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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

「お金はひとつのツール」。批判もされる奨学金とどう付き合うべきかーー本山勝寛さんに聞く“あしながおじさん”の将来像

【本山勝寛 インタビュー後編】

山口亮 2018年4月17日 08:00
利用者の増加に伴い、自己破産も増加していると指摘される奨学金。過去に制度を利用し、卒業後に400万円の借金を背負った作家・本山勝寛さんは、同制度について「ひとつの光でした」と意義を語る。今、奨学金とどう付き合っていけば良いのか。話を聞いた。

学生の金銭支援。海外と比べてみると……

日本と海外を比べて、奨学金や金銭的な援助についての考え方は違うのでしょうか。

本山勝寛(以下、本山):違いますね。奨学金が充実していればしているほど、大学にも優秀な学生が集まりますし、バックグラウンドも、いろんな多様な層の学生が集まるので、大学のレベルアップにもつながるわけですよね。


お金に困っている子どもたちをサポートできるような、日本が取り入れるべき制度はどのようなものがありますか。

本山:例えば国立大学でもそれなりに高所得層も結構進学してるわけですね。そういった層は、払えると言ったら払えます。一方で低所得層も進学しているので、所得に応じて授業料を変えたり、給付の奨学金を変えたりという、ニード・ベース(支払能力基準)の奨学金を導入するということは一つあるかと思いますね。

ハーバードなどアメリカのトップスクールだとそういったかたちで、所得に応じて決められます。低所得層だったら完全に授業料免除で入れるということが決まっているし、それが分かりやすいように提示されているので、仮に低所得層でも諦めずに挑戦してみることはできていますね。

ヨーロッパの一部の国みたいに、大学の授業料をすべて無償にできれば、それはそれで全員ハッピーかもしれないですけど。それをやるにはたぶん、消費税など税金をものすごく上げなければいけないでしょうね。


所得税や法人税を上げるといった、財源の確保が必要になってきますよね。

本山:それはそれで議論になります。あと、大学側の努力が足りないんじゃないかなと思っているんですね。政府が多くの対象者に対して給付型奨学金をつくるのは財政的に結構厳しいところがあるんですけど、大学が自ら寄付を集めてファンドレイジング(資金調達)をして、それを原資に、給付型奨学金を学生に提供するというのは、やろうと思えばできると思うんですよ。


資金を集めて、お預かりして、それを運用してその捻出額で、奨学金だったり免除の補完をすると。

本山:資金運用して運用益でという考え方もありますし、寄付をそのまま分配するというか、奨学金に使うという考え方もあります。

資金運用益でというのもなかなか大変だとは思うんですけど、アメリカ、海外の大学では結構やっていますね。ハーバードとかトップスクールは数兆円だったかな。


なるほど、そんなレベルの基金を運用しているんですね。

本山:はい。ファンドマネージャーもトップクラスの人で。かつ、寄付もたくさん集めていますし、OB・OGでそれなりの起業家になる人たちもたくさんいるので、そこからもファンドレイジングします。


奨学金はあくまでもツール、利用する子供たちが大事にしたいことは

その一方で制度を整えるだけでなく、制度を利用する側である子どもたちの金銭的なリテラシーをどう上げていくかという課題もあります。

本山:そうですね。家庭内でどう教育していくかは難しいので、そこはやっぱり学校教育や社会教育でしっかりカバーしないと、なかなか貧困の連鎖って断ち切れないんですよね。


高度経済成長時代のお金との向き合い方と、今のお金の向き合い方は別のものが必要だと感じます。子どもたちを含めた若い世代は、どう向き合っていけばいいのでしょうか。

本山:お金って一つのツールだと私は思っています。それを踏まえた上で、自分の人生の中で何をしたいのかとか、何を大事にしたいのかとか、優先順位って何だろうとかっていうことをちゃんと考える必要があります。

高度成長期の時はなんでもガンガンやって、結果的にはうまくいったみたいなところはありましたが、そうでもない今のこの時代では、取捨選択していかなきゃいけないんだと思うんですね。

自分の人生の中で大事にしたいことをしっかり考えて、お金としてはいくら必要で、そのために稼ぐ方法もあれば、借りてそれを返していくというやり方もある。いろいろなやり方がいろいろあるので、それを知ったうえで選択していく。

丁寧に、丁寧に考えて、自分の行きたい道を進んでいくということが必要なのかなとは思っています。


なるほど。著書でも、あくまでも奨学金はツールであり、利用する制度の一つだと述べていましたね。

本山:貸与型奨学金も、理解をして利用すれば、自分なりにそれを選択してやるのであれば、やっぱりいい制度だと思っているんですよ。私自身もこの奨学金がなければ大学進学できなかったですし、ありがたい制度だと感じているんですけど、それには「自分で理解して選ぶ」ということが必要なんじゃないかと。

