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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「若い人にとって自分を守るのは、貯金と投資」マネーフォワード取締役 瀧俊雄が説く、武器としての家計簿

【株式会社マネーフォワード インタビュー前編】

崎谷実穂 2018年5月9日 12:00
野村資本市場研究所で、家計⾏動や⾦融機関のビジネスモデルについて研究した後、スタンフォード⼤学でMBAを取り、2012年に株式会社マネーフォワードの⽴ち上げに参画した瀧俊雄さん。現在はマネーフォワードの取締役に加え、マネーフォワードFintech研究所⻑を務める。⼈をお⾦に向き合わせるにはどうすればいいのか。考え続けた瀧さんがたどり着いた結論は、「⾃動でつけられる家計簿アプリ」だった。

30代は「負債」を初めて意識する年代

自動家計簿・資産管理サービスの「マネーフォワード」は、利用者数が600万人を超えたそうですね。メインユーザーはどんな人たちなのでしょうか。

株式会社マネーフォワード 瀧俊雄(以下、瀧):家計簿というと、お母さんがつけているというイメージがあるかもしれません。でもマネーフォワードは、わりと30代半ばの会社勤めの男性ユーザーが多いんですよ。このくらいの歳になると、おそらく人生のなかで初めて「負債」を意識するんだと思います。


負債、ですか。それは、借金をするとか?

瀧:借金というよりは、結婚や子どもを持つなど、将来お金が必要になるライフイベントがある、という感じですね。将来お金が出ていくものは会計上、負債と考えられます。負債ができるならば、「資産」をつくらなければいけません。

そこまで考えなくても、「このまま無計画にお金を使っていちゃダメだよな。ちゃんと貯金しないと」くらいのことを思う。そういうタイミングで、マネーフォワードの利用を検討していただけるのでしょう。おもしろいのは、正月三が日や年度はじめの4月頃に、ユーザーが増えるんですよ。節目に合わせて、家計簿をつけ始めようという方が多いんです。


今年こそは、と思うのでしょうね。

瀧:年や年度が変わったからといって、人間は生まれ変われるわけではないんですけどね(笑)。でも、これまで家計簿をつけようとして三日坊主だった人も、マネーフォワードなら続けられると思います。銀行口座とメインのクレジットカードを登録すれば、8〜9割の明細を自動分類して記録しますので、楽にお金を管理することが可能なんです。
ユーザーアンケートをとると、マネーフォワードを使うことで、平均21,513円の収支改善を実感しているという結果が出ています。


おお、それはけっこう大きな数字ですね。

瀧:これが、マネーフォワードの最大の価値だと思っています。我々がやりたいのは、人に継続的に貯金させ、その一部を投資してもらうこと。それさえできていれば、人間の不安は減るんですよ。今の日本は、若い人にとってお金の心配が尽きない国になっていっています。昔だったら、家族に頼ったり、企業で働いていればなんとかなったのが、今ではそうはいかなくなっています。自分を守る武器が必要です。それが貯金、そして投資なんです。

たしかに、定期的に貯金ができていればだいぶ安心です。

瀧:でも、ほとんどの人がそれをできていない。貯金は、自分のお金の出入り、つまり会計がわかってないとできません。だから、家計簿が必要なんです。


失敗した「資産を見せ合う」SNS

家計簿をつけるだけで、貯金がしやすくなるものなんでしょうか。やっぱり切り詰めて節約とかしないと……。

瀧:貯金は、ダイエットに似ているんですよ。ダイエットは、体重計に乗って自分の現状を把握することから始まる。それが家計簿をつける、という行為です。レコーディングダイエットってありましたよね。毎日体重を量って記録するだけで痩せる、と。

マネーフォワードで家計簿をつけるだけで、資産が見える化されて、お金の出入りに意識的になるんですよ。マネーフォワードは、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というミッションを掲げていて、それを実現するための最初のステップがお金と前向きに向き合い、可能性を広げることです。


瀧さんは、株式会社マネーフォワードの立ち上げから参画されていますよね。初めから、そういうサービスをやりたいと考えていらっしゃったんですか?

