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これからのお金と暮らしを立ち止まって考える

高利貸し、パチンコ屋、地主。どれも役に立たない仕事……なのか?

おカネの教室~僕らがおかしなクラブで学んだ秘密【3時間目 後編/最終回】

高井浩章 2018年4月4日 07:00
「この世には、おカネを手に入れる方法が6つあります」中学2年生になった僕は突然、奇妙なクラブに放り込まれた――謎の大男、大富豪の美少女、平凡な「僕」が、「お金と経済」を通して、世の中の仕組みを知る! 昨年Kindleで個人出版され、、累計1万DLを突破したお金の青春小説が最新のトピックも加えてパワーアップして書籍化!3月16日に発売されました。物語の始まりを、特別連載でご紹介します!

3時間目 役に立つ仕事立たない仕事(後編)

 毎週月曜日のクラブの時間。中学2年生の僕こと、木戸隼人(サッチョウさん)が、学校でも色んな意味で有名な福島さん(ビャッコさん)と一緒に入ったのは怪しいエモリ先生(カイシュウさん)が顧問を務める「そろばん勘定クラブ」。前回の宿題は具体的な職業や仕事を3つ、役に立つ、立たないという物差しで考えてくること。ぶっつけで乗り切ったサッチョウさんに対して、ビャッコさんの答えは「高利貸し」「パチンコ屋」「地主」。それは福島家の家業なのだったーー

サッチョウさん(木戸隼人)どこにでもいるフツーの中学2年生。小学校からバスケ部で、部活がない週末は公園でサッカーに燃える。消防士である父親がヒーロー。ひょんな巡り合わせで「そろばん勘定クラブ」に入ってしまう。
ビャッコさん(福島乙女)町一番の大富豪の娘。成績は常にトップクラスで、母譲りのスマートな容姿も相まって、誰からも一目置かれる存在。物事をとことん突き詰める頑固な一面を持つ。家族の手掛けるビジネスについて悩んでいる。
カイシュウさん(江守先生)「そろばん勘定クラブ」の顧問にして2メートルを超す大男。バイリンガルのハーフっぽいという以外、経歴等は不明。巨体が楽に収まるベンツが愛車。紅茶とスコーンをこよなく愛する。見た目は40代。

教室の静けさにかぶさるように、校庭からサッカークラブのかけ声が届く。今日は春らしい青空が広がる、絶好のサッカー日和だ。重い沈黙が続き、僕は今、外で気楽にサッカーをやっているなら、どんなにいいだろう、と思った。
カイシュウ先生は天井を見上げ、ビャッコさんは机の上で指を組み、そこに視線を落としていた。

福島家が経営するパチンコ屋の「フクヤ」は県内にいくつかチェーン店がある。ローンのほうは僕にはよくわからないが、一度、姉貴が福島家のことを「いいなあ。子ども部屋も広いだろうなあ」と言ったら、お母さんが「あそこはコーリガシで大きくなったのよ」と冷たく切り捨てたことがあった。
「氷菓子ってアイス?」と聞いて姉貴にバカにされたのでよく覚えている。
そして福島家は町一番の大地主でもある。
「福島さんは自分の土地だけを通って駅から自宅まで帰れる」という伝説があるくらいだ。真偽は不明だが、町の大きな家はたいてい福島か歌川という表札を付けている。歌川さんは福島家の親戚らしい。


カイシュウ先生がようやく金縛りからとけて、黒板に3行書き足した。

高利貸し

パチンコ屋

地主

「錚々(そうそう)たる顔ぶれですね。どうしてこの3つを選んだのですか」
「家族の仕事なんです。亡くなった祖父の代からやっています」
「ファミリービジネスというわけですね。お祖父さんあたりが創業者ですか」
「パチンコとローンはそうです。土地は先祖代々のものを祖母が管理しています」
「で、パチンコとローンがお父さんの担当、といったところですか」
ビャッコさんがコクリとうなずいた。
「そして、その3つとも、世の中の役に立たない、と」
今度はさっきより強くうなずいた。
「どうしてそう思うのですか」
誰も幸せにならない仕事だからです