(奨学金制度は)私にとってはひとつの光でしたね。本当に何も頼る人、何も頼るところがない中で、暗闇の中で、小さいんですけど一筋の光ではありました。

その光をたどっていくと、より大きな光というか、明るい世界が見えてきたということ。そもそも「奨学金って何だっけ?」って言ったら、字のとおりですけど「学ぶことを奨励するためのお金」なわけですよね。

私はものすごく学びたかったし、大学に進学したかった。この制度がなければ諦めなければいけなかったのが、制度によって進学することができました。本来そういうものになるべきというか、それは利用する側にとってもそうだと思うんですね。


時代とともに、変わっていける「奨学金」

この制度はそもそも、学びたい少数の人たちを支えるために作られたものでしたね。時代の変化とともに、変わっていける余地はあるのでしょうか。

本山:大学側の努力が足りない、もっと努力すべきだということもあるんですけど、時代が変わってきて、個人が支援していくということもありえるんじゃないかなとは思っているんですね。

それがクラウドファンディングなのかは分かりませんが、個人単位で寄付を集めて、個人単位で必要な人に提供されると。「今こういう勉強をしていて、こんなふうに役立っているんです」「将来の夢のためにこんなふうにやっているんです」みたいのが見えると、もっと応援したいとなるはず。

日本学生支援機構の奨学金って、あまりにも大きな制度になっているので顔が見えないんですね。貸している側も見えないし、借りている側も見えないので、貸してくれている人が何なのか分からないんですよ。分からないところから、急に返せなくなったら督促状が来るみたいな。

そういう、あまりにも大きな制度になっているので、説明やコミュニケーションもうまくできない。そうではなく、応援したい人が支援をして、受けている人も「こういう人たちに応援されているんだ」というふうに顔が見えると、「自分も頑張ろう」と、支援してもらったので勉強も頑張ろうとなるはず。社会に出て還元したいと感じると思うんですね。


古くは、裕福なおじさんが困っている親族を助けてくれるというのがありました。「お前の大学費を俺が出してやろう」と。

本山:だから私は現代版あしながおじさんって書いていますが、あしながおじさんってまさにそういうストーリーで。最後は結婚までしちゃうんですけど。

手紙を書きながら、ジュリーが「大学でこういう勉強をして、こんなに楽しいんですよ」といった手紙を書いて、あしながおじさんがその手紙を見て嬉しいと思いますし、奨学金というか大学資金を出すわけですよね。

そういう顔の見える支援がもっと社会の中で広がって、ネットワーク化していくと良いんじゃないかなというふうには思っています。



本山勝寛
学びのエバンジェリスト。作家。ブロガー。日本財団パラリンピックサポートセンター 推進戦略部・広報部ディレクター。東京大学工学部システム創成学科卒業、ハーバード教育大学院国際教育政策修士課程修了。1981年生まれ。大分県出身。小学校から高校まで地方の公立学校に通い、親が家にいない収入ゼロの超貧乏生活のなか、奨学金のみで飢えを凌ぎながら独学で東京大学に合格。在学中の4 年間大学授業料免除を受け、日本学生支援機構と地方自治体から400万円の奨学金を借り、民間団体から奨学金給付を受けて、東大を卒業。その後各種の奨学金を受けてハーバード教育大学院で国際教育政策を研究。「学びの革命」をテーマに言論活動を行い、著書に累計5万2500部、韓国、中国、台湾でも翻訳されベストセラーとなった『16倍速勉強法』(光文社)のほか、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)、『最強の独学術』(大和書房)など多数。ブログで奨学金や教育問題についての記事を投稿し、BLOGOSやアゴラ、Yahoo! ニュースなどに転載され、人気ブロガーとして話題を呼ぶ。TBS「NEWSな二人」に出演。アジア最大級の非営利組織、日本財団で世界30カ国以上を訪問、教育や国際協力事業を手掛け、「日本財団国際フェローシップ」を立ち上げるなど多数の奨学金プログラムに携わる。5児の父親で、育児休業を4回取得、独自の子育て論も展開している。


書き手:山口 亮
1987年生まれ、編集者。BuzzFeed Japanの立ち上げに従事し、配信戦略担当として成長に貢献。揺れる編集部所属。趣味はボードゲームと業務効率化、ときどき記事を書いたりする。
Twitter:@d_tettu

撮影:三浦咲恵