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J-フォンを獲れ!英国勢2社の“オセロゲーム”~日本テレコムグループ経営陣に更迭の危機

  旧国鉄を母体とする新電電、日本テレコム(9434)グループの経営陣更迭が現実のものとなりつつある。日本テレコム本体の主導権争いは昨年12月、英ボーダフォンが15.0%の株式を握って以来、同社と英ブリティッシュ・テレコム(BT)、米AT&T、JR東日本(9020)の大株主4社による“瀬踏み”が続いているものの、系列の携帯電話事業者、J-フォン・グループ4社はボーダフォン支配が有力な展開となっている。

  4社のトップをボーダフォンが独占することもあり得、有力事業の携帯電話を支配されてしまえば、日本テレコムはボーダフォンの軍門に下ったと言っていい。もっとも、AT&Tが放出を表明している日本テレコム株の行方次第で、主導権争いは“オセロゲーム”のように瞬時に逆転するが、「もはやJRにオセロの駒をひっくり返す力はない」という観測は変わっていない。

  ●経営権保持に見えるが・・・
  「次世代携帯電話の事業化に向け、J-フォン(持株会社)はいずれ増資することになる。が、株主3社にはそれぞれ言い分があり、容易にまとまらない」―。日本テレコムの村上春雄社長は、6日の定例会見の席上、図らずもグループの主導権争いの焦点が次世代携帯電話「W-CDMA」の事業化に移っていることを吐露した。J-フォンの株主とは、日本テレコム、ボーダフォン、BTの3社(表1)。このうち、ボーダフォンの出資比率26.0%は本来、日本テレコムの携帯電話事業のパートナーであった旧米エアタッチ・コミュニケーションズの持ち分だったものを、ボーダフォンが旧エアタッチを買収して継承したものだ。

[表1]
●日本テレコム
株主
●J-フォン
(持株会社)株主
●J-フォン東日本
株主
JR東日本 15.1 日本テレコム 54.0 J-フォン 51.22
ボーダフォン 15.0 ボーダフォン 26.0 日本
テレコム
20.20
BT 15.0 BT 20.0 ボーダフォン 8.31
AT&T 15.0     JR東日本 5.72
JR西日本 1.6     BT 0.04
JR東海 1.2     その他 14.51
その他 37.1        

  しかし、事態はそれだけで収まらず、ボーダフォンは日本テレコム本体の株式も15.0%を取得。その結果、J-フォンに占める26.0%が大きな意味をもつようになった。J-フォンの前身は1998年11月、次世代携帯電話を事業化するために設立した企画会社「IMT-2000企画」。日本テレコムはその後、これを携帯電話事業の持株会社に衣更えし、2000年10月には北海道から九州まで9社あった地域会社を、J-フォン東日本、同東海、同西日本の3社に再編し、持株会社の傘下に収めた。

  日本テレコムと、持株会社を含めてJ-フォン4社の関係は、その資本関係をみれば明らかだ。持株会社J-フォンの株式は過半数を超える54.0%を日本テレコムが占めている。孫会社に当たる地域3社もJ-フォンと日本テレコムが大半を握っており、例えば、北海道・東北・関東を事業エリアとするJ-フォン東日本の場合、両社合わせた出資比率は71%以上。経営の自主性は確保されているかにみえる。

  ●ボーダフォンに資本の論理
  しかし・・・。

  「子会社や孫会社のグループ経営において、モノを言うのは親会社の株主の間接出資比率。日本テレコム本体がボーダフォンやBTに蚕食(さんしょく)されてしまった以上、本体の直接出資比率など意味をなさない」―。ある外資系通信企業の幹部は、“資本の論理”を楯に冷たく言い切る。

  間接出資比率とは、子会社や孫会社における親会社の直接出資の比率を、親会社の株主の持ち分に応じて再配分した比率を指す。つまり、J-フォンに占める日本テレコムの直接出資比率、またJ-フォン東日本に占めるJ-フォンと日本テレコムの直接出資比率は、ボーダフォンやBT、JR各社の間接的な出資に還元されてしまうわけだ。すると、状況は一変する(表2)。

  J-フォンの場合、ボーダフォンが旧エアタッチから継承した26.0%に、日本テレコムの直接出資から還元される間接出資比率8.1%を加えれば、実質的な出資比率は34.1%に達する。これに対し、JR東日本はボーダフォンのほぼ3分の1の8.15%に過ぎない。“資本の論理”からみる限り、ボーダフォンの圧倒的有利は動かない。この傾向はJ-フォン東日本、東海、西日本についても同じだ。

[表2]
●J-フォン(持株会社)の外資比率 ●J-フォン東日本の外資比率
  直接出資 間接出資 合計   直接出資 間接出資 合計
ボーダフォン 26.0 8.10 34.10 ボーダフォン 8.31 20.39 28.70
BT 20.0 8.10 28.10 BT 0.04 17.33 17.37
JR東日本 ―   8.15 8.15 JR東日本 5.72 7.17 12.89
JR西日本 ―   0.86 0.86        
JR東海 ―   0.64 0.64        

  ●ノリカは何処に
  ある新電電の役員は「ボーダフォンは世界最大の携帯電話会社。その勢力を一段と拡大するために当然、J-フォンの社長ポストを求めてくる」と断言する。戦略部門であるJ-フォンの社長は、日本テレコムの坂田浩一会長が兼務しており、その坂田氏が更迭されてしまえば、日本テレコムグループの求心力は一気に低下する。

  「いや、坂田会長にはもう辞めてほしい。が、辞めるに辞められないのが現状だ」―。日本テレコムのある若手幹部は、ポツリと本音を漏らした。実際、外資提携を進めて今日の経営権の危機を招いた坂田氏に対する怨嗟(えんさ)の声は、生え抜き社員を中心に高まっている。その背景に「JR出身にあらざれば、人にあらず」といった、従来の日本テレコムの社内風土があることも事実だが、逆に言えば、JR色が一掃されつつある今こそ、坂田氏を辞めさせられないジレンマに、日本テレコムは陥っている。

  坂田氏は今、AT&Tの日本テレコム株放出を小幅に留めるよう奔走している。当のAT&Tは米国における次世代携帯電話の周波数オークションに応札するため、資金需要に迫られており、今のところ、日本テレコム株を高く売ろうと“音無しの構え”だ。仮にBTが高値で引き取れば、最後の一手ですべてが逆転する“オセロゲーム”のように、J-フォン4社におけるボーダフォンの間接出資比率を超えることができる。

  前出の外資系通信事業者の幹部は、半ば憐憫を込めて揶揄(やゆ)した。「ミス・ノリカ・フジワラ(藤原紀香=J-フォンのCMキャラクター)は誰のものになるのか、ボーダフォン、それともBT・・・」。

■URL
・J-フォン
http://www.j-phone.com/index.html
・日本テレコム
http://www.japan-telecom.co.jp/
・日本テレコム、破綻した“JR流国際戦略”~BT、ボーダフォンの草刈り場に
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/26/doc1543.htm
・英ボーダフォンが日本テレコム株15%取得へ~JR西日本、東海から
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/20/doc1486.htm

(三上純)
2001/02/08 10:53