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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「それなりに身を切らないと得られるものはないんです」 Kダブシャインから若者へのメッセージ

【Kダブシャイン インタビュー後編】

聞き手:小熊俊哉 構成:Owlly編集部 2018年7月27日 14:00
貧しい幼少期を過ごしたKダブシャインにとって、お金とはどんなものだったのだろうか。また、音楽やお金に対する価値観はどのように形成されてきたのだろう。「お金は汚い」と育てられた彼の、いまに至るまでの紆余曲折したパーソナル・ヒストリーと、未来に贈る、Kダブシャインのメッセージ。

もう俺は、大人になる前に人生終わるんだろうなって

Kダブさんは母子家庭で、お金の面でとても苦労されたと伺いました。

Kダブシャイン:6畳一間の家に母親と布団並べて、5年生くらいまで自分の部屋はなかったなあ。風呂もなかったから銭湯に行っていたし、ちゃぶ台を端っこに寄せて並べて、母親と5年生くらいまで隣で寝ていたんだよな……。小さいころに病気で入院したことがあって、無いお金が全部そっちに出ちゃったこともあった。今みたいに小学生医療費無料とかじゃないからね。

もう俺は、大人になる前に人生終わるんだろうなってくらいに、小学生になれれば万々歳だなっていう幼稚園時代を送っていて。体も弱いし、母子家庭だし、家は狭いし、風呂もないし、コンプレックスの塊ではあった。だからって、どうしてもお金持ちになりたいって思うほど貧困だとは思わなかったんです。母親もちゃんとしているから、最低限の生活ですけど、学校へ行かせる、文房具を持たせる、給食費を払う、それくらいのお金はギリギリあった。一緒に住んでなかった親父が養育費をいくらか出してたのもあるけど、だからそんなにですよ。

親としては、貧しいから、親がそうってことで負い目を感じないように、周りの環境を、そこまで俺にとって苦しくないようにはしていてくれたんじゃないかな。


どんなお母さまでしたか?

Kダブシャイン:貧乏だけど教育には熱心だったから、勉強したいんだったら出来るだけ本は買ってあげるし、学校もいい学校に行きたいなら受けてもいいと言われていました。貧しいけど、後で恥をかかないように教育や知識に関してはすごく熱心。そういう意味でのコンプレックスはあまりなかったんですよ。俺がラッパーであることに通じるものがあるかもしれないけど、金なんか持ってる友達見てもそいつの金じゃなくて、親の金だと思ってたし。

こっちは自分の決断で海外へ行って、HIPHOPを身に付けたから、結果むしろ俺の方が得てるものが多いなと思って。常に心が錦みたいな、気持ちだけは負けてなかったですね。

ただ今が一番、将来に対して不安かな。だって高齢者めちゃめちゃ増えるでしょう。親が入院して病院とか行くと、本当に年寄りだらけなんだ。息子の家に金があるっていっても晩年になると、身体中チューブ付けて看護師さんがいないと寝返りもできないような、そういうふうに、だんだんなっていくじゃないですか。これからどんどん増えていって、で、若者が減っている。それってすごくゾッとしないですか。


自分のことを考えたらすごい不安ですよね。

Kダブシャイン:だからせめて、自分が死ぬまでは自分で自分の面倒を見られる程度のものは稼いでなくちゃいけないって思う。ある程度の時間が経って、その頃に年金が入ってくるのかどうかと思うと、それだって不安じゃないですか。蓄えがあって、もう80歳まではこれでっていうような安心感が、なかなか持てないんじゃないかな。

1970年代、100円だったタクシー料金が80年には500円くらいに値上がりするんです。そうすると給料も上がるし、家賃も上がるけど、それは払えてたからいいんですよね。最近は物価だけ上がって、一般的には個人の収入は上がらないでしょ。就職率はこれからどんどん上がりますよ。高齢者がすごい勢いで職場からいなくなっていくからね。それで景気がいいと、今の子たちが思っていたらちょっと危ないし、その辺、実態のない経済なんじゃないかなって思うんですよね。

もともと日本って資源がなかったのに、外から資源を輸入して、それを組み立てて製品にして外により高い値段で売ってを繰り返していたでしょう。高い値段って言っても良心的だと思うけど、それで外貨を稼いでこんなにまで金持ちになったわけ。でも今、そんなやり方してないからね。ものなんか売ってないんですよ。だから不安ですよね。


Kダブさんはアメリカに行かれてから日本でキングギドラとして活動するまでの間、とても順調だったように映ります。実際はいかがでしたか。

Kダブシャイン:うーん、俺たちはデモテープ作ってからデビューするまでが短くて。他にそんなことをやってるやつがいなかったのか、わりとすぐにデビューできるような環境に恵まれたのかな。最初の頃から原盤は自分で所有して、レーベル持っていたから、その頃は羽ぶり、良かったですね。


それは周りもでしょうか?

