FINANCE Watch
公定歩合の“意味”が変わる?~市場の観測に日銀は音無しの構え

  「日銀が公定歩合の位置付け改革に踏み切るのでは」との観測が、市場の一部で浮上している。日銀の速水優総裁が事務当局に「流動性供給方法の改善」を検討するよう指示しているが、その考え方や内容を推測する手掛かりが一向に得られないことも観測の背景にあるようだ。公定歩合は、中央銀行が市中金融機関に資金を融通する際の金利で、かつては金融政策の中核として位置づけられていた。日銀が実際に改革に踏み切れば、中央銀行が持つパワーの象徴に変更が生じるだけに、その是非を巡って行内でイデオロギー論争が巻き起こる可能性もある。

  ●短期金利の「誘導目標」が定着
  公定歩合(現行年0.5%)による貸し出しは、いわゆる日銀特融の他は実施しないことになっている。

  新日銀法の施行以前、インターバンク(銀行間取引)などの資金市場の借り入れレートが公定歩合より必ず高かった時代には、通常の資金過不足をならすオペ手段の一部として「マル公貸し」が長く活用されてきた。

  が、こうしたオペについては、海外などから「日銀が市場で調達するより有利なレートで銀行に資金を供給するのは補助金のようなもので、公平でない」との批判があった。1998年4月の新日銀法の施行を機に金融調節手段としての「マル公貸し」をやめたのは、このためだった。

  日銀の金融政策は、今では、短期金利の指標である無担保コール翌日物に誘導目標(現行年0.25%)を設ける方式が定着。「公定歩合の変更は、金融機関のみならず企業や家計などから、金融政策の“基本的スタンスの変更”と受け止められている」(日銀)。

  ただ、指標金利の誘導目標の変更を公表している以上、日銀が言う「公定歩合のアナウンスメント効果」に十分な意味があるかどうかは、はっきりしない。

  しかも、1995年9月に公定歩合が年0.5%に引き下げられてから、市場金利はほぼ低下の一途をたどり、翌日物の金利は今や年0.25%。「マル公貸し」に頼るのは、市場での調達が何らかの理由で困難になった際の、「特融のペナルティー金利」でしかないのだ。

  ●「日本版ロンバートレート」に衣替え?
  割高なペナルティー金利が金融政策に使われることは、欧州各国の「ロンバートレート」に例がある。市場金利より高く設定され、担保さえあれば中央銀行がロンバートレートで資金供給に応じる仕組み。

  こうしておけば、ロンバートレートより高いレートでの資金の貸し借りは市場で発生しない理屈で、中央銀行はロンバートレートを設定することで、市場金利の「上限」を決めることにつながるのだ。

  市場の観測は、「現状の公定歩合を『日本版ロンバートレート』に衣更えするのではないか」というもの。変動する市場金利に明確な上限が設定されるなら、「資金供給手段の改善」の趣旨にも、結びつかないわけではないというわけだ。

  ともあれ、当の日銀はいまだ音無しの構え。市場の気迷いはしばらく続きそうな気配だ。

■URL
・日銀
http://www.boj.or.jp/
・唐突な日銀総裁指示の波紋~「資金供給策拡充」に憶測広がる
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/22/doc1732.htm
・日銀、ゼロ金利解除を決定~誘導目標.0.25%に
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/08/11/doc171.htm

(小倉豊)
2001/02/02 11:18