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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「いつか私もこうなりたくて」自身のスタイル確立のため、憧れの作家をミーハー的に消費していた

【文月悠光 インタビュー後編】

園田菜々 2018年5月31日 07:00
前編では「詩人」という職業やフリーで働くという形態の魅力について伺った。続く後編では、私生活でのお金の使い方などを中心に「文月悠光」という詩人としてのスタイルがいかにして出来上がったのか、その道のりをお話しいただいた。

自分の書き方は、書き続けることでしか手に入らない

先ほど、学生時代の原稿料はすべて貯金していたという話がありましたが、あまりお金を無駄遣いする方ではないのでしょうか。エッセイ集などを読んでいても、趣味などにお金をつぎ込むようなタイプじゃないのかなという印象があって。

文月悠光(以下、文月):学生時代は将来が定まっていなかったということもあり、いつか目的ができたら使うかなと思いながら、貯金にまわしていました。ただ、わりとまとまったお金を使うことも多くて。

講座のような、人が勉強したり、語り合ったりする場に身を置くことが好きだったので、豊崎由美さんの書評講座や、佐々木敦さんの批評家養成講座などに一時期通っていました。ただ、それはモノを買うというよりは、体験を買うことに近い感覚ですかね。


講座などは、未来に向けて自己投資するようなイメージですか。

文月:いえ、ひとつの気休めですね。迷いをなくしたかったんです。中原中也賞をいただいた途端に「エッセイ書きませんか」「書評を書きませんか」と散文の依頼がくるようになりました。

詩を書くことについては評価を受けた実感がありましたが、エッセイや書評は未知の世界でした。依頼は嬉しかったのですが、「誰も書き方を教えてくれないぞ。どうする?」という混乱もあって。その混乱や焦りを、プロに聞いたり勉強することで埋めていたんだと思います。


そうやって学んだことは今に活かされている?

文月:他の人の書評をたくさん見ることで、こういうスタイルで書くのもアリなんだ、という発見があり、自分の苦手とする部分がわかったように思います。ただ究極的には、自分の書き方というのは、書き続けることで見つけるしかない。どこかで学んだことで未来が大きく変わるかというと、そんなこともないんじゃないかと思うんです。ただ、ここに通いたいなとか、この場に参加する権利がほしいな、というときに、ためらいなく通うことができるようなことが、私にとってはすごく大事で。その割には、あまりドップリ浸からずに、ちょっと覗いたら、離れることが多いのですが。


あまりモノは買わないですか? 同世代の女性だと、洋服とか化粧品とかに消費しがちなイメージがあるんですが。

文月:洋服は好きなので買いますよ。これを言うと恥ずかしいですが、家に置いておけるような雑貨類はあまり欲しいと思わなくて。洋服は欲しいと思ったらある程度の額を出しても買いますね。

「10回着れば元がとれるから大丈夫」みたいな謎の納得のさせ方をして(笑)。でも、それも結局テレビやイベントの出演前に慌てて買う方が多いんですよね。好きな服というよりは、その場所や仕事する相手に合わせて選んでいます。やっぱり意識が仕事に寄っているのかなと。フリーランスって、私生活と仕事の境目がなかなか切り分けられないですよね。


憧れの作家を設定して、その人にのめり込むことで得られるもの

文月さんって、何かに熱狂的にハマった経験はありますか?

文月:いま思い返すと、作家さんはミーハー的な消費の仕方をしていたかもしれません。2004年、私が小学生の頃ですが、綿矢りささんと金原ひとみさんが芥川賞をダブル受賞して話題になったんですよね。

当時、私も作家になりたいと思っていたので、綺麗なお姉さんが華々しく活躍していることに純粋に憧れていました。その後2008年に、川上未映子さんが芥川賞、桜庭一樹さんが直木賞をとったときも、女性二人での受賞が輝かしく報じられていた印象が強くて。高校生の頃、桜庭さんが出演した『情熱大陸』を何度も見てました(笑)。


女性作家に対する憧れみたいなものが強かったんですね。

文月:そうですね、いつか私もこうなりたいという気持ちが強かったんだと思います。だから、アイドルに対するファン意識などとはちょっと違うかもしれない。ただ10代のときは、川上未映子さんの写真を携帯の待ち受けにしていたこともありました(笑)。


いま実際に仕事の現場で一緒になって、当時の記憶が蘇って舞い上がる、みたいなことはないんですか。たとえば昨年の9月に川上さんが責任編集の『早稲田文学増刊 女性号』に詩を執筆されていましたよね。

文月:当時の自分だったら発狂してたでしょうね(笑)。私が中原中也賞を受賞したとき、その前年度の受賞者が川上未映子さんだったんです。なので、憧れの存在ではあったけど、いずれは「文月悠光」という立場でお会いしたり、お仕事をすることがあるのかなと思っていました。


