FINANCE Watch
コラム 瓦版一気読み~強まる「日銀包囲網」

  情報は時とともに劣化する・・・

  【1面トップ】
  ●量的緩和を催促する市場
  株式はもともとリスクの高い金融商品である。下落が続き、底値が見えない段階で迂闊に手を出せば、大火傷を負いかねない。日経によれば、投資家が安全性の高い国債投資を活発化させているが、平均株価がバブル崩壊後の安値を更新、景気の減速感が一段と強まっている状況では当然の流れといえる。

  一方、国債投資が活発になってきたことで流通利回りは低下。長期金利の指標となる新発10年物の流通利回りはきのう、2年2カ月ぶりに1.2%を割り込んだ。

  短期金利(無担保コール翌日物)をゼロ%に誘導するゼロ金利政策が実施されていた時でも、長期金利の「底」は1.215%(99年5月)。日経は、こうした長期金利の動きについて「市場は日銀に金融の量的緩和を催促し始めている」と分析する。

  ◇日経以外の5紙は、<村上元労相を逮捕>のニュースをトップで報じている。

  生中継を容認、「武士(もののふ)として常に死に場所を求めている」と時代がかった物言いで臨んだ証人喚問で、こともあろうに証言拒否を連発。とんだ醜態をさらした村上正邦容疑者の「犯罪」についてはさんざん報道されてきたので、ここでは「村上逮捕」の影響について触れる。

  「党総裁としての責任は当然ある」(公明・神崎武法代表)、「首相の責任は当然ある」(保守・扇千景党首)。ともに連立を組む両党の首脳たちにまでこんなことを言われたのだから、森喜朗首相の命運は尽きたも同然。加えて、首相自身の「政治家として賢明な判断をしていきたい」との一言(衆院予算委)で、「早期退陣の流れが加速した」(東京)かに見えた。

  が、発言の波紋が広がると、直ちに「政策のことを言ったので、(進退とは)関係ない」と前言を撤回。自身の一言が弾みをつけた早期退陣の流れを押し戻そうと孤軍奮闘、必死で防戦に努めた。この人もよく醜態をさらす。

  ところで、民主党の海江田万里氏が衆院予算委で配った「調査結果」によれば、森氏が首相に就任してから2月末までの11カ月間で日経平均株価は37.04%も下落、歴代首相の中で最悪となっていることが分かった(読売)。

  森首相の早期退陣を促す要因の中には株価の下落も含まれている。が、東京によれば、首相周辺は「(株安は)日銀の金融政策に問題がある」と責任回避に躍起だそうで、矛先をかわすため速水優総裁に早期辞任を迫る声が首相周辺から浮上してくる可能性も。

  【経済・IT】
  ●平均株価1万円も?
  前日の日銀の追加利下げにもかかわらず、きのうの平均株価(終値1万2681円)はバブル崩壊後の最安値を大きく割り込み、TOPIX(東証平均株価指数)も昨年来の安値をつけた。日本経済は、「株安が景気を悪化させ、さらなる株安を招く悪循環」(日経)に陥っているのか。

  利下げしたにもかかわらず、値を戻さなかったのは「ああいうこと(NY株価の続落)があったから」で、利下げは株価に「プラスに働くはず」と、速水総裁は言う。が、市場は馬耳東風。「金融の量的緩和など景気回復に向けた抜本的な対応を求める“催促相場”の色合いが強まってきた」と、読売も日経と同様の見方を示す。

  催促相場なら“要求”が通るまで株は売られ続ける。いったい、どこまで下がるのか?

  朝日の経済面に、エコノミスト5氏の「底値予想」が掲載されており、3氏が今月中に1万2000円~1万2500円の底値をつけると見ている。が、国際証券(8615)の水野和夫氏の予想は1万1100円(6月)。日経には、「1万円という事態も覚悟しなければならない」と悲観論を展開する丹羽宇一郎・伊藤忠商事(8001)社長のコメントが載っていた。

  ◇「株安」は見かけだけか? 悲観論に支配された株価報道の中で、「お先真っ暗と判断するのは早合点かもしれない」と独自色を打ち出しているのが毎日。

  ご存知のように日経平均株価は、昨年4月に銘柄入れ替えが行われ、連続性が失われた。そこで、銘柄入れ替え前のスキームできのうの株価の終値を試算すると「1万6440円」。

  なんだ、まだ大丈夫じゃないか、と安心したいところだが、毎日は「相場環境が厳しいことに変わりない」とも指摘、最後にちゃんと手綱を引き締めている。

  【トピック】
  ●世に迷い出る
  速水優日銀総裁の責任問題が浮上していることはきのうの本欄でも紹介した。が、メディアの枠をネットにも広げれば、東京放送(9401)のコラム『河原雄三のハッキリ言うぞう!』が2月14日に<速水総裁に辞任を勧告~意表衝く利下げの背景>(http://www.tbs.co.jp/bc/backnumber.html)を掲載。翌15日にはFINANCE Watchでも<総裁ダブル退陣論が浮上~日銀総裁にも早期辞任促す声>(http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/15/doc2000.htm)を報じている。

  雑誌媒体では、きのう手元に届いた『選択』3月号が<お辞めなさい速水総裁~日銀の独立性もはや「有名無実」>という記事を掲載。週明けには、Yomiuri Weeklyが特集記事で総裁批判を展開する予定だ。

  ところで、森首相と同様、速水総裁も「辞任論などどこ吹く風」のようだが、仮に引きずり下ろせたとして、後継総裁は誰が?

  読売などによれば、経済同友会の副代表幹事に、富士通総研の福井俊彦理事長が就任する方向となった。福井氏といえば、「次期日銀総裁」の最有力候補として副総裁まで登り詰めながら、1998年3月に過剰接待問題の監督責任を取る形で退任。総裁レースから完全に脱落したとみられていた。

  が、読売は「速水優総裁も経済同友会代表幹事を務めており、次期日銀総裁候補として脚光を浴びることになりそうだ」と報じている。

  総裁候補も、首相候補と同様、人材難の状況にある。いったんは表舞台から姿を消した福井氏が、はたして再び「世に迷い出る」ことになるのか?

  [メディア批評家 増山 広朗]

■URL
・瓦版一気読み バックナンバー
http://www.watch.impress.co.jp/finance/kawaraban/2001/03.htm

2001/03/02 09:08