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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

ベターライフの定義は変わるのか? 時代の必然で生まれた『&Premium』のこれから

【芝崎信明 インタビュー後編】

園田菜々 2018年4月24日 10:00

前編では、雑誌『&Premium』のコンセプトである“ベターライフ”を中心に、よりよい暮らしを送るための考え方を編集長の芝崎信明さんに伺った。

続く後編では『&Premium』という雑誌が生まれた時代背景や、ハイテク化の進む社会から受ける影響などについてお話しいただく。

時代に必要とされて生まれた『&Premium』は、今後どのような形で生存していくのか。

創刊されてから、約4年半。時代の流れの中で『&Premium』も影響を受けた部分はあるのでしょうか?

芝崎信明(以下、芝崎):うーん、創刊から4年半で世の中が大きく変わったかというと、正直そういうわけでもないと思います。むしろこの雑誌を創刊した時期というのは、スマートフォン隆盛のタイミングだったんですよね。2013年の秋にドコモがiPhoneの販売に乗り出して、スマートフォンの文化がレイトマジョリティにまで普及しはじめ、広く一般化した時期でした。

ある意味「そういう便利なものによってつくり出された時間を、あなたはどう過ごしたいですか?」という発想から『&Premium』が生まれたとも言えます。


時代の変化によって生まれたんですね。

芝崎:たいがいの雑誌というのは、時代の中で必然性をもって生まれると思うんです。突拍子もない発明ではなくて、こんな世の中だからこそ出てきた、というような。


創刊当時は「新しい市場を作ってやるぞ」くらいの熱い気持ちもあったりしたのでしょうか。

芝崎:もちろん、何か新しいものを始めるなら、新しいマーケットを作るくらいの気概はないとできませんよね。ただ、市場というのは人々のマインドから生まれるものですからね。自分たちはその兆しを感じて、こういう雑誌を創刊した。市場はもともとあったのです。


最近の流れとしては、電子化の波によって紙の書籍や雑誌が売れなかったりと、アナログの市場が小さくなっているように感じるのですが、そこはどう考えていますか?

芝崎:紙の雑誌の売り上げは減ってきていますが、電子版も含めると読者の総数は増えている雑誌も少なくないと思います。最近では紙の雑誌を図書館でも扱うところが増えていたり、書店で売っている雑誌を書店内にあるカフェで試し読みできたり、紙媒体でも目に触れる機会は増えているように思えます。

雑誌ビジネスを考えると、アナログでもデジタルでも有料のものを買っていただくことがもちろん一番大事ですが、読んでいただいた人数が多いとか、さらに影響力が大きいことも重要になります。雑誌広告の価値はそこにあるわけですから。雑誌として読者と影響力を持ち続けることが大切です。


ウェブでも大切なのは作り手が幸福でいること

『&Premium』は、紙の雑誌と同時にウェブメディアの『andpremium.jp』も運営していますよね。よく拝見するのですが、雑誌のゆったりとした雰囲気がコンテンツからもデザインからも感じられて、インターネット疲れが癒されるような不思議なメディアだな、と思っています。

芝崎:ウェブの方も紙と同じ編集部のメンバーでつくっているので、誌面と同じような空気感が出せているような気はします。といっても大変だから、会社にはウェブ版の編集部をつくって欲しいと言っているんですけどね(笑)。


毎週ミュージックのレコメンドなどがあって、雑誌にはないコンテンツを楽しめるのは、読者にとっても嬉しいです。

芝崎:紙にはできないコンテンツというのは意識してつくっていますね。例えば、毎週金曜日の夜に、翌日の土曜日の朝と翌々日の日曜日の夜に聴きたい曲をリコメンドするといった記事をアップしたり。雑誌のリフト記事とかはあまり入れていないんですよ。

といっても、ウェブにはまだできることがあるんじゃないかと、模索中ではあります。『andpremium.jp』では誌面と合ったテンションの記事に絞り込んでいますので、PVを増やすためだけの記事を配信することもほとんどしていません。一般的なウェブメディアのやり方とは違うかもしれないけど、自分たちの幸福度が下がらない方法でいろいろと試している、というところですかね。


先ほどの市場の話とも少しかぶるのですが、ECサイトを作るなど、マーケットの間口を増やすようなことは視野に入れているのでしょうか。

芝崎:考えていますよ。でも自分たちがECサイトをつくっても、いまある大手のECサイトにスケールメリットではまったく勝てないだろうし。自分たちらしい特徴のある仕組みやテイストのECサイトをつくらないといけないでしょうね。


大切なのは「インスタ映え」が生活の目的に置き換わらないこと

ちなみに最近の風潮のひとつに“インスタ映え”がありますが、芝崎編集長はこの現象をどう見ていますか?