それは緊張しますね。

文月:ただ、いまは平常心で受け止められるかな。「これが自分のスタイルだ」というのが固まる以前は、憧れの作家さんを設定してその人にのめり込む時期が必要だったんだろうなと思うんです。それが終わりかけたタイミングでちょうどよく会えたから、いまは落ち着いて作家さんたちとお会いできる。逆に自分の気持ちが固まらないと、そういうチャンスも巡ってこない気がしています。


詩は「正しい答えを出さなければ」という思い込みから解放してくれる

今後詩人として活動していく上で、思い描いている未来などはありますか。

文月:「詩」というジャンルや「詩を読む」という行為が、もっと人の日常の中にあってほしいなと思います。詩って、効率や合理性からすごく遠い存在で、あえて遠周りを選んでいるようなところがあると思うんです。小説と比べると字数は圧倒的に少ないけど、意味をそのままつなげて読めるわけではないし、明確な読み方の正解もない。

でも、だからこそ詩は、答えを出すことや、すぐに正解の道を歩くべきだ、という思い込みからひとを解放してくれる。読み手それぞれの頭の中で、意識を漂わせて考える時間、それこそが詩が与えてくれる体験のひとつだと思うんです。


読んでいるときの「わからない自分」に自己嫌悪やストレスを感じる人も多い気がします。

文月:詩を読むときに「難しい」という人が多いのは、一字一句わかろうとするから難しいんです。たった一行でもいいので「なんか気持ちいいな」とか「引っかかるな」「言葉の意味はわからないけど、響きが素晴らしいな」というふうに、表現を持ち帰ることができたら私は充分だと思います。

作中で具体的に何が起きているのか、誰が語っているのかすらわからないけど、不思議と納得させられる、という感覚は、詩だからこそ得られるもの。自分の感覚にフィットする作品を探してみてほしいです。

正直、ある詩人の書いた詩すべてを理解できますか、といったら決してそんなことはなくて。ただこの一編が好き、という気持ちを温めているうちに、他の詩との出会いにも繋がっていく。一人の詩人の詩集となると世界観が強すぎるので、最近は詩の良いアンソロジーもけっこう出ているから、そういうところから試しに読んでみるといいと思います。


そういう話を聞くと、詩へのハードルが少し下がるように感じますね。

文月:谷川俊太郎さんの『ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る』は、すごく面白いですよ。谷川俊太郎さんのインタビューと詩が一緒に掲載されている本です。作品と作者を重ねて読むのは、ちょっとミーハー的な楽しみ方ですけどね。ひとの人生と作品はこういうふうに作用し合っているんだ、と捉えると面白く読めると思います。


詩集といっても色々な形のものがあるんですね。ちなみに、今後文月さんはどういった形で詩人としての活動をしていきたいと思っていますか。最新刊のエッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』はネット上での連載でしたが、詩などもそういったインターネットを利用することは考えているのでしょうか。

文月:ウェブ上で詩がどんな風に受けとめられるか、実験的にやってみるのはいいと思います。たとえば音楽や朗読などの音声コンテンツと、詩はすごく相性がいいんです。

ただ、詩はエッセイと比べて具体性に欠けるので、人の感想のバリエーションも少なくなりますし、無料公開だとどうしても「どう閲覧数を増やすか、拡散させるか」という話に終始してしまう。どちらかというと、何を有料化して公開するか、ということの方が今は関心が強いかもしれないですね。

たとえ購読者数が20人に満たなかったとしても、かえって20人に満たないような場所の方が、自分にとって大切な作品が書けるかもしれない。それ自体はお金の入る仕事にはならないですが、そこで得られた自信が別の機会に仕事に生かされていくはずで。

大勢の人たちの方を向くのではなく、たったひとりの誰かのために書く。それって、なんだかとても本質的な気がするんです。


文月悠光(ふづき・ゆみ)
詩人。1991年北海道生まれ。16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年の時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少で受賞。その他の詩集に『屋根よりも深々と』(思潮社)、『わたしたちの猫』(ナナロク社)。近年は、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)が若い世代を中心に話題に。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、詩作の講座を開くなど広く活動中。

ウェブサイト:http://fuzukiyumi.com/
最新刊:『臆病な詩人、街へ出る。』(立東舎)



聞き手:園田菜々
1991年7月7日生まれ。フリーランスのライター。細々と書きながら生計を立てています。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。不安障害や軽度の鬱を経験してから、「生きやすさ」について考えたり、ブログ(https://note.mu/nanaso)を書いたりもしています。
Twitter→@osono__na7
Facebook→https://www.facebook.com/yuuhinosora


撮影:三浦咲恵