FINANCE Watch
“解体”の危機に瀕する日本テレコム~BTの資本引き上げで

  名門新電電、日本テレコム(9434)グループの“完全解体”が現実味を帯びてきた。友好関係にある第2位株主の英ブリティッシュ・テレコム(BT)が、最近の世界同時株安の煽りを受けて債務処理に行き詰まり、保有する20%の日本テレコム株を売却すると観測されている。しかも、その買い取りを狙って出資比率25%の筆頭株主、英ボーダフォンが改めて日本テレコムにTOB(株式公開買付)をかけるという情報もあり、成功すれば、日本テレコムはボーダフォンの連結対象子会社に成り果てる。

  ●「名門」に最悪の局面
  同時にそれは、ボーダフォンの真の目的である日本テレコムの系列携帯電話会社、J―フォンの買収が達成されることを意味する。その時、“用済み”の日本テレコムはどうなるのか―。既に英ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)、米MCIワールドコムが触手を伸ばしつつあり、インターネット事業や電話事業など部門ごとに切り売りされる可能性も否めない。名門新電電は最悪の局面を迎えつつある。

  「もはや日本テレコムの命運は尽きた。旧国鉄の技術の血を引く素晴らしい会社だったのに・・・」。BTが、日本テレコムおよびJ―フォンにそれぞれ20%出資している株式の売却を検討していることが伝わった26日、ある新電電の役員は惻隠(そくいん)の情を禁じ得ず、ポツリとつぶやいた。

  日本テレコムは、第2位株主のBT、第3位株主のJR東日本(9020)で連合を組み、ボーダフォンに対抗していく構えだった。実際、坂田浩一会長、村上春雄社長のポストは守り、またボーダフォンが要求した役員4人の派遣に対しては「2人まで受け入れることで合意した」(村上社長)と譲歩させ、“ボーダフォン包囲網”は一定の効果を上げていた。しかし、その戦術は世界同時株安とともに破綻する。

  BTはこれまでの積極投資のツケが顕在化、300億ポンド(約5兆2,500億円)を超える巨額債務を抱えている。ピーター・ボーンフィールド社長は有力子会社の上場収益で債務を圧縮する方針だったが、株価の低迷で上場のめどが立たず、株主や取引銀行からは社長更迭論まで浮上している。対照的に、ボーダフォンは保有するフランステレコム株を仏テレコムに売却して116億ユーロ(約1兆2,500億円)を調達。さらにグループの携帯電話会社、伊インフォストラーダも電力会社の伊エネルに72億5,000万ユーロ(約8,000億円)で売却を決めており、キャッシュフローは潤沢だ。

  ●ボーダフォンの要求は・・・
  仮に日本テレコム株に一定のプレミアムをつけてTOBをかけた場合、BTのボーンフィールド社長は「株主利益の極大化」を使命とする経営の建前上、売却に応じざるを得ない。ボーダフォンがBTの持ち分すべてを買い付ければ、その出資比率は45%となり、ダントツの筆頭株主。同様にJ―フォンの直接出資比率も46%に達し、間接出資比率24.3%を含めた実質の持ち分は70%を超える。日本市場に悲願である携帯電話の事業拠点を設けられるわけだ。

日本テレコムの資本構成(%)
株主 現在 TOB後
ボーダフォン 25.0 45.0?
BT 20.0 0.0?
JR東日本 15.1 15.1
JR西日本 1.6 1.6
JR東海 1.2 1.2
そ の 他 37.1 37.1?

  ある外資系通信事業者の幹部によると「ボーダフォンが今、日本テレコムに要求しているのは執行役員制の導入と、派遣する2人の役員への代表権付与」とされる。執行役員制の導入はJRとBT出身の商法上の役員を減らし、経営の発言権を高めることが目的だが、代表権の付与は文字通り会長・社長ポストの獲得にほかならない。

  TOBを6月末の日本テレコムの株主総会までに完了させるには、時間の余裕がないが、株主総会で2人の役員の代表権が承認されれば、その後、TOBの完了を待って取締役会を開き、一気に会長・社長を更迭することも可能になる。新電電や外資系通信事業者の間では「株主総会の後、坂田―村上体制がいつまでもつかは疑問」という見方が支配的だ。そして、日本テレコムの経営権を握った時、ボーダフォンは何をするのか・・・。

  前出の外資系通信事業者の幹部が指摘する。「キャッシュフローが豊かなのはボーダフォンばかりではない。C&Wは着々とアジアの事業再構築に動いている」。C&Wは26日、グループの携帯電話会社、豪オプタスをシンガポール・テレコムに売却すると発表した。売却額は172億豪ドル(約1兆円)にのぼり、その資金をアジアのデータ通信事業に絞って再投資しようとしている。

  ●事業部門ごとの切り売りも?
  既に日本では、大手プロバイダーのインターネットイニシアティブ(IIJ)の買収に動いているが、日本テレコムのインターネット事業の営業資産は、IIJに劣らない。しかも、「携帯電話のボーダフォンと、地上回線のC&Wは欧州で提携関係にある」(新電電幹部)ことを考え合わせれば、両社に何らかの連絡があっても不思議はない。もう1社、MCIワールドコムも日本テレコムに関心を示しており、容易に自社回線の敷設が進まず、日本市場で苦戦を強いられている同社にとって、日本テレコムのネットワーク設備は大きな魅力だ。

  こうした海外の大手キャリアのオファーが、ボーダフォンの利害と一致すれば、事業部門ごとに売却される可能性も否めない。名門新電電の切り売り―。それは、1985年の通信自由化で参入したDDI(現KDDI、9433)、日本高速通信(同)、日本テレコムの3社のうち、インフラ面などで最も“血筋”の良かった同社が消滅することを意味する。同じ新電電のある役員はつぶやいた。「名門意識には世故に疎い側面がある。同じ名門のBTを信じたのが間違い。アングロサクソンに浪花節は通じない」。

■URL
・英ボーダフォンが日本テレコム株15%取得へ~JR西日本、東海から
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/20/doc1486.htm
・英ボーダフォン、J―フォン“掌中”へ着々~テレコム株はC&Wへ売却?
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/03/09/doc2230.htm
・J-フォンを獲れ!英国勢2社の“オセロゲーム”~日本テレコムグループ経営陣に更迭の危機
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/08/doc1935.htm

(三上純)
2001/03/29 11:36