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NTT完全資本分離、カギ握る橋本行革相~参院選と外圧が焦点に

  2003年にNTT(6752)を完全資本分離―。電気通信審議会(郵政相の諮問機関)・特別部会は、通信市場の競争が進まない場合、NTTグループの“構造的措置”に踏み切る答申案をまとめた。1996年の電通審答申をほぼ踏襲する内容であり、足掛け5年、分離分割阻止に全力を挙げてきたNTTへの“宣戦布告”となる。NTTが今後、政治判断による逆転を目指して巻き返しに出るのは必至。

  とりわけ、来年は参院選を控えていることから、「次期通常国会で法制化できるのか」という新電電各社の不安は大きい。既に郵政省周辺では、カギを握るのは行革担当相の橋本龍太郎元首相、という声が挙がり始めた。

  「NTTの持株経営をどうするか、総合的に検討したい」―。来年1月に総務相となる片山虎之助郵政・自治相兼総務庁長官は、答申案が固まった8日、完全資本分離を示唆する発言を繰り返した。来年からスタートする政府の次期「規制緩和3カ年計画」にも、NTT持株会社の廃止が盛り込まれる見通しであり、行政改革も所管する総務省はNTTの経営形態に方向性を示さなければならない。

  ●2年の経過期間待たずに
  答申案は、2段階での競争促進策を提示している。第1段階では、NTTに対し、競争促進に向けた自主的な実施計画を提出させ、2年の経過期間を置いて実施状況を監視する。実施計画は、東西NTTの経営効率化や地域通信網のオープン化、またNTTコミュニケーションズ(NTTコム)とNTTドコモ(9437)に対する持株会社の出資比率低下などが柱となるが、それが十分に行われなかった場合、第2段階として完全資本分離に踏み切る。

  答申案は、NTTが実施計画を提出しない、または提出しても内容が不十分だった場合にも言及、「2年の経過期間を経ずに、完全資本分離を含むNTTグループの経営形態の抜本的な見直しを実施する」とクギを刺している。電通審は当初、完全資本分離を見送り、NTTがグループ各社の資本関係を弱めて相互競争を進めることを条件に、東西NTTの業務領域拡大、放送事業や製造業への進出を認める「インセンティブ規制」を掲げた。

  ところが、NTTはこれを拒否、「ドコモ株は51%以上、NTTコム株は100%の持株比率を維持する」(宮津純一郎社長)と主張したことから、切り札を切った形だ。資本関係を含む分離分割を唱えた96年の電通審答申を最終的に踏襲したといえる。しかし・・・。

  ●NTT有利の構図
  「NTTの経営形態をめぐる電通審答申は、政治力学によってことごとく挫折してきた。しかも、来年は参院選がある」と、新電電側は不安を隠さない。年明け後、片山総務相が完全資本分離に意欲を示したとしても、その片山参院議員も改選期を迎える参院選が近づけば、NTTの選挙支援を期待する自民党・郵政族は黙っていない。野党の民主党もNTT労組(旧全電通)の支援を受けており、与野党の構図は明らかにNTTに有利だ。

  しかも、第2次森改造内閣が掲げる、特殊法人・公益法人改革や公務員制度改革を特命されているのは橋本行革担当相であって、総務省ではない。「片山大臣は屋上屋を重ねられている」(郵政省幹部)という見方が一般的だ。

  1985年の通信自由化当時、電電公社の分割民営化を退け、民営化のみを先行させたのは、自民党・行財政調査会長のポストにあった橋本氏だった。96年の電通審答申も、橋本氏は首相の立場で持株会社方式によるグループ経営への修正を裁定している。NTTの経営形態の節目節目に携わり、最も事情をよく知る橋本氏が今回、どういう判断をするかに、完全資本分離の法制化はかかっている。

  ●郵政解体とセット?
  その橋本元首相は、しばしば「やり残したことがある」と発言している。それは、首相として進めた97年の中央省庁再編議論で、通信行政の“政策”と“規制”の機能分離、すなわち郵政省の解体を実現できなかったことだ。橋本元首相が行革担当相に就いて、郵政官僚が最も怖れているはそのことであり、一部では「仮にNTTの完全資本分離が通ったとしても、郵政省解体とセットになるのではないか」という囁きが交わされている。

  「スーサイダル・アクト」―。外資系通信事業者のある幹部は、今回の答申案を郵政省の“自殺行為”と言い切った。NTTの即時完全資本分離を求める欧米の事業者が、今回もそれを実現できなかったら、郵政省解体の外圧を高めるのは必至。既に米国政府は先週、ワシントンで開かれた日米規制緩和協議で、郵政省解体を意味する独立規制機関の設置を正式に要求した。参院選と外圧―。その谷間でNTTの完全資本分離は揺れている。

■URL
・NTT
http://www.ntt.co.jp/
・揺れるNTTグループ~「コム」の市内参入で
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/11/29/doc1197.htm
・NTT再々編で持株会社と地域会社に軋轢
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/07/31/doc68.htm

(三上純)
2000/12/12 13:07