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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「今後もスターになるつもりはない」LGBTQの人気YouTuber かずえちゃんが語る、これからの暮らし

【かずえちゃん インタビュー前編】

中沢明子 2018年4月26日 08:00
昨年10月の「世界カミングアウトデー」に多様なセクシュアリティを持つ100人の仲間たちと作った動画を公開したかずえちゃんは、唯一無二のYouTuberだ。自身のチャンネルでは、LGBTQの当事者がざっくばらんに語り合う。一口にLGBTQといっても人の数だけ、当然、事情も思いも異なるが、それぞれの気持ちや背景を柔らかな物腰でかずえちゃんが引き出し、視聴者に伝えている。悩んでいる視聴者には勇気と共感を、LGBTQをまだよく知らない人にはリアルな情報を提供する貴重なチャンネル。最近では、講演や大学のゲストスピーカーに呼ばれるなど、活動の幅を広げているが、旅好きという一面もあり、各地を旅する動画も好評だ。そんなかずえちゃんにYouTuberという職業の(収入も含めた)あれこれについて訊ねた。

「YouTuberなんて、という前に。あらゆる職業で大切なのは倫理観」

YouTuberが子供の憧れる職業の上位にランキングされる昨今です。影響力のあるYouTuberの一人として、ご自身の「職業」をどう考えていらっしゃいますか。

かずえちゃん:僕はYouTuberになろう! と思って始めたわけではありません。LGBTQについて多くの人に知ってもらいたかったのと、「みんな違って、みんな良い」という、本来、当たり前の価値観を共有したいと思っていました。それを伝える手段として、たまたまYouTubeという場が僕に合っていた、ということ。

今は、YouTuberになって良かったと思っていますが、最初はブログがいいのかな、と思いました。でも、喋るのが好き、という僕の性格をよく知っている友達から、「かずえちゃんは文章を書くより、喋るほうが得意だと思うから、YouTubeで活動してみたら?」と勧められたんです。それまで、気になる動画をチラッと観るだけだったんですが、本当に多くのYouTuberがそれぞれやりたいこと、伝えたいことを自由に表現しているのを知り、確かに自分に合っているかも、と感じました。

YouTuberとして発信していなかったら出会えなかった人たちと出会えますし、一生懸命撮った動画にたくさんのリアクションをもらえると、やって良かったなあ、と思います。僕自身はゲイで、それまではゲイの事情しかよくわかっていませんでしたが、動画を通して、他のLGBTQについても深く知ることができました。

もし、将来子供たちがなりたいなら、やってみればいいと思いますよ。素敵な「職業」だと思っています。ただ、倫理観がとても大切です。倫理的にアウトな動画を流すのは良くないし、人を傷つけるようなことはすべきではないと思います。

だけど、それはこの職業に限らない話ですよね。どんな職業にも当てはまる「大事なこと」だと思います。だから、将来の夢がYouTuberなんて、と心配する前に、人として大切な倫理観を教えるべきなんじゃないかな。そんなふうに僕は思っています。


「多くの登録者がいてもYouTubeの収入だけで生活できるのは一握り」

「憧れられる」理由の一つに大金を稼げそう、というのもあります。特にアメリカのYouTuberがケタ外れに稼いでセレブの仲間入りをして「スーパースター」になるからでしょう。日本でもヒカキンさんや佐々木あさひさんなど、スターが生まれています。

かずえちゃん:ヒカキンさんたちは本当にすごいですよね。でも僕の場合は、スターになりたくてこの仕事を選んだわけじゃないし、今も、そしてこれからもスターになりたいとは思っていません。「気軽に会えるYouTuber」(笑)、でありたい。

僕のチャンネルはLGBTQのテーマが中心ですが、旅好きなので「KAZUTABI」と題して旅先で撮った動画もアップしています。今年はたくさん日本各地を旅しようと考えているのですが、Twitterなどで、次にどこへ行くかをお知らせして、旅の友を募集しています。地元の魅力は地元の人が一番知っていますし、観てくれている人たちと直接会える良い機会にもなるので一石二鳥。

先日、愛媛に行ったときは、スターバックスの店員さんがたまたま僕のチャンネルの視聴者で、話しかけてくれました。そんな気軽に会えるYouTuberのままでいたいです。

YouTuberの収入については、平均約700万円、と言われています。これだけ稼げれば十分に暮らせますよね。でも、この数字はチャンネル登録や再生数の多いトップ層がすごく稼ぐので、あくまでもそれを含めてならした数字です。

