「生活の質を高める最新技術」=「価値」
ネットギアの今後の製品展開をCEOに聞く

2015.11.9 清水理史

ルーターのNighthawkシリーズやNASのReadyNASシリーズ、さらに完全ワイヤレスの小型カメラ「Arlo」など、特徴的なネットワーク製品で世界をリードする「ネットギア」。そのCEOであるPatrick Lo氏が来日した。同社の今後の製品展開について、その展望を聞いてみた。

価格に現れる製品の価値

相次ぐ値下げの報道が続く飲食業界からしてみれば、これほどうらやましい話もないのではないだろうか――。

ネットワーク機器の世界的なメーカーとして知られるネットギアを率いるPatrick Lo氏(以下、敬称略)は、ここ最近の日本のネットワーク機器市場について、次のように語った。

Patrick Lo:「日本も世界も大きな状況に変わりはありませんが、弊社の製品のASP(平均販売単価)は上がっています。数年前は1万円以下だった無線LANルーターは、現在はトップモデルで2万円前後(筆者注:R7500の実売価格が2万円前後、R8000で3万円前後)となり、2倍〜3倍となっています。我々は、市場に常に『価値』を提供し続けています」

最近では、消費者がモノを買う基準として「コストパフォーマンス」を重視する傾向が強い。価格以上に「価値」がなければ、モノが売れない時代、価値が決まってしまっている商品は値段を下げなければ消費者に受け入れてもらえない状況のなか、価格を上げても、それが消費者から支持され続けるというのは珍しいケースだ。

実際に同社の無線LANルーター「Nighthawk」シリーズは、最新の通信技術をいち早く採用する製品として、よく知られている。

先にも少し触れたNighthawk X4 R7500は、4つのアンテナで同時にデータをやり取り可能な4ストリームMIMOに対応した最大1733Mbpsの通信に対応していたり、トップモデルのNighthawk X6 R8000は、最大1300Mbpsの3ストリームMIMO対応ながら、通常1系統の5GH帯を2系統に増やすことで、1300Mbps×2系統+600Mbps(2.4GHz帯)×1系統のトライバンドに対応する画期的な製品となっている。

image 4ストリームMIMOに対応する「Nighthawk X4 R7500」

Patrick Lo:「シングルバンド(筆者注:2.4GHzのみの時代)だった無線LANは、デュアルバンド(2.4GHz+5GHz)となり、さらにいまではトライバンド(5GHz×2+2.4GHz)となっています。これは、PCだけでなく、スマートフォンやタブレット、テレビなどたくさんの機器をつなぎたいというユーザーのニーズに応える形で実現してきました」

ニーズがあれば、製品は売れる。それも適正な価格で。ある意味、当たり前のことだが、なかなかできないこういった戦略を技術をテコに実現しているのがネットギアというわけだ。

さらに上を目指すNighthawkシリーズ

では、そんなネットギアが、無線LAN製品の今後をどう考えているのだろうか? Patric Lo氏は、さらなる高性能化の可能性を示唆する。

Patrick Lo:「通信には4Kビデオ伝送などのスピードと、さらにたくさんの機器を接続するためのキャパシティが求められています。現状は4ストリームMIMOの製品が最高ですが、これが8ストリームMIMOになり、さらにIEEE802.11ac Wave2のMU-MIMOに対応したマルチバンドの製品の登場も、そう遠くはないでしょう」

MU-MIMOは、Multi User MIMOの略で、複数ユーザーで同時に通信するための技術だ。MIMOは、同一空間中に同一周波数帯の電波を使って複数のデータを同時にやり取りする技術だが、これを単一のユーザー相手にではなく、複数のユーザー相手の通信に応用することで1対多の同時通信を実現したものとなる。

たとえば、4ストリームMIMO対応のR7500であれば、通常は1733Mbpsの通信を複数の端末が時分割で交代しながら使うが、MU-MIMOではこれを433Mbps×4に分け、3台の機器(1つは制御用)にそれぞれ433Mbpsを割り当てて同時に通信させることができる。

8ストリームになれば、これの台数がさらに倍近くに増え、おまけにトライバンドも併用することで、何と10台以上の機器を同時に通信させることも夢ではないわけだ。

単純に最高速度を求めるだけではなく、複数の機器を効率的に捌きつつ、ビデオ伝送など速度が必要な端末に対して確実に帯域を確保することができるようになるだろう。また、IEEE802.11adへの対応についても意欲を見せている。 Patrick Lo:「おそらく2016〜2017年ころには、IEEE802.11adに対応したスマートフォンなどが登場してくることでしょう。そうなれば、Nighthawkシリーズも、さらにバンドが増え、速度も向上することでしょう」

IEEE802.11adは、60GHzの電波を利用する通信規格だ。通信距離が10メートル前後と短い代わりに約6Gbpsの通信が可能とされている。これが実現すれば、2.4GHz、5GHz×2、60GHzの4バンド対応にもなり得るというわけだ。