Kダブシャイン:いや、それはうまくやってるやつと、うまくやってないやつに分かれてて。自分で契約をレコード会社と直接話せるやつと、間にマネージャーやらエージェントやら挟むやつとでお金の入り方も全然違うし。そこらへん、あなた方もよくご存じだとは思いますが(笑)。


音楽業界が一番潤っていた1995年。その頃を振り返って、お金にまつわる成功と失敗っていうのはありますか。

Kダブシャイン:アルバムを作って、それが30万枚くらい売れたんですね。レーベルには結構お金が入ってきて、だいぶん、左団扇していたんだけれども、それが油断だった。結局、レーベルを一緒にやってたやつが知らないうちに他で使っていて、お金が回らなくなって勝手に倒産させちゃったんですよ。そいつにお金まわりは任せっきりにしてたから、自分でもきちんと管理していればと悔やみました。

こっちにはいつも不満のないくらいの給料が渡されてたから。もちろん、ボーナスみたいなのも。だからあまり、会計や経理の部分に神経質になってなくて。結局全部そいつが子供の服も会社のお金で買っていたという(笑)。

いつも可愛らしい、ラルフローレンのベビー服みたいなの着てるから、「会社の金使ってんのかな?」と思っていたら、大勢で焼肉屋に行ったとき、「領収書いつものでいい?」っておばさんが聞くから、こいつ、家族での飯も領収書で切ってんだと思って。彼も共同経営者だからその権利はあるんですけど、せめて俺には相談しろよっていうね。経費の線引きのね。もちろん、今でもあるはあるだろうけど。昔はこういうの多かった。


ライフステージの変化を求めて、ギアを入れ替える

でもやっぱり、そういう失敗も得て、それがその後に活かされた部分もあるのかなって。

Kダブシャイン:今はやっと、「これは将来に向けての金をもっと稼がないとやべえな」って、ちょっとだけ思うようになりました。震災直後とかは、安定すら求めちゃいけないんじゃないかって思ってて。何万人もの人が無念のなかで亡くなっていったかと思うと、自分のやりたいことや好きなことなんて、やっちゃいけないんじゃないかと思うくらいに自分を抑えてた。

チャリティやボランティアのライブとかは、誘われれば全部行っていましたけど、やりすぎて疲弊しちゃったことがあってね。俺はNPOでもなんでもないのに、ずっとやり続けてたから。


そうですよね、ミュージシャンの方でもそうやって自分を追い込んじゃった人がいるっていう話をよく聞きました。

Kダブシャイン:いたと思う。人生変わったってやつもいっぱい。思いを寄せ過ぎて、そうなってしまった。でもね、俺はずっと思ってるんだけど、あのとき、あのタイミングでそうならなかったやつは、冷たい人間じゃないのかなって。自分はあえてそこに飛び込んでいったけど、3、4年って続けていたら、このままだと俺の生活やキャリアが滅びてしまうと思って、ギアを入れ替えたんです。


前もお話に出ましたが、事務所に入られるようになったのは、お金にまつわる話では結構ビックなのかなとも思ってて。

Kダブシャイン:そうでもないんじゃないかな。ただ今までの経歴や、自分の持ってる過去の遺産みたいなものをどう活かせるかってとこで、すごくいいと思ったから、というのが理由です。

でもね、考えてみると、お金になる・ならないって面白いよね。まあ自分の役割は芸能界のようにCMに何本も出演するとかではなく、どっちかというと、裏方としていろいろ仕掛けたい気持ちが強いですね。


活動の幅を広げたいというのもありますか?

Kダブシャイン:うん、映画の音楽をやるとか、ミュージカルにラップのセリフを入れるとか。そういうエンターテイメントの幅を広げたいってのが強くて。海外ではラッパーが演技の世界に行くだなんてこともあるんだけど、俺の場合は震災のことがあって、自分の経済レベルが下がってきたのと、たまたまそれまでやっていたラップとは違う活動もやってみようとか、すべては偶然が重なったってことですよ。それこそ年齢もね。

これまでの時代が終わったんだなっていう実感から、次のギアにシフトを入れないと、40代までの生活設計では50代は通用しないと思ったんですね。そういう意味で格好良い言い方をすると、ライフステージの変化を求めたってのが、ワタナベエンターテイメントに入った理由かな。


その変化について、“オレの名は。”(アルバム『新日本人』収録)みたいな曲できちんと答えているのが格好いいなと。

Kダブシャイン:本当ですか?(笑)CDが一枚も売れない時代になると思ってなかったし、個人事業主として、レーベルとして、アーテイストとしてやってきたけど、ワタナベエンターテイメントっていう組織に入ると、キャラクターとしてでも信用度が増すというか、そこではすごく役立たせてもらってますね。


