FINANCE Watch
総裁ダブル退陣論が浮上~日銀総裁にも早期辞任促す声

  野党だけでなく、自民党内でも森首相の早期退陣論が浮上しているが、市場では「速水日銀総裁にも早期退陣要求を突きつけたい」との声が日増しに強まっている。9日の唐突な公定歩合引き下げには、一応の敬意を表して値上がりした株式市場でも、今回の金融政策の変更が、実はほとんど意味がないことを理解するにつれて、急速に失望感が広がっている。

  ●見当違いの報道批判
  「新しいロンバート型貸し出しについてあまり報道されていない」

  速水総裁は14日の記者会見でこう述べ、公定歩合引き下げを受けた報道の在り方を批判した。しかし、「日銀に駆け込めば貸し出しを受けられるという安心感が、金融システムの安定に役立つ」という日銀の説明を、真に受けている市場関係者はほとんどいないのが実情だ。

  ロンバート型貸し出しを受けるためには、言うまでもなく国債などの適格担保が必要になる。しかし、経営に不安要素を抱えて市場から狙い撃ちにされるような金融機関は、元からこうした優良な担保を確保していない。担保にできる国債などは、既に市場で売却済みで、ロンバートレート(公定歩合)がいくら下がっても意味はない。

  ただ、今回のロンバート型貸出制度の創設は、年末や決算期末の短期資金需要の際に飛び出す「突飛レート」を抑えるには役立つ。日銀も資金供給のためのオペレーションにさほど気を使わなくて済む「省エネ」にはなるが、これでは金融システム不安の解消とは程遠い。

  そもそも、経営不安を抱えている金融機関を救済するために、日銀の資金を決算期末ごとに注ぎ込んでいては、日銀の信用そのものが毀損してしまう。本来、市場からの退場が必要な金融機関を無闇に延命させるだけにもなる。ロンバート型貸出制度の創設は、冷静に考えれば、スムージング・オペレーションの手段がひとつ増えた程度の意味しかないのだから、速水総裁の報道批判は、まったくの見当違いだろう。

  ●致命的な政策判断の遅れ
  ただ金融界では、日銀も予期しなかったことが評価されている。ロンバート型貸出制度の導入を機に、日銀が過去に行っていた中小金融機関への半ば強制的な天下りの復活を断念したというものだ。

  いわば日銀の米びつであった公定歩合の性格を、抜本的に変えてしまったため、今後は日銀貸し出しを“エサ”に、暗にポストを要求することは不可能になる。もっとも、下手に金融機関に天下りすると、手が後ろに回ったり、株主代表訴訟の標的にされたりで、あまりいいこともなくなっているため、「味のしなくなったガムをやっと吐き出しただけのこと」(大手行幹部)という辛らつな評価もある。

  速水総裁にとって致命的な失敗は、昨年7-9月期のGDP(国内総生産)成長率がマイナス成長になることが分かった12月の時点で、今回の政策変更を行わなかったことだろう。

  当時、大蔵省(現財務省)が発表した法人企業統計で、設備投資が大幅下方修正されたため、同期のGDPのマイナス成長が避けられない情勢になったことは、エコノミストの間では既に常識だった。したがって、この時点で政策変更に踏み切っていれば、マイナス成長下でのゼロ金利政策解除という失敗を、日銀が自ら迅速に修正したという“評価”も可能だった。

  与党の株価対策の発表にタイミングを合わせたとしか思えない9日の政策変更では、日銀がどう取り繕っても「政治の圧力に屈した政策変更」でしかあり得ない。

  14日の株式市場では、森首相の早期退陣論が流れて、平均株価が急伸する場面もあったが、市場では「材料が速水総裁とのダブル辞任なら、もっと迫力のある値上がりになったはず」と嘲笑されている。

■URL
・日銀
http://www.boj.or.jp
・日銀、公定歩合0.35%に引下げ~事実上ロンバートレートに衣替え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/09/doc1964.htm
・公定歩合の“意味”が変わる?~市場の観測に日銀は音無しの構え
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/02/02/doc1877.htm

(舩橋桂馬)
2001/02/15 09:33