VR Watch

DMM.comが有料VR動画配信サービスを秋に開始

デバイスは? アダルトは? DMMに聞く

動画配信、ゲーム、通販、英会話、FX、そしてなんといってもアダルト……。今や多方面にわたる総合サービスポータルであるDMM.comが、いよいよこの秋、VR動画の配信を本格開始する見込みだ。

コンシューマー向けの有料VR動画配信ビジネスにいち早く参入する意図やサービスの詳細について、DMM.comに話を聞いた。

今回、取材に応じてくださった株式会社DMM.comの3人。左から、VR担当の宇都修二氏、執行役員/動画配信事業部 事業部長の山本弘毅氏、動画配信事業部 営業マネージャーの木村知憲氏

きっかけはOculus。収益は「いつかは出る」

今年2016年はVR元年と呼ばれるが、それは主に一般向けの量産VRヘッドセットが次々登場し、市場が立ち上がり始めたからだ。一方、コンテンツ市場は未踏の広野。そんな中に、DMM.comがいよいよ有料のVR動画配信サービスをひっさげて踏み入るという。とはいえ、実際にDMM.comがVR動画に手をつけたのは、2年近く前にさかのぼる。

宇都氏「2014年11月に、一般向けとアダルト向けで『DMM.VR[β]』を立ち上げました。当時、VRは一気に盛り上がってくるかなと思っていたのですが、実際は意外と時間がかかりましたね。今年になってようやくVRヘッドセットが続々と一般販売され始め、VR元年と言われるようになったので、弊社としてもいよいよ本格的にやっていこうとしているのが今の状況です。」

山本氏「VRを始めようと考えたのは、2014年7月に出た『Oculus Rift DK2』を使ってみて、これは面白いと思ったのがきっかけです。それに、Oculus VRがFacebookに買収されて、VR盛り上がるぞという雰囲気もありましたし、(VRと相性が良いといわれる)ゲームや動画は弊社の取り扱っている分野でもあるので、ひとまず参入しておこうと考えました。とはいえ市場はまだ小さいので、β版はユーザーとVR業界に対する「DMMがVRやります」という意思表明の意味合いが大きかったですね。実際、それをきっかけとしてVR業界の方々と話す機会も増えました。そうした中で事業の方向性を調整しつつ、今回の本格展開に至ったという感じです。いまのところ、VR動画の有料配信開始は、今年の秋口を目指しています。」

有料配信モデルの「正式版」を始めるに至ったのは、ビジネスとして収益を出す目処がついたからなのかと思いきや、実はそういうわけでもないようだ。

山本氏「今回のサービスをリリースしても、直近で収益が出るとはまったく思っていないです。いつかは出るんじゃないかな、くらいのスタンスですね。今回の狙いは、早い段階で参入してポジショニングを取ることです。VRはまだマーケットが小さいので、今は競合も少なく、大企業も参入しづらいですから。」

VR動画配信におけるDMM.comの競争優位性

山本氏「VR動画におけるDMM.comのポジショニングという意味では、弊社だけが兼ね備えている3つの強み、競争優位性があります。ひとつは、DMM.comが総合ポータルサイトであり、ユーザーの母数が多く、新サービスでも利用者数が取りやすいこと。ふたつめは、動画配信をずっとやってきてノウハウがあるため、技術やインフラを活用できること。そして3つ目は、一般向けとアダルト、両方の動画配信を手がけているということです。大手ポータルサイトや大手動画配信サイトが今後VR動画に参入する可能性はありますが、少なくともアダルトはやらないでしょう。」

VRはいかに普及するかという話題になると、必ずと言っていいほどアダルトコンテンツの重要性が指摘される。「DMM.comのVR」と言われればなおさら、そこに期待する人も多いだろう。実際、業界からの期待感を、山本氏はダイレクトに感じている。

山本氏「海外でVRアダルトサイトは増えていますし、米国の調査会社の分析でも、(米国の)VR市場としては、まずゲーム、アメフト、そしてアダルトがくるだろうと。業界の人と話していも、公式の場では言いづらいようですが(笑)、やはりアダルトがないと市場の立ち上がりは厳しいんじゃないかとおっしゃいますし、DMM.comはいつアダルトVRをやるのか、とも聞かれます。VHSにしろDVDにしろインターネットにしろ、やはりアダルトコンテンツがあったことで普及率も全然変わってきたでしょうし、弊社がアダルトをやることでVRの普及率が上がっていくんじゃないか、という期待感があるんでしょうね。そういうこともあり、いろいろな方面から協力していただけることが多いです。もちろん、弊社としてはアダルトだけやっていくつもりはありませんが。」

当初の対応デバイスはどうなる予定なのだろうか。

山本氏「デバイスはとりあえずiPhoneとAndroidのスマートフォン向けで、ダンボール型HMDなどの簡易なグラスを使って見ていただく想定です。それと、できればGear VRにも対応したいと考えています。これは個人的な見解ですが、スマートフォン+ダンボール型HMDというのは手軽ではありつつも、やはりクオリティが担保できないと感じます。片手で箱を持って(顔に押しあてながら)観ても感動が少なく、何回も繰り返し観るには辛いです。その点、Gear VRはクオリティが相当担保されます。」

SamsungのVRヘッドセット「GearVR」

問題はコンテンツ。必要なのはデバイスの普及と成熟

配信サービスにおいてもっとも重要なのは、言うまでもなくコンテンツの充実度だ。これまで多くのコンテンツホルダーとともに様々なコンテンツを配信してきたDMM.comだが、VR動画という新しい分野では困難も多い。

