FINANCE Watch
構造改革に関心寄せる欧州投資家~ロンドン発が市場の“台風の目”に

  「ロンドン発の日本絡みの情報が東京市場を震撼させている」(銀行系証券)

  ここ数週間、市場関係者の間からこんな言葉がひっきりなしに聞こえてくる。発信源とされる「ロンドン発の情報」をたぐると、欧州の機関投資家が日本の構造改革に尋常ならざる関心を示している姿が浮かび上がる。直近の特定銘柄の値動きをみると、これを裏付けるような軌跡もうかがえるのだ。

  ●「アンダー」から「ニュートラル」へ
  米国系の機関投資家に比べ、欧州の投資家は全般的に「利益率やリストラなどの目先の数値をあまりぎりぎり追求していこない」(同)傾向が以前から強いとされてきた。また運用手法が保守的で、ITバブルの痛手も軽微だった。

  が、ここにきて欧州系投資家の活発に動き出し、彼等と接点の多い国内証券関係者がいささか面食らう局面が多い。欧州系投資家がなぜ活発に動いているか。

  その理由は、日本株に対する投資比重にある。バブル経済崩壊後、彼らは小刻みなウエイト調整を除いて「基本的に日本株への比重を『アンダーウエイト』にしてきた」(欧州系大手機関投資家)。つまり、「根っこのポジションをアンダーウエイトにしていたことから、だらだらと下げ続けた日本株のインデックス(株式指数)に対し、基本的に運用成績が勝ち続けてきたファンドが圧倒的に多い」(同)と言えるのだ。

  ところが、柳沢伯夫金融担当相が「直接償却」方針を発表したことをきっかけに、彼らの間に「金融機関の不良債権処理が本当に実現するかもしれない」(別の大手欧州系)との懸念(期待)が芽生え始めたというのだ。

  彼らが描く日本の構造改革のシナリオとは、当然のことながら「不良債権の元凶とされるセクターが整然と整理され、かつ融資を垂れ流しつづけた銀行界の更なる再編」(中堅の欧州系機関投資家)であることは間違いない。

  だが、こうした事象の進展は、「日本株が大底を打ち、反転に転じることを示す」(同)。根っ子のポジションである『アンダーウエイト』を放置すれば、対インデックスでの運用が負ける可能性が出てくる。このため、何か日本の構造改革進展を決定付けるような材料が出れば、「即座にウエイトを『ニュートラル』もしくは『オーバーウエイト気味』に修正する必要に迫られている」(同)というのだ。

  ●不気味な値動き
  平均株価が急落の真っ只中にあった前週2日、ある中堅ゼネコンの株価が商いを伴って下落した。下げ幅は小さかったものの、出来高は前日取引のほぼ倍となる185万株。年度末に向け、企業倒産が意識されてはいたが、2日は相場全体の下げが加速していたため同社株の下落に気付いた向きは少なかった。

  しかし同社は、昨年、債務免除を受けたあとだったにもかかわらず、有利子負債が受注高を大きく上回る状態が続き「生きているのが不思議」(外資系証券アナリスト)とされる存在。急激な出来高の膨張に早耳筋の間では「近く何かあるのでは」(別のアナリスト)との観測が高まった。

  こうした火種がくすぶる中、早耳筋たちの度肝を抜く話が週明け5日に伝わった。同社のメインバンクに対し、「海外機関投資家から1,000万株の売り注文が出た」(市場筋)というのだ。

  当該の銀行はかねてから「年度末に何か起こるという意味で“ポテンシャル銘柄”のレッテルを貼られていた」(米系証券)ことに加え、前週末にこのゼネコンの話が伏線として流れていたため、2日に比べて3倍弱となる1,200万株の出来高を記録した。

  ●売主は「欧州系」
  この中堅ゼネコン株の値動きについては、「数週間前から上場企業の破綻が相次いでいたため、連想が働いたに過ぎない」(準大手証券)との見方も根強い。また同社のメインバンクの株についても「海外投資家が自分のファンド内のリバランス(銘柄入れ替え)に伴う売りを出しただけではないのか」(国内系資産運用会社)との声も根強い。

  だが、この銀行の株を大量に売れとの注文を出したのは「欧州系の大手機関投資家」(別の市場筋)である上に、売却執行依頼を受けたのも中堅の欧州系証券1社であることは「ほぼ間違いない」(同)。こうしたことから、「欧州勢が007ばりの情報収集活動を展開し、構造改革につながる確定的な材料をつかみ、負け組の株を処分した」(大手証券)との憶測まで生んだ。

  直接償却を推し進めるという方針が世間に出る前後から、「ロンドン市場を中心に金融と問題セクターに抜本的な解決策が出るとのルーマーが飛び交っていた上に、自民橋本派の幹部がゼネコン処理スキームを策定していたとの観測が根強かった」(先の銀行系証券)だけに、今回の中堅ゼネコンとそのメインバンクの株価動向に必要以上に関心が集まっている訳だ。

  「欧州勢は次にどのような売買を行うのか」(同)との思惑は高まるばかり。当面東京市場関係者は彼等の動きから目が離せなくなりそうだ。

■URL
・日経平均リンク債は“主犯”ではない~株価急落の原因をスリ替えの恐れ
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/05/doc2178.htm
・株式市場は「亀井売り」の様相に~相場の足を引っ張る自民政調会長
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/02/doc2160.htm
・1万3000円割れで大手銀の含み完全消滅~注目集める外資証券リポート
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/13/doc1973.htm

(相場英雄)
2001/03/07 11:27