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「僕たちの存在をもっと身近に感じてほしい」税理士・高橋創が取り組む、税金について知るためのユニークな試みとは

【税理士・高橋創 インタビュー】

園田菜々 2018年5月16日 11:55
税理士という本業の傍ら、新宿ゴールデン街にBar「無銘喫茶」を構える高橋創さん。ここでは毎年、期間限定で「確定申告酒場」というユニークなイベントが開催される。今年の1月には確定申告酒場のPRとして、プロレス団体とのコラボレーションで「闘う個人事業主のための必要経費獲得私物凶器化タッグデスマッチ」を行うなど、従来の“お堅い”税理士像からかけ離れた企画が話題になった。これなら、あまり税金について詳しくないフリーランスの筆者でも、抵抗なく学ぶことができるかもしれない。今回は、そんな思いもあり、なぜ確定申告酒場のような取り組みをするのかということから、私たちがどう税金と向き合うべきかという話についても伺った。

みなさん自分だけの悩みだと思ってるけど、実は同じような悩みなんです

確定申告酒場はどのような経緯で始められたんですか。

高橋創(以下、高橋):7年ほど前、弁護士が「弁護士バー」を始めたことが話題になったんですね。それを新聞で読んだとき、率直に面白そうだなと感じまして、「僕もパクろう」と(笑)。


シンプルに「面白そうだ」という理由で始めたんですね。

高橋:そうですね。ただ、それと同時に「税理士がなんか変なことやってるぞ」という印象を持ってもらいたかった、という理由もあります。以前から、自分が税理士という仕事に対して抱いている感覚と、世間からの見られ方との間に隔たりを感じることが多々あったんです。

税理士という職業は、数ある仕事のうちの一つであって、特別偉いわけではありません。でも、周りからは「先生」と呼ばれたり、お客さんの方が「こんなこと聞いて悪いかな……」と相談しづらそうにしている。意味もなく偉そうな税理士も多いですしね。なので、もっと税理士を身近に感じてもらえるようにイメージを変えたかったんです。


税理士“先生”という世間の印象を変えたいという思いがあったんですね。たしかに「こんな馬鹿らしい質問を税理士に相談するのは申し訳ないかな」と足踏みしてしまうような気持ちは私にもあるのでわかります。

高橋:みなさん、そう言うんですよね。「こんな質問のために時間とるのは申し訳ない」とか。そういうの、全く気にしないでほしいです。だって、僕らにとっては単なる再放送ですから。


再放送とは?

高橋:税金に対して不安を持っている人って、みんな「これは私だけの不安だ」と思って悩んでいる。でも、大勢の人から相談を受けてきた身からすれば、「ああ、よくある悩みですね」となるんです。

何かを調べたりする必要もなく、適切な答えを伝えることができます。大した手間じゃないんですよ。もしそれで僕たちが知らないような悩みを相談されたら、それはそれで僕らの知見となり飯のタネになる。いずれにしても遠慮する必要はありません。


確定申告酒場では、具体的にどのような悩みを相談されることが多いですか。

高橋:「年末調整と確定申告の違いってなんですか?」という基本的な質問もあれば、確定申告用紙をもってきて、一緒に記入してくださいという人もいます。今年はフリーランスの人たちもたくさん来ていただいて、「どこまで経費に計上していいですか?」という質問も多く受けました。


確かにどこまで経費に入れていいのか、判断に迷うことが多いです。

高橋:基本的には収入に紐付いていればいいんですけどね。最近はもっと気軽に質問ができるように「LINE@」での相談も受け付けるようにしたのですが、「会社に隠れて副業をしているのですが、確定申告でバレないようにするにはどうすればいいですか?」という質問もとても多かったです。あとは、「税金払わないとどうなるんですか?」みたいな、そもそも論とか……(笑)。


なるほど。意外と、基本的な部分でつまづいたり不安に思っている人が多いんですね。

高橋:だいたいみなさん、同じことで悩んでいますね。ちなみにこれは先日、別の媒体から依頼を受けてコラムにも書いたことなんですが、還付目的なら確定申告って期日までに提出する必要ないんですよ。フリーランスの人で確定申告を焦っている人が多いですが、還付目的なら5年以内であれば問題ありません。


いずれにしても期日までに提出しないと延滞税がかかる可能性があると勘違いしてました……。

高橋:そういう知っておいた方がいいことって、けっこう多いんですよね。ただ、それを知らないのはみなさんの責任ではなくて、僕たち税理士が伝え切れていないことに問題があるので。些細なことだと躊躇せずに、気軽に相談してほしいなと思ってます。


“税金を知る”と“税金を払う”は別物です

所得税の納税義務がある人も相談に来たりしますか?

高橋:むしろ、納税義務がある人がほとんどじゃないですかね。


勝手なイメージですが、それくらい稼ぎがある人は顧問税理士をつけていると思っていました。

高橋:いや、そもそも納税義務があるかどうかすら自分でわかっていない人が多いですよ。「収入はある、なんだか税金を払わなければいけない気がする、でも何もわからなくて不安だ」という人は多くいらっしゃいます。結果として税金を払わないといけないことに気づいた、という感じです。

結局、不安って、知らないからなるんですよね。不安になっている人って、そもそも自分が何を不安だと感じているのかわかっていない。何が不安かさえわかってしまえば、いくらでも対策は練れるので。


