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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「他人に置いていかれたくない」という気持ちが、お金のリテラシーを高めてくれる。マネーフォワードが目指す未来の社会とは?

【株式会社マネーフォワード インタビュー後編】

崎谷実穂 2018年5月11日 11:55
家計簿アプリを開発する株式会社マネーフォワードで、お金に対する意識の変化を見つめてきた瀧俊雄さん。高校生などに「お金の授業」をしているなかで、人は座学で講義を受けるだけでは、本当に学習することは難しいと気づく。お金のリテラシーを上げるにはどうすればいいのか。そして、瀧さんの考える、「フィンテック」が進んだ社会のお金のあり方とは。

お金についての正しい情報は、なかなか手に入らない

マネーフォワードでは、家計簿アプリの「マネーフォワード」の他に、「mirai talk」という、ライフプランや家計改善について相談できる実店舗や、「MONEY PLUS」というお金や経済についてのメディア、「お金のEXPO」という個人向けの、お金に関すること全般を学べるイベントなどを運営されています。これは、マネーフォワードの補完という位置づけなのでしょうか。

株式会社マネーフォワード 瀧俊雄(以下、瀧):ダイエットをするときにまず体重計に乗るように、まず家計簿をつける必要があります。それはそれでけっこうパワーのいる行為である一方で、家計簿をつけているだけだと、節約実感にも慣れてきてしまう。

一人でアプリとにらめっこしているだけでは、限界があるんです。そこで必要になってくるのが、人との約束です。それを担うのが、家計改善について対面で相談できる「mirai talk」。ライザップにおけるトレーナーの役割、といったところでしょうか(笑)。


なるほど。

瀧:あとは、投資などについて知識が欲しいけれど、どうすればいいかわからないという人は、「お金のEXPO」や「MONEY PLUS」を活用できます。投資などについては、我々が、資産を代わりに運用するということはできないので、最終的にはユーザーさんに自己責任をとってもらわないといけません。でも、何が正しい情報なのかという軸を、こちらで用意することはできます。

「MONEY PLUS」については、人がお金について調べたいと思った時に、頼りになるメディアでありたい、という気持ちもあります。というのも、世の中にあるお金についての情報って、偏っていたり間違っていたりするものが多いんですよ。「◯◯歳 お金」と検索すると、けっこうひどい検索結果がでます。


あ、「即日融資でお金借りる」などのサイトが出てきました……。

瀧:なかなか味わい深いですよね(笑)。我々は、ビジネスのために広告コンテンツを載せることはあると思います。でも、「仮想通貨や投資によって、人生開けますよ」みたいな主張はしません。ユーザーさんの人生を歪めるようなことをしてはいけない、と考えているからです。

瀧さんは、高校生向けにお金についての授業をされたこともありますよね。

瀧:はい。教育の限界がどのくらいにあるのか知りたかったんです。やってみた結論として、高校生にも収支や株式の概念、クレジットカードのリスク、年収はどのように決まるのかといったことをわかってもらうことは可能でした。それに味をしめて幼稚園でも授業をしてみたんですけど、さすがに子どもたちの集中力が続かなかった(笑)。それでも、5歳くらいにもなれば電子マネーの概念などはちゃんと理解できることがわかりました。

しかし、お金について教えられる先生が少ないので、教育として広めるのは難しいですね。私がクローン技術で何人にも増えればいいんですけど、そうもいきませんし。だから、やはり我々がやるべきは、お金についてのリテラシーが自動的に身につくようなサービスを考えることなのだろうな、と思いました。


気づいたら投資信託を持っていた。その時、どうする?

日本の若者は、海外に比べてお金に対するリテラシーが低いと言われることがありますが、それについてはどう思われますか?

瀧:私はそんなことはないと思っています。スタンフォードの学生だって、お金のことわかってない人はたくさんいますよ。日本の若者のリテラシーがことさら低いわけではないでしょう。でも、そう言われることが多いのは知っています。そして、「アメリカと比較すると金融リテラシーが周回遅れだから、高校生のうちから株を教えよう」といった話が出る。でも、それってなんか違うと思うんです。


教育というアプローチではない、と?

瀧:「必要は発明の母」的なアプローチのほうが、適切だと思うんですよね。学校教育で英語を6年間教えても、生活のなかで使えるほどは身につかないじゃないですか。お金もそうなりますよ。だから教えるのではなく、お金のことを知る必要があるような環境に放り込む、というほうがいいと思うんです。

例えば、イギリスでは2005年から2010年まで「チャイルド・トラスト・ファンド」という、子どもの誕生時に補助金を支給し、そのお金を自動的に資産運用し資産形成をするという制度がありました。このファンドは子どもが18歳になるまで引き出すことができません。こうすると、生まれたときから子どもは投資家というステータスを持つことになります。物心ついた時に、すでに運用するための口座があったら、自ずと「どうしたら増えるんだろう」と考えますよね。


生まれたときから、投資に意識を向けざるを得ない環境に放り込む、ということですね。

瀧:今の若者って、誰からもお金のことをちゃんと教えてもらえない世代なんですよ。普通に考えると、人生の先輩として親の言うことを参考にすればいいと思うんです。でも、今は昔に比べて世帯収入が100万円くらい下がっているので、「これくらいの貯金はあったほうがいいよ」「何歳くらいで家を買ったほうがいいよ」といったアドバイスは的外れになっている。親世代の「当たり前」を実行するとなると、借金でもしなければ無理です。