ただ、そこまで無線技術が向上した場合、気になるのは有線のスピードだ。現状のIEEE802.11acでも、すでに有線の1Gbpsがボトルネックになっている。

Patric Lo:「2.5Gも来年以降には視野に入ってきますが、やはり本命は10Gの採用になると予想されます。弊社では、すでに10G対応のスイッチをリーズナブルな価格で提供していますが、Nighthawkシリーズも、今後、10Gに対応させることを検討中です。もしかしたら、2ポート使って20Gに対応させるかもしれませんが(笑)」

後半の20Gbpsがどこまで本気かはわからないが、いずれにせよNighthawkシリーズは、今後も無線LAN、そして有線LANともに進化が続くことが予想される。このあたりは大いに期待したいところだ。

image Nighthawkシリーズのハイエンドモデル「Nighthawk X6 R8000」

ちなみに、通信機器の分野ではGoogleが「OnHub」を発表するなど、新規に参入する企業が相次いでいる。

このあたりについてPatric Lo氏は、「家庭やSOHOといった市場で、無線LANという市場が直接的に競合するわけではないし、技術的にも決して新しいものではない」と、さほど脅威を感じているようではなかった。

GoogleのOnHubについては、スマートホームのような世界も見据えているが、これについてもネットギアも無頓着なわけではなく、後述する将来の展開でしっかりと見据えているうえ、Arloなどで、むしろすでに一部で先行しつつある。

550Mbps対応のモバイルルーターも

国内では、後発となるモバイルホットスポット(モバイルルーター)も、ワールドワイドでは高いシェアを誇っており、その先進性にも注目が集まっている。

Patrick Lo:「オーストラリアでは、LTE category 11と3バンドのキャリアアグリゲーションに対応した550MbpsのAirCard(810S)を発売しました」と、Patrick Lo氏は最新のモバイルルーターの状況について話す。

国内では、まだAC785のみだが、SIMフリーであること、2ストリームMIMOのIEEE802.11ac対応で2.4GHz/5GHzのデュアルバンドであること、最大で15台と接続可能な機器の台数が多いことなど、高いスペックで人気を得ている。

image 国内でも人気の高い「AirCard AC785」

WAN側のスピードに関しては、通信事業者の対応や規格、法的な問題があるため、すぐにワールドワイドと同じになることは難しいが、それでも海外で先行して高い技術の製品を投入し、それを国内に持ち込むことができるのは、国内のみを主戦場とする通信機器メーカーにはないアドバンテージと言えるだろう。

次のターゲットはカメラとスマートホーム

国内でも話題になった小型カメラの「Arlo」については、「販売は好調」だという。主な用途は、ホームセキュリティだが、国内ではペットの監視用としての人気が高いとのことだ。

image 発売以来、好調な売れ行きを見せているArlo

Patrick Lo氏は、前述したNighthawkでも同じだが、「価格競争をしない」という点を常に強調する。

実際にArloは、これまでに発売されていたカメラにはない完全ワイヤレスという特徴によって、ほかのカメラとは競合しない製品になっている。無線LANで接続するだけでなく、電源も取り外し可能な電池(CR123A)によってワイヤレスとなっていうるえ、防水で、しかもマグネットによっていろいろな場所に自由に設定できるようになっている。

国内では、監視カメラ自体、まだ話題になりにくい状況だが、今後はネットギアの主力製品のひとつとなっていくことが期待できそうだ。

Patrick Lo氏は、今後、同社が注目する分野として、「IoT」を上げ、中でもスマートホームに注力していくと言う。

Patrick Lo氏:「スマートホームで5つのポイントに注力していきます。まずはカメラ、その次にエアコンなどの温度管理、そしてドアロック。これは海外ですがガレージのシャッター、最後に照明と考えています。海外では、スプリンクラーなども、天気などの情報を元に自動的に制御することになりそうですが、国内ではカメラ、そしてこれを統合するホームゲートウェイが主流になると考えています」

すでに同社では、ケーブルテレビ会社のitscom向けにインテリジェントホームゲートウェイを提供しており、その足場も着実に固めつつある。このあたりは、建設や家電などの異業種との戦いになる可能性もあり、今後が注目されるところだ。

ワールドワイドで展開していることを強みに

以上、ネットギアのCEOであるPatrick Lo氏に、無線LANルーターや同社が扱う製品の今後について聞いた。

全体を通じて特徴的だったのは、価値のある製品を提供することで価格を下げないこと、そしてワールドワイドを市場にしている強みだ。

通信技術は、法的な問題があるため、新しい規格が登場したとしてもすぐに市場に投入することはできない。しかし、ワールドワイドに製品を展開する同社では、どこかしらの国で、最新技術を採用した製品を先行して投入できるという強みがある。

ひと昔前は、海外メーカーの製品はローカライズの問題で、国内投入が遅くなるケースもあったが、現状は逆で、むしろ海外メーカーの製品の方が早く国内に投入されるケースが多い(トライバンドルーターなど)。この差は、今後もますます広がる可能性がある。今後の同社の動向に注目したいところだ。

(Reported by 清水理史)

関連リンク

ネットギア
http://www.netgear.jp/
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