それは今まで聞いたこともない、硬く、冷たい声だった。
「お金に困って返せないほどの借金をしたり、それで家族がバラバラになったり、大事なお金をパチンコにつぎ込んだり、駐車場に置き去りにされた赤ちゃんが死んじゃうことだって……」
「OK!」
カイシュウ先生がさえぎり、ビャッコさんに近づいて大きな右手を肩においた。
「十分、わかりました。ありがとう」

硬い色のビャッコさんの目に、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「なかなかヘビーですね。サッチョウさん、ご意見をどうぞ」
いや、ここで振るかなあ。
正直、福島家のことはあまり考えたことがない。パチンコもローンも僕には無縁だ。あ、ウチのマンションの大家は福島家かもしれないな。ふすまに空けた穴や壁の落書きを思い出した。借り物なのに、すいません。

あまり関係ないです、と言うわけにもいかないので、僕は言葉を選んで答えた。
「パチンコやローンはよくわからないけど、地主や大家さんはいないと困るような
「ほほう。どうしてですか」
「自分の家がない人は、誰かが貸してくれないと住むところがなくなっちゃうから」
「いいポイントです。でも、ビャッコさんは納得しないでしょうね、今の意見には」


少しの間があり、ビャッコさんがうなずいた。
「恐らくビャッコさんはこう考えている。生まれつき土地や家をたくさん持っているだけでお金がもうかるのは、なんだかずるい。違いますか」
また少し間をおいて、今度はビャッコさんが小さな声で「はい」と答えた。
そんなもんかな。世の中、そういうものなんだから、しょうがない気がするけど。

「現実には相続した財産を維持するのはそれなりに大変です。座して食らえば山も空むなし、なんて言葉もあります。いずれにせよ、今、ワタクシに言えるのは、ビャッコさんの気持ちは理解できる、というところまでです。その正否の判断は控えます」
うーん。なんかすっきりしないな。

「何か言いたげですね、サッチョウさん」
「なんというか……逃げてる気がする」
カイシュウ先生が「鋭いですね。容赦ない」と嬉しそうに笑った。
「率直なご意見、ありがとうございます。そうですね。逃げます、ここは。ただし、一時退却です。夏がくる頃には、再チャレンジの準備が整うでしょう。それまでお待ちいただけますか」
ビャッコさんがうなずいた。もう笑顔だ。


「逃げるついでに、高利貸しとパチンコ屋についても今日はここまでとします。こちらは夏とはいわず、順次、取り上げます。では、最後にワタクシも職業を3つ挙げて、今日のしめくくりとしましょう」
言い終えるや、カイシュウ先生は黒板に向かって一気にこう書きあげた。

サラリーマン

銀行家

売春婦

おいおい、いいのか、これ。カイシュウ先生は「おっと。これはいけません。昨今は何ごともジェンダーフリーですからね」と言いながら「売春婦」の後ろにさっと「売春夫」と書き足した。
いや、そこじゃないだろう。
「さて、お二人、売春ってわかりますよね」
ビャッコさんが真面目な顔でうなずいた。僕もできるだけクソ真面目な顔でうなずいた。
「偽りの愛、インスタントの愛を売るお仕事です。人類最古の職業とも言われますから、これは外せません。次回は大型連休明けですね。宿題は、これらの仕事についてひと通り考えること。世の中の役に立つ、立たないという視点で、です。では、また」


カイシュウ先生が姿を消し、ビャッコさんが「今日のはしっかり消そうか」とほほ笑んだ。黒板は、この世にパン屋もバイシュンフも先生も一人もいないみたいに綺麗になった。黒板消しを置くと、ビャッコさんはすっと僕に手を差し出した。
「サッチョウさん、今日はありがと」
僕はしばらくポカンとしてから、あ、握手か、と気がついた。僕たちはわりと強く、でもそんなにきつくなく、握手した。

ビャッコさんが「次は再来週だね」と出ていったあと、僕は手を閉じたり開いたりして、がらんとした教室を見回した。次回のクラブを待ちきれない気持ちになっていた。


「おカネの教室」、特別連載はここまで。
このあとも続く不思議なクラブで、サッチョウさんとビャッコさんは何を学ぶのか?はたしてお金を手に入れる6つ目の方法は?
続きは、書籍でお楽しみください!


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