だから、親世代とは違うお金のリテラシーを身につける必要があります。そして、人が自発的に学ぶには3つあると思っているんです。一つは先ほど言った、学ぶ必要のある環境に放り込む。二つ目は、目の前にエサをつるす。「学んだらこんなメリットがあるよ」と具体的に提示することですね。そして三つ目は恥の意識を刺激する。「まわりはみんな知ってるよ」と伝えるんです。


前回出てきた、人の資産運用の内訳が見られるソーシャルサービス「MoneyBook」は周囲からの恥の意識に訴えかけていたんですね。たしかに、「同世代の人がこんなに貯金している」「同世代の人がこんなに株式投資している」とわかったら、自分もやらなきゃと焦りそうです。

瀧:リリース当時は、大失敗しましたけどね(笑)。でも、今また仕切り直したら、けっこういけるんじゃないかなと思っています。この恥の意識というものは強力で、仮想通貨が流行ったのもこれが影響しているのではないかなと思います。一時期、「ビットコインで儲けていないなんて遅れてる」といった風潮があったでしょう。


一部でありましたね。

瀧:ブロックチェーンの未来について語れないとダサい、みたいな。でも語る内容はきっと、ブロックチェーンやビットコインじゃなくてもよかったんですよね。周囲の人間に「置いて行かれたくない」という気持ちはかなり強いので、そこを刺激することでお金に向き合わせる、というやり方は一つあると思っています。


財布を持たずに生活できる社会がやってくる

瀧さんはFintech研究所の所長をされています。最後に、フィンテックでこれからのお金の使い方がどう変わるのか、教えてください。

瀧:フィンテックというのは多岐にわたるんですけど、今の日本で力を入れているのは二つです。一つは、キャッシュレス化。もう一つは、銀行がもつデータに銀行以外の企業がアクセスできるようになるオープンバンキングです。
まずは、キャッシュレスの話からいきましょう。日本はキャッシュレス後進国なんですよ。韓国では、決済の89%がキャッシュレスになっています。日本は、昨年の時点で20%。韓国までとは言わずとも、2027年には40%にしようという目標を政府が掲げています。


キャッシュレスが便利なのはわかります。でも、今のままでもそんなに不都合はないと思うのですが……。

瀧:そうですねえ、でも社会全体で見ると、現金って悪いことに使いやすいんですよね。違法薬物の売買とかは、基本的に現金でしょう。誘拐の身代金を、現場に端末持っていって、クレジットカードで決済したりしないですよね。犯罪の抑止というのは世界的に見ると大事なポイントで、日本も決して無縁ではないと思うんです。お金の悪用を防ぐのに、キャッシュレス化は有効だと考えられます。

もう一つの理由として、今のままでも不都合はないけれど、キャッシュレス化が進むともっと便利になるという点があります。完全に財布を持たずに生きていけるようになるんです。UberやAmazon Dash Buttonの世界観って、現金が存在しませんよね。もはやレジも不要、店舗も不要……どんどん物やサービスを手に入れるのがスムーズになっていくと、現金というのは邪魔になるんです。


なるほど、それは便利ですね。オープンバンキングというのはどういうものなんですか?

瀧:今は、わざわざ銀行の店舗やATMに行ったり、インターネットバンキングのサイトやアプリを立ち上げたりしないと、振込や残高確認ができないですよね。それを、銀行にAPIを開放してもらって、外部サイトやアプリで取引ができるようにする、という試みです。例えば、Amazonの購入ボタンのところや、食べログの予約ボタンのところに銀行振込のボタンがあれば、そのまま決済できて便利じゃないですか?


いまでも、クレジットカードで決済はできますよね。

瀧:クレジットカードは、サービス提供者側の手数料が高くなってしまうんですよ。直接銀行口座と連携すれば、もっと安価に決済できるようになります。オープンバンキングはキャッシュレス化とつながっていて、キャッシュレス化が進むとATMがいらなくなります。そうしたときに選ばれる銀行というのは、APIがあるかないかだと思います。

フィンテックといっても、まったく新しい技術を導入するという話ではないんですよね。例えばSuicaで相互送金ができるようになれば、それも大きな一歩です。そうしたら、遠くに住む親戚の子にSuicaでお年玉を払う、なんてことができるようになるかもしれない。そういう未来は、わりともう近くまで来ていると思います。


株式会社マネーフォワード
「お⾦を前へ。⼈⽣をもっと前へ。」をミッションに掲げ、⾃動家計簿・資産管理サービス『マネーフォワード』、ビジネス向けクラウドサービス 『MFクラウドシリーズ』などの開発を⾏う。2012年5⽉設⽴。2017年9⽉に東証マザーズ上場、2018年2⽉には経済産業省主催の第4回⽇本ベンチャー⼤賞で「審査委員会特別賞」を受賞。
https://corp.moneyforward.com/


聞き手:崎谷実穂
Twitter→@yaiask
HP→http://sakiyamiho.com/

撮影:Owlly編集部