FINANCE Watch
日本テレコム、破綻した“JR流国際戦略”~BT、ボーダフォンの草刈り場に

  新電電の雄、JR系の日本テレコム(9434)が、外資系通信事業者に“宗旨替え”されることになった。JR西日本(9021)とJR東海(9022)は、合わせて15%の日本テレコム株を、世界最大の携帯電話会社、英ボーダフォン・グループへ2,492億円で譲渡することに合意した。一方、日本テレコムに同じく15%ずつ出資している、英ブリティッシュ・テレコム(BT)と米AT&Tのうち、AT&Tは持ち株の一部放出を表明、今後、その買い取りをめぐってBTとボーダフォンという英国勢同士の主導権争いが予想される。いずれにせよ、JR色が一掃されるのは必至といえ、日本テレコム内部では「外資提携を進めた坂田浩一会長は責任を明確にすべき」と、引責辞任を求める声も挙がり始めている。

  ●崩れたJR支配
  「ボーダフォンのクリス・ジェントCEO(最高経営責任者)からは、これ以上株を買い増ししない、という言質はとれなかった」―。

  ボーダフォンの資本参加が決まった20日、緊急会見した日本テレコムの村上春雄社長は、坂田会長とともに先々週末、ロンドンのボーダフォン本社を訪れた時の様子を力なく語った。日本テレコムにとって、青天の霹靂(へきれき)のようなJR2社の株式譲渡劇―。

  その結果、BT、AT&T、ボーダフォンの出資比率は当面15%ずつで並ぶ。15.1%のJR東日本がわずかな差で筆頭株主を維持し、JR7社合計では20.7%を保有するとはいえ、もはやJRグループの経営自主性が崩れたのは明らかだ。

  ●意趣返し?の売却
  今回の資本の移動は、JR3社の“お家騒動”と言っていい。JRグループの中核企業は東日本。しかし、西日本の対抗意識は強く、業績好調の東海も独立色が濃い。日本テレコムの坂田会長、村上社長は旧国鉄時代に転籍しており、3社いずれの出身でもないが、その人脈は東日本に偏っていた。とりわけ、BT、AT&Tからの出資受入れを主導した坂田会長は、東日本の合意の下に提携を進め、事前説明が不十分だった西日本、東海からは顰蹙(ひんしゅく)を買っていたという。

  「西日本と東海は結局、半ば“意趣返し”で株を売ったのだろうが、相手が悪い。ボーダフォンがどんな事業者か知っていたのか」―。新電電や外資系通信事業者の間では、こんな囁きが交わされている。ボーダフォンは、企業買収によって成長してきた携帯電話会社。傘下にはドイツの名門企業、マンネスマンを収めているが、その買収の際には敵対的TOB(株式公開買付け)を仕掛け、英独の政治問題になりかけた経緯がある。日本テレコム系の携帯電話会社、J-フォングループの大株主にボーダフォンが名を連ねているのも、日本テレコムの携帯電話事業におけるパートナーだった旧米エアタッチ・コミュニケーションズを、ボーダフォンが買収した結果だ。

  ●英国2社が主導権争い
  ボーダフォンは本来、日本テレコムの外資提携戦略の外にあった企業。にも拘らず、15%もの株を握られてしまう原因は、やはり、安易に進めたBGT、AT&Tとの資本提携に帰せざるを得ない。坂田会長は1999年4月25日、両社による総額2,200億円の資本参加を決めた提携発表の席上、「日米英の戦略的パートナーシップ」を高らかに謳い上げた。しかし、AT&Tはわずか2日後の27日、NTT(9432)と多国籍企業向け通信サービスで提携すると発表、日本テレコムは“道化役”を演じることになった。

  さらに坂田会長の不明は、NTTドコモ(9437)から1兆円を超える出資受入れを決めたAT&Tが、“用済み”の日本テレコム株を放出することを見通せなかったことだ。一方のBTはAT&Tの持ち株の買収を表明しており、仮にその出資比率が20%を超えれば、日本テレコムはBTが筆頭株主となり、その関連会社に成り果てる。当然、ボーダフォンもAT&Tに接触するとみられ、今後、英国勢2社の主導権争いが展開されることは必至。しかも、主導権争いは日本テレコムの次世代携帯電話「W-CDMA」の事業化に大きな影響を与えることになる。

  ●W-CDMA戦略に混乱も
  「東京で契約したJ-フォンのW-CDMA端末をロンドンに持っていったら、つながるのはBTか、それともボーダフォンか」―。ある外資系通信事業者の指摘した疑問は、今後の日本テレコムの先行きを暗示するものだ。

  次世代携帯電話は、世界中どこでもつながるのが特徴だが、日本テレコムが採用した日欧規格「W-CDMA」の事業化には8,000億円近い投資が必要。BT、AT&Tとの資本提携はその資金調達が目的だったが、逆に言えば、BTやボーダフォンが日本テレコムに出資するのも、自社の携帯電話の国際化のためにほかならない。

  ところが、W-CDMA端末が接続設定できるのは1社のネットワークだけ。英国で競合する2社が有力株主になってしまった日本テレコムの次世代携帯電話事業は混乱する可能性がある。もし、BTがボーダフォンとの主導権争いに敗れれば、AT&Tと同じく日本テレコム株を保有している理由はなくなる。その時、日本テレコムを待っているのはボーダフォンの子会社という現実だ。

  ある新電電の幹部が指摘する。「BTもAT&Tも冷徹な利害で動いている。坂田さんは彼らを信頼してしまった。アングロサクソンに浪花節は通用しない」。旧国鉄という“ウルトラ・ドメスチック企業”の血を引く日本テレコムの国際戦略は、破綻に終わりつつある。

● 日本テレコムの主要株主構成 ●
  現在 今後
・JR東日本 15.1% 15.1%
・JR西日本 10.2% 1.6%
・JR東海 7.6% 1.2%
(JR7社計) (35.7%) (20.7%)
・英BT 15.0% 15.0%?
・米AT&T 15.0%
・英ボーダフォン ――― 15.0%?

■URL
・日本テレコム
http://www.japan-telecom.co.jp/
・英ボーダフォンが日本テレコム株15%取得へ~JR西日本、東海から
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/12/20/doc1486.htm

(三上純)
2000/12/26 11:10