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“電気通信2法”の改正にドコモが猛反発~総務省、身内の反撃で混乱

  電気通信市場の競争促進に向け、今通常国会で「電気通信事業法」「NTT法」の改正を目指している総務省の総合通信基盤局などIT部局が、思わぬ“身内の反撃”に混乱している。というのも、改正2法によって、新たに「ドミナント規制」(市場支配的事業者に対する規制)を課されるNTTドコモ(9437)が反発、与野党議員に改正法案の修正を働き掛けており、しかも、その主張が総務省の外局である公正取引委員会の研究会報告を根拠にしているからだ。

  公取委の報告は、(1)ドミナント規制の導入反対(2)独立規制機関の設置―を柱にしており、中央省庁再編の結果、同じ総務事務官となったIT部局と公取委は真っ向から対立した形だ。IT部局では「公取委の報告を潰せなかった責任を明確にすべき」と幹部批判も挙がり始めている。

  ●ドミナント規制を否定する公取委
  「国会で野党議員から閣内不一致を指摘されたら、どう対応するのか」―。IT部局の若手職員は、“最悪の事態”を想定して溜息をついた。

  問題の公取委の報告は「公益事業分野における規制緩和と競争政策」と銘打ち、電気・ガス・航空旅客・通信の公益4事業について内部の研究会審議をまとめたものだ。とりわけ、電気通信に関しては「市場支配的事業者による競争制限行為については、独占禁止法に基づき対処することが基本であり、ドミナント規制を必要としない状態が望ましい」と明記。そこには、2重規制を退け、あくまで独禁当局の独立性を貫こうという姿勢が窺える。

  しかも、報告が発表されたのは、中央省庁が再編された1月6日からわずか4日後の10日だった。当初、総務省IT部局はコトの重大さに気付かなかったが、改正法案作成の過程でNTTドコモが騒ぎ出してから混乱に陥った。

  ドミナント規制は本来、昨年末の電気通信審議会(郵政相の諮問機関=現情報通信審議会)の答申が、地域通信シェア90%以上を占め、市場支配力をもつ東西NTTに対して導入を唱えた“非対称規制”。

  ●ドコモの気迫は“本物”
  接続会計の分離、接続料金の算定義務やプライスキャップ規制などを課し、グループ会社との間には人・資金・営業面のファイアウォールを構築する。その反面、他の事業者の規制は原則撤廃する“非対称性”が特徴であり、電通審内部では携帯電話市場で58%のシェアをもつNTTドコモにも適用すべきという声が高まった。

  ある新電電の役員は「ドミナント規制回避に向けたドコモの気迫は本物。労使一体で動いている」と指摘する。その政治工作は、自民党・郵政族議員だけでなく、わが国最大の単組、NTT労組(旧全電通)を通じて民主党議員にも及んでおり、今国会の総務委員会、また経済産業委員会の争点となる可能性がある。

  総務省は、郵政・自治・総務の旧3省庁を統合して発足、その際、総務庁と同じく旧総理府の傘下にあった公取委も外局として組み入れられた。しかし、「国家行政組織法」が定める、いわゆる「3条機関」の公取委は省と同格であり、その独立性は高い。「総務大臣も公取委員長に迂闊にモノを言うことはできない。もし、国会の場で両者の意見が不一致となれば、面目は丸潰れ」と、IT部局の旧郵政官僚は頭を抱える。

  ●旧郵政官僚を全否定?
  旧郵政官僚の不安が大きいのは、公取委の報告がドミナント規制だけに留まっていないからだ。報告の電気通信の規制に関する提言を列挙すると・・・。

  ◇事業法による事前規制から独占禁止法による事後チェック型の規制への転換が必要◇産業振興部門から独立した中立的な機関が、競争ルールの策定・執行・監視、紛争の裁定等を行う検討が必要◇公正取引委員会と関係所管官庁が連携して事業分野別ガイドラインを策定することも考えられる

  これらの文言を“意訳”すれば、すなわち、総務省のIT部局が必死に改正法案を練っている「電気通信事業法」や「NTT法」はもはや不要であり、規制行政を担当する独立規制機関も公取委が担い、場合によっては経済産業省と連携してでも競争ガイドラインをつくる、ということだ。旧郵政官僚の「全否定」に等しい。

  総務省のIT部局の解体を意味する独立規制機関の設置は、昨年のIT戦略会議(首相の諮問機関)で議論され、旧郵政官僚はその火消しに成功した。が、その間に公取委という“身内の反撃”をNTTドコモに利用されてしまった。IT部局では今、旧郵政省出身の官房長や電気通信事業部長の責任を問う声も挙がっている。

  「それにしても、公取委を含めて総務省はあまりにも“座り”が悪い。この役所が5年もつとは誰も思っていない」。前出の新電電の役員はこう言い切る。中央省庁再編が投じた影の部分―。その中で旧郵政官僚の悪夢が続いている。

■URL
・総務省
http://www.soumu.go.jp/
・NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/
・NTT再々編の進展は期待薄~「総務省」のIT人事
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/04/doc1583.htm
・衝撃の「IT特別省」構想<上>~旧郵政官僚が賭ける“逆転ウルトラC”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/29/doc1809.htm
・衝撃の「IT特別省」構想<下>~旧郵政官僚が賭ける“逆転ウルトラC”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/30/doc1829.htm

(三上純)
2001/02/16 12:05