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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「機嫌がいいこと」が価値。『&Premium』編集長 芝崎信明が考える、ベターな時間とお金の使い道

【芝崎信明 インタビュー前編】

園田菜々 2018年4月19日 08:00

雑誌『&Premium』の中に広がる世界には、情報過多でせわしなく変容する世の中とは逆行するような、ゆったりとした時間が流れている。

現代において、“&Premium的”な、より良い暮らしはどうすれば送れるのか、そして、『&Premium』が考える価値の捉え方とは?

編集長である芝崎信明さんに伺った。

あなたにとっての「心地いい瞬間」はどんなときですか?

『&Premium』には“ベターライフ”という言葉がよく出てきますが、雑誌の中ではどういった定義付けをされているのでしょうか。

芝崎信明(以下、芝崎):これ、よく聞かれるんですよ。その度、逆に「あなたの思うベターライフってなんですか?」と教えてもらっています。


自分にとってのベターライフ、ですか。

芝崎:たいがいみなさん言葉に詰まってしまいますよね。そもそも意識的に考えたことがある人って少ないのではないでしょうか。より良い暮らし、ということだと思いますが、自分にとって何がどうなることがより良い暮らしなのかはいろいろな要素が絡み合っていますし、ひとことでは言いにくいですからね。

ただ、その中でも「心地よい時間」が増えることがベターだと『&Premium』は考えています。


効率化をして浮いた時間で、あえて手間のかかることをしてみる

『&Premium』を読んでいると、こんな上質な暮らし方をしてみたいなと思う反面、自分には精神的にも金銭的にもそんな余裕がないな、と思ってしまいます。特に現代社会において、そういった上質さを選ぶ余裕がない人って多いような気もしていて。

芝崎:精神的な面でいえば、余裕がないのではなくて、作らないだけ、なのではないでしょうか。大切なのは、時間の使い方です。

最近はインターネットを始めとしたハイテク化も進み、あらゆる面で効率的に時間を使えるようになりました。でも、「その効率化で浮いた時間をどう使うのか」というところまであまり深く考えていないのかもしれない、ということです。そういったふうに、効率化で生まれた時間をさらに効率化のために使おうとしていると、心に余裕は生まれないような気がしますよ。


芝崎さんは、効率化によって浮いた時間を何に費やすことで、人は余裕を感じられると考えていますか?

芝崎:感じ方は人それぞれですが、効率化で時間が浮いたのだから、あえて手間のかかることをしてみる、というのはひとつの方法かもしれませんよ。例えばインターネットで時間が浮いた分、「今日は時間をかけて靴磨きをしてみようかな」というように。


確かに、手間のかかることをやりとげたときの充足感はわかるような気がします。ただ一方で、時間を無駄にしている気にもなります。靴磨きのサービスに預ければ自分の時間を使わないで済むことなのに、と。

芝崎:まず、手間のかかることや時間を費やすこと、それ自体をいけないことだと考える前提が間違っているのではないでしょうか。

心のゆとりや豊かさというものは、時間が有り余っているから生まれる、というわけでもありません。手間はかかるけれども楽しいこと、というのはたくさんあるわけです。時間を費やしたとしても、それが自分にとって心地がいいと感じられるのであれば、それはいい時間の使い方ですよね。


編集部ではよく「効率のよさよりも心地のよさ」という言葉を使いますが、そうやって自分の心地のいいことに時間の使い方を選べる人を素敵だなあ、と思うのが『&Premium』の世界です。効率がいいことや便利なことが幸福であるとは限らないですし、例えば、インターネットを使うこと自体はラクかもしれないけど、それが心地の良さとつながっているのか、となると、必ずしもそうとは言えないでしょうしね。


「得たお金でどのような時間を過ごしたいか?」を今一度考えてみる

ちなみに、『&Premium』の考える「暮らし」の中に「仕事」という時間は含まれていますか?

芝崎:あえて特集で組むというようなことはまだしていませんが、含まれていると思いますよ。仕事はそれ自体が時間を費やすことであり、単なるお金稼ぎの手段ではないですから。


そうすると、やっぱり仕事自体も心地のよいものを選ぶのが『&Premium』の想像する豊かな暮らしにつながりますか? みんながそういうふうに働くのはなかなか難しい気もします。

芝崎:仕事の時間も心地よい方が理想的ですが、仕事にはたいがい多くの人、コトが絡むので、自分でコントロールしやすいプライベートよりも難しいですよね。また、面倒なことをする対価として報酬を得るという側面も仕事にはありますから、心地よさに結びつきにくいことは多々あります。

でも、仕事の達成感や人の役に立つことへの満足感に、心地よさがつながることもあると思うのです。ただ、仕事としての心地よさは切り離して、仕事で得た報酬と、仕事以外の時間をどう使うかを考えることも必要ですよね。


では、『&Premium』の考える“価値”とは、ずばりどんなものなのでしょう?

芝崎:「機嫌がいいこと」ですかね。生きている時間の多くを、機嫌よく過ごしたいと。ではその機嫌よく過ごすための資金と時間をイライラしながら稼いだり、作ったりというのは、なんだかおかしな話ですよね。なので、そこのところもできるだけ、機嫌よくしていたいと思うのですが、そうはいかないこともあるわけで、どこかで折り合いをつけるのでしょう。

それでも、機嫌よく過ごすことに一番の価値を置いて、『&Premium』はつくっていますよ。



芝崎信明
1989年にマガジンハウスへ入社。『POPEYE』編集部員、副編集長、『BRUTUS』副編集長などを務める。『BRUTUS』には14年間在籍し、特集では「…で、café」「犬のこと」「クールジャパン」「心を鎮める旅」「せつない気持ち」「おいしいコーヒー」「気持ちいい音楽」「尊敬できる日用品」など70冊以上を担当。2013年11月に編集長として『&Premium』を創刊。2015年にはweb版の『andpremium.jp』をスタート。


聞き手:園田菜々
1991年7月7日生まれ。フリーランスのライター。細々と書きながら生計を立てています。エンタメ関連のコンテンツ中心に執筆やインタビューなど。不安障害や軽度の鬱を経験してから、「生きやすさ」について考えたり、ブログ(https://note.mu/nanaso)を書いたりもしています。
Twitter→@osono__na7
Facebook→https://www.facebook.com/yuuhinosora

撮影:戸谷信博