それなりに身を切らないと、得るものも少ないんじゃないかな

最後になりますが、これからの若い世代に向けて何かメッセージみたいなものをいただけると。もちろん、年金などさまざまな問題はありますけど。すでに年金がもらえないとさえ言われています。

Kダブシャイン:本来、それじゃいけないんだと思うけども、正直に言うと弱肉強食なわけですよ。セーフテイーネットも、おそらく、あってないものといった状況になっていくわけだからね。だけど、パイの大きさは決まってるでしょ。パイが小さくなれば、取り合いは激しくなっていくのは見えてますよね。それが弱肉強食。

でもわかんないな、人口が減って、土地がどんどん安くなっていくって話も聞くから。そういうふうに、貧乏な三流国家になってしまうかもしれないけど、でももしかしたら人口の減少によって将来が楽になるかもね、今もすでに就職楽でしょう、昔と比べたら。


そうですね、雇用に関してはニーズが増えるって言われてて。

Kダブシャイン:たぶん、これからどんどんそうなっていくよ。移民入れて子どもを増やさない限り、人口は減り続けて、今度はニーズが追いつかなくなるかもしれない。その時は、新しい時代のことを古くなった俺たちに教えてほしいね。「おじさん、そんなことやっててもこれから役に立たないよ」って。

音楽にしても、アメリカHIPHOPには新しい動きがあるようだけど、レコードビジネスはやっぱり音源を売って得た金を資本に制作しなきゃならないでしょ。音源がまず売れないとダメ。という意味では、まだ新しい時代は音楽には訪れていない。


ストリーミングについてはどう思いますか。

Kダブシャイン:ストリーミングは新曲がちょっと値上がりするといいんじゃない? このシステムが一回浸透したら。新曲を聴けるパックと、新曲は月に何曲しか聞けないパックに分けないとダメかもしれないね。新曲の価値と昔のカタログの価値が一緒っていうのは、そもそも間違ってると思うわけですよ。昔のカタログなんて、過去にレコードで元をとって、CDでもう一回儲けてるわけでしょ。でも、今新曲を作るんだったら、アーティストとしてはエンジニアとスタジオにお金払って、となるわけじゃないですか。無理じゃんっていう。元取れないよ。インディーズが生きられない。

音楽業界も、一つ一つの商品は売れないかもしれないけど。レコード会社はストリーミングによって収入は前より上がるかもしれない。だからアーティストだけがしわ寄せを食らうんじゃないかな。だから、若い一般の子たちに教えてもらいたいことは多いけど、音楽をやる若い子にはもう、自分たちでミックスしたものが、宅録もあるし、インターネットでとかでも売れるわけだから。自分で自分の原盤を持てるわけでしょ? 自分で自分の権利を管理する方向に行ったほうが良いのかもしれないですね。音楽やってるやつは自力でやったほうが良い時代じゃないかな、大変だけどね。茨の道だけど。


本やHIPHOPでも、何でも良いのですが、Kダブさんの経済感に影響を与えたものってありますか。

Kダブシャイン:俺は基本的に奇跡を信じてる男だから、「金は天下の回り物」って言葉を信じて(笑)、いつか自分のところにもドカンってくればいいなと思ってますね。

あと、「タダより高いものはない」って思ってます。そんなに良い話が転がってるわけないし、やっぱそれなりに身を切らないと、得るものも少ないんじゃないかな。それはアートの世界もみんなそうだろうけど、ハイリスクハイリターンっていうのはあると思う。

本当に好きなものをやるとしたら、あまり見返りは期待しないほうがロマンはありますよね。結果、見返りが多かったとか、結果うまくいったというのは良いけど、そのために好きなことを犠牲にしていっちゃうと、最終的に好きなことがやれなくなるし、そこで入る見返りは「これが本当に欲しかったものなのか」っていうことにもなるから。人生って、長いじゃないですか。


Kダブシャイン
日本語の歌詞と韻(ライム)にこだわったラップスタイルが特徴。
現在の日本語ラップにおける韻の踏み方の確立に大きく貢献したMCと呼ばれている。
その作品は日本及び日本人としての誇りを訴えかける歌が多く、日本人MCとしては「児童虐待」・「シングルマザー」・「麻薬」・「国家」・「AIDS」など様々な社会的トピックを扱う数少ないMCとして知られ、その洗練された文学的な韻表現と社会的な詩の世界は様々なメディアで高い評価を獲得している。
また、コメンテイターとしても、数々のメディアに登場していて、スペースシャワーTVで放送中のRHYMESTER宇多丸氏との『第三会議室』は、根強い人気を誇っている。


聞き手:小熊俊哉
構成:Owlly編集部
写真:加藤甫