VR Watch

ビジネスツールとしてのVR、その4つのポテンシャル

「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」より

 VRをビジネスに応用するための基礎知識やノウハウを、VRプランニングの第一人者が解説する書籍「VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる」が3月17日に発売となります。VR Watchでは、VRが持つ様々な可能性を知ることができるこの書籍の内容を、これから全4回にわたりピックアップして紹介していきます。

 第1回となる今回は、「第1章 VRはビジネスを変える」より、「ビジネスツールとしてのVRの可能性」の部分を紹介します。

本書の仕様

VR for BUSINESS 売り方、人の育て方、伝え方の常識が変わる(できるビジネス)

価格:¥1,600+税

発売日:2017/3/17

ページ数:192

サイズ:四六判

著者:株式会社アマナ VR チーム

ISBN 9784295000938

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ビジネスツールとしてのVRの可能性

VRの持つポテンシャル ―マーケティング、PR―

 現在、最も注目を集めているのが、マーケティングやPRツールとしてのVRの活用でしょう。例えば、イベントや展示会をVRで開催すれば、会場や期間の制約を受けることなく商品の魅力を伝えられますし、カタログをVR化することで、実際の使用シーンでの使い心地などをユーザーにダイレクトに届けることもできます。

 さらには、VRという最新技術をビジネスに活用しているということ自体がニュースとなり、メディアなどに取り上げられることも期待できます。もちろん将来的にVRが普及し一般化すれば、そういった話題性は徐々に少なくなっていくでしょう。

 VRのビジネス活用がすでに盛んになっている業種としては、まずは不動産業界や建築業界、インテリア関連業界が挙げられます。マンションなどの場合、間取り図と写真だけでは分かりにくい実際の部屋の様子を、VRで体験できるといったサービスが始まっています。VRであれば、モデルルームなどに足を運ぶことなく家の中を確認できるので、不動産業者にも、購入を考えている人にもメリットがあります。

 株式会社コスモイニシアの「ハコマンションVR」は、段ボール製の簡易VRゴーグル「ハコスコ」とスマートフォンを使うことで、バーチャルモデルルームを体験できるコンテンツです。また、実際にマンションが建設される場所からの眺望まで見ることができます。パンフレットやウェブサイトなどでは、決して提供できない体験です。

 インテリアに関して言えば、スウェーデンの大手家具量販店IKEAが、バーチャルショールームを体験できるVRアプリ「IKEA VR Experience」をリリースしています。体験者は最大4×3メートルの空間を歩き、IKEA製の家具を、まるでそこにあるかのように見ることができます。またVRならではの機能として、視点の高さを自由に変えられるようにもなっています。例えば、子どもの目の高さでキッチンのレイアウトをチェックし、危険性がないかを確認することも可能です。

IKEAの「IKEA VR Experience」では、家具を配置したVR空間を歩いてレイアウトをチェックできる。子どもの視点に切り替えるモードも備える

 他にも自動車業界や旅行業界などさまざまな分野で、VRがマーケティングやPRに有効なツールとして活用され始めています。

VRの持つポテンシャル ―Eラーニング、研修―

 学校教育も、VRの活用が期待される分野のひとつと言えるでしょう。VRを使った教材は、既存のものとはまったく違った教育効果が期待されます。学習意欲の高める効果もありそうです。

 例えば理科の授業であれば、バーチャルの世界で生物の解剖をしたり、宇宙の構造をダイナミックに体験したりできます。社会であれば、世界中の国々に、教室にいながら訪問できるようになります。さらにはコンテンツさえあれば、歴史上の出来事を体験するという、バーチャル・タイムマシンのような使い方もできます。バーチャル留学も可能となるので、語学の学習にもVRは威力を発揮するでしょう。

 VRを使えば、生徒全員を連れて博物館に行く、といった移動が不要になり、教育にかかる全体のコストを抑えることも可能です。VRゴーグルには高価な製品もありますが、機材と体験者数を精査すれば、十分コストに見合った活躍をするでしょう。

 学校教育以外の、職業訓練や研修にもVRの導入が始まっています。特殊な道具を使う仕事の場合でも、VR内で実際に使うデバイスが再現されているので、操作手順を覚えたり訓練したりすることができます。また失敗しても、事故やけがのリスクを気にせずにトレーニングできるのもメリットのひとつです。通常こういった研修は、場所や時間が限られていて、一人一人に十分な時間をかけるのが難しいことも多いのですが、VRであればいつでも訓練ができます。

 専門職ではない一般的なビジネスパーソンも、もちろんVRの恩恵を受けられます。例えばプレゼンテーション。英国のVirtualSpeechが開発した「PublicSpeaking VR」は、プレゼンをシミュレーションできるスマートフォンアプリです。スピーチをするシチュエーションとして、イベントホールのような大きな会場や会議室、そして披露宴のような場所まで用意されているのがユニークです。

VRの持つポテンシャル ―医療―

 VRの技術を医療分野に活かす試みも盛んになっています。例えば、医学教育の訓練に関しては、その動きが顕著です。実際に体験することが難しかった特殊な手術も、VRであればリアルに体験できてしまうのです。特に、医療処置が非常に高度になってきている現代では、医療におけるVRの必要性は高まっています。

 米国のOsso VRは、外科手術のトレーニング用VRシミュレーターを開発しました。ユーザーは手術に用いるさまざまなツールを、VR内で操作して、手順や方法を学ぶことができます。もちろん患者を危険にさらすことなく、何度も繰り返すことが可能です。

Osso VRの外科手術シミュレーターの使用イメージ。VR空間にテロップが表示され、手順を説明してくれる

 さらにはMRIやCTを使ったスキャン画像のVR化も始まっています。VR空間に患者の臓器などを表示することで、平面や白黒の画像を見るよりも正確な診断が可能となります。実際に体験したり触れたりすることが難しい医療の現場。VRが活躍するシーンはさらに増えていきそうです。

VRの持つポテンシャル ―ジャーナリズム―

 あまり知られていませんが、ジャーナリズムや報道といった分野でも、VRは活用され始めています。

 テレビや新聞といった既存のマスメディアでは、さまざまな情報が記者の視点や編集といった特定の人たちの主観によって切り取られて伝えられています。では、VR映像ではどうでしょう。仮想空間とはいえ、VRの世界では切れ目のない360度の視野が広がります。まるでそこにいるような体験ができるため、よりニュートラルな視点で情報を受け取ることができます。

 The New York TimesによるVRコンテンツ「The Displaced」は、その代表例です。紛争によって故郷を追われた難民の子どもたちを紹介するコンテンツで、「WITHIN」というVR動画のプラットフォームで配信されています。同時にThe New York Timesは、同紙のロゴが入った段ボール製の簡易型VRゴーグルGoogle Cardboardを100万個配布しました。コンテンツを再生すると、破壊された家やがれきの山、そして子どもたちが、まるでそこにいるように目の前に現れます。VRによる映像は既存のメディアより、はるかに強烈なインパクトを与えます。ちなみに同社は現在Googleと提携し、VRコンテンツを提供するプロジェクト「NYT VR」を立ち上げ、スマートフォン用のアプリなどをリリースしています。

 このようにVRは、ジャーナリズムのあり方を大きく変え、社会に対しても大きな影響力を与える可能性があると言えるでしょう。この他にCNNやナショナルジオグラフィックといった世界的なメディアも、この可能性に注目し、VRコンテンツの制作に着手しています。日本でもNHKが「NHK VR NEWS」というウェブサイトを開設し、360度カメラで撮影した映像などを公開しています。