山本氏「コンテンツに関しては、弊社には制作機能はないので、VR動画を作るノウハウがある方々とパートナーシップを組んでいっしょにやっていくという感じですね。
 通常の動画配信でおつきあいしている既存のコンテンツホルダーさんは、今のところVR動画に取り組む予定はないというところが多いです。多くのコンテンツホルダーさんはDVDなどパッケージメディアで収益をあげていますが、VRはパッケージメディアにしにくいし、動画を作るのにも通常以上にお金がかかりますから、VRでコンテンツを作ってコンシューマー向けに売る、というビジネスは収益が上がりません。グラビアアイドルをVRで紹介するなどプロモーションにVRを活用したりだとか、アダルトに関していえば、我々はVRでこんな面白いことできます、というデモとしてやっているところがあるくらいです。」

VRコンテンツ配信では収益が上がらない、その理由はなんといっても、コンテンツ制作に多額の費用がかかるということ。そして、制作費用の回収の見込みが立つほどに市場が拡大していないことだ。特に、既存のコンテンツホルダーからすると、制作面でのハードルは高い。

山本氏「コンテンツホルダーさんからは、やはり(VRコンテンツの制作に)お金を出してくれないか、とは言われます。もちろん弊社も、これはVR動画に限った話ではありませんが、なんらかの契約を交わして資金面のバックアップをすることはあります。かといって、プラットフォーム側でお金を出して作っても、収益があがらなければ1本作ってそれっきりということになりがちです。

B2Bの分野について言えば、VRコンテンツ制作はすでにビジネスとして成り立ち始めています。大企業がプロモーションとしてVRを活用する際には、VRコンテンツ制作会社に頼んでいますね。一方で既存のコンテンツホルダーさんにはノウハウが集まっていません。そもそも制作環境も満足にない。4Kで撮って、編集して、スティッチ(つなぎあわせ)して、ということをやれるところはほとんどありません。いまはGoProを6台つなげて撮ってスティッチして、とか、あるいはノキアやサムスンの1000万円もするような専用カメラで、という話になってしまいますから、ハードルは高いです。逆に言えば、安価かつ高画質でスティッチも要らないVRカメラが出てくれば状況は変わるでしょう。」

また、制作したコンテンツに対して安定したリターンを得るためには、市場が拡大し、実際にコンテンツにお金を払うユーザーが増えていかなくてはいけない。

山本氏「スマートフォン向けのVR動画は今はほとんどが無料で観れますが、弊社はあくまでコンテンツに課金していただくビジネスモデルです。なので、お金を出してVR動画を買っていただかなくてはいけない。GoogleのDaydreamや、噂レベルですがAppleのVRデバイスが登場して、Androidならなんでも使えます、iPhoneならなんでも使えます、という手軽でクオリティの高いヘッドセットが出てくれば、市場は一気に広がっていくと思います。他人任せではありますが(笑)。

最終的に、コンテンツを作ってちゃんと費用を回収できるというスキームが構築できればコンテンツはどんどん増えていくでしょうが、それがうまく構築できなければ、メーカーなりプラットフォーマーなりがリスクを負って市場を拓いていく必要があります。弊社は、基本的にはあくまでプラットフォーマーとして、世の中のあらゆるVRコンテンツが集まってくるプラットフォームを作る、というスタンスです。」

「360度」は必要か? VR動画の最適解とは

山本氏「現在、みんな悩んでいるのが、ユーザーにVR動画の良さをどうやってわかってもらうのか、という部分です。問題は、360度の良さを活かした動画、360度じゃなきゃいけないという動画がほとんど出ていないことです。まだ誰も、VR動画における正解のロジックを見つけていません」

最近では、企業や自治体が制作した360度動画が「VR動画」として毎日のようにリリースされている。だが、VRの魅力を活かす上で、必ずしも360度が最適解かというと、そうではないのでは、と山本氏は指摘する。

山本氏「実写のVR動画の弱みとして、自分自身が動けない、というのがありますよね。そういったVR動画に360度って必要なのか、という疑問も最近は出てきています。動画視聴中に後ろを振り返る状況ってそうそうないよね、という。VRならではの没入感や臨場感を伝える上でも、180度ないし210度くらいあれば十分ではないかという考え方です。海外のアダルトVR動画も、けっこうそのくらいで撮影していたりします。弊社から配信するVR動画についても、アダルトに限れば半分くらいは180度程度になるんじゃないかと思います。」

また、「自分自身が動けない」という制約も、コンテンツの作り方次第でカバーしうる。

今回の取材の最後に、配信予定のアダルトVR動画サンプルを2本ほど見せてもらった。1本は、自身が椅子に座った状態で、1人の女性に◯◯◯されてしまう動画。もう1本は、学校の教室で生徒として着席していると、周りの女子生徒が代わる代わる寄ってきて◯◯◯してくるというもので、いずれも「動かない自分」の存在をうまくシチュエーションに落とし込んでいる。アダルトVRの制作側でも、こうした「カメラを定点に固定し、それに対して出演者が演技する」というのが方法論のひとつとして定着しつつあるという。

サンプル動画はGear VRで視聴したが、4K撮影したソースを使っているとのことで、解像感が高く、圧縮動画特有のブロックノイズも少ない高品質なものだった。

山本氏「現在、弊社のβ版サイトで観られる動画は、正直クオリティがいまいちですが、正式サービス開始時のタイトルは、もっとクオリティを上げて、Gear VRで観れば「おっ!」と思ってもらえるものにします。」