Rift黎明期のソフト事情
2012年8月、筆者はOculus RiftのKickStarterに300ドルの出資を行いました。筆者がこのVR-HMDを買おうと思った理由は、以下の2点です。
- 視野がとても広い(映像用のHMDは45度が主流の時代に、Oculus Riftは最大110度)。
- センサーによる6DOFトラッキングをHMDに内蔵している。
この2つの機能によって、非常に没入度の高いゲームを遊ぶことができ、またつくることができると考えたからです。2012年前後には、それまで夢のような発想だった機能をコンシューマレベルで提供しようとするハードウェアベンチャーがいくつかあり、手指をセンサーでトラッキングしてコンピュータを自在に操作することができる「Leap Motion」もそのひとつでした。
その後、筆者の手元にOculus RiftのDK1が届いたのは2013年5月29日で、当時は2013年3月末の出荷開始からあまり日が経っていないということもあり、配布されている対応ソフトはUnreal Engine 3製のRift Coasterなど、没入感はあるものの、プレイヤーは介入できず見るだけのものが中心でした。筆者はKickStarterで見かけたときからOculus RiftでVRゲームを遊びたいと考えていたため、Oculus Rift対応のゲームを開発することを早くから決めていました。それが本節で紹介するPerilous Dimensionです。
VRゲームのために同人ゲームサークルを新規立ち上げ
2012年8月にOculus RiftのKickStarterで開発キットを予約した筆者は、その直後にLeap Motionのベータ開発者登録も済ませ、2013年の初頭には両方届く予定でした。そのため、2013年2月締め切りだったコミックマーケットにOculus RiftとLeap Motionを使ったゲームを出そうと意気込み、それまで参加していた、東方Projectのファンゲームをつくっていた同人ゲームサークルを離れ、1人でサークルを立ち上げて2013年8月開催のコミックマーケットに応募することを決めました。
発送の遅れとジャンル変更
しかし、Oculus Riftが届いたのが2013年5月29日と当初予定されていた発送日よりもかなり遅くなったため、最初はOculus RiftとLeap Motionを使ったギミック迷路を進むアクションゲームを構想していましたが、開催まで3カ月を切っていたため、短期間で制作が可能なシューティングゲームにジャンルを変更しました。シューティングゲームにジャンルを変更した最大の理由は、アクションゲームでのレベルデザインに時間を割くよりも、Oculus Rift、Leap Motionならではのエクスペリエンスに注力したほうがコストパフォーマンスが高いと判断したためです。
Perilous Dimensionの初期ゲームデザイン
Perilous Dimensionはシューティングゲームですが、分類的には3人称視点の3Dシューティングゲームとなっています。ここで重要になるのが背景です。Perilous Dimensionでは背景グラフィックス制作の時間を抑えるため、舞台は大空ではなく、360度全方位に漆黒の闇と星々が浮かぶ宇宙空間に設定しました。操作性についてはコントローラで自機を自由に操作し、頭の向きとLeap Motionによって、指をかざしてレーザーを撃つというコンセプトを2013年の6月に固めました。
操作系
Perilous Dimensionの操作系は、下のような3つのコントローラが存在する形となりました。
- 自機を加速・減速・旋回するゲームパッド
- マルチ照準を操作するLeap Motion
- カメラを操作するVR-HMD(Oculus Rift)
これは、明らかに自分目線で設計されたもので、展示で体験していただいた多くの方は、3つの入力機器を思ったように操作できないことがわかりました。そのため、2013年のうちにゲームパッド操作を廃し、VR-HMDとLeap Motionだけで操作できるように修正して、VRデバイスオンリーの操作系へと変更しました。
この先の内容は?
次節以降では、Perilous DimensionがUnity上でどのように開発されたか、実際に使われた(!)コードを交えて解説されています。また、現在も開発中の「The Gunner of Dragoon」の開発についても解説されており、実際に同人VRゲームを作る際には非常に参考になるでしょう。
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