税金を払うこと自体は義務だとはわかっているのですが、どうしても「お金を取られる」というイメージもあって、税金の知識をつけることに対して重い腰が上がりません……。

高橋:まず、税金を“払う”こと、税金を“知る”ことを切り分けて考える必要がありますね。たとえば、マラソンを思い浮かべてみてください。みんながみんな、苦しい思いをして長距離を走りたいとは思わないですよね。なのに、マラソン大会や駅伝がテレビで流れているとつい観てしまう。自分が走りたいかどうかは別として、みんな関心は持っているんです。

税金だって、払いたいと思う人はいません。みんな納税するのは嫌です。でも、関心はある。その仕組みを知ることで不安は解消されるんです。先日確定申告酒場のPRとして、スーパー・ササダンゴ・マシンさんに「闘う個人事業主のための必要経費獲得私物凶器化タッグデスマッチ」というプレゼンテーションをしてもらいました。プロレス業界で使う凶器を必要経費として考えて、確定申告についての正しい知識を学ぶものです。


だいぶ尖った企画ですね。

高橋:これはすごく話題になって、そのイベントをシェアしたツイートが2万リツイートくらいされたんです。そこで、「確定申告に関心のある人は多いんだな」ということを知ることができました。ここまで関心を集めているのに、これほどぼんやりとした理解しかされていない言葉って、なかなかない気がします。


確かに、関心はありますし、知ることで不安が解消されるというのもわかります。ただ、どうしても難しそうで重い腰が上がらないという事実もあります。税金を知る上で、楽しく学べるツールとかってあるのでしょうか。

高橋:それが、ないんですよね……。個人で全てを知るというのは難しいので、そこはやっぱり税理士である僕たちが伝えるべきだと思っています。専門的な知識を一般人の方にもわかっていただけるように落とし込むのは難しくないはずなので。また、知ることのハードルを下げる目的でやっているのが、確定申告酒場や、コラムの執筆、プロレスの企画などです。まだ道を舗装中という感じなので、これからもっと発信していきたいなとは思っています。


税金の知識を得るためのハードルを下げるには

確定申告酒場や「LINE@」など、税理士の本業以外にも色々な取り組みをしているわけですが、そこで関わった相手がお客さんになることはあるんですか。

高橋:ほとんどないですね。というより、まずそこは期待していないです。


営業や利益につながらなくてもやりたいと思える高橋さんのモチベーションはどこにあるのでしょうか。

高橋:僕、税理士をモテる仕事にしたいんですよね。自分は税金とか税法自体が好きで、一生をかけようと思っている仕事なのに、世間で“暗い”とか“地味”だなんて言われているのは、やっぱり嫌です。

一番理想としているのは、僕がどんな税理士になりたいというよりも、「税金のことはまず税理士に相談する」という状況を作ることです。今って、来年から消費税が上がりますといったときに、テレビで発言するのは経済評論家なんですよ。本来であれば、僕ら税理士が一番詳しいはずですし、税についての専門家が話すべきなのですが。


税理士をもっと身近な存在にするために高橋さんの活動があるわけですね。

高橋:お茶の間から顔が見える税理士が生まれればいいなと思っていますね。そのためにも、僕自身は目先のことは考えず、好きなことやってみようかな、と。自分が実験体となってひとつのモデルケースができればいいですよね。

税理士という仕事は3月15日を過ぎると賞味期限が切れてしまって、暮れまで世間のニーズがなくなってしまうので、そういう期間にもっと社会と接点をもっていきたいなとは思っているんですよね。「来年の確定申告はもう始まってますよ」とか煽っていけばいいのかな(笑)。


……やっぱり確定申告は早いうちから準備した方がいいんですか?

高橋:少なくとも、領収書やレシートだけは分けておいた方がいいですよね。物を残せない人が多いので。実は、そのために使う封筒も用意してみたんですよ。交際費、交通費、医療費、雑費、消耗品、と5種類の勘定科目を擬獣化してみました。少しでも捨てづらくなればいいな、と。

だいぶ本格的ですね。可愛いし、これなら日常生活でも使いたくなります。

高橋:そうやって普段から意識するきっかけを作っていければいいなと思ってます。極端な話、3月15日近くになって「税金減らしたいです」なんて言われても、さすがにそれは無理です、となるので。

手を打つなら10月か11月あたりじゃないと間に合わないです。逆にそれくらいのタイミングからであれば、利益の計算をした上で、「利益がちょっと多いから経費としてカメラを買っておこうかな」とか工夫ができます。


なるほど、確かに12月末での収支で計算しますもんね。

高橋:そうやって早め早めに確定申告を意識しながら、同時に税理士という存在をもっと身近に考えてもらいたいですね。世の中のことって基本的にお金が絡むし、お金が絡むということは税金が絡むので。知っておくに越したことはないです。払うことを好きになる必要はないけど、知識として得ることのハードルはもっと下げてほしい。もっと税理士に気軽に相談してほしい。そのためにも税理士である僕らがいろいろと手を打っていきたいな、ということです。



高橋 創 (たかはし・はじめ)税理士
資格予備校講師(所得税法)、会計事務所勤務を経て、2007年に新宿二丁目で独立開業。
著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』(中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本17-18年版』(ナツメ社)がある。
事務所URL:http://namahage-tax.jp/


聞き手:園田菜々
1991年7月7日生まれ。フリーランスのライター。細々と書きながら生計を立てています。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。不安障害や軽度の鬱を経験してから、「生きやすさ」について考えたり、ブログ(https://note.mu/nanaso)を書いたりもしています。
Twitter→@osono__na7
Facebook→https://www.facebook.com/yuuhinosora

撮影:片山拓