FINANCE Watch
衝撃の「IT特別省」構想<下>~旧郵政官僚が賭ける“逆転ウルトラC”

  NTEリポート(外国貿易障壁報告書)―。霞が関の国際交渉担当官たちがいま、固唾を飲んで見守っているのは、米国のブッシュ新政権が打ち出す通商政策だ。その基本方針となるのが、毎年4月、USTR(米通商代表部)が発表するNETリポートであり、そこに各国の貿易障壁リストが掲載される。

  クリントン政権時代の電気通信に関する外圧は、旧郵政省の解体を意味する通信行政の機能分離(日本版FCC=米連邦通信委員会=の創設)だった。しかし、それはNTT(9432)グループに対抗できる強力な規制機関をつくれ、という要求でもあり、「エージェンシー(庁)ではなく、ミニストリー(省)」という含意がある。そして、もうひとつクリントン政権が求めたのは、郵便貯金・簡易保険と他の民間金融機関の監督機能の統合だった。

  ●不要になる?管理局
  「郵政企画管理局を潰せばいいじゃないか」―。総務省のIT部局のある幹部は、コトも無げに言い切った。中央省庁再編の結果、総務省には郵政3事業を引き継いだ外局の郵政事業庁と、それを監督する内局の郵政企画管理局ができたが、2003年に事業庁が公社化された後も、管理局が監督を続けることには省内外に異論が大きい。とりわけ、IT部局では「郵政企画管理局の郵貯・簡保セクションは金融庁に、郵便セクションは国土交通省に統合するのが自然。そうすれば、局の枠がひとつ空く」といった囁きが交わされている。

  その意味するところは、廃止される郵政企画管理局の枠を「IT特別省」に付け替えることにほかならない。そこに、経済産業省(旧通産省)・商務情報政策局の情報4課(情報政策・情報経済・情報処理振興・情報通信機器)を収容すれば、総務省のIT2局と合わせて3局体制となり、まさにIT行政の専門官庁ができ上がるわけだ。さらに「総務省のIT2局を旧郵政省時代の通信政策、電気通信、放送行政の3局に戻せば、4局体制も不可能ではない」といわれ、「IT特別省」構想は膨らむ一方だ。

  ●USTRへの接近も
  「IT特別省」の創設は、IT部局の旧郵政官僚が生み出した執念のサバイバル戦略と言っていい。自分たちが生き残るためには、旧郵政省時代に同じ職員だった郵政企画管理局の430人を“トカゲの尻尾”のように切り捨て、また事あるごとに解体の圧力をかけてきた憎むべき経済産業省に対しては、逆に情報4課を吸収してしまう。しかも、同構想は“外圧”にかなっている。

  既にワシントンでは、親日派といわれるUSTRのゼーリック新代表の周辺にロビイングを始めたという噂も流れている。「IT特別省」創設の“文脈”をブッシュ新政権の外圧の目玉としてNTEリポートに載せ、その余勢をかって新IT戦略本部の重点計画を書き換える―。それが、旧郵政官僚が描く“逆転ウルトラC”のシナリオだ。

  「IT特別省」の構想は、行政組織のスクラップ・アンド・ビルドを前提としている。民間企業と違い、法律と予算、そして組織を“3種の神器”とする役人は、1度獲得した権益は決して手放さない。郵政事業庁が公社化されれば、それに代わる組織を必ず求めてくる。もちろん、「IT特別省」実現までの課題は少なくない。

  ●当面は時限立法でも
  郵政3事業の特別会計予算で運営している郵政企画管理局を廃止し、その枠を一般会計予算で運営する「IT特別省」に付け替えるには財務省の了解が必要であり、何より情報4課の吸収への経済産業省の反発は必至。しかし、「まず『IT特別省』の既成事実をつくり、1府12省の枠組みを崩すことが先決。そのためには当面、時限立法でも構わない」というのが総務省のIT部局の本音だ。その成否は結局、2003年にかかっている。

  前出のIT部局の幹部は、こうも言う。「郵政3事業が公社化されてしまえば、もはや30万人の職員は身内ではなくなる。(郵政族のドンである)野中広務先生(自民党行政改革推進本部長)もいつまでも代議士でいるわけではない」。政治力と外圧を頼りとする旧郵政官僚の起死回生策―。しかし、それに残された時間は決して多くない。

  ●現行のIT関係組織と「IT特別省」構想の模式図
総務省
<10局1外局>
情報通信
政策局
総合通信基盤局
郵政企画管理局
郵政事業庁
(2003年に公社)
経済産業省
<6局3外局>
商務情報政策局
・情報政策課など4課
IT特別省
<4局>
通信政策局 総務省から
電気通信局
放送行政局
経済産業省・情報政策課など4課による局
 ※郵政企画管理局は廃止へ

■URL
・衝撃の「IT特別省」構想<上>~旧郵政官僚が賭ける“逆転ウルトラC”
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/29/doc1809.htm
・郵政事業庁、総務省揺るがす火ダネに~将来は民営化も
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/10/doc1610.htm

(川路昭夫)
2001/01/30 12:02