現在、チャンネルに登録してくださっている視聴者は約6万人。いろいろなケースがあると思いますが、僕の場合は、残念ながらYouTubeの収入だけでは生活できません。その意味で「職業」として勧められるかというと、なかなか難しいかもしれませんね。


「楽しく暮らすためのお金はそんなに必要じゃない」

とすると、かずえちゃんはどうやって生活費を賄っているんですか。よく旅に出かけていらっしゃいますし、きれいな部屋にお住まいですし。

かずえちゃん:それ、よく訊ねられるんですよ。「誰かに囲われている」という噂もあるみたいで、びっくり(笑)。特に隠すつもりはないので種明かしすると、足りないぶんは貯金を切り崩しているんです。でも、結構たくさん貯めていたので、それほど心配せずに暮らしています。


たくさん貯金がある……!! いつ、どうやって貯めたんですか?

かずえちゃん:あはは、そんなに驚かないでください。20代の頃、約7年間、保険外交員として保険の営業をしていたんです。僕は喋るのも好きですが、人の話を聞くのも大好きで、保険営業という仕事が天職だ、と思うくらい合っていました。お客様のライフステージに合った保険のプランを一生懸命考えるのは楽しかったし、毎日すごく忙しかったんですけど、調子が良い月は、月収が3桁になることもありました。

休暇には海外を旅行したり、ブランド物の服を買ったりしましたが、実家暮らしだったから、稼ぎのわりにそんなに使わなかったんです。それと、意識的に「将来のために貯めておこう」とも考えていました。

というのは、「自分はゲイだから一生結婚しないだろう。もしかすると一人でずっと暮らすことになるかもしれない。そうしたら、きっとお金が必要になる」と思っていたから。

今は同性婚が認められる可能性を考えられる時代になりつつあるから、当時の悲壮感は持っていませんが、その頃は「一生結婚しない自分の将来」が不安だった。できるだけ稼ぎ、できるだけお金を貯めておこう、と思ったんです。だから、貯金がそれなりにまだあるんですよ。もちろん、YouTubeの収入もゼロではないですから、大丈夫なんです。


とはいえ、入る金額が減ることで、倹約を心がけるようになりましたか。

かずえちゃん:年齢を重ね、経験を積んだからか、昔のような贅沢をしたいと思わなくなりました。無理をしているわけではないけれど、お金をそんなに使わないんです。お金をかける部分とかけない部分をしっかり分けて、消費にメリハリをつけるようになったんだと思います。今日の服もユニクロが「JW ANDERSON」とコラボしたニット。レインボーカラー(※)でかわいいでしょ。お気に入りです。レインボーを意識したコーディネートにしたら、今日は全身がちょっとカラフルになりすぎちゃったけど(笑)、自分自身の消費の傾向が変わったから、そんなにお金をかけなくても毎日とっても楽しく暮らせている気がします。

※レインボーカラー

LGBTQの社会運動のさい掲げられる6色~8色の旗をレインボーフラッグと呼び、LGBTQを表す象徴的なカラーリングとして知られる。



かずえちゃん
本名・藤原和士。1982年、福井県生まれ。福井県内の高校を卒業後、地元の結婚式場にてウェディングプランナーとして5年ほど勤務。24歳で外資系保険会社に転職。休暇を利用して海外を中心に旅に出かけるようになる。30歳で退社し、ワーキングホリデーを利用して、カナダへ語学留学。同性婚が認められているカナダでゲイであることを隠さずに暮らす自由と解放感を経験。3年後に帰国し、2016年7月からLGBTQと自身の旅の記録を発信するYouTubeチャンネルをスタート。現在、チャンネル登録数約6万人インフルエンサーとして精力的に活動中。

YouTube
YouTube チャンネル:かずえちゃん

Twitter
@kazuchan1982

Instagram
@kazuechan1101


聞き手:中沢明子
1969年、東京生まれ。ライター、出版ディレクター。女性誌、ビジネス誌など幅広い媒体で執筆。延べ2000人以上にインタビューし、雑誌批評にも定評がある。得意分野は消費、流行、小売、音楽。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)、『それでも雑誌は不滅です! 』(朝日新聞出版)、共著に『遠足型消費の時代』(朝日新聞出版)、プロデュース本に『ケチケチ贅沢主義』(mucco/プレジデント社)、『深読みフェルメール』(朽木ゆり子+福岡伸一/朝日新聞出版)などがある。最新の構成本に『「働き方改革」の不都合な真実』(常見陽平+おおたとしまさ/イースト・プレス)

撮影:ともまつりか