瀧:目指したいことは今も昔も変わっていません。ただ、サービスは、「ロボアドバイザー」と呼ばれているものを考えていました。その後、マネーフォワード代表の辻と出会って、最初に作ったのは「Moneybook」というサービスを作りました。これは、お互いの資産ポートフォリオを公開し合うというソーシャルサービスだったんです。資産の何%が投資信託で、何%が株で、何%が現金預金で……みたいな内訳を、円グラフで表示する。実名や顔写真は載せずに、アカウントをつくってもらうという想定でした。

Moneybookの画面。My pageでは総資産の増減が表示されている。

「Face」ならぬ「Money」を見せ合うSNS……!

瀧:Facebookに強いインスピレーションを受けて作ったサービスです(笑)。人は、人の資産を見たら、「もっと資産を増やそう」「もっと投資しよう」と思うんじゃないか、と考えたんです。たとえば、クラスメイトの大半が大学に進学するから自分も大学行くとか、同期が結婚しだしたから自分もしようとか、けっこう周囲の行動に左右されますよね。その同調圧力を、いい方向に使えるのではないかと思ったんです。

しかし、これが大失敗しまして。1日に10人くらいしかユーザーが増えなかった。それで、すぐ閉じました。ここで得た知見は「人間は、そんなに他人に資産を見せたくない」ということです。


ちょっと、人間の気持ちが理解できていなかったと(笑)。

瀧:では、自分だけが見えるかたちで家計簿や資産管理ができるサービス作ろうと考え、現在のマネーフォワードを作りました。


サービス内容が変わったとはいえ、基本的には人間に行動変容をもたらすにはどうしたらいいか、ということを考えていらっしゃるんですね。

瀧:そうなんですよ。CEOの辻とも、最初から「自動的に良い行動をとれるようにしたいよね」と話していました。その良い行動を「定期的な貯金、およびその一部を投資にまわすこと」とすると、証券会社や銀行が「自動的に」そういう行動をとらせるのは難しい。もっと、意識の上流に働きかける必要があるんです。

上流にあるのは、どう考えてもまず、家計簿。現状を把握させ、お金に向き合わせることが第一歩です。それ以外だと、焦燥感や恐怖を煽ることでしょうか。「こんな貯金で、この先も生きていけると思ってるんですか?」みたいな。でも、そういうことはやりたくありませんからね(笑)。


高額の出費は、慣れていないと判断を誤りがち

サラリーマンの平均年収が15年前に比べて50万円ほど下がっていることもあり、手取り10万円代でカツカツな生活を送っている若者もけっこういますよね。そういった人たちにとっても、マネーフォワードを使うことは有効なのでしょうか。

瀧:そういう方々の生活実感を高める、というのはすごく重要なテーマだと考えています。そして、お金の使い方を知る上でも、マネーフォワードはぜひ使ってほしいなと思います。月2万の節約って大変なことなんです。それを1年続けたら、24万円になる。この金額、どう思います?


多いといえば多いですけど、1年がんばって24万にしかならないのか、という感じもします。

瀧:そうですよね。海外旅行に行ったら、ポンとなくなってしまうくらいの金額でもある。こういう大きな出費に対して、普段からお金の出入りをちゃんと見ていたら、慎重になれるんです。

人は、ランチの1200円のA定食と900円のB定食どっちにするか、といった選択は正しくできる。でも、数年に1回の旅行や結婚式、葬式などたまにしかない大きな出費の選択は、判断を誤ることが多い。「100万円のコースもあるなら、50万円のコースはけっこう安い気がする」みたいな感じで決めちゃいそうなとき、「その50万円は2年間がんばって月2万節約して貯めたお金だ」と思い出せたら、踏みとどまれますよね。

まずは、お金に意識を向けるということが必要なんですね。


株式会社マネーフォワード
「お⾦を前へ。⼈⽣をもっと前へ。」をミッションに掲げ、⾃動家計簿・資産管理サービ
ス『マネーフォワード』、ビジネス向けクラウドサービス 『MFクラウドシリーズ』など
の開発を⾏う。2012年5⽉設⽴。2017年9⽉に東証マザーズ上場、2018年2⽉には経済
産業省主催の第4回⽇本ベンチャー⼤賞で「審査委員会特別賞」を受賞。
https://corp.moneyforward.com/


聞き手:崎谷実穂
Twitter→@yaiask
HP→http://sakiyamiho.com/

撮影:Owlly編集部