FINANCE Watch
激突!大手生保vs.金融庁~予定利率引き下げの行方

  相沢英之金融再生委員長が口火を切った生命保険の予定利率の引き下げ論争は、表向き「再生委員長vs.金融庁事務局」という対立の構図が続いているが、徐々に「大手生命保険会社vs.金融庁事務局」の構図に変わりつつある。体力の弱い生命保険会社の経営再建を公的資金の投入で乗り切りたい大手生保と、金融機関へのこれ以上の税金投入は回避したい金融庁との、利害の対立が鮮明になってきたためだ。

  引き下げ論争の発端となった相沢委員長の発言、さらには自民党サイドの引き下げへの意欲表明の裏では、大手生保が糸を引いているというのが定説。大手生保が永田町などへの説明のため持って回っているとされているペーパーでは、過去の判例から説き起こして、「予定利率の引き下げは憲法違反ではない」と主張、内閣法制局の公式見解に反論する形になっている。

  ●公的資金投入迫る大手生保
  しかし、予定利率の引き下げはそう簡単ではない。体力の弱い中小生保からは逆ザヤ負担を軽減するため「一斉引き下げ」、つまり“徳政令”的な救済措置を望む声が出ている。ところがこの形だと、生命保険から公社債投信などその他の金融商品に大量の資金シフトが起きてしまいかねない。体力にまだ余裕がある大手生保にとっては、沈みかけた船に無理やり一緒に乗せられるような構想に、相乗りするわけにはいかないとの思いがある。

  大手が密かに期待しているのは、体力の弱い生保に限定して一種の「早期是正措置」のような形で利率を引き下げる方式。千代田生命保険や協栄生命保険のように破綻する前の段階で、法律に基づいて予定利率を引き下げることができればコストも少なくて済むと、いうのが大手の“本音”のようだ。

  しかし、こうしたやり方に対しては、中小の生保が「経営破たん前に経営責任を問われる」と反発。権限強化につながる可能性がある金融庁も、この方式には重大な懸念を抱いている。公的資金の投入を迫られる可能性があるからだ。

  早期是正措置として予定利率の引き下げという新たな“武器”を手に入れる一方で、経営破綻が起きた場合には行政の監督責任を理由に、公然と公的資金を要求されかねない―。金融庁は、大手生保の描くシナリオをこう予想し、警戒感を強めている。

  生保契約者の保護を目的に設立された現在の保護機構の財源には、新たな財源として4,000億円の公的資金が準備されているほか、不足分については生保業界が「応分の追加負担」をすることになっている。金融庁は、これ以上世論の反発を招くような公的資金の投入を極力回避したい考えだ。

  ●欠陥だらけの大手のシナリオ
  ところが大手生保には、もともと「バブル崩壊後の超低金利政策で資産内容が悪化した」「不良債権を抱えた銀行の尻拭いをさせられているのに」といった具合に金融当局への不満が強い。しかも、内心では「他社の経営破たんはむしろ新規契約増につながる」と考えており、今後、生保の破たんが起きた場合は、銀行のように公的資金でそっくり面倒をみて欲しいというのが本音だ。

  しかし、大手生保が描くシナリオの最大の欠陥は、予定利率を引き下げた中小生保がその後どうやって契約を維持していくのか、経営再建をどう進めていくのか――など再生への道筋が描ききれていない点にある。

  さらに、生保業界の予想を上回るペースで進む政局の流動化に伴い、頼みの相沢委員長や自民党が「それどころではない」状況に追い込まれたことも大きな誤算となっている。金融界の中で最も経営再建が遅れている生保業界。業界再生のシナリオが完成にはまだまだ時間がかかりそうだ。

■URL
・破綻相次ぐ生保への財政資金投入が秒読みに
http://www.watch.impress.co.jp/finance/news/2000/09/20/doc460.htm
・金融庁
http://www.fsa.go.jp/

(舩橋桂馬)
2000/11/15 16:08