FINANCE Watch
株式市場は「亀井売り」の様相に~相場の足を引っ張る自民政調会長

  日銀の追加利下げにもかかわらず、1日の東京株式市場では売りが加速、平均株価は一時1万2500円台まで急落した。2月28日の米国市場で店頭市場(ナスダック)総合指数とダウ工業株30種がともに大幅安を演じたことが直接の原因だが、1日の下げには森政権の“大番頭”である亀井静香・自民党政調会長の発言にも大いに関係がある。海外投資家を中心に、同氏が体現する日本の古い政治体質を毛嫌いする向きが少なくないためだ。実際、同氏の発言が伝わると売りをぶつける動きが出るなど、“大ブーイング”を浴びている。

  ●最大の対策は亀井氏の沈黙?
  日銀は2月28日、異例の連続利下げに踏み切った。株式市場では、「実態経済悪化のスピードからみれば、後手に回った感は否めない」(大手証券)との辛口の評価も出ているが、「現時点で日銀がやれる精一杯の中身」(外資系証券)と概ね評価する声が大勢。

  実際問題として、利下げが株式市場の下支えとなると真剣に考えていた向きが少なかったため、異例のアナウンスメント効果を打ち出そうとする日銀の姿勢は「平均株価で300~400円程度上昇させるインパクトは十分にあった」(同)との声も上がったほどだ。

  また、速水総裁が「(不良債権の)直接償却が本来の姿」と金融機関の構造改革を後押しする姿勢を鮮明にしていたことから、今回の追加利下げを「金融面での強力なサポート実施に向けた布石」(準大手証券)と好感する関係者も多かった。

  ところが、亀井政調会長が「日銀悪者論」を声高に叫んだため、一部の海外投資家がこれを嫌気する売りを市場に持ち込んだ。亀井氏は28日の利下げ決定直後にも、「どんどん金融緩和をしなければだめだ」と発言。1日には「量的緩和や買い切りオペを増やさないといけない」と日銀に一層の緩和を迫る姿勢を示した。

  亀井氏の名前は「無能な森内閣を作った中心人物」(欧州系資産運用会社)として海外投資家の間でも広く知れ渡っている。また同氏が、特定の業界や既成勢力を保護する姿勢は「日本の構造改革を遅れさせる元凶のひとつ」(同)として以前から悪者扱いされてきた。

  ●政治のサポート放棄
  連日の亀井発言は、もはや金融政策だけでは株安を打破できないという共通認識が市場関係者の間に浸透し切った中で、「日銀に一方的に責任を押し付けているだけにしかみえない」(銀行系証券)と映った。

  と同時に、市場で後戻りができないとの雰囲気が広がっていた金融機関の「構造改革」について、「政治面からのサポートを放棄している」(同)ともとらえられた訳だ。実際、同氏発言を材料に売りをぶつけた市場関係者は「カメイを黙らせるには、株価下落の怖さを思い知らせるしかないだろう」と亀井氏を露骨に非難する。

  亀井氏の言動に関しては、「森政権の延命を巡って橋本派と亀井・江藤派が深刻な対立状態にあることの裏返し」(別の銀行系証券)と深読みする関係者も少なくない。柳沢金融担当相が「直接償却」方針を表明した前後のタイミングから、橋本派有力幹部が「業績不振のゼネコン処理スキームを策定している」(同)との観測が根強く流れていたからだ。

  ●発言は計算ずくとの観測も
  スキーム策定の真偽は定かではないが、「ゼネコン業界がもはや票につながらなくなったから切り捨てるという残酷さはあるが、構造改革を促す最後のチャンス」(同)との見方も出ていた。

  そんな中で亀井氏の発言が伝わり、「森政権を何とか延命させようとする亀井氏が橋本派を牽制しようと、あえて市場の反感を買うような言動をとっているのではないか」(欧州系証券)との思惑まで出る始末。

  こうした観測は、東京市場だけでなく、「ロンドンなど主要国際金融市場でもまことしやかに語られている」(国際金融筋)といい、海外投資家が亀井氏の発言に合わせる形で市場が反応する下地となっている。

  バブル崩壊後最安値を更新した1日の東京市場では、「金融政策が株価を支える効果がないと分かった以上、もはや行くところまでいくしかない」(大手証券のディーラー)と捨て身の覚悟で今後の相場展開を読む向きが急増した。

  市場関係者の間からは「直接償却で大型倒産が続出、株価が底割れしても構わない」(米系資産運用会社)、「財政再建に向けての明確な方針決定を急ぐべき」(準大手証券)などと、ほんの数カ月前までは考えられなかった言葉がぽんぽん飛び出す。

  裏を返せば、市場の危機感は極限状態にあると言え、「構造改革」しか現状を打破できないとの共通認識ができ上がっている。

  本来、日本人はハードランディング的な問題解決策は望まない傾向が強いとされてきたが、この常識が通じないほど市場が追い込まれていることも事実。亀井氏をはじめとする“守旧派”の政府・与党要人の発言が今後も続けば、株式市場は更なる下落リスクにさらされるだろう。

■URL
・後戻りできない“金融構造改革”~不発に終われば「日本売り」に
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/28/doc2136.htm
・政府・与党に“ケンカ”を売った日銀~総裁会見発言の隠れたポイント
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/01/doc2147.htm

(相場英雄)
2001/03/02 09:46