芝崎:まず、なにはともあれ本質的であることが重要ですよね。確かにインスタ映えというのは、見た目ばかり気にしていて本質的ではないかもしれない。ただ、一方でInstagramというSNSの本質は「インスタ映え」かもしれない。大切なのは「インスタ映え」が生活の目的に置き換わらないことです。生活の本質はインスタ映えではないですから。

そこに幸福を感じられるかどうか、という点が重要だと思いますよ。もちろん、インスタ映えすることが自分にとって幸福なら、それを追及するのも悪くないと思いますが、インスタ映えのために、無理したり、我慢したりし過ぎると、心地よい時間の使い方とは言えないのではないでしょうか。


自分がその時間を心地よく感じられるか、という話に戻るんですね。

芝崎:と言いつつ、『&Premium』が映った写真はインスタによく上がるんですけどね(笑)。


確かによく見るような気がします(笑)。

芝崎:コーヒーやお茶と一緒に置かれた写真が投稿されていたりね。まあ、モノとしても「置いておきたい」と感じてもらえるように表紙のデザインにこだわってもいるので、それはそれで嬉しいんですけどね。投稿している人は『&Premium』のスタイルに共感してくださっているから載せていると思うので、ある意味そこは本質がずれていないのかなとも思います。


不便でも幸福感のあるものは残っていく

時代の流れの中で、ある種アンチテーゼのような形で生まれた雑誌が『&Premium』だと思うのですが、今後も今のスタイルを貫き通すのでしょうか。それともどこかで時代との折り合いをつけることも考えているのでしょうか。社会の変化から受ける影響を伺いたいです。

芝崎:今後も人々のライフスタイルはハイテク化とともに変化していくでしょう。例えば、電子マネーや仮想通貨が普及して、日本人も現金をあまり持たなくなると思うのですよね。スウェーデンではまったく現金を使わない国を目指して、検討しているそうです。そうなると、現金を使わない生活が心地よいのか、現金が使えなくなって心地よさが損なわれるのか、そこのところで、心地よさについて自分たちも考え直すようなことは必要ですよね。

ハイテク化が進むことで便利で楽なものは増えるけれど、それが心地よいものとは限らない。その流れの中で、便利ではないけれど、幸福感のあるものが見直される傾向はまだまだ続くと思いますし、「仮想」のものが出てきて世の中がうまく回れば回るほど、リアルなものが大事にされる傾向もさらに強まるのではないでしょうか。

そういった時代の流れの中では『&Premium』は今のスタイルのままで進んでいけるのでしょうけれど、心地のいい時間を過ごすことや機嫌よく暮らすことの価値が著しく下がり、雑誌の基本コンセプトを変えなければならないほど人々のマインドに変化が起きれば、そのときが、この雑誌の寿命なのかもしれません。

そのときは、その新しいマインドを踏まえた新しい雑誌を創刊すればいいのです。



芝崎信明
1989年にマガジンハウスへ入社。『POPEYE』編集部員、副編集長、『BRUTUS』副編集長などを務める。『BRUTUS』には14年間在籍し、特集では「…で、café」「犬のこと」「クールジャパン」「心を鎮める旅」「せつない気持ち」「おいしいコーヒー」「気持ちいい音楽」「尊敬できる日用品」など70冊以上を担当。2013年11月に編集長として『&Premium』を創刊。2015年にはweb版の『andpremium.jp』をスタート。


聞き手:園田菜々
1991年7月7日生まれ。フリーランスのライター。細々と書きながら生計を立てています。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。不安障害や軽度の鬱を経験してから、「生きやすさ」について考えたり、ブログ(https://note.mu/nanaso)を書いたりもしています。
Twitter→@osono__na7
Facebook→https://www.facebook.com/yuuhinosora

撮影:戸谷信博