家庭でプログラミング教育にトライ

「プログル」で“倍数”“公倍数”の理解が進む

文部科学省の発表により、2020年以降に施行される新学習指導要領における小学校でのプログラミング教育必修化が決定した。IT系人材不足など、時代の流れに合わせた大きな改正だ。

我が子に直接影響がある大きな報道としてとらえた保護者も多かっただろう。筆者の子どもは現在小学2年生なのでちょうど対象となるため、強い関心を持って報道を聞いた。一方、今の4年生以上は対象からは外れてしまうが、下の世代がそのような教育を受けることを耳にして、我が子は時代についていけるのか心配になったという方もいるのではないか。

そのような保護者の意識を反映してか、最近はプログラミング関係の習いごとが人気となっている。習いごととして通えればいいが、現実的にはまだ都市部にしか教室はなく、料金も高額なものが多い。しかし、保護者が家庭で取り組めることは色々とある。

保護者が家庭で取り組むプログラミング教育がテーマ。第一回目は「プログル」で遊ぶ

家庭のプログラミング教育は“楽しく遊んで学べること”がルール

プログラミングは好きな子と好きではない子、向いている子と向いていない子の差が大きいものだ。自分が考えたとおりにプログラムが動くことが楽しい子もいるし、それよりサッカーが好きな子や、お絵かきが好きな子もいる。あくまで無理強いはせず、子どもが自主的に楽しめることが前提となるだろう。

また、ツールやキットによって適正年齢があるので、子どもの年齢に合わせたものを選ぶといいだろう。もちろん、強く興味関心を持っているようであれば、もう少し低い年齢から始めてもいい。

そして、私も含めて保護者の中にはプログラマーでもなくコーディング関連の知識がないという方も多いはずだ。詳しくない保護者にとって、プログラミングを家庭でトライすることは心理的な敷居が高いだろう。

そこでこの連載では、保護者が家庭で取り組むプログラミング教育をテーマとして、詳しくない保護者でも家庭で子どもにトライさせられるかどうかも確認しながら、様々な教材を試してご紹介していきたい。実際の子どもの反応を知るために、息子に使ってもらい、その結果を紹介していく予定だ。この連載が子どもにプログラミング学習をさせる際のヒントとなれば嬉しい。

参考までに息子のスペックは以下の通りとなる。

  • 小学2年生男児(7歳4ヶ月)
  • 算数・数字好き
  • 英語は少々読み書きできる程度
  • 自分の端末は所有せず、保護者のパソコン・スマホを時々借りる程度
  • これまでに体験したプログラミングツールは、CodeMonkey、Scratch少々、VISCUIT少々
  • プログラミングはゲームの一つとしてとらえており割と好き

学校の先生向けのドリル型教材「プログル」

「プログル」https://proguru.jp/

今回ご紹介する、一般社団法人みんなのコードが提供する「プログル」は、ドリル型のプログラミング学習教材だ。「プログラミング学習に興味があるけれどどう取り組んでいいかわからない」という日本の学校の先生のために作られたもので、課題をクリアしながらステージを進めていくだけで、自然とプログラミング的思考が身につくように設計されている。

現在、小学5・6年生向けに公倍数コースが用意されており、今年の夏をめどに多角形コースを開発中だ。その後、さらに他の教科や学年に広げていく予定もある。

プログルは、この春まで現役の小学校教諭で、みんなのコード指導者養成主任講師を務めるの竹谷正明氏をはじめとする教員出身スタッフの知見も活かして、小学校の授業での利用を想定して作られたものだ。「最初から順番にやる必要はないので、コースのどこからでも一部分だけでも、小学校の授業で自由に使ってほしい。保護者が利用する場合は、学校で公倍数の授業が終わった後に復習として取り組ませると理解が深まるだろう」と竹谷氏は語る。

一般社団法人みんなのコード 指導者養成主任講師 竹谷正明氏

ドリル型のため、子どもだけで使えるという部分に苦心して作られている。「ブロックは多すぎても迷う時間が多くなってしまうし、少なくすると答えがすぐ見つかってしまう。そのバランスをとることが難しかった」と竹谷氏。子どもたちができるだけ自力で取り組めるように、各ステージの指示の言葉をできるだけ誤解の少ない表現に工夫したという。

プログラミング教育普及に取り組んでいる竹谷氏に、プログラミング教育の意義についても聞いてみた。「そもそも、小学校のプログラミング教育はプログラマーやエンジニアの育成を目指すものではない」と竹谷氏は語る。体育でサッカーをやるのがJリーガーを育成するためではなく、図工で絵を描くのが画家を育成するためではないのと同じだ。

理科を例に挙げると、3年生で電気回路について学び、6年生で電気の性質と利用について学ぶが、それは現代社会に生きていく上で電気についての理解が必須だからである。同様にこれからの時代は、子どもたちにとってコンピュータそのものの仕組みや動きについての理解が必須であり、その基盤となるものを小学生のうちから作っていくためにプログラミング教育の普及が必要、というわけだ。

小学2年生の子どもでも学べる「プログル」

早速、家庭学習で「プログル」を使ってみる。入力などは基本すべて息子にさせるが、対象学年(小学5~6年生)より低い学年なので、私が隣で解説しながら使わせることにする。

