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郵政事業庁、総務省揺るがす火ダネに~将来は民営化も

  中央省庁再編による総務省の発足とともに誕生した職員30万人の巨大国営事業体「郵政事業庁」が、早くも同省の内部分裂の火ダネとなっている。旧郵政官僚は6日発令の異動で、外局の郵政事業庁と、その監督に当たる内局の郵政企画管理局に分かれ、同じ釜の飯を喰った者同士が対峙(たいじ)する関係になった。郵政事業庁は2003年に公社へ移行する計画だが、内部では民営化を求める声が強まっており、「いずれ第2のNTTになる」という見方がもっぱらだ。その場合、寄せ集め官庁である総務省における旧郵政官僚の地位が、IT関係部局を含めて低下するのは必至。同省が、もうひとつの勢力である旧自治官僚に席捲される日はそう遠くなさそうだ。

  ●吐けない本音
  「10年先、20年先も公社でいられる訳がない。リストラされる前に役所の外(民営化)へ出たい」―。郵政事業庁の若手幹部の間には、将来に対する不安が渦巻いている。同庁は旧郵政省の郵便・郵便貯金・簡易保険の3事業を引き継いだものの、国営事業の足カセをはめられたまま、宅配や銀行、生損保の民間企業と競争しなければならない。将来の合理化は避けて通れず、今のうちに民営化してほしい、というのが本音だ。しかし、公式には本音を吐けない理由がある。

  97年の中央省庁再編議論の際、行政改革会議は当初、郵政3事業の民営化を提唱した。これに対し、解体の危機感を高めた当時の郵政省は自民党・郵政族を動員して反対、結局、国営事業と公務員待遇を前提に「郵政事業公社」として独立させる妥協案が採られた。「民営化してほしい、とは今さら言えない」のが旧郵政省の立場であり、とりわけ、郵政企画管理局に配属された幹部はこれから、公社の設置法制定や人事・労務の制度整備という大仕事をこなさなければならない。

  ●第2のNTTに
  「郵政省は箸の上げ下げにまで文句をつけてくる」「自由にやらせろ、と言われても、その制度整備に苦労するのはわれわれだ」

  1985年の通信自由化以来、NTT(9432)と旧郵政省のIT関係部局の間では、こうした軋轢(あつれき)が繰り返し展開されてきた。同じことが今後、郵政事業庁と郵政企画管理局の間で起きることになる。

  ある郵政省OBは「初めのうちは人事の交流もあるが、それが次第に固定し、軋轢が積み重なると、憎しみが生まれてくる。郵政事業庁が第2のNTTになるのは間違いない」と断言する。同じ釜の飯を喰った間柄だけに“近親憎悪”の感情も強く、とりわけ、その元凶になるとみられるのが郵政3事業の特別会計予算だ。

  ●外局が内局を養う
  総務省の10局のうち、郵政企画管理局は唯一、職員の給与を含む運営費を一般会計予算に頼らない特殊なセクション。歳出規模7兆5,000億円にのぼる郵政3特会、すなわち、3事業の収益の一部で賄っており、これは旧郵政省のコスト構造をそのまま踏襲したものだ。旧郵政省は同じ職員でありながら、通信政策・電気通信・放送行政のIT3局と、郵務・貯金・簡易保険の現業3局で給与体系が異なる役所だった。

  前者の人件費は一般会計、後者は郵政3特会に計上されており、その給与水準は郵政3特会の方が高い。両者の人事交流は活発ではなかったが、「40歳代の本省課長クラスが異動すると、年収は約100万円違った」(郵政省OB)という。

 それはともかく、郵政企画管理局の430人の給与を含む運営費が、郵政3特会で賄われることの意味は深長だ。つまり、監督する者が、監督される郵政事業庁の30万人に養われる奇妙な事態が出現してしまった。

 この郵政省OBは「こんなことはNTTと旧郵政省の間にもなかった。郵政事業庁の幹部は指導を受けるたびに『俺たちの上がりで喰わせてやっているのに・・・』という、内局への不満が鬱積してくる」と指摘する。その結果、民営化要求が先鋭化し、総務省内部で旧郵政官僚が分裂した時、“漁夫の利”を得るのは誰か―。旧自治官僚にほかならない。

  ●受け皿は自治体首長?
  「地方の首長になるのも、悪くないかも知れないな」―。総務省IT関係部局のある有力課長は、こうつぶやいた。自治・郵政・総務の3省庁を統合した総務省で、将来の事務次官を狙えるのは、旧自治省の財務局出身者、あるいは旧郵政省の電気通信局出身者といわれる。しかし、ここへ来て、旧自治官僚からIT関係部局の旧郵政官僚に地方の首長選への出馬打診が散発しているという。

  市長や知事の出馬枠は本来、旧自治省の既得権益。しかも、総務省は旧自治省の地方交付税交付金の権限と、旧郵政省の特定郵便局長の人脈を兼ね備えた結果、地方政治に圧倒的な影響力をもつようになった。「すぐに知事になれなくても、副知事を何期か務めた後に・・・」という誘いが、旧郵政官僚に囁かれても不思議はない。

  ある新電電の幹部は指摘する。「旧自治官僚にとって邪魔な電気通信局出身の事務次官候補は、おそらく1本釣りで省外へ出されるだろう。郵政事業庁が民営化されるようなことになれば、その動きは一段と加速する」。郵政3事業という旧郵政省の基盤が崩れた時、総務省は旧自治官僚の“王国”となっているかも知れない。

■URL
・総務省
http://www.soumu.go.jp/
・霞が関のIT“参謀本部”は経済産業省に~郵政は恨み節
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/05/doc1590.htm
・NTT再々編の進展は期待薄~「総務省」のIT人事
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2001/01/04/doc1583.htm

(三上純)
2001/01/10 12:19