プログルのサイトにアクセスし、「プログルを始める」をクリックし、「公倍数コースを始める」を選び、再度「プログルをはじめる」をクリックするとプログラミングスタートとなる。14ステージあり、ステージごとにプログラムを組んで、ロボットに提示されたとおりに数字や言葉などを言わせられるとクリアとなる。

画面右側の命令のブロックを組み合わせて、与えられた課題通りにロボットに言わせるとステージクリアとなる

基本はScratchに似ており、日本語で書かれているので、作文の要領で用意されたブロックから選んで組み立てていけばいい。Scratchに触れたことがある息子は、すぐに理解してブロックを組み始めた。課題に即したブロック中心に並んだ状態でスタートするので、迷わないで組み立てられるようだ。

課題の多くはブロックを組み立てるだけで済むが、自分の名前など文字を入力する課題があるので、文字入力に慣れていない子は少々苦労するかもしれない。保護者のパソコンを使う場合、ローマ字入力ができない子には、日本語入力に切り替えてやる必要もある。

課題を一つクリアする度に、「おめでとうございます!あなたはステージ1をクリアしました!」などの表示が出る。その度、「イエーイ!」と嬉しそうな息子。ステージ1と2までは文字入力ができ、ブロックの意味が分かればできてしまう。

ステージ3は、1から3までの数字を言わせるプログラムなのだが、このときは「1といいます」「2といいます」「3といいます」と、ブロックが3つ必要となる。ところが、ステージ4ではブロック2つで数を10まで言わせることができるようになる。「あ、簡単になったね」と息子。ブロックが10個なくても10まで言わせることができる便利なプログラムに気づいたようだ。

1から3までの数字を言わせるステージ3
10までの数字を言わせるステージ4

ステージ6からはいよいよ「倍数」が出てくる。倍数は5年で習う概念なので、それ以下の学年の子どもにはまず概念を教える必要がある。息子には、3の倍数は3の段のかけ算の答えと同じであり、3の段の答えは3で割り切れることを説明して進めていった。5年生以上の子どもなら、3の倍数になる条件を自分で選ぶことで理解が深まる作りになっている。

ステージ8からは「1から10のうち、3の倍数を言わせてみよう。そうじゃないときはあなたの名前を言わせてみよう!」などの“条件分岐”が出てくる。最初は難しいかもしれないが、似た課題が繰り返し出てくるので、ゆっくり組み立てていけば必ず理解できるようになるはずだ。また組み立て終わったら、課題と照らし合わせながら作ったプログラムを読み上げるようにすると、見逃しに気づきやすいのでお勧めだ。

“条件分岐”はゆっくり考えながら組み立てよう。読み返すことも大切

ステージ10からは公倍数が登場する。「公倍数とは3のかけ算の答えと5のかけ算の答えの共通するもの」と説明してスタート。徐々に複雑になっていき、特に最後のステージ14あたりは少々考え込むことも。しかし、「これおもしろいね」と言いながら最後までほとんど説明なしでプログラムを組むことができた。

ステージクリア時に「おめでとう」と表示されるのが嬉しい

倍数、公倍数を理解する効果あり

プログルを遊ぶうちに、小学2年生の息子でも倍数や公倍数をすっかり理解できたことには驚いた。たとえば「3の倍数」などの条件を与えるとロボットが該当する数字を読み上げるので、規則性がひと目でわかりやすいのだ。ロボットの数字読み上げスピードは変えることができるが、速くしすぎない方が子どもの確認の速度と合っていて良いと感じた。

ステージ12では「1から10の数のうち、3の倍数の時はプロ!5の倍数の時はグル!どれでもない時は数を言わせてみよう!」という課題が出るのだが、息子はロボットが言う前に自分で「1、2、プロ!、4、グル!、プロ!…」と口に出していた。他の課題でも、「(3と5の公倍数は)15の次は30だね」と理解していることがわかる発言が見られた。

プログラムを組むことでこのように倍数や公倍数を正しく理解することができるので、かけ算がわかる年齢以上なら十分利用できるだろう。時間にして30分強程度で最後のステージまでクリアできる。授業などで取り組む場合は、画面上部で任意のステージだけを選んで使うこともできるので使い勝手も良い。

日本語でプログラムが組めるので、十分に子どもだけで進めることができるのだが、条件分岐は慣れていない子には少々難しいので、つまずいたときには大人がアドバイスする必要がありそうだ。ただ、全体的には特に説明なしで子供だけで進めていける作りなので、プログラミングに詳しくない先生や保護者にもお勧めしたい教材と言えるだろう。

教材名プログル
利用料無料
対象小学5・6年生(ただし、かけ算がわかる小学2年生以上なら保護者の補助の下で学習効果が期待できる)
環境インターネットにアクセスして、Webブラウザーが利用できる端末が必要(キーボードから文字入力ができるパソコンでの利用がお勧め)
保護者に求められる知識とスキル・倍数・公倍数を理解し、子どもに教えられること
・タブレットもしくはパソコンの基本操作や文字入力ができること
学習効果倍数・公倍数を理解できるようになる
学習時間のめやす30分強程度

※学習効果や学習時間